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2022年7月30日土曜日

巨細胞性動脈炎における血管エコーと側頭動脈生検の診断への寄与

(Lancet Rheumatol 2021; 3: e865–73)

EUREKA study: デンマークの3病院における前向きCohort.

・50歳以上のCranial GCAが疑われた患者群を対象とし,
 全例で側頭動脈, 顔面A, 総頸A, 腋窩Aの血管エコーを施行.

・その後GC投与7日以内に側頭動脈生検を施行.

・患者は6ヶ月間治療, フォローされ, 6ヶ月後に担当リウマチ専門医により最終的にGCAかどうかを診断された.


・エコー所見陽性はIMTの均質な低エコーの肥厚所見, Halo signが陽性,
 腋窩Aでは1mm以上, 総頸Aでは1.5mm以上のIMT肥厚で定義


アウトカム: 

・112例でUSの評価と側頭動脈生検を施行.
 6例は生検に動脈が含まれておらず, 除外され,  最終的に106例で評価


・年齢は72.7±7.9歳, 女性が59%


エコー結果

・エコーにて血管炎所見を認めたのは65例(61%)
 

 このうち44例(68%)で頭蓋の単独病変.
 

 14例(22%)が頭蓋と大血管の複数病変.
 

 7例(11%)が大血管のみの病変.

・IMTの肥厚は腋窩Aで1.72±0.47mm, 頸Aで1.97±0.44mm


側頭動脈生検陽性は46例(43%)

・その全例がUS所見も陽性: US所見陽性の65例中46例で生検陽性(71%)

・側頭動脈にUS所見(+)の58例のうち, 生検陽性例は46例. 79.3%

・US所見が陰性であった患者は全例で生検所見も陰性.

・巨細胞を認めたのは46例中39例(85%)


6ヶ月後の最終診断と検査結果

・62例が臨床的にGCAを診断.

・生検陽性は全例でGCAを診断

・生検陰性例では16/60でGCA

・US所見陽性例では, 
 58/65でGCAを診断.


TABの感度72-75%, 特異度 92-100%

 USの感度92%, 特異度 85%


非GCA症例の診断


GCA診断に関連する情報

・USはかなり診断に寄与する.

・他は顎跛行と全身症状.


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GCA診断に際して, TABは特異性はかなりよいものの, 感度は72-75%と低い.

検体不良も5%弱である. USで側頭動脈に所見を認めても, 2割はTAB陰性.

一方でUSは感度はかなり良好. 一方で特異性はTABに劣る.


双方の有用性を理解しておきたいところ.


TABでnon-GCA所見であった症例のエコーと最終診断.


2022年7月28日木曜日

メトホルミンは腹部大動脈瘤の予後を改善させるかもしれない

腹部大動脈瘤は比較的多く見つける動脈硬化性疾患の1つ.

無症候性も多く, 高齢者では腹部の診察やエコーで一度はスクリーニングをかけた方が良い.

症候性や急性の拡大傾向, 大動脈径が>55mmとなると手術を考慮する必要がある.


内科的治療では降圧薬やスタチンなど投与されることが多いが,

TAA(胸部)と異なり, AAAの拡大速度や予後を改善させることが証明されている薬剤は実は無い.


MetforminはAAAの予後を改善させる可能性が示唆


2003-2013年に退役軍人医療システムで管理された無症状のAAA患者のデータをReview.

(J Vasc Surg. 2019 Mar;69(3):710-716.e3.)

・糖尿病併発症例, 且つ 複数回腹部画像検査が施行された患者群を対象とした.

 AAA修復術を施行された患者はその時点で打ち切り.

・投薬内容とAAA径の変化の関連を評価.


13846例で評価. MET使用例は39.7%


・径の拡大速度は


 MET使用群で1.2±1.9mm/y
非使用群で1.5±2.2mm/yと
有意にMETで拡大速度が遅い


大動脈瘤径拡大に関連する因子

・他にはARBやSU剤も関連があるが, 最も効果があるのはMET

・糖尿病自体が瘤のリスクを下げるというDMパラドックスという現象がある.

・増悪させるのはCOPD, 腎疾患, 喫煙, 転移性腫瘍, AAA径


オーストラリアの3都市で行われた前向きCohort.

(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2019 Jan;57(1):94-101.)

・無症候性のAAA患者を対象とし, その後のAAA修復の必要性, AAA関連死亡に関わる因子を評価.

・患者は1080名. AAA径は46.1±11.3mm, 平均フォロー期間は2.5±3.1年

・AAAに関連するアウトカムはMET使用例で有意に低下.


 初期AAA径≤50mmの群でも同様.

・MET処方がないDM患者ではアウトカムは有意差なし



2000-2019年の米国の退役軍人データベースを用いて,
糖尿病患者, 非糖尿病患者のMetformin使用の有無と
AAA手術, AAA死亡, AAA手術後死亡への関連をPropensity-score matched analysisにて評価.

(J Investig Med. 2020 Jun;68(5):1015-1018.)

・DM(+), MET(-)が43073例


 DM(+), MET(+)が24361例


 DM(-)が56006例.

アウトカム:
 

DM(+)群ではMETに関係なくAAA手術リスクは低い.
 

・DM(+), MET(+)群ではAAA死亡リスクが唯一低下する.
  

・しかしながら10年後には死亡リスクも上昇する


スウェーデンの4ヶ所の血管センターにおいて,
手術適応のないAAA患者を対象としてスクリーニングを実施

(Ann Vasc Surg. 2021 Jan;70:425-433.)

・2型DM(-)群が428名.


 DM(+), MET(+)群が65名, 


 DM(+),MET(-)が33名

AAA径の拡大速度の比較;

・DMでMET(+)群では非DMと比較して
有意に拡大速度が遅い.

・MET(-)のDM患者群では有意差はない


メトホルミンによるケモカインの減少や
炎症の抑制などが関連していると推測されている

(J Vasc Surg. 2020 Mar;71(3):1056-1062.)


そして, 現在AAAに対するMETのRCTが進行中

・MAT trial: 無症候性AAA, DM(-)患者を対象とし,
 MET 1500mg vs Placeboに割り付け比較.
 

 アウトカムはAAA関連合併症. (Trials. 2021 Dec 27;22(1):962.)

・MAAAGI trial: AAA, DM(-)患者を対象とし,
 MET 2000mg vs Placeboに割り付け, 5年間投与.

 その間のAAA径, 体積の変化を比較. (Eur J Vasc Endovasc Surg. 2021 Apr;61(4):710-711.)

2022年7月27日水曜日

女性の慢性骨盤痛, 腰痛, 下腹部痛の原因: Pelvic Congestion Syndrome

 Pelvic Congestion Syndrome: 骨盤鬱血症候群

(Semin Ultrasound CT MR. 2021 Feb;42(1):3-12.)(Medicina (Kaunas). 2021 Sep 30;57(10):1041.)

・女性の慢性骨盤痛を呈する病態であり,
しばしば診断されずに見逃される疾患の1つ

・生殖腺静脈の逆流と静脈のうっ血があり,
 卵巣や子宮付近の静脈瘤を認め, さらに
長時間の立位や性交, 月経で増悪する慢性の腰痛や骨盤痛を呈する.
 

 疼痛は時に片側, 両側性双方あり

・通常, 20-45歳の若い多産婦で発症し,
 子宮内膜症, 子宮腺筋症, 泌尿器科疾患, 腹部臓器疾患など他の原因を除外した上で診断される.
 

 卵巣静脈瘤を持つ患者の60%でPCSを発症

 また慢性骨盤痛の30%でPCSを認める.

・しばしば下肢静脈不全や外陰部静脈瘤を合併する

・PCSは大きく2つの原因が考えられている

 1つは静脈弁の欠如や機能不全によるもの.

 もう一つは外部からの静脈の圧排による鬱血や逆流.
 これにはMay-Thurner症候群やNutcracker症候群が挙げられる


・卵巣静脈は左は腎静脈, 右は下大静脈に流入する

 May-Thurner症候群では, 左総腸骨Vが右総腸骨AとL5で圧排され
内腸骨静脈に逆流が生じ, その結果静脈瘤を形成.

 Nutcraker症候群では, 左腎静脈がAoとSMAで圧排され, 卵巣静脈瘤を形成する.


PCSの典型的な臨床的特徴 (Arch Gynecol Obstet. 2016 Feb;293(2):291-301.)

・3-6ヶ月間持続する骨盤の疼痛

・疼痛は鈍痛, 重苦しい感じで, 片側性であるが,
 時に両側性や変動性のことがある

・疼痛は月経前や月経中に増悪.
 

 また, 長時間の立位, 歩行, 持ち上げる行為, 
 姿勢を変えるなど腹圧を増加させる行為で増悪する

・性交中や性交後, 妊娠中にも増悪. 

・疼痛は治るまで数時間かかることもある

・下腹部痛や疝痛, 腰痛, 排尿障害を伴う例も多い


単一施設のける腹部CT 2384件の解析. (PLoS One. 2019 Apr 2;14(4):e0213834.)

・骨盤内の静脈拡張に影響を及ぼす疾患は除外され,
 骨盤内静脈瘤の頻度とCT前の症状を評価した.

・骨盤内静脈拡張は12%で検出,
 閉経前女性で21%, 閉経後は10%.

・原因不明の慢性骨盤痛の頻度は集団全体で2%
 

 閉経前女性が8%, 閉経後女性が0.5%
, 静脈拡張例が18%.

・CG1: 静脈拡張(+), 慢性骨盤痛(-)
 CG2: 静脈拡張(-), 慢性骨盤痛(-)

・PCS群では下腹部痛や腰痛, 鼠径部痛の頻度も高い.


 疝痛や血尿, 排尿障害, 頻尿といった症状もきたしやすい



PCSの診断はCT, MRIの画像検査や経膣USが有用

・経膣USでは, 
 直径4mm以上の拡張, 蛇行, 血流が遅延(<3cm/秒), または逆流を認める傍子宮・子宮卵管静脈を確認する.
 

 または骨盤内静脈瘤と喉痛した子宮筋層の拡張した弓状静脈を認める

・USではバルサルバ法を用いることで逆流検出の感度を上げるなど動的な評価も可能

・CT, MRIでも静脈瘤は検出可能であるが, 臥位で撮像するため, 骨盤静脈の拡張を検出する感度は低下する.
 

 CT静脈造影は逆流の程度を定量化可能.


 MRIでは子宮内膜症や周囲臓器, 筋骨格の評価も可能であり, 慢性骨盤疼痛全体の評価に向く

(Br J Radiol 2020; 94: 20200881.)

・経カテーテル静脈造影はPCS診断のGold standardであるが, 画像検査で診断がつかない場合や, インターベンションが予定されている患者で行う

・腹部触診における卵巣の圧痛と, 性交後の疼痛増強があると
他の骨盤痛疾患との鑑別に感度 94%, 特異度 77%で鑑別が可能とする報告もある.


PCSの治療

・PCSの治療は主に静脈瘤に対する塞栓術や硬化療法が多い.

 難治性では外科手術も行われる.

・内科的治療では, 鎮痛, メドロキシプロゲステロン, GnRH agonistが使用される.

・二次性(静脈の圧迫による逆流や静脈瘤の形成)では, 
ステント留置や, 圧排の解除が治療となる

2022年7月19日火曜日

IgG4が陽性となる(上昇する)リンパ腫

高齢男性, 両側の耳下腺と涙腺の腫脹を認め紹介となった.

画像検査では上記以外にLN腫大や他臓器の腫大などは認められず.

血液検査ではIgG 2500, IgG4 700台とIgG4の顕著な上昇を認め, IgG4関連疾患(ミクリッツ病)と考えられた.

CRPは陰性, LDH上昇もなく, IL-2Rも正常.


ところが, 涙腺の生検を行うと, MALTリンパ腫を疑う病理像を認め, IgG4+ 形質細胞は認められない結果であった. 最終的にMALTリンパ腫と診断された.

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ミクリッツ病の診断基準は以下のとおり.

A. 診断項目
 1. 涙腺・耳下腺・顎下腺の持続性(3か月以上)、対称性に2ペア以上の腫脹を認める。
 2. 血液学的に高IgG4血症(135 mg/dL以上)を認める。
 3. 涙腺・唾液腺組織に著明なIgG4陽性形質細胞浸潤(強拡大5視野でIgG4+/IgG+が50%以上)を認める。

B. 鑑別疾患
 シェーグレン症候群、サルコイドーシス、キャッスルマン病、多発血管炎性肉芽腫症、悪性リンパ腫、癌などを除外する。


<診断のカテゴリー>
Definite: ①A1+A2+Bを満たすもの ②A1+A3+Bを満たすもの

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これより, 病理所見がなくとも, 臨床所見とIgG4値, そして除外診断ができればミクリッツ病と診断される.

・その除外診断には病理が重要な疾患が多く含まれており, 結局病理は大事.


そして, 今症例では臨床所見や血液検査では非常にミクリッツ病に近い状態ではあったが, それが組織検査を行うとMALTリンパ腫であったという症例.


悪性リンパ腫, 特にMALTリンパ腫では,
IgG4が上昇する点, 眼窩や唾液腺にMassを形成する点,
また, 肥厚性硬膜炎の原因となり, IgG4-RDに類似した病態となることがある.


日本国内からの報告. 
1014例の眼窩内リンパ増殖性疾患患者の解析

(Jpn J Ophthalmol (2013) 57:573–579)

・MALTリンパ腫が404例(39.8%)


 その他の悪性リンパ腫が156例(15.4%)


 IgG4以外の眼窩炎症が191例(18.8%)


 IgG4関連眼窩炎症が219例(21.6%)


 IgG4陽性MALTリンパ腫が44例(4.3%)

・これらデータからは, 眼窩内のMALTリンパ腫のおよそ10%はIgG4が陽性.

 また, 眼窩内リンパ増殖性疾患でIgG4が陽性の場合, 44/263(17%)がMALTリンパ腫 という計算となる.



中国において, 眼窩内MALTリンパ腫を診断された成人症例121例を解析

(OncoTargets and Therapy 2020:13 5755–5761)

・男性例80例, 女性41例. 年齢は42-71歳(平均53.7±121.5)

・MALTリンパ腫のうち, 

 IgG陽性例が90.91%(110例), 

 IgG4陽性例が61.98%
(75例). 

 さらに37例はIgG4/IgG >40%であった.
 

 30.58%はIgG4-RODの診断基準を満たした.

・IgG陽性細胞, IgG4陽性細胞は, 

 びまん性分布, 局所性分布, 散在性分布, 発現を認めないパターンがそれぞれあり, 

 IgG4/IgGとの相関性は無し.


IgG4-RDの鑑別としてMALTリンパ腫が重要であることは疑いはないが,

IgG4-RDからMALTリンパ腫を発症するのか,

IgG4産生細胞がMALTリンパ腫に変化するのかは議論がある,

・IgG4-RDとMALTリンパ腫の関連では, 圧倒的に涙腺病変での報告が多い.

(Journal of Neuro-Ophthalmology 2014;34:400–407
doi: 10.1097/WNO.0000000000000193)


他にIgG4が陽性となる悪性リンパ腫の報告では,

 皮膚のMarginal zone lymphoma, 肺のMALTリンパ腫での報告. 特にMargical zone lymphomaの報告は多い.(MALT自体がMargical zone lymphomaの1つ)

 Nodular lymphocyte predominant Hodgkin Lymphoma

 Follicular lymphoma

 DLBCL

 Plasmablastic lymphoma. などの症例報告が認められた.

2022年7月14日木曜日

トシリツマブの憩室炎リスク, 消化管穿孔リスク

 (Rheumatology 2022;61:953–962)

RAにおける腸管穿孔リスクは0.2-1.2/1000pt-yの頻度であり, 非RA患者と比較してリスクは高い(HR 1.5[1.1-1.9])

・生物学的製剤の使用前は主にNSAIDの使用による上部消化管穿孔が主であったが, 最近の研究では80%が下部消化管穿孔であった.

・リスク因子は年齢や併存症, GCやNSAIDの使用, 憩室炎の既往.


 また, TCZの使用がリスクとなる報告も多数ある.
 

 TCZ vs csDMARD: HR 4.5[2.0-10.0] (Ann Rheum Dis 2017;76:504–10)
 

 TCZ vs TNFi: HR 2.5[1.3-4.9] (Arthritis Rheumatol 2016;68:2612–7.)


フランスの3つの前向きObserational registries(AIR, ORA, REGATE)において, RA患者におけるTCZ, RTX, ABT治療と, 憩室炎や腸管穿孔のリスクをPropensity score matched analysisを用いて評価.

・対象患者は18歳以上のRA患者で,
 RTX, ABT, TCZ(全てiv投与)を受けている患者群

・憩室炎や消化管穿孔は, ABT, TCZの最後の投与から3ヶ月以内に発症したもの, RTXでは6ヶ月以内に発症したものを関連性ありと判断.


アウトカム

憩室炎や消化管穿孔のリスク

憩室炎はTCZ群で, RTX群よりも発症リスクが高い.


 消化管穿孔はTCZはRTXやABT群よりも高リスクとなる

 
(vs RTXでは憩室炎関連の穿孔, vs ABTでは消化管穿孔全体)


憩室炎のリスク因子

・高齢者, TCZ, GC投与量がリスクとなる.


消化管穿孔のリスク因子

・全体では高齢者やGC投与量がリスク因子となる.


 TCZ使用群では腫瘍の病歴, RTX使用群では喫煙がリスク.

2022年7月13日水曜日

ワクチン接種と痛風発作のリスク, コルヒチンによる予防効果

 (Ann Rheum Dis 2022;81:1189–1193. doi:10.1136/annrheumdis-2022-222199)


ワクチン接種により, 痛風発作が誘発されることがある

・最近の報告ではrecombinant herpes zoster ワクチン(RZV)接種により, 
痛風発作のリスクがおよそ2倍に上昇することが示されている
(OR 1.99[1.01-3.89])  (Ann Rheum Dis 2019;78:1601–4.)


COVID-19ワクチンによる痛風発作のリスクはどの程度か?

痛風で通院している患者群を対象とした
中国のObservational study.

・COVID-19ワクチン接種後3ヶ月以内の痛風発作発症率を評価し,
 未接種群と比較. 

 また, コルヒチンの使用と発症予防効果を評価した.


アウトカム:


・549例を対象.  男性 96.7%, 年齢中央値 39歳[32-49]

・460例(84.2%)がCOVID-19ワクチンを接種し, 400名が2回接種.
(シノバックが54.1%, シノファーム 37.7%)

・ワクチン接種を受けた患者のうち, 203例(43.9%)が
接種後3ヶ月以内に痛風発作を発症.

 その多く(6-8割)が接種後1ヶ月以内に発症.
 1週間以内は2-3割であった

ワクチンによる発作OR 6.02[3.00-12.08]

コルヒチンの使用はワクチン接種後の発作リスクを減少させる: OR 0.53[0.31-0.92]


2022年7月10日日曜日

Whipple病による関節症状

 Whipple病については以下も参照

Whipple病

Whipple病の初期, Prodromal phaseでは関節炎症状や関節痛, 筋痛が出現する頻度が高く,

しばしば原因不明の関節炎や, リウマチ性疾患と誤診され, 免疫抑制療法や生物学製剤が使用される例も報告されている.

Whipple病における関節症状とはどのようなものなのだろう?


Whipple病における筋骨格系の症状

(Reumatologia 2021; 59, 2: 104–110)

・WDで多い症状として,
多発性の筋痛, 多関節炎/痛
炎症性背部痛がある

 他には局所性筋痛や腱鞘滑膜炎,
滑液包炎, 皮下結節なども報告.

 これらがしばしばリウマチ性疾患
との鑑別で重要となってくる

・TNF阻害薬はWDの病状を増悪させ, 
また免疫再構築炎症症候群の頻度も
上昇させるため, 注意が必要.(Sci Rep. 2021 Jun 10;11(1):12278. doi: 10.1038/s41598-021-91671-9.)


フランスとイタリアの10カ所のリウマチセンターで
1977-2011年に診断されたWD 29例の解析.

(J Rheumatol 2013;40:2061–6; doi:10.3899/jrheum.130328)

・年齢中央値は55歳で, 初発症状〜診断までの中央値は5年間.

・多発性関節炎は20/29, 慢性/間欠性が19/29, 
血清陰性 22/23, 非びらん性 22/29

全例で初期に炎症性リウマチ疾患と誤診され,
 24/29でBioを含む免疫抑制療法を施行された.


・多い誤診はSpA, 血清陰性RA,
 原因不明の多発関節炎


関節炎の特徴は?

炎症性関節痛を認めたWD症例を解析

(Sci Rep. 2021 Jun 10;11(1):12278. doi: 10.1038/s41598-021-91671-9.)

・WD患者は68例. このうち67例がリウマチ性病変を認めた.

・WDは以下に分類:
 

 CWD: 小腸の病理よりPAS染色陽性を確認
 

 NCWD: 小腸の病理が未施行 or PAS染色が陰性.
 さらに以下に分類

  LWD: localized WD. 小腸以外の組織(関節やCSF)より証明.
  

  AWD: Arthropathic WD. 消化管で陰性, 他の組織よりPCR陽性
 

  PAWD: Probably AWD. 消化管の病理が未施行 + 上記


臨床症状/臓器障害


・消化管病理で証明できない群では, 
体重減少や下痢の頻度は低い

・関節炎は高頻度. 炎症性腰痛はおよそ4割前後で認める
発熱は消化管病理陰性例では2割前後と少ない

血液検査所見


CRPは高頻度で上昇を示す.

・RFやACPAは基本的には陰性. 
IgAやIgG上昇は認める


関節炎の特徴

・末梢関節炎主体が6割.


 軸関節を含む, または軸関節のみは4割程度.

・関節炎となる例が9割
単一関節は1割に満たない. Oligo, Polyが4-5割を占める

・間欠性が多い

・関節の変形や
骨びらんも
半数以下だがある


関節炎の分布は?


52例の解析では, 67%で関節痛, 関節炎症状が早期症状.

(Medicine 1997;76:170-184)

・消化管症状が15%, 全身症状が13%, 神経症状が4%であった.

・関節症状の部位としては,
手関節, 足関節, 腰部,
膝関節が特に多い傾向.

・非特異的な関節痛も多い.



Whipple病の関節痛部位; 40例と20例のWDの頻度

(Sci Rep. 2021 Mar 16;11(1):5980. doi: 10.1038/s41598-021-85217-2.)

・肩, 手, 膝, 足関節で多いが
MCPやMTP, PIPでも認める.

・軸関節では腰椎や仙椎で
認められやすい.


他のリウマチ性疾患との比較

WD 40例と, PsA 21例, 回帰性関節炎 15例, RA 30例, ax-SpA 25例を比較した報告

(Sci Rep. 2021 Mar 16;11(1):5980. doi: 10.1038/s41598-021-85217-2)

・関節痛の部位数はWhipple病で平均5箇所程度.
 他のリウマチ性疾患とほぼ同等.


・Whipple病と他の関節炎疾患における, 脊椎の疼痛の経過を比較

 脊椎の疼痛を訴えるのはWhipple病の10%程度.


 このうち, Episodicな経過が半数となる点が, RAやSpA, PsAと異なる


 発症様式(緩徐, 急性)はどの群も同等.


よりWDを示唆する情報


・男性で, 週1回程度の
間欠的な関節痛はWDの
可能性を上昇させる.

・同様にEpisodicに出現する
回帰性関節炎との比較では, 
同部位に生じる場合は
よりWDらしい.

・他の持続性の関節炎との
比較では, 
やはりEpisodicな経過が
WDを考慮するヒント


WDによる関節痛/関節炎の経過の例:


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まとめると, WDによる関節炎は,

・肩, 手, 膝, 足で多いが, MP, PIP, DIP, MTPといった小関節や, 腰椎や仙骨といった軸関節にもくる. 炎症性腰痛もある.

 関節炎はOligo, Polyであり, 大体4-5関節で生じる. これは他のリウマチ性疾患と大差ない

・炎症反応は上昇し, 慢性炎症らしくIgGも上昇. またIgAも上昇する.

・関節炎/関節痛のポイントは, Episodicということ. 週1回程度の頻度で繰り返し出現する

 同様にEpisodicに生じる回帰性関節炎との比較では, 同一部位に繰り返し生じる, という点はポイントとなる.