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2019年4月24日水曜日

AIHA患者への輸血

70歳台男性. 3週間前より増悪する呼吸苦にて受診.

両側下肺に軽度湿性ラ音を聴取し, 下腿浮腫+, 頸静脈拍動高も亢進.
胸部XPでは心拡大, 軽度両側肺水腫+
LabではHb 4.6g/dL, またBilの上昇, LDH上昇を認めた.

既往歴に慢性リンパ球性白血病の既往があり, CLLを背景としたAIHAと診断した.


さて, AIHAの診療は進め, PSLを開始するのは当然ですが,
輸血はどうすべきか?



自己免疫性溶血性貧血(AIHA)患者では, 自己抗体の影響でクロスマッチで反応してしまい, その結果 不規則抗体(同種抗体)の判定が難しくなる.

輸血を繰り返すことで不規則抗体のリスクも上昇してしまうため, 輸血による溶血反応リスクも増加. 場合によっては急性溶血反応による腎障害や重症化する報告もある.

このことから, AIHA患者の輸血では十分に注意し, 必要最小限にとどめておくべきとの意見も多い. 若年者ではHb>5g/dL, 高齢者では>6g/dLを目標とするなどの意見もある.

一方, 組織への十分な酸素供給を行うため, 他の治療(免疫抑制など)の効果がでるまでは輸血をしっかり行うべきとの意見もある.(特に虚血性心疾患では利点の方が上回る)

(TRANSFUSION 2003;43:1503-1507. )

RBC輸血における適合検査
・適合検査は通常輸血の際に行われる検査で,
 患者血清のRBC抗体と輸血RBCが反応しないことを確かめるもの.
 輸血後の溶血反応を防ぐために必要である.
・最も重要な抗体は抗-A, B抗体だが, これは血液型を合わせることで対応する
輸血に伴う溶血反応では, RBC同種抗体が関係する.
 同種抗体は以前の輸血や妊娠により生じることがあり, 抗原はRh, Kell, Kidd, Duffy系などのRBC抗原グループがある
AIHA患者の32%で同種抗体が認められる報告があり, AIHA患者では同種抗体に注意が必要であるが, その検査が難しくなるのが問題.
・ちなみに不規則抗体とは, A, B抗体以外の同種抗体全般を示す

AIHAは赤血球膜の抗原に反応する自己抗体が産生されそれにより溶血をきたす疾患
・自己抗体があると, 交差適合試験や不規則抗体検査が干渉を受け, 検査結果に支障をきたすことがある.
 >> AIHA患者では自己抗体と同種抗体双方を有する例もあり, その場合同種抗体の評価ができず, 輸血により溶血反応が増悪するリスクがあるため, 注意が必要.
・また自己抗体といっても溶血を呈さない無症候性のものもある(直接クームス陽性だが, 溶血はない症例など)
 この場合も輸血時の検査結果に支障をきたす.
AIHA患者では自己抗体の影響を排除して輸血検査を行うことが重要.

温式AIHAにおける適合輸血の選択方法(自己抗体の排除法)
希釈法: 患者血清を希釈(5倍など)させることで, 自己抗体量を減らし, 一方で同種抗体はそのまま残ることを期待して行う.
吸着法(Absorption procedures): 患者のRBCから一部の自己抗体を溶離させ, そのRBCを用いて血清中の自己抗体を37度で吸着させることで自己抗体を除去する方法.
 wAIHAでは最も有用な方法であるが, 多くのRBCが必要なため, そもそも貧血の患者で採血量が増えてしまうことが問題.
 また, 3ヶ月以内に輸血している場合は吸着効率が低下する
 様々な同種血を利用し, 吸着させる方法もあるが一般的ではない
表現系を一致させたRBCの輸血患者RBCの表現系を明らかにできれば, 同種抗体も予測可能
 例えばJk(a+)の血液(JkはKidd型の表現系)では抗JKa同種抗体は認めない.
 表現系にあったRBCを選択することで安全に輸血は可能
 ただし, 広い表現系を調べることが技術的, リソース的に難しい場合がある
 部分的な表現系(Rh, K, Jka抗原など)を評価, 合わせることも可能ではあるが, 当然のことながら評価したものしか合わせられない

冷式AIHAにおける適合輸血の選択方法
・Cold agglutinin syndromeでは, 自己抗体は37度では活性化していない一方, 同種抗体は37度で活性化しているため, 37度を維持しつつ適合試験を行うことが重要.
・37度を維持した検査ができない場合は, 吸着法を用いるが, wAIHAほどしっかりやらずとも問題ない.(通常3回のところを1-2)
・CADではI抗原に対する抗体が多く, PAHではP抗原に対する抗体が主となるが, それら抗原陰性のRBCを選択することにあまり大きな臨床的優位点はない.(多少RBC寿命が伸びる報告はある)

Least Incompatible Unitsの選択
・”Least Incompatible units”はよく知られている言葉ではあるが定義が定まっているわけではない.
・吸着法などが確立される前, AIHAの輸血ではABO型を合わせた輸血でクロスマッチを行い, 最も反応が弱いものを選んでおり, それで”Least incompatible”を呼ばれていたのが由来
・現在の”Least incompatible”, 前述のような同種抗体のチェックを行い, 適合する輸血を選択その輸血でクロスマッチを行うと大体自己抗体により反応してしまうため, そのなかで最も反応が少ないものを選択している(この行為の特異性は不明)

AIHA患者でLeast-incompatible packed RBCs1-5 U(320-400mL)投与した161例を, 輸血後7日間フォロー.
(Ann Lab Med 2015;35:436-444)
・Least-incompatible packed RBCsは患者の同種抗体に反応する抗原を持たないRBCのうちから, >10 unitsABO適合輸血の反応をチェックし, 最も合うものを選択.
 加えて, 100例のDAT陰性, 自己抗体陰性だが, 同種抗体陽性例で, 1-5 Uの輸血を行なった患者
 さらに100例のDAT陰性, 自己抗体陰性例, 同種抗体陰性を対象群として評価

各群における輸血前後のHbの変化
・どの群でもHb上昇は同等

Bil, LDHの変化

・LDH, Bilの変化も同等. AIHA群において輸血後の溶血反応リスク上昇はない.

AIHA群における輸血による変化
・自己抗体タイプ(A), DAT種類(B), DAT強度(C,D), 初期のHb(E), PSL使用の有無(F)別のHb変化量(10mL RBCs/kgあたり)
・DATの強度別でもHb上昇量はどれも変わらない

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同種抗体の検査は4-6時間, 場合によってはもっとかかるため, 輸血の緊急度と溶血リスクを天秤にかけつつ決断せねばならない.
また適合輸血をセンターから取り寄せるとさらに時間がかかる.
今までに輸血歴や妊娠歴がない患者では同種抗体を有するリスクは下がるため, その点も考慮にいれるとよいかもしれない