ページ

2019年9月27日金曜日

GNR菌血症の抗菌薬投与期間は7日間でOK

(Clinical Infectious Diseases® 2019;69(7):1091–8)

イスラエル, イタリアにおける多施設open-label RCT.
・好気性GNR菌血症で, 抗菌薬を7日間使用した患者でさらに48時間以上解熱が持続, 臨床経過が良好であり, 感染源コントロールが付いている群を対象
 感染巣はUTI, 腹腔内, 呼吸器, CV, 皮膚・軟部組織, 感染源不明を対象.
他の感染巣, 複数菌菌血症, Brucella, Salmonella, 免疫不全患者(好中球減少, HIV, 同種幹細胞移植)は除外

・上記を満たす群を, 抗菌薬7日間で終了する群と, 14日間継続する群に割り付け, 90日生存率, 治療失敗リスク, 合併症リスクを比較.

母集団
・FocusはUTIが6割と多い
・緑膿菌が6-9%含まれている

アウトカム
・90日死亡率や再入院, 菌血症再燃リスクは有意差なし
・通常のADLへもどるまでの期間は7日投与群で有意に短くなる


・UTI, UTIでの比較や耐性菌別のSub解析でも有意差はない

--------------------------------
自分が研修医の時は菌血症=抗菌薬は14日間、と言われていました。
それから、7-10日で問題ないなど報告が増えてきており、今は大体7日間、伸ばしても10日間程度がよいところです。
このRCTでは、経過が良好(48時間以上解熱していれば)ならば7日で十分との結果でした。

2019年9月25日水曜日

無症候性細菌尿のスクリーニング適応は妊婦のみ

USPSTFによる無症候性細菌尿(ASB)のスクリーニング推奨 2019
(JAMA. 2019;322(12):1188-1194. doi:10.1001/jama.2019.13069 )
スクリーニングは妊婦でのみ推奨される.
非妊婦の成人症例ではスクリーニングは行わない

ASBスクリーニングを評価したRCT, observational cohortMeta
(JAMA. 2019;322(12):1195-1205. doi:10.1001/jama.2019.10060 )
・19 studies, N=8443.
妊婦におけるABSスクリーニングは
 有意に腎盂腎炎のリスクの低下: 0-16.5% vs 2.2-36.4%, RR 0.24[0.14-0.40]
 低出生体重児リスクが低下: 2.5-14.8% vs 6.7-21.4%, RR 0.64[0.46-0.90]
 周産期死亡リスクは有意差なし
・非妊婦の評価では有意差は認められない結果.

Summary of Evidence


-------------------------------------------

2019年9月19日木曜日

AFIRE trial: Af + 安定した冠動脈疾患患者ではDOACのみで良い

AFIRE trial: Af患者で安定した冠動脈疾患を有する患者群を対象とした日本国内の多施設open-label RCT
(N Engl J Med. 2019 Sep 19;381(12):1103-1113.)
・患者はAfCHADS2 scale ≥1と以下の1つ以上を満たす群
 ・12ヶ月以上前にPCI, CABGを施行された群
 ・冠動脈造影を行い, 血流再建術の必要がないと判断された冠動脈狭窄(≥50%)
除外項目: ステント内血栓症既往, 担癌患者, コントロール不良の高血圧

上記患者群をRivaroxaban単独群 vs Rivaroxaban+抗血小板薬群に割り付け,  心血管イベントリスクを比較.

母集団

アウトカム
・Studyは併用群で死亡リスクが増加したため, 中断された
・併用群で, 脳出血, Major, minor bleeding, 死亡リスクが増大
 脳梗塞やMI有意差なし

Sub解析

----------------------
1年以上経過した安定した冠動脈疾患 + Af患者でDOACを使用する場合, 抗血小板薬の併用は心血管イベント予防効果はなく, 出血を増やすのみ

2019年9月18日水曜日

PEXIVAS: ANCA関連血管炎に対する血漿交換, ステロイド早期減量を評価したRCT

先日参加した勉強会にて, PEXIVASの結果が2018年に発表されていることを知りました.
論文発表は未だですので, 知りませんでした.

PEXIVAS trial:
(Trials 2013, 14:73)

重症のAAV患者を対象とした2x2 factorial design RCT.
・重症AAV:  
  腎炎合併でeGFR<50mL/min/1.73m2, 血尿・蛋白尿を認める, もしくは腎生検にてFocal necrotizing glomerulonephritis
  肺出血合併(画像所見+他に原因がない場合で, 以下の1つ以上を満たす: BAL所見, 血痰, DLCOの上昇, Hb<2g/dLの低下)
・GBM抗体陽性例, AAV以外の血管炎, 妊婦, 割り付け前21日間以上透析を行なっている患者, 腎移植, 3ヶ月以内に血漿交換を行っている患者, CYCRTX・高用量PSLを使用している患者は除外

上記患者群を血漿交換群 vs 非施行群,
PSL通常管理群 vs 早期減量群に割り付け, 予後を比較.

血漿交換は14日間で7, 3-5%Alb60mL/kg/回用いる
・出血リスクがある場合(腎生検後や肺胞出血)ではFFPを用いる.

ステロイド減量スケジュール
・早期減量群ではmPSLパルス後1mg/kgくらいで1wk
 翌週から半減
 4週間時点で25mg/d程度
 3ヶ月目には10mg/d程度,
 4ヶ月以降には5mg/dで維持

PEXIVASの結果
(https://acrabstracts.org/abstract/the-effects-of-plasma-exchange-and-reduced-dose-glucocorticoids-during-remission-induction-for-treatment-of-severe-anca-associated-vasculitis/)
N=704, 男性56%, PR3-ANCA陽性41%, MPO-ANCA陽性59%
 腎炎合併例が98%, 肺胞出血合併例が27%
免疫抑制療法はRTX15%. CYC85%

アウトカム: ESRD+全死亡
・血漿交換群で28%, 非施行群で31%, HR 0.86[0.65-1.13]
通常PSL減量群で26%, 早期減量群で28%, ARD 2.3%[-3.4~8.0]

血漿交換の有無, PSL早期減量でESRDや死亡リスクに有意差はない

・1年以内の重大な感染症リスクはPSL早期減量群で有意に低下
 通常PSL減量群 33%, 早期減量群 27%, HR 0.70[0.52-0.94]

-----------------------
血漿交換はAAVの糸球体腎炎, 肺腎症候群では効果は期待できない可能性が高い.
また, 以前から言われているように, AAVでは免疫抑制薬をしっかり使って, 早期にPSLを減らす, という姿勢が重要であることが示された.

論文化されたらもう少し肉漬けします.

2019年9月13日金曜日

抗GQ1b抗体症候群によるAVS(急性前庭症候群)

AVSは(正式な和訳は知りませんが)急性前庭症候群(Acute vestibular syndrome)
急性発症の眼振, 回転性めまいを呈する疾患群で,
末梢性(主に前庭神経炎)と中枢性(小脳梗塞, 脳幹梗塞)の鑑別が問題となる.

また抗GQ1b抗体は, MFS(Millar Fisher Syndrome), GBS(Guillain Barre syndrome), BBE(Bickerstaff脳幹型脳炎), Acute ophthalmoparesis(AO)で陽性となる抗体で, 特にOphthalmopareisis(眼球運動麻痺)との関連が強い.

GQ1b抗体陽性の病態を, 「GQ1b IgG抗体症候群」とも呼び,
194例の解析では以下の図のような分布となる(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;70:50-5)


一部のGQ1b抗体陽性患者ではOphthalmoparesisを認めず, 失調が主となることがある. 
・失調症状は脳幹や小脳の神経節の後根が障害されることで生じると説明されている.
脳幹や小脳が障害された場合, 様々な眼振(方向交代性眼振, 中枢性頭位性眼振, 注視誘発性眼振など)を生じる.
急性の末梢性めまい症様の症状で受診した患者において, GQ1b抗体陽性であった症例報告もあり, この症例では症状極期の抗GQ1b抗体の力価は1ヶ月以内に低下し, 症状も改善, HITやカロリック試験も正常化した.

>>AVSの鑑別として抗GQ1b抗体は考慮する必要がある.
(Neurology® 2019;93:e1085-e1092. doi:10.1212/WNL.0000000000008107)

2004-2018年にSeoul National University Bundang Hospitalで診断した抗GQ1b抗体陽性113例のうち, 発症から>14日経過例や他のOphthalmoplegiaやめまい症の原因がある症例を除外した90例を解析.
・上記のうち, MFS31, Acute ophthalmoplegia without ataxia27, GBS with ophthalmoplegia18, AVS11, BBE3例であった

AVSを生じた11例を解析.
HIT異常は2/11で認められる.
・眼振は自発眼振, GEN(注視誘発性眼振)HSN(Head shaking nystagmus), 頭位性など様々なパターンとなる.

他の抗GQ1b抗体陽性例との比較
・前駆感染症の病歴は約半数で認められる
AVS症例でIVIGやステロイドが投与されたのは1例のみ
 それでも6ヶ月後の症状は全例で改善を認める

----------------------------------
中枢性AVSの鑑別疾患に抗GQ1b抗体症候群がある.
HITは主に中枢パターンとなるが, 一部で末梢性もあり得る.

予後は基本的には良い.

原因がわからないAVSでは想起しておきたい.

2019年9月11日水曜日

リウマチ性髄膜炎

症例: 70歳台女性, 主訴数日の経過の変動する右片麻痺, 呂律障害

数年前にRAを指摘されているが, 使用している薬剤はNSAIDと少量PSLのみで近医フォロー中。
3-4日前より右下肢の脱力、歩行困難となった. 軽快, 増悪を繰り返し, さらに呂律障害を呈したため救急要請.

診察で手関節、MP関節、PIPの変形, 関節炎所見あり、リウマチ結節も複数認められた.
頭部MRIではDWIで脳の表層に一致した線状, 点状高信号所見(髄膜)が認められた.
髄液検査では, 細胞数50(多核球60%), タンパク60mg/dL, 糖45mg/dL(血糖90mg/dL)

参考画像(画像は論文より. 実際の症例も類似した所見でした)
(J Neuroradiol. 2014 Oct;41(4):275-7.)

これらの所見よりリウマチ性髄膜炎が疑われた, という症例.


リウマチ性髄膜炎
(Rheum Dis Clin N Am 43 (2017) 561–571)
RAに関連する髄膜炎は稀ではあるが, 重大な合併症
・脳, 脊髄を覆う3層の膜: 硬膜, くも膜, 軟膜全てに炎症を生じ得る
 >> 硬膜炎, 軟髄膜炎, その合併
RA髄膜炎は局所~びまん性の炎症まで様々であるが部位は脊髄よりも大脳周囲で多い.
基本的に長期間の経過のRAで合併する
 関節症状が安定していても生じるため, RA患者で新規神経症状が出現した場合は常に注意.

RA髄膜炎の症状は様々
・炎症の部位, 局所性かびまん性かでも異なる.
 頭痛や痙攣, 神経局所症状, 意識障害, 脳神経障害は多い.
・19例の症例報告のReviewでは, 意識障害が47%, 脳神経障害が26%, 片麻痺/対麻痺が21%, 痙攣が21%, 頭痛が11%との報告がある
 また, 皮下リウマチ結節が67%, 臓器リウマチ結節が47%で認められる.
 リウマチ性血管炎を合併している症例もある
(Semin Arthritis Rheum. 1989 May;18(4):258-66.)(Clin Rheumatol (2003) 22: 475–480)

RA髄膜炎の診断は画像所見と病理
・造影MRIでは髄膜の肥厚・造影効果が認められる.
 局所的な異常所見が主だが, びまん性のこともある.
同部位の組織では単核球浸潤, 形質細胞浸潤が認められるが, これら所見は非特異的.
 リウマチ結節が認められれば特異的所見となる.
また肉芽腫性炎症所見が認められることもある. 血管炎所見は稀.

・CSF中の抗CCP抗体やRFが上昇する報告もあり(Front. Neurol. 10:666. doi: 10.3389/fneur.2019.00666 )
CSF所見は非特異的. 単核球優位となるが, 多核球の上昇パターンもある. 髄液糖も正常~低下まで様々

画像の例
 (Rheumatol Int (2012) 32:3679–3681)
 (J Neuroradiol. 2014 Oct;41(4):275-7.)
(Clin Rheumatol (2003) 22: 475–480)

RA髄膜炎の鑑別疾患は様々.
・肥厚性硬膜炎を呈する疾患群
 IgG4関連疾患, ANCA関連血管炎, サルコイドーシス, 悪性腫瘍の髄膜播種など
・感染症では, 結核性髄膜炎, NTM, 真菌, 神経梅毒, ウイルス
・使用している薬剤による中枢障害
・RA+リンパ増殖性疾患の合併

RAに関連するCNS障害のまとめ
(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 32 (2018) 500-510)

RA髄膜炎の治療
・Clinical trialは無し.
よく使用されているのはステロイド(mPSLパルス)
 ステロイドにDMARDs, アザチオプリン, シクロホスファミドを併用することもある.
治療でもMRI所見は残存することが多い
・再発することもあるため注意.

2019年9月9日月曜日

ダサチニブ胸水

CMLでダサチニブ(スプリセル®)を1年前に開始された患者で,
両側性の大量胸水貯留をきたした症例.


ダサチニブは薬剤性胸水貯留を高頻度で来す薬剤であり,
薬剤自体は血液内科でしか使用しないと思われるが, 胸水貯留の鑑別として知っておいた方が良いかもしれない

Dasatinib胸水
(Current Opinion in Pulmonary Medicine 2010, 16:351 – 356)
・Dasatinibではおよそ20%で胸水貯留が認められ, 薬剤継続困難の主要な原因の1つとなる.
・特に2/日の投与でリスクとなるため現在では1/日で投与する

Dasatinibの投与量, 回数を評価したPhase 3. CA180-034における胸水貯留の頻度:
(Cancer 2010;116:377–86.)
・投与量が多いほど, また1日投与回数が多いほど胸水貯留リスクは増大.
・100mg/dを1日1回投与で最もリスクは低い.

他のリスク因子としては, 高齢者が挙げられる
(Current Opinion in Pulmonary Medicine 2010, 16:351 – 356)

DasatinibのPhase 3 trial, DASISION, CA180-034における胸水貯留症例
(Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia, Vol. 17, No. 2, 78-82 a 2016 )(Haematologica. 2019 Jan;104(1):93-101. doi: 10.3324/haematol.2018.188987.)
・薬剤開始後〜胸水貯留までの期間は様々. 数年後に出現する例も珍しくはない
・Gradeも軽度〜重度まで様々である.
・胸水貯留の有無で予後や治療反応性には影響しない.

胸水はリンパ球有意(90%程度)の滲出性胸水となる.
症例報告ではTGが上昇する, 乳び胸となる例も報告あり
・胸水貯留の機序は判明していないが滲出性胸水, リンパ球有意からは免疫機序の胸膜炎が示唆される
 血小板由来成長因子受容体, βポリペプチドの非標的抑制などの関与.
ラットを用いた研究では, Dasatinib投与により用量依存性, 可逆性の内皮細胞透過性の亢進が生じる報告もある(Eur Respir J 2018; 51: 1701096 )

ダサチニブ胸水の対応
(Current Opinion in Pulmonary Medicine 2010, 16:351 – 356)
大量胸水で症候性ならば休薬+ステロイドを検討
・ただし, ステロイド投与は確立された方法とは言いがたく, 短期的な投与に限るべき. 長期的な使用は避けるべきとするReviewもある(Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia, Vol. 17, No. 2, 78-82 a 2016)

イタリアにおける報告:
2005-2017年に21箇所の血液センターでCML-chronic phaseDASを使用された853例中196例で胸水貯留を認めた(23.0%)
(Ann Hematol. 2018 Jan;97(1):95-100. doi: 10.1007/s00277-017-3144-1.)
・胸水貯留を認めた患者の初期投与量h100mg/d7割と最多


DAS開始後~胸水貯留っまでは16.6ヶ月[0.3-109.0]
 1年以内~5年以降まで様々なタイミングで出現
・心嚢水貯留っもある
・投与量を減らした後も半数で再発.

取られた対応
・主には休薬, ステロイド, 利尿薬

-------------------------
最近は1st lineで用いられる薬剤でもあり, しかも胸水貯留リスクは20-30%と非常に高い.
押さえておいた方が良さそうです.