70歳台男性, 背部痛にて受診.
血液検査にて, 高度貧血, WBC増多, 血小板減少, LDH上昇を認め,
CT検査では椎体, 肋骨, 骨盤など様々な骨の髄質の消失が認められた(Beautifle bone scanのような感じ.)
また, 巨脾 + 脾臓内の多発性のMass(境界明瞭, 造影CTで造影効果は乏しく, 不均一)あり.
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この時点での鑑別は,
・胃癌, 肺癌, 乳癌, 前立腺癌あたりからの骨髄癌腫症, 脾臓転移
>> 特にそれら原発巣を示唆する画像所見や血液検査所見は得られず.
・骨髄増殖性疾患, 特にCMLあたりからの急性転化 + Myeloid sarcomaの形成
>> Myeloid sarcomaはどこでも生じるが, 脾臓の報告は少ない.
・悪性リンパ腫の骨髄浸潤+脾臓病変.
・骨髄増殖性疾患(この場合は骨髄線維症)を背景とした髄外造血巣, 巨脾
ということで, マルクするとDry tap. 骨髄生検所見より骨髄線維症と診断した
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巨脾は骨髄線維症で認められるものの, この多発性のmassはなんだろうか.
おそらくは髄外造血巣(Extramedullary hematopoiesis: EMH)ではないかとの予想.
髄外造血巣: EMH
慢性経過の血液疾患で十分な骨髄造血機能が維持できない状態が持続すると, 髄外の軟部組織において造血が生じる. これをExtramedullary Hematopoiesis(EMH)と呼ぶ.
・慢性溶血性貧血(サラセミア, 鎌状赤血球症), 骨髄線維症, リンパ腫, 白血病
・EMHには2つの機序がある:
骨髄髄質の正常造血組織が髄外に広がる
休止状態にある造血組織が再活性化する
・多い部位は傍脊柱 > 肝臓, 脾臓, リンパ節.
他に胸腺, 心臓, 乳房, 前立腺, 靭帯, 腎臓, 副腎, 胸膜, 後腹膜, 皮膚, 末梢・中枢神経など報告がある.
・EMHでは腫瘤による神経圧迫や, 肋骨, 長幹骨, 椎体に脊髄, 頭蓋骨, 顔面骨が広がることで, 骨粗鬆症を呈する.(画像は頭蓋骨の骨髄の増生を呈した症例)
(Semin Ultrasound CT MRI 35:255-262, 2014)
通常の造血部位
(a)胎児, (b)小児, (c)成人
(Clin Radiol. 2016 Sep;71(9):807-14.)
EMHの画像所見:
某脊柱病変: EMHで最も多い (Semin Ultrasound CT MRI 35:255-262, 2014)
肋骨の骨髄が増生することで, 骨粗鬆症となった例
某脊柱に次いで多いのは肝臓, 脾臓, リンパ節
・肝臓, 脾臓ではび慢性の肝腫大, 脾腫大が認められる
・組織的にはびまん性に造血細胞浸潤が認められる.
・脾腫大から脾梗塞となる例もあり
・稀ながら, 肝臓や脾臓に腫瘤を形成するEMHもあり.
境界明瞭の腫瘤で, エコーでは低エコー領域の不均一な腫瘤, CTでは低濃度の不均一な腫瘤, Hypovascularで脂肪組織を含む
(Journal of Medical Imaging and Radiation Oncology 56 (2012) 538–544 )(Clin Radiol. 2016 Sep;71(9):807-14.)(Semin Ultrasound CT MRI 35:255-262, 2014 )
他, 稀な部位・画像
・腎周囲の髄外造血巣
(Semin Ultrasound CT MRI 35:255-262, 2014)
・脊柱内の髄外造血巣
(Journal of Medical Imaging and Radiation Oncology 56 (2012) 538–544)
・副鼻腔内の髄外造血巣
(Journal of Medical Imaging and Radiation Oncology 56 (2012) 538–544)