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2020年2月12日水曜日

SLEと慢性じんま疹

症例: 若年女性. 慢性のじんま疹.

 4-5ヶ月前よりじんま疹が出現. 抗アレルギー薬を使用されているが改善なかなかコントロールがつかない. 他に粘膜症状や関節症状など無い.

 じんま疹は入浴後や布団に入って温まると, 全身にピリピリした感覚が生じ, その後発赤と掻痒感が出現する. 持続期間は数時間で改善する.
 → コリン性じんま疹

 近位での血液検査では炎症反応の増加はない. 血球減少もなし. 腎障害もなし. 尿検査も問題なし.
 抗核抗体 160倍, Homogeneous.
 特異抗体は抗DNA抗体のみ陽性.
 補体も低下(C3, C4双方とも)

という経過で, SLE(Lupus-like syndrome)に伴う慢性じんま疹と捉えるか,
または実はじんま疹性血管炎か, という症例.

症状は軽微でそこまで困っていないため, すぐに治療は不要であるが, いくつか疑問に浮かぶ事があったので調べてみる.

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疑問その1: SLEで慢性じんま疹の頻度は?

>>SLEと慢性じんま疹を評価したMetaでは,
・SLE患者において, 慢性じんま疹を認めるのは0-21.9%
 じんま疹様皮疹を認めるのは0.4-27.5%
 じんま疹性血管炎は0-20%
小児例では, 慢性じんま疹は0-1.2%
 じんま疹様皮疹を認めるのは4.5-12%
 じんま疹性血管炎は0-2.2%
慢性じんま疹症例のうち, SLEの頻度についてはデータが少なく不明
(Clinical & Experimental Allergy, 2015;46:275–287 )

報告により頻度は様々ではあるが, SLE患者において慢性じんま疹を伴うのは稀ではなさそう.

疑問その2: 慢性じんま疹におけるSLEのリスクは?

>>台湾におけるCohort: 2003-2013年に慢性じんま疹を診断された患者で, 2003年以前にはじんま疹がなく, じんま疹診断以前にSLEを診断されていない患者を抽出.
・上記を満たす13845例と年齢・性別を合わせたControl群において, 後のSLE発症リスクを評価

SLE発症リスク
・慢性じんま疹ではSLEリスクは2倍となる
・じんま疹発症後4年後から発症は徐々に増加する経過となる
(J Dermatol. 2019 Jan;46(1):26-32.)

この症例でも徐々にSLEが完成してくる経過になるのだろう.
そのうち治療が必要となる可能性も高そうだ.


疑問その3: HCQって慢性じんま疹にも効くのだろうか?

>>慢性じんま疹に対するHydroxychloroquineを評価したRCT
・高用量H1阻害薬でも反応不十分な慢性じんま疹症例 60例をHydroxychloroquine 400mg/d vs Placeboに割り付け, 12wk継続じんま疹をフォロー(Single blind).
・上記にて寛解達成していない患者群をさらにOpen-labelPlacebo群ではHCQを開始, HCQ群ではLTRAを開始し, 比較
LTRAはモンテルカスト10mg/d

母集団データ

アウトカム
HCQは有意にじんま疹症状を改善し得る.
 Placeboよりも有意に改善させるがLTRAとの比較ではUSSのみ有意差を認める
(Eur Ann Allergy Clin Immunol. 2017 Sep;49(5):220-224.)

また, N=18のさらに小規模なRCTでも, HCQの併用は他の薬剤の減量効果, 症状の改善効果が期待できる報告がある.(Internal Medicine Journal 2004; 34: 182–186)

じんま疹性血管炎でもHCQは治療として用いられる様子.
(参考: じんま疹性血管炎 の治療の部分)


RCTは非常に少ないものの, 慢性じんま疹自体へもHCQは効果が期待できそうではある.