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2022年7月10日日曜日

Whipple病による関節症状

 Whipple病については以下も参照

Whipple病

Whipple病の初期, Prodromal phaseでは関節炎症状や関節痛, 筋痛が出現する頻度が高く,

しばしば原因不明の関節炎や, リウマチ性疾患と誤診され, 免疫抑制療法や生物学製剤が使用される例も報告されている.

Whipple病における関節症状とはどのようなものなのだろう?


Whipple病における筋骨格系の症状

(Reumatologia 2021; 59, 2: 104–110)

・WDで多い症状として,
多発性の筋痛, 多関節炎/痛
炎症性背部痛がある

 他には局所性筋痛や腱鞘滑膜炎,
滑液包炎, 皮下結節なども報告.

 これらがしばしばリウマチ性疾患
との鑑別で重要となってくる

・TNF阻害薬はWDの病状を増悪させ, 
また免疫再構築炎症症候群の頻度も
上昇させるため, 注意が必要.(Sci Rep. 2021 Jun 10;11(1):12278. doi: 10.1038/s41598-021-91671-9.)


フランスとイタリアの10カ所のリウマチセンターで
1977-2011年に診断されたWD 29例の解析.

(J Rheumatol 2013;40:2061–6; doi:10.3899/jrheum.130328)

・年齢中央値は55歳で, 初発症状〜診断までの中央値は5年間.

・多発性関節炎は20/29, 慢性/間欠性が19/29, 
血清陰性 22/23, 非びらん性 22/29

全例で初期に炎症性リウマチ疾患と誤診され,
 24/29でBioを含む免疫抑制療法を施行された.


・多い誤診はSpA, 血清陰性RA,
 原因不明の多発関節炎


関節炎の特徴は?

炎症性関節痛を認めたWD症例を解析

(Sci Rep. 2021 Jun 10;11(1):12278. doi: 10.1038/s41598-021-91671-9.)

・WD患者は68例. このうち67例がリウマチ性病変を認めた.

・WDは以下に分類:
 

 CWD: 小腸の病理よりPAS染色陽性を確認
 

 NCWD: 小腸の病理が未施行 or PAS染色が陰性.
 さらに以下に分類

  LWD: localized WD. 小腸以外の組織(関節やCSF)より証明.
  

  AWD: Arthropathic WD. 消化管で陰性, 他の組織よりPCR陽性
 

  PAWD: Probably AWD. 消化管の病理が未施行 + 上記


臨床症状/臓器障害


・消化管病理で証明できない群では, 
体重減少や下痢の頻度は低い

・関節炎は高頻度. 炎症性腰痛はおよそ4割前後で認める
発熱は消化管病理陰性例では2割前後と少ない

血液検査所見


CRPは高頻度で上昇を示す.

・RFやACPAは基本的には陰性. 
IgAやIgG上昇は認める


関節炎の特徴

・末梢関節炎主体が6割.


 軸関節を含む, または軸関節のみは4割程度.

・関節炎となる例が9割
単一関節は1割に満たない. Oligo, Polyが4-5割を占める

・間欠性が多い

・関節の変形や
骨びらんも
半数以下だがある


関節炎の分布は?


52例の解析では, 67%で関節痛, 関節炎症状が早期症状.

(Medicine 1997;76:170-184)

・消化管症状が15%, 全身症状が13%, 神経症状が4%であった.

・関節症状の部位としては,
手関節, 足関節, 腰部,
膝関節が特に多い傾向.

・非特異的な関節痛も多い.



Whipple病の関節痛部位; 40例と20例のWDの頻度

(Sci Rep. 2021 Mar 16;11(1):5980. doi: 10.1038/s41598-021-85217-2.)

・肩, 手, 膝, 足関節で多いが
MCPやMTP, PIPでも認める.

・軸関節では腰椎や仙椎で
認められやすい.


他のリウマチ性疾患との比較

WD 40例と, PsA 21例, 回帰性関節炎 15例, RA 30例, ax-SpA 25例を比較した報告

(Sci Rep. 2021 Mar 16;11(1):5980. doi: 10.1038/s41598-021-85217-2)

・関節痛の部位数はWhipple病で平均5箇所程度.
 他のリウマチ性疾患とほぼ同等.


・Whipple病と他の関節炎疾患における, 脊椎の疼痛の経過を比較

 脊椎の疼痛を訴えるのはWhipple病の10%程度.


 このうち, Episodicな経過が半数となる点が, RAやSpA, PsAと異なる


 発症様式(緩徐, 急性)はどの群も同等.


よりWDを示唆する情報


・男性で, 週1回程度の
間欠的な関節痛はWDの
可能性を上昇させる.

・同様にEpisodicに出現する
回帰性関節炎との比較では, 
同部位に生じる場合は
よりWDらしい.

・他の持続性の関節炎との
比較では, 
やはりEpisodicな経過が
WDを考慮するヒント


WDによる関節痛/関節炎の経過の例:


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まとめると, WDによる関節炎は,

・肩, 手, 膝, 足で多いが, MP, PIP, DIP, MTPといった小関節や, 腰椎や仙骨といった軸関節にもくる. 炎症性腰痛もある.

 関節炎はOligo, Polyであり, 大体4-5関節で生じる. これは他のリウマチ性疾患と大差ない

・炎症反応は上昇し, 慢性炎症らしくIgGも上昇. またIgAも上昇する.

・関節炎/関節痛のポイントは, Episodicということ. 週1回程度の頻度で繰り返し出現する

 同様にEpisodicに生じる回帰性関節炎との比較では, 同一部位に繰り返し生じる, という点はポイントとなる.