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2018年10月27日土曜日

非ARDS症例の呼吸器管理ではLow-tidalにこだわらなくて良い

PReVENT trial 
(Effect of a Low vs Intermediate Tidal Volume Strategy on Ventilator-Free Days in Intensive Care Unit Patients Without ARDS A Randomized Clinical Trial. JAMA)

ICUで挿管管理をされ, 24h以内に抜管が困難と予測される患者群を対象としたRCT
ARDSの定義を満たす患者は除外.
 他の除外基準は<18, 妊婦, 呼吸器管理12h以上経過, 頭蓋内圧亢進/コントロール困難, 肺疾患既往, PE症例
Low VT群とIntermediate VT群に割付け, 呼吸器管理期間, 予後を比較
 Low VT: VCでは6mL/kg予測体重で開始し, 徐々に4mL/kgまで減量
  PCでは上記VTを保つように調節し, 最低5cmH2Oまで減らす.
 Intermediate VT: VCでは10mL/kg予測体重で開始. Pplat>25cmH2Oとなるならば減量する. PCでは上記を保つ様に調節. 最大25cmH2Oとする.

母集団

原疾患は心停止, 術後, 肺炎, 敗血症, 気道確保目的, 心不全など

アウトカム
両群でVentilator free days, ICU管理期間90日死亡リスクは有意差なし.
 ARDS発症や肺炎, 気胸, 無気肺なども有意差を認めない.

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ARDSや肺疾患(COPDや喘息など)以外の挿管症例では,
VTはあまりこだわらず, Pplatが高くなりすぎない様に気をつければ特に問題なし.

2018年10月26日金曜日

突発性難聴ではBPPV様の眼振を生じる

突発性難聴ではめまいや眼振を伴うことは有名である.
 どのような眼振を生じるかというと, とてもBPPVに類似したタイプの眼振となる.
(J Neurol. 2016 Oct;263(10):2086-96.)


突発性難聴の5-19%でBPPVと同様の頭位に関連して出現する眼振を認める.
・特に水平半規管のBPPVで認められるような, 向地方向性眼振が最も多く, 次いで背地方向性眼振が多い. 
・眼振は患側に頭を傾けた際に増強することが多い.
(Otol Neurotol 35:1626-1632, 2014. )

突発性難聴において, Spine roll試験とDix-hallpike試験で誘発される眼振を認める44例の解析
(Int J Audiol. 2016 Oct;55(10):541-6. )
・持続性の向地方向性の眼振で, Dix-hallpike陰性が52%, 陽性が11%
 持続性の背地方向性の眼振で, Dix-hallpike陽性が18%, 陽性が2%
 Dix-hallpikeでのみ誘発されるタイプが16%
・HITで末梢性パターンは向地方向性の眼振の半数程度で認める

また, 突発性難聴の眼振は経過中に変化することがある
(Medicine (2018) 97:43(e12982))
・眼振のタイプが経過中に変化することがあり眼振を伴う突発性難聴50例のうち, 15例で眼振が変化.
眼振は麻痺性眼振, 刺激性眼振, 向地方向性, 背地方向性, 後三半規管のBPPVタイプと様々.
・変化は発症2日〜75日で生じている

変化した症例

眼振タイプの変化
・眼振は向地方向性が多い. 変化するのも向地方向性背地方向性で多いが, 様々なパターンがある.

突発性難聴による眼振とBPPVの違いは?
・BPPVによる眼振は耳石の移動が関係しているが, 突発性難聴では”Light cupula”による機序が指摘されている.

Light cupulaとは
(J Audiol Otol. 2018 Jan;22(1):1-5.)
・通常半規管内のクプラと内リンパ液の重さは同じであり体位を変換しても双方の位置関係は変わらない.
クプラが軽く(Light cupula)または重く(Heavy cupula)となると重力がかかる際に両者の位置関係が変化する
・また, 重力がかからない体位(null plane)では眼振が軽快する

症状としては, Light cupulaでは潜時がなく, 減衰もしない点がポイント.
持続性の眼振となる.

Light cupulaの機序は色々説がある.
Cupulaが軽くなる説 
・アルコール摂取では, 体内のアルコールが内リンパ液よりもクプラに先に分布することで, Light cupulaとなる.
 positional alcohol nystagmusと呼ばれる体位性の眼振を生じる.
突発性難聴では, クプラが腫大することで, Light cupulaとなる可能性

内リンパ液が重くなる説
・迷路内への出血や, 内耳の虚血, 炎症により, 血液-迷路内への透過性が亢進し, 蛋白を含んだ浸出液が混ざり, 内リンパ液の比重が増大する.
 相対的なLight cupulaを生じる
・突発性難聴において, 眼振の方向が変化する機序としても考えられている

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突発性難聴の眼振パターンはBPPVと類似する.
Light cupulaが関係しており, 潜時がなく, 持続性がポイント.
経過中に眼振のタイプが変化することも.
難聴ある時点でBPPVではないのはその通りですけども.

2018年10月25日木曜日

急性心原性肺水腫とHt

急性の呼吸不全にて挿管管理, ICU入室となった70歳代男性.
既往や背景疾患は不明.
胸部CT, XPでは両側の浸潤影, GGO, 胸水貯留あり.
心エコーではびまん性の壁運動低下もあり. 急性心原性肺水腫が疑われた.

しかしながらHtが56%, Hb 18g/dLと血液濃縮があり, 本当に心不全なのか? という疑問があった.

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結論からいうと, 急性心原性肺水腫では間質や肺胞に低浸透圧のFluid貯留を生じることで, 血液濃縮が生じ, 治療し, 改善傾向となると間質の水分が戻り, 血液は希釈される

急性心原性肺水腫でICU管理となった症例とCOPD急性増悪でICU管理となった症例を後ろ向きにReview
(Crit Care Resusc 2011; 13: 108–112)
・入室時と24時間後, または臨床的に改善した後に評価した
 Ht, TP, Alb, 血液ガスを比較.

母集団

治療前後のパラメータ(B: before, A: after)

・急性心原性肺水腫では治療前のHt, Hbが有意に高い.
・COPD急性増悪でも高いが, 上昇の程度は急性心原性肺水腫の方が強い
・血液量, 血漿量も治療に伴い急性肺水腫では顕著に上昇

他のパラメータ

急性心原性肺水腫 95例と
冠動脈造影を行なったが, 陰性であった50(Control 1)
冠動脈病変を認めたが, 心不全は認めない21(Control 2)を比較
(Circulation. 1977 Jan;55(1):195-9.)
・血漿浸透圧は有意に急性心原性肺水腫で高い.

急性心原性肺水腫症例において改善を認めた患者群では, 治療後Htは低下し, 血漿浸透圧も低下する

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落ち着いて考えると当たり前のことではあるが,
「心不全」というVolが増加する病態も, 肺水腫が急性に増悪すれば血液濃縮を生じるという一見矛盾しているように錯覚する.

・・・まあそれだけです.

この辺のデータは調べてみましたが, 報告が少なく,
急性呼吸不全における血液濃縮と原因の関係とか, 臨床研究の題材にならないものかな

ICUにおけるストレス潰瘍予防のPPI: SUP-ICU

ICU管理におけるストレス潰瘍予防のRCTが発表.
SUP-ICU trial: Pantoprazole in Patients at Risk for Gastrointestinal Bleeding in the ICU. NEJM

急性期疾患で, ICU管理となった成人患者群3298例を対象としたBlinded-RCT.
・患者は急性疾患でICU管理となり, 1つ以上のGI出血リスクを有する群.
 予定入室は除外.
 GI出血リスクはShock, 抗凝固薬使用, 腎代替療法, 24hを超える(予測を含む)呼吸器管理, 肝疾患既往, 凝固障害の既往・病歴.
ストレス潰瘍予防目的にPantoprazole 40mg/日群とPlacebo群に割付け, ICU退室(最大90日間)まで継続.
アウトカムは90日における死亡リスク, 合併症リスク.

母集団

アウトカム
死亡リスクや感染症(肺炎, CDI)は両者で有意差なし.
臨床的に重要なGI出血リスクは2.5% vs 4.2%, RR 0.58[0.40-0.86], NNT 59程度で予防投与群で低下する.

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これも今までのRCTを全てひっくるめたMetaと同じNを有する, インパクトの大きいRCT.
これでは死亡リスクには影響しないものの, 出血リスクは軽減する結果.

個人的には経管栄養を始めるまではPPI投与していることが多いです.
経管栄養を始めた後は切ってます.

2018年10月23日火曜日

機能性めまい症へのアプローチ

一般内科外来では, めまい, ふらつきは多い主訴の1つです.
そもそもめまい診療は難しく, 苦手をする医師も多いと思います. 
しっかりと, まともにアセスメントして診られている医師を探す方が難しいかもしれません.

診断が比較的容易なBPPVや前庭神経炎でしたらまだよいものの, それら+脳梗塞など器質的疾患が除外された場合, それでアセスメントが終わっていることも多いのでは?

機能性めまいを押さえておくと, さらにめまい診療の幅が広がります.
また機能性めまいは決して除外診断ではなく, 典型的な症例では問診と診察で診断がつきます. これもまた診療していて気持ちが良いところ.

機能性めまい: Functional dizzinessは器質的な異常によらない/それだけでは説明がつかないめまい症.

(Curr Opin Neurol 2017, 30:107 – 113 )

器質性, 心因性, 機能性めまい症はそれぞれがOverlapしている.
・器質性を契機に心因性, 機能性となる例も多く, 一概に分類ができない.
・機能性めまい症とはどのような病態かをしっかり押さえておくことが重要.

機能性めまい症の代表的なものにPPPDがある.
・PPPD(persistent postural-perceptual dizziness)それまで
 PPV(phobic postural vertigo), 
 CSD(Chronic subjective dizziness), 
 SMD(space-motion discomfort), 
 VV(visual vertigo)と呼ばれていた疾患群が含まれた概念.
PPVは姿勢により増強する(起立や歩行)
VVは視覚刺激により増強する
CSDは運動や視覚刺激により増強する, 慢性経過のめまい
SMD運動や視覚刺激で増強するめまい

PPPDの診断基準
(Curr Opin Neurol 2017, 30:107 – 113)
・慢性経過の非回転性のめまい, ふらつきで
・体位や体動で増悪, 日内変動もあり, 日常生活を障害する.
・前庭障害を伴う病態や転倒などに続いて生じることがある(不安)

このようにPPPDの基準やらPPVやらCDSやらVVやら。。。と書くと, 結局よくわからないめまいじゃないか, という感じになるので, ここからは個人的主観も入った解説をします.

まず大前提として, めまい症状/ふらつき症状は
前庭機能 視覚 深部感覚の3つのバランスが障害されると出現する症状である.
それ以外に心因性がある.

このことを押さえておきます.

その上で, PPPDで最も多いPPV(恐怖性姿勢めまい)を考えてみます,

PPVは器質的疾患を認めないものの, 起立時や歩行時にふらつき, めまいが増強し, 日常生活に支障をきたすような病態です. 
・転倒するかもしれない, ふらついて怖い, という不安症状が強く, それによりさらに症状が増悪する. という悪循環に陥っています.

このPPVの病態を説明すると,
PPVは 過度に深部感覚と前庭機能に依存している病態である = 視覚入力が低下している病態.
といっても, 視力低下があるわけではありません.

(Neurology 1996;46:1515-9)

・深部感覚と前庭機能に依存しているため, そこからの入力信号と視覚からの信号, 大脳での処理にミスマッチが生じ, ふらつきを自覚します.
・不安になればなるほど, さらに依存は増強し, 症状も増悪します.

PPVと健常人の下肢や体幹筋の緊張を評価した報告では, 以下のようになります.
(Curr Opin Neurol 2017, 30:107 – 113 )

怖いので, 過度に筋収縮が生じ, 姿勢がうまく保てていません.
Dual taskにすると, 気がまぎれて, 健常人と同等になるところが面白い.



さて, この病態, 健常人でも生じるのですが, どのような状況で生じるでしょうか?








答え: 屋根の上です.


高所で恐怖心が高まると, 通常平地では問題にならないような平らの場所でもふらつきやバランスが崩れるような感覚を生じます.
簡単に言うと, これが平地で生じる人がPPVです.

ひとつ興味深い報告を紹介します

高所恐怖症とControl群における視線の位置を評価
(Ann N Y Acad Sci. 2015 Apr;1343:37-48.)
・立位静止時と運動時の視線を評価.
upright stance: 立位時, locomotion: 移動時
高所の立位時を見てみますと, 視線の移動は高所恐怖症群で狭くなります.
 さらに高所恐怖症群の移動時の視線はほぼ中心〜下方のみで, 左右の視線の移動はありません. 健常人よりも視線は固定されており, 移動時は下方を気にしすぎる傾向があります.

これらは視覚でのバランス補正が低下していることにつながります.

この, PPV患者は高所恐怖症の人と同じ, 視線の移動が少なく, 主にに下を気にしすぎるという点は, PPV患者の認知行動療法や生活のアドバイスに非常に役立ちます.

また, 診察室で歩かせる時も, 視線の方向をチェックすると, PPV患者さんでは結構足下を気にしています. 

この考え方で他のタイプも見てみますと,

PPVは姿勢により増強する(起立や歩行)
 >>不安症状などにより, 深部感覚が亢進, 視覚入力が低下(高所恐怖症と同様の病態)
VVは視覚刺激により増強する
 >>深部感覚や前庭機能が低下しており, 視覚入力が亢進している状態
CSDは運動や視覚刺激により増強する, 慢性経過のめまい
 >>背景疾患は様々. 分類が難しい慢性経過の機能性めまい
SMD運動や視覚刺激で増強する発作性のめまい
 >>検査では深部感覚に依存している所見が得られる

という具合に解釈されます.

視覚刺激の例
(Pract Neurol. 2018 Feb;18(1):5-13.)

これらPPPDの病態をまとめると以下のような感じ.
(Pract Neurol. 2018 Feb;18(1):5-13. )
視覚, 前庭機能, 感覚の3つでバランスは構成される
・何かしらの疾患でどれか障害されるとめまいを生じる.
 ・改善すれば再構築されるが,それに失敗するとふらつきが持続する.
 ・不安症状や恐怖心があると尚更失敗しやすい.
・めまいやふらつき症状が持続するとそれによる筋緊張, 恐怖, 不安症状などによりさらにバランスが障害され, 悪循環に陥る.


PPPDの治療
(Curr Treat Options Neurol (2018) 20:50
・PPPDは誘因や背景疾患(不安や恐怖, 機能障害)が多くその患者毎に治療や対応を考慮する必要がある.
・前庭機能が低下している場合はリハビリテーション不安や認知, 恐怖症状が強い場合は認知行動療法
・不安や恐怖症状には抗うつ薬が効果的かもしれない.

個人的によく行うPPVへの介入は, 
・まず上記の3要素の話と不安や恐怖の話をする
・その上で高所恐怖症と同じよ、と説明して, 特に視線の位置が大事と説明する.
・歩いてもらいながら視線の位置を意識してもらう. 足下を見ないように指導する.
・これでしばらく生活してもらう.

というアプローチから始めています.
認知行動療法に近いのかもしれません.

めまい, ふらつき. 診たくなったんじゃないの〜?