右向きの水平方向性眼振,
さらにBedside head impulse test(bHIT)で左回旋時にVORが遅延したため,
左前庭神経炎と判断した症例.
>> 補足: 左前庭機能低下と麻痺性眼振(右方向)
翌日の午後に評価すると,
眼振が左向きに変化.
bHITは左回旋時の遅れのまま不変.
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この変化は? 一体?
Recovery nystagmus
Recovery nystagmusは末梢性の眼振の治癒期で生じる, 患側方向の眼振.
基本的にメニエール病で多く認め, 前庭神経炎急性期で認めることは非常に希.
"メニエール病は発症~15分程度では刺激性の障害(= 患側への眼振)
その後内耳機能の抑制が生じ(麻痺性眼振 =健側への眼振)
改善する際に相対的な再度患側への眼振が生じることがある(刺激性)"
(Acta Oto-Laryngologica, 2012; 132: 498–504)
・83例の片側メニエール病症例の評価では
遅発性麻痺性眼振が20%, 刺激性眼振が30%で認められた.
(Acta Oto-Laryngologica, 2012; 132: 498–504)
他の末梢性眼振でも上記のようなRecovery nystagmusは生じるが, 基本的には数週間〜数カ月経過して生じることが普通
前庭神経炎, 突発性難聴, 内耳障害症例において
眼振のStageを以下のように分類した際の経過をプロット
(Acta Otolaryngol (Stockh) 1995; Suppl 519: 188- 190.)
Stage Iは刺激性眼振: 極早期であり, 見つけることは希.
Stage IIが麻痺性眼振: 通常急性期で認められる, 健側方向眼振
Stage IIIはHead-shaking nystagumusで評価され, 中枢性の代償期となる. その初期では健側方向, 晩期では患側
Stage IVで改善する際に患側方向への眼振(Recovery nystagumus)を生じることがある
Stage Vの治癒にいたるまでは数カ月かかる(A).
また, Stage III-1,2に数カ月とどまる例もある(B).
患者の経過
前庭神経炎とメニエール病における, 体位性の眼振を評価した報告から
(Clin Exp Otorhinolaryngol. 2019 Aug;12(3):255-260.)
・急性期のVNでは麻痺性眼振が80%. Recovery typeが3%のみ
フォロー時のVNでは麻痺性眼振42%, Recoveryは14%
・MDでは麻痺性眼振が38%, Recoveryが38%の頻度.
・HC-BPPVのような体位による眼振の変化は, 急性のVNで10%, MDで22%で認められる.
この報告では急性期のRecovery nystagmusは前庭神経炎では3%と少ない.
フォロー時の前庭神経炎では14%まで増加
メニエール病では38%と多い.
さらに, HC-BPPV(外側半規管のBPPV, Supine roll testにて向地方向, 背地方向性の眼振が認められる) 様の眼振パターンもこれら疾患でありえるというのが非常に興味深い新しい知見.
前庭神経炎でも, Canal paresisが軽度な症例が, 早期から眼振の向きが変わる可能性がある
(Clin Exp Otorhinolaryngol. 2017 Jun;10(2):148-152.)
・VN 201例において, カロリック試験を行い, Canal paresis<25%の群をMinimal Canal paresis群(MCP)と定義.
・上記MCP群 58例と, ≥25%のCanal paresis群 143例を比較した報告
・両群の背景は有意差なし
眼振持続期間は有意にMCPで短い
眼振報告の変化はMCP群で24%と多く, CP≥25%では5.6%と少ない.
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急性期で眼振の向きが変化するのはメニエールと思っていたものの,
前庭神経炎でも少ないながらそのようなパターンがありそう.
特にCanal paresisが軽度な症例で早期の眼振変化が出現する可能性が高く,
早く治る一つの指標なのかもしれない.
さてこの症例は早期に改善に向かうのだろうか?