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2021年11月22日月曜日

溶連菌感染後 反応性関節炎

咽頭炎を罹患した後, 10日前後経過して急性に膝関節疼痛, 腫脹が出現した症例.

膝関節炎を認め, 咽頭培養より溶連菌が陽性, またASOも高度上昇が認められた.

他の考えられる疾患も除外され, 最終的に溶連菌感染後ReAと判断された.


溶連菌感染後反応性関節炎: Poststreptococcal Reactive Arthritis(PSRA)

・溶連菌感染後のReactive Arthritis.

・連鎖球菌感染後, 10日以内(2wk以内)に発症する無菌性関節炎.

・年齢ピークは2峰性で, 8-14歳, 21-37歳に多く,
成人で発症したPSRAではより長期間持続する傾向がある

・関節炎は下肢の大関節(主に膝関節)で多く, 単関節〜多関節とさまざま.

 持続期間は2ヶ月前後.(範囲1週間〜8ヶ月)

・関節炎は侵襲性は低く, 関節変形を呈することは稀


 腱鞘炎は1/3で認められる

(Current Rheumatology Reports (2021) 23: 19)(Rom J Morphol Embryol 2017, 58(3):801–807)


古典的ReAとPSRAの違い

・感染後〜発症までの期間がPSRAでは短く(1-2wk)


 軸関節の侵襲は稀.


 関節炎は通常2ヶ月程度で改善する例が多い.

・HLA-B27の関連はPSRAは少ない

(Current Rheumatology Reports (2021) 23: 19)


26名のRetrospective cohort  (J Clin Rheumatol 2010;16:3-6)

・アラブ人18, アジア人8名, 男女比は12:14. 年齢は11-41yr.

・関節炎の前に上気道症状を認めたのは61%.


 上気道症状〜関節炎発症までの期間は 10d-4wk. 2wkが最多.

・80%が左右非対称の症状を示す.


 単関節炎が7.6%, Oligoarthritisが30.8%, 多関節炎が42.3%.
 

 腱炎, 腱滑膜炎, 腱付着部炎のみを示すのが19.2%.

・ASOの平均値は624.8と高値. ESRは44mm/Hであった.

・NSAIDへの反応したのは84.6%. 15.4%がステロイド投与を要した.

関節炎の部位

PSRA Caseレポートのまとめ;

(Current Rheumatology Reports (2021) 23: 19)


同様に溶連菌感染後に関節炎を呈する病態として, リウマチ熱(ARF)がある.

両者の違いはどのようなところだろうか?

リウマチ熱についてはこちらも参照: http://hospitalist-gim.blogspot.com/2015/08/blog-post_5.html

PSRA, ARFの比較
 

(Current Opinion in Rheumatology 2002, 14:562–565)

・PSRAはARFよりも感染後短期間で発症し,
 左右対称性の小関節病変が主となる点でARFと異なる.


・PSRAの関節炎は持続性, 非遊走性で, 2ヶ月[1wk-8M]持続.
 NSAIDへの反応性は緩徐.

 ARFの関節炎は遊走性でNSAIDが著効. 2日程度で軽快する

・PSRAでも弁膜症は6%であり得るが, これには議論がある(後述)

(Perm J 2019;23:18.304)


日本国内の323施設からの後向きCohort.

(Allergology International 66 (2017) 617e620)


・2010-2015年に診断されたARF 44例とPSRA 21例のデータを解析

 小児例が主

・炎症反応はARFで高く
PR間隔延長が認められる

・ASOは双方とも1000台

・関節炎は
ARFでは遊走性が6割.
 分布は膝が多く,
それはARFもPSRAも同等

・治療はAbx, NSAID, GC

 PSRAの大半はGC無しで改善する.
 2ヶ月を超えて関節炎を認めるのが3割弱

 二次予防としてAbxを長期的に使用する例もある


68例のARFと159例のPSRA症例を比較 @イスラエル

(J Pediatr 2008;153:696-9)

・発熱を伴う頻度はARFの方が多い


 関節炎の部位もARFでより多関節となり,
 遊走性関節炎が79%と多い(vs 33%)

・炎症反応はARFで高くなる

・治療への反応性は
ARFで迅速. 2日で改善する

 
PSRAでは1週間程度とより緩徐.

・PSRAでは再燃が21%と多い

・罹患関節の部位

 主に下肢の大関節が両者ともにメインとなる.

 ARFでは上肢の大関節にも生じやすい.


よりARFを疑う/否定する因子

・炎症が高いのはARFを疑うヒントとなる

・一方で関節症状がなかなか改善しない症例や,
 再発する場合はARFよりもPSRAを考慮する

・NSAIDへの反応が良好で, 数日で改善するならばARFを疑う.

 なかなか改善しない, 緩徐な経過となるならばPSRAの可能性が高い.


PSRAと心筋炎の関連

・PSRAはARFとは異なる疾患と考えられており, 
心筋炎や弁膜症の合併も多くはない.

・弁膜症の合併についてはさまざま報告があり,


 ・イスラエルのPSRA 146例を3.6年フォローした結果, 心筋梗塞は認めず. 20例は心エコーにて軽度異常あり(mild-moderate MR 17, mild TR 2, mild AR 1) (Clin Exp Rheumatol. 2015;33:578–82.)


 ・イタリアの小児例PSRA 52例で, 6-10年後のフォローで心エコーで弁膜症は認められず. (Arthritis Rheum. 2009;60:3516–8)


 ・成人のPSRA 75例を平均8.9年フォローし, 心臓の異常は対象群と比較して有意差なし (Arthritis Rheum. 2009;60: 987–93)

 関連性はいまいち分かっていないのが現状.


PSRAの治療

・溶連菌性咽頭炎の迅速な診断と治療はPSRAの予防となる

・関節炎に対するNSAIDへの反応性は低い.
 この点はARFとの有用な鑑別点となる.

・SASPやTNF阻害薬の効果はまだ明確ではない

・基本的に希少疾患であり, RCTの組み立ては難しいため,
 経験的治療が主となっているのが現状.

 NSAIDで治療が難しければ短期的なGC投与, DMARDの使用が考慮される.