ある日の当直で: 近隣の病院より 「中年男性の原因不明の間質性肺炎で診てください」との連絡.
急性発症の呼吸苦, 低酸素にCTで両側のすりガラス陰影あり, COVID-19は陰性であるとこと.
画像はこのような感じ(CTは論文より;)
(Respiratory Medicine Case Reports 31 (2020) 101153)・心拡大は認めず, 両側の小葉中心性のGGO分布.
・胸水は認めず.
肺水腫を疑ったが, 心臓の壁運動は問題なし. IVCの拡張も認めなかった.
改めて病歴を聞くと:
・本人は高度肥満: BMI ≥30
・OSASの既往あり、未治療
・高血圧症あり、治療中
・呼吸苦は今までも同じような感じが数回. いずれも寝ている時.
夜間や早朝、昼寝時など. 起きている時に生じたことはない.
安静にして数時間休むと改善していた。
とのことであった.
さて, この肺水腫の原因, なんだろうか?
診断: OSASに伴うNegative Pressure Pulmonary Edema
Negative Pressure Pulmonary Edema(NPPE)またはPostobstructive Pulmonary Edema(POPE)と呼ばれる.
(J Intern Med Taiwan 2015; 26: 63-68)(Can J Anaesth 1990;37:210-8
)(Chest 1988;94:1090-2)
・非心臓原性の肺水腫であり, 過度な胸腔内圧の陰圧により生じる.
・機序には2種類あり,
Type Iは努力吸気による陰圧形成により生じ,
Type IIは慢性経過の気道閉塞の開通後に生じる
・Type Iの例は, 溢頸, 窒息, 誤嚥, 溺水, 気道狭窄, 抜管後の気道狭窄, OSASなど.
努力吸気により陰圧を生じる.
・Type IIの例は巨大な扁桃線の切除後など.
そもそもが陽圧(PEEP)となっている状況で, 閉塞が解除され陰圧化することで生じる
最も多い原因は気管挿管患者の管理や, 抜管後の喉頭攣縮に伴うものであり, ICU症例を管理する医師は知っておく必要がある病態.
・気管チューブの狭窄や閉塞
・小児ではクループや喉頭蓋炎
・他は上気道の腫瘍や甲状腺腫, 気道異物
・OSAS, 窒息, 溺水, 声帯麻痺など.
通常の胸腔内圧は吸気時に-2~-8cmH2O程度となる
・健常人では-140cmH2Oまで下げることが可能.
・気道閉塞にて過度な陰圧となると, 肺毛細血管の血流の増加, 間質液の増加を生じ, 肺水腫となる.
さらに低酸素は肺血管抵抗を増加させ, 右心の拡大を生じ, 左心を圧排する.
またストレスによる血圧の上昇は心拍出を阻害する.
診断は病歴が重要.
肺内が過陰圧となったエピソードの後に生じる肺水腫.
・誤嚥性肺炎や心原性の肺水腫, アナフィラキシーが鑑別として重要.
・心原性の場合はBNPの上昇やTropの上昇, 心エコーが鑑別に有用
治療は酸素投与, 必要に応じて陽圧換気(CPAP)
・またフロセミドも使用されることが多い
・肺水腫は3-12時間程度(論文によっては6-24時間と記載)で改善するが,
一部では48時間程度まで持続する例も報告されている.