(Mayo Clin Proc. 2019 Oct;94(10):2054-2071.)
Histiocytic neoplasms
まれな骨髄細胞系の腫瘍性病変(年間<5例/100万)であり, 主にLangerhans cell histiocytosis, Erdheim-Chester病, Rosai-Dorfmann病が含まれる.
・ECDは中央年齢45歳と若年に多いが, LCHやRDDは全年齢で発症し得る.
・腫瘍性病変は局所~びまん性まで様々
偶発的に発見される例~重症症例まで様々ある
3疾患の臓器障害の頻度と特徴
・ECDは最も他臓器に病変が分布する.
特に心血管系, 中枢神経系, 眼窩の病変は3疾患のうち最も多い
・LCHは主に骨病変や呼吸器病変を呈することが多い.
・RDDはリンパ節病変や皮膚病変が主.
家族性のRDDやECDやリンパ腫合併例, SLEや特発性JA, 自己免疫性溶血性貧血と合併するRDDもある
・ECDの中枢病変は後方窩の脳実質や脊髄の病変が多い
他に下垂体, 硬膜, 顔面, 眼窩内病変もある
認知機能障害や失調, 顔面神経麻痺を呈する. 頭痛は20%程度
MRIではT2で高信号, Ga造影効果のある病変
・内分泌障害はECDとLCHで多く, 永久的な内分泌障害を呈することがほとんど
視床下部, 下垂体浸潤にて, 下垂体不全を呈するリスクが高いため, これら疾患では診断時, フォロー時には下垂体機能検査を行うべきである. 下垂体画像検査が正常でも除外はできない.
ECDで多い内分泌障害は尿崩症で25-50%で認められる. 数年かけて発症, 進行する例もある. また50%で下垂体前葉ホルモン分泌障害を伴う. 尿崩症を伴わず, 下垂体不全となる例も当然ある
下垂体前葉ホルモン障害はGHが79%, Gonadotropinが21%, TSHが10%, ACTHが3%. 高プロラクチン血症は40%で認められる.
末梢の内分泌器官の浸潤はLCHの方が多い(精巣, 副腎, 甲状腺など).下垂体前葉ホルモン障害はGHが79%, Gonadotropinが21%, TSHが10%, ACTHが3%. 高プロラクチン血症は40%で認められる.
・呼吸器病変はECDの約半数で合併. LCHと異なり, 喫煙との関連はない.
多い病変は縦隔浸潤病変, 胸膜肥厚, 胸水が主で, 肺実質異常は少ない.
多い病変は縦隔浸潤病変, 胸膜肥厚, 胸水が主で, 肺実質異常は少ない.
・皮膚病変はECDの30%で認められ, 黄褐色, 黄色腫様の丘疹, 結節や, 数mm~1.5cm程度の硬結斑を認めることが多い.
部位は眼窩周囲の黄色腫様病変が多いが, 他に顔面, 頸部, 腋窩, 鼠径にも認められる.
・心臓病変はECDで多く, RDDでは低頻度. LCHではまず認めない.
ECDにおける心臓病変はどの部位に生じても良いが, 最も多いのは心膜病変と心嚢水貯留(~42%). 心タンポナーデまで至る報告もある.
心筋病変は1/3で認められ, 右室の偽性腫瘍が特徴的(30-37%). 次いで房室溝が多い(19%).
AVブロックによるPM留置例の報告はあるが, 致死性不整脈の報告はまだない. 弁膜症の報告はある.
ECDにおける心臓病変はどの部位に生じても良いが, 最も多いのは心膜病変と心嚢水貯留(~42%). 心タンポナーデまで至る報告もある.
心筋病変は1/3で認められ, 右室の偽性腫瘍が特徴的(30-37%). 次いで房室溝が多い(19%).
AVブロックによるPM留置例の報告はあるが, 致死性不整脈の報告はまだない. 弁膜症の報告はある.
・ECDの血管病変は大動脈周囲の線維化を伴うことが多い(56-85%)
胸部~腹部大動脈を全周性に覆う所見が23-30%で認められる.
血管外膜への組織球浸潤が認められる
胸部~腹部大動脈を全周性に覆う所見が23-30%で認められる.
血管外膜への組織球浸潤が認められる
大動脈のみではなく, 60%その分枝にも波及する. SMA, 腹腔動脈, 腎動脈など. 腸間膜動脈病変による腸管虚血の報告や腎動脈病変による高血圧の報告がある.
血管病変はLCHやRDDでは非常にまれ.
・後腹膜, 腎病変はECDで多く, ECDの50-68%で認められる.
CTでは後腹膜, 腎周囲の軟部組織増生所見を認める
大半の症例は無症候性だが, 水腎症や腎後性腎不全を呈する症例もあり
LCHやRDDではまれ. LCHでは膜性腎症の報告がある.
CTでは後腹膜, 腎周囲の軟部組織増生所見を認める
大半の症例は無症候性だが, 水腎症や腎後性腎不全を呈する症例もあり
LCHやRDDではまれ. LCHでは膜性腎症の報告がある.
・網内系・造血系の異常: 肝臓, 脾臓の病変は3疾患では基本的にまれ.
ECDで11%, LCHで10-15%, RDDで17%程度
リンパ節病変はRDDで多いが, ECDやLCHではまれ.
RDDは別名 sinus histiocytosis with massive lymphadenopathyと呼ばれる.
ECDで11%, LCHで10-15%, RDDで17%程度
リンパ節病変はRDDで多いが, ECDやLCHではまれ.
RDDは別名 sinus histiocytosis with massive lymphadenopathyと呼ばれる.
LCHの臓器障害
・骨病変は頭蓋骨を含めた溶骨性変化が主
成人のLCHの38%が骨限局性
呼吸器病変は肺野の結節性病変や嚢胞形成が主となる.
呼吸器病変は肺野の結節性病変や嚢胞形成が主となる.
・LCHの中枢病変で最も多い部位は下垂体柄, 松果腺, 他の脳室周囲病変が主.
脳実質病変はあるが, 少ない
・内分泌障害についてはECDの記載も参照. LCHでも尿崩症が最も多い(20-30%)
多臓器に分布しているLCHの方が尿崩症リスクが高い.
下垂体前葉ホルモン障害はDIと合併することがほとんど, 診断後に数年かけて出現する. 報告では, LCH+尿崩症患者の70-90%でその後下垂体不全を合併. 欠乏ホルモンはGHが40-67%, Gonadotropinが33-58%, ACTHやTSHは11-30%.
高プロラクチン血症は20%程度で認められる.
多臓器に分布しているLCHの方が尿崩症リスクが高い.
下垂体前葉ホルモン障害はDIと合併することがほとんど, 診断後に数年かけて出現する. 報告では, LCH+尿崩症患者の70-90%でその後下垂体不全を合併. 欠乏ホルモンはGHが40-67%, Gonadotropinが33-58%, ACTHやTSHは11-30%.
高プロラクチン血症は20%程度で認められる.
・呼吸器病変はLCHの主な障害の1つ. 90%が喫煙に関連している.
1/3は無症候性. 消耗症状も20%程度しか認めない.
画像所見では2mm~数cmの結節病変, 一部で空洞性病変が早期に認められる. 進行すると, 結節よりも空洞性病変が主となる.
1/3は無症候性. 消耗症状も20%程度しか認めない.
画像所見では2mm~数cmの結節病変, 一部で空洞性病変が早期に認められる. 進行すると, 結節よりも空洞性病変が主となる.
・LCHの皮膚病変は大腿や腹部, 胸部, 背部の紅斑性丘疹を認める.
頭皮に生じ, 脂漏性皮膚炎と診断されることもある
他の所見としては皮疹を伴わない皮下結節, 黄色腫様病変, 口腔内結節, 剥離性歯肉炎, 粘膜潰瘍など
他の所見としては皮疹を伴わない皮下結節, 黄色腫様病変, 口腔内結節, 剥離性歯肉炎, 粘膜潰瘍など
・LCHでは心臓病変はまれであり, 認める場合はECD/LCH overlapを考慮すべき
RDDの臓器障害
・RDDの中枢病変はまれであるが, 生じる場合は硬膜病変が多い
脳脊髄液検査にて, Emperiopolesis(リンパ球が形質細胞に取り込まれる所見)が認められることがあり, 診断に寄与する所見.
・RDDでは内分泌障害を伴う例はまれ
・RDDの呼吸器病変は嚢胞性変化, ILD, 局所的な肺浸潤影/結節, 気道病変など
喫煙との関連はない
喫煙との関連はない
・RDDは皮膚病変は多い(50%). 赤褐色の斑や丘疹, 黄色腫様丘疹/結節, 眼窩周囲や頬部の皮疹を認める.
脂肪織炎(圧痛を伴う皮下結節), 皮下結節のみも報告あり.
脂肪織炎(圧痛を伴う皮下結節), 皮下結節のみも報告あり.
・RDDの心臓病変は少なく, 報告例は17例のみ. <5%の頻度と推測.
・RDDはリンパ節病変の頻度が高く, 別名 sinus histiocytosis with massive lymphadenopathyと呼ばれる.
ECD, LCH, RDDの組織検査
・Histiocytic neoplasmの組織診断は難しい.
疾患自体がまれであることと, 腫瘍細胞量が少なく, 線維化や炎症性細胞に混じって存在するため, 評価が難しい.
複数回生検を繰り返す必要がある
・骨病変が最初に生検されやすい部位であるが, 組織損傷や脱石灰化の影響でこれも評価しにくい
BRAF V600Eの評価でも偽陰性となるリスクがあるため, 骨病変の生検では脱石灰化を行わない他の検体を追加で採取するか, EDTAを使用した脱石灰化を行い, 分子解析に影響がでないように配慮する.
ECDの病理
・線維組織内に泡沫状の組織球と, まれだがTouton giant cellを認める
リンパ形質細胞浸潤はあっても良いが, 基本的に少ない
ECDの組織球は, 反応性組織球と同様にIHC marker(immunohistochemial)が陽性となるが, BRAF V600E mutationはECDでのみ陽性となる.
・泡沫状の組織球を認めず, 線維化や炎症細胞浸潤のみの場合もあるが, この場合は臨床所見, 画像所見から判断するか, MAPK/ERK, phosphatidylinositol-3-kinase/protein kinase B(PI3K/AKT) pathway mutationsを評価する
LCHの病理
・LCHは典型的にはECDより細胞成分が多く, 腫瘍細胞はより異形が明らかなことが多い.
反応性のLangerhans細胞と比較して, LCH細胞は核がやや大きく, 核溝が繊細で, クロマチンの凝集が弱い.
・好酸球の混在もしばしば認められ, その量も多い.
・線維化は軟部組織では少なく, 骨病変で多い
・リンパ節ではリンパ洞周囲にLCH細胞は分布.
皮膚疾患などによる反応性Langerhans細胞は皮質周囲に分布する
RDDの病理
・ECDやLCHと比較して, RDDではより炎症細胞浸潤が目立つ.
多数の形質細胞浸潤によりリンパ濾胞を形成することもある
また, 好中球浸潤を伴う例もある.
・組織球の核は肥大化し, 細胞中心に位置し, オープンなクロマチンを有する.
・組織球はEmperipolesis(細胞質内の炎症細胞の取り込み)を伴う
・線維化は特に髄膜や脊髄周囲領域で多い
・リンパ節病変を伴う場合, 細胞はリンパ洞に著明に分布
Histiocytic neoplasmを疑うきっかけとその診療フローチャート
・膝関節周囲の骨幹端の骨硬化像を認める場合や,
特発性の中枢性尿崩症,
組織検査にて非典型的な組織球を認める場合に考慮する.
・または,
後腹膜線維症,
中〜大血管周囲の軟部組織所見,
喫煙者における上肺有意の嚢胞性病変,
扁平骨に多い打ち抜き病変 の組み合わせで疑う.
疑った後の診療フロー