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2023年8月16日水曜日

中枢神経の血管炎

中枢神経の血管炎には原発性のPACNS(Primary angiitis of the CNS)と全身性疾患に合併する二次性がある.


続発性の原疾患としては, 以下のようなものがある; (Frontiers in Bioscience 2004;9:946-55)

Group

疾患

Giant cell arteritis

側頭動脈炎, Takayasu
Overlap with Wegener
肉芽腫

Necrotizing Forms of Vasculitis

Wegener肉芽腫
Churg-Strauss syndrome
Polyarteritis nodosa

Hypersensitivity Forms of Vasculitis

薬剤性毒素性

Collagen Vascular Disorders

SLE, RA, PN, Sjogren’s Syndrome

感染症

Syphilitic
Bacterial(Chlamydia pneumoniae)
Fungal
Viral(VZV, CMV, HCV, HIV)

Lymphomaによるもの


全身疾患によるもの

Sarcoidosis, Behcet’s disease


感染症によるCNS Vasculitis

 Viral; VZV, HIV, HCV, CMV, Parvovirus B19 

 Bacterial; 梅毒, Borrelia burgdorferi, 結核, Mycoplasma pneumoniae,
 Bartonella henselae, Rickettisia spp 

 Fungal; Aspergillosis, Mucormycosis, Coccidioidomycosis, Candidosis 

 Parasitic; Cysticercosis 

全身性血管炎

 AAV, Behcet病, Polyarteritis nodosa, 
Henoch-Schonlein purpura, Kawasaki病, Giant-cell arteritis, 高安病など

 Wegener肉芽種の7-11%, CSSの1-8%でCNS症状あり

 Behcet病では5.3-14.3%でCNS症状(+)

他の膠原病による血管炎

 SLE, RA, Sjogren症候群, 皮膚筋炎, MCTD

薬剤性CNS Vasculitis

 Allopurinol, Ephedrine, sympathomimetrics, Cocaine, Amphetamine
Heroin, Antibiotics 

悪性腫瘍性CNS Vasculitis

 Hodgkin’s lymphoma, Non-HL, Leukaemia, Lung Cancer 

その他

 Cogan’s syndrome, Inflammatory bowel disease, Urticarial hypocomplementaemic vasculitis

(Lancet 2012; 380: 767–77)


105名のCNS vasculitisの解析による原疾患の内訳. (QJM 2005;98:643-54)

・PN 17名, PACNS 12名, MPA 11名,
 EGPA 11名, GPA 20名, Adult Henoch Schonlein purpura 14名, SLE 15名, Cutaneous vasculitis 4名


原発性のCNS血管炎(PACNS)

(Lancet 2012; 380: 767–77)(Current Rheumatology Reports (2018) 20: 37)

・<50yrの脳血管障害の原因の3-5%を占める. 

・罹患率は2.4/100万人年と非常に稀.

 男女差は無く, 平均年齢は50歳. 50%が37-59歳で発症する.


小血管〜中血管炎が主体.

・組織形は肉芽種性, リンパ球性, 壊死性血管炎.


・肉芽腫性血管炎が最も多く, 58%を占める.

・リンパ球浸潤による血管炎は28%. 特に小児例や, 血管造影で所見(-)例でこのタイプが多い.

・壊死性血管炎は14%で, PNに類似した組織形.


PACNSの経過や症状は様々

・急性発症〜CNS症状を認めない無症候性まである

・頭痛を伴う頻度が高い(>50%)が, Thunderclap headacheとなることは稀であり, 認める場合はRCVSをより疑う.

(RCVSとその鑑別についてはこちらを参照)

・神経局所症状も多い症状であるが, それ単独で生じることは少なく, 
原因不明の頭痛や意識障害などと併存することが一般的.

・体重減少や寝汗, 発熱, 皮疹など全身症状を伴うことは少ない

 
認める場合は全身疾患に合併するCNS血管炎やCNS障害を考慮する

・CNS vasculitisの4%で腫瘤性病変(+).

・Cerebral amyloid angiopathyは29%

・頭蓋内出血は11-12%


以下の場合はCNS血管炎を鑑別に挙げる

・複数の血管支配領域の脳梗塞や, CSFの炎症徴候を伴う脳梗塞

・脳卒中のリスク因子を有さない, 若年患者の脳梗塞

・感染症や悪性疾患が認められない慢性経過の髄膜炎

・無菌性髄膜炎の既往や, 認知機能障害を伴う慢性経過の頭痛

・原因不明の局所性, およびびまん性の神経機能障害


血管造影 and/or 脳生検にて診断したPACNS 101名の解析
(Ann Neurol 2007;62:442-51)

・PCNSVの年間発症率は2.4[0.3-4.4]/1000000

・診断時の年齢は47yr[17-84], 約半数が37-59yrに診断されている.


 発症から診断までの時間は0.1yr, 75%が半年以上かかっている.

症状

頻度

症状

頻度

症状

頻度

頭痛

63%

視覚障害

42%

対麻痺四肢麻痺

7%

認知障害

50%

視野障害

21%

Parkinsonism, 錐体外路症状

1%

片麻痺

44%

複視

16%

Prominent constitutional symptom

9%

持続性の神経障害 or Stroke

40%

Blurred vision

11%

発熱

9%

構音障害

28%

一側性の視覚障害
一過性黒内障

1%

嘔気嘔吐

25%

TIA

28%

乳頭浮腫

5%

めまい回転性めまい

9%

失調運動

19%

頭蓋内出血

8%

構音障害

15%

痙攣

16%

健忘

9%

片側性の痺れ

13%

血液検査; 
 ESR亢進は少なく, ESR>30mm/hrとなったのは19/85(22.4%)


 RF, ANA, 抗カルジオリピン抗体はほぼ99%で陰性を示す.


 ANCA, 補体, HIV, Lupus anticoagulantも通常陰性を示す.

・CSF所見;

CSF所見


平均WBC

5(0-535) cell/ml

Leu >5

49.3%

Prot濃度

72(15-1034) mg/dL

Prot >45mg/dL

72.6%

・血管造影; 血管造影にて血管炎と診断できたのは90.5%

・MRI所見; 異常を認めたのは97%. 最も多い異常は梗塞巣で53%を占める


 このうち, 多発性脳梗塞が85%(両側性83%, 皮質, 皮質下に分布63%)

・造影MRIで造影効果を認めたのは33%程度のみ.

・脳生検の感度は53-63%.


この報告における, 血管造影異常群と組織生検診断群で分けた解析(Lancet 2012; 380: 767–77)


・血管造影で異常あり
 ⇒ 中血管の病変あり

・血管造影で異常なく, 
生検にて診断
 ⇒ 小血管, 毛細血管の病変.

・その違いで症状も異なると
考えられる


Mayo clinicで1983-2011年に診断された163例(Medicine 94(21):e738)

・105例が血管造影、58例が生検により診断.

症状/所見




頭痛

59.5%

複視

14%

認知障害

54%

霧視, 視力低下

11%

片麻痺

40.5%

片眼の症状, 一過性黒内障

1.2%

神経症状, 脳卒中

40.5%

視神経乳頭浮腫

4.3%

失語

24.5%

頭蓋内出血

9.8%

TIA

25.8%

健忘症

6.1%

失調

19%

対麻痺, 四肢麻痺

4.9%

痙攣

20.2%

パーキンソン症状, 錐体外路徴候

0.6%

視覚症状

37.4%

全身症状*

9.2%

視野障害

18.4%

発熱

9.8%

* 倦怠感, 関節痛, 食欲低下, 体重減少のうち1つ以上

・CSF所見

・画像所見


PACNSの治療

(Current Rheumatology Reports (2018) 20: 37)(Lancet 2012; 380: 767–77)

基本はステロイド療法

・Prednisone 1mg/kg, または60mg/dで開始し, 数ヶ月かけて減量.

 平均投与期間は10カ月. ¾が=<19mo治療.

・PSLにて反応乏しければ以下の併用を考慮.

 Cyclophosphamide 150mg/d(2mg/kg/d), 平均10mo投与の併用,


 Cyclophosphamide pulse(0.75g/m2/m 6mo)は連日内服よりも安全

・Azathioprine 100-150mg/d(1-2mg/kg/d), MTX 20-25mg/wk, Mycophenolate mofetil 1-2g/dによる寛解維持も有用



通常PSL+CYによる治療を行い, 
それでもうまくゆかない場合はPACNSの診断を再考した上で
RTXやMMFを試す.

・疾患活動性の評価方法も課題.

 MRI所見はそう頻回には施行が難しい. 
また, 血管狭窄所見はしばしば残存するため, 病勢フォローには向かない. 

 
CSF所見のフォローは侵襲があるし, その妥当性は不明確

・抗CD20療法(Rituximab)はANCA関連血管炎に伴うCNS血管炎に対して, CYと同等に有用な可能性が示唆されているが, PACNSでは不明確 (J Clin Rheumatol. 2021 Mar 1;27(2):64-72.)

・Mayo clinicで診断されたPCNSV 163例のうち,
16例でMMFが使用され, 良好な疾患活動性の抑制が得られた (Seminars in Arthritis and Rheumatism 45 (2015) 55–59 )

・TNF阻害薬も有用との報告もある


(Medicine 94(21):e738)