ページ

2018年10月23日火曜日

機能性めまい症へのアプローチ

一般内科外来では, めまい, ふらつきは多い主訴の1つです.
そもそもめまい診療は難しく, 苦手をする医師も多いと思います. 
しっかりと, まともにアセスメントして診られている医師を探す方が難しいかもしれません.

診断が比較的容易なBPPVや前庭神経炎でしたらまだよいものの, それら+脳梗塞など器質的疾患が除外された場合, それでアセスメントが終わっていることも多いのでは?

機能性めまいを押さえておくと, さらにめまい診療の幅が広がります.
また機能性めまいは決して除外診断ではなく, 典型的な症例では問診と診察で診断がつきます. これもまた診療していて気持ちが良いところ.

機能性めまい: Functional dizzinessは器質的な異常によらない/それだけでは説明がつかないめまい症.

(Curr Opin Neurol 2017, 30:107 – 113 )

器質性, 心因性, 機能性めまい症はそれぞれがOverlapしている.
・器質性を契機に心因性, 機能性となる例も多く, 一概に分類ができない.
・機能性めまい症とはどのような病態かをしっかり押さえておくことが重要.

機能性めまい症の代表的なものにPPPDがある.
・PPPD(persistent postural-perceptual dizziness)それまで
 PPV(phobic postural vertigo), 
 CSD(Chronic subjective dizziness), 
 SMD(space-motion discomfort), 
 VV(visual vertigo)と呼ばれていた疾患群が含まれた概念.
PPVは姿勢により増強する(起立や歩行)
VVは視覚刺激により増強する
CSDは運動や視覚刺激により増強する, 慢性経過のめまい
SMD運動や視覚刺激で増強するめまい

PPPDの診断基準
(Curr Opin Neurol 2017, 30:107 – 113)
・慢性経過の非回転性のめまい, ふらつきで
・体位や体動で増悪, 日内変動もあり, 日常生活を障害する.
・前庭障害を伴う病態や転倒などに続いて生じることがある(不安)

このようにPPPDの基準やらPPVやらCDSやらVVやら。。。と書くと, 結局よくわからないめまいじゃないか, という感じになるので, ここからは個人的主観も入った解説をします.

まず大前提として, めまい症状/ふらつき症状は
前庭機能 視覚 深部感覚の3つのバランスが障害されると出現する症状である.
それ以外に心因性がある.

このことを押さえておきます.

その上で, PPPDで最も多いPPV(恐怖性姿勢めまい)を考えてみます,

PPVは器質的疾患を認めないものの, 起立時や歩行時にふらつき, めまいが増強し, 日常生活に支障をきたすような病態です. 
・転倒するかもしれない, ふらついて怖い, という不安症状が強く, それによりさらに症状が増悪する. という悪循環に陥っています.

このPPVの病態を説明すると,
PPVは 過度に深部感覚と前庭機能に依存している病態である = 視覚入力が低下している病態.
といっても, 視力低下があるわけではありません.

(Neurology 1996;46:1515-9)

・深部感覚と前庭機能に依存しているため, そこからの入力信号と視覚からの信号, 大脳での処理にミスマッチが生じ, ふらつきを自覚します.
・不安になればなるほど, さらに依存は増強し, 症状も増悪します.

PPVと健常人の下肢や体幹筋の緊張を評価した報告では, 以下のようになります.
(Curr Opin Neurol 2017, 30:107 – 113 )

怖いので, 過度に筋収縮が生じ, 姿勢がうまく保てていません.
Dual taskにすると, 気がまぎれて, 健常人と同等になるところが面白い.



さて, この病態, 健常人でも生じるのですが, どのような状況で生じるでしょうか?








答え: 屋根の上です.


高所で恐怖心が高まると, 通常平地では問題にならないような平らの場所でもふらつきやバランスが崩れるような感覚を生じます.
簡単に言うと, これが平地で生じる人がPPVです.

ひとつ興味深い報告を紹介します

高所恐怖症とControl群における視線の位置を評価
(Ann N Y Acad Sci. 2015 Apr;1343:37-48.)
・立位静止時と運動時の視線を評価.
upright stance: 立位時, locomotion: 移動時
高所の立位時を見てみますと, 視線の移動は高所恐怖症群で狭くなります.
 さらに高所恐怖症群の移動時の視線はほぼ中心〜下方のみで, 左右の視線の移動はありません. 健常人よりも視線は固定されており, 移動時は下方を気にしすぎる傾向があります.

これらは視覚でのバランス補正が低下していることにつながります.

この, PPV患者は高所恐怖症の人と同じ, 視線の移動が少なく, 主にに下を気にしすぎるという点は, PPV患者の認知行動療法や生活のアドバイスに非常に役立ちます.

また, 診察室で歩かせる時も, 視線の方向をチェックすると, PPV患者さんでは結構足下を気にしています. 

この考え方で他のタイプも見てみますと,

PPVは姿勢により増強する(起立や歩行)
 >>不安症状などにより, 深部感覚が亢進, 視覚入力が低下(高所恐怖症と同様の病態)
VVは視覚刺激により増強する
 >>深部感覚や前庭機能が低下しており, 視覚入力が亢進している状態
CSDは運動や視覚刺激により増強する, 慢性経過のめまい
 >>背景疾患は様々. 分類が難しい慢性経過の機能性めまい
SMD運動や視覚刺激で増強する発作性のめまい
 >>検査では深部感覚に依存している所見が得られる

という具合に解釈されます.

視覚刺激の例
(Pract Neurol. 2018 Feb;18(1):5-13.)

これらPPPDの病態をまとめると以下のような感じ.
(Pract Neurol. 2018 Feb;18(1):5-13. )
視覚, 前庭機能, 感覚の3つでバランスは構成される
・何かしらの疾患でどれか障害されるとめまいを生じる.
 ・改善すれば再構築されるが,それに失敗するとふらつきが持続する.
 ・不安症状や恐怖心があると尚更失敗しやすい.
・めまいやふらつき症状が持続するとそれによる筋緊張, 恐怖, 不安症状などによりさらにバランスが障害され, 悪循環に陥る.


PPPDの治療
(Curr Treat Options Neurol (2018) 20:50
・PPPDは誘因や背景疾患(不安や恐怖, 機能障害)が多くその患者毎に治療や対応を考慮する必要がある.
・前庭機能が低下している場合はリハビリテーション不安や認知, 恐怖症状が強い場合は認知行動療法
・不安や恐怖症状には抗うつ薬が効果的かもしれない.

個人的によく行うPPVへの介入は, 
・まず上記の3要素の話と不安や恐怖の話をする
・その上で高所恐怖症と同じよ、と説明して, 特に視線の位置が大事と説明する.
・歩いてもらいながら視線の位置を意識してもらう. 足下を見ないように指導する.
・これでしばらく生活してもらう.

というアプローチから始めています.
認知行動療法に近いのかもしれません.

めまい, ふらつき. 診たくなったんじゃないの〜?