ページ

2018年4月11日水曜日

自己免疫性膵炎+糖尿病

長年シェーグレン症候群として対応, 治療されていた患者.
同時期から糖尿病もあり. 最近コントロールも不良となってきている.

腹部CTでは, 膵臓のびまん性腫大もあり。。。これって実はIgG4関連疾患による自己免疫性疾患(AIP)+ミクリッツ病では? という疑いのもと, 再度精査したら結局AIP+ミクリッツ病+糖尿病であったというオチ. という架空の症例.

さて, この患者でステロイド投与はどうなんでしょうか?
DMに対して悪影響なったりしないだろうか?

-------------------------------
*ここでのAIPはtype1 AIP(IgG4関連)としています

AIPでは膵外分泌腺障害, 内分泌障害も高頻度で合併.
・膵外分泌腺障害は83-88%, 糖尿病は42-78%で合併する.

国内でAIP+DMと診断された102例の解析では,
(Journal of Digestive Diseases 201112; 210–216)
 AIP診断前にDMを診断されたのが35(A)
 AIPDMがほぼ同時に診断されたのが58(B)
 AIP診断後にDMを診断されたのが9(ステロイド開始後)(C).

DMの治療内容: 半数でインスリンを必要としている 

AIP+DM患者に対するステロイド治療はどうするか?

AIPの治療はステロイド投与が基本. 
・PSL0.6mg/kg/dを2-4wk継続し, その後減量 大体3-6ヶ月で終了もしくは<10mg/dで維持.
・AIPでは開始後2週間以内には反応を示す.

ステロイド無しでも24-75%は自然寛解を示す.
・自然寛解する例では, 症状が軽く, IgG4が比較的低値.
軽症ならば経過観察するのも手.
ステロイド投与の方が寛解までの期間も短い. 寛解率も高い(98% vs 74%)
(Curr Opin Rheumatol 2011;23:67-71)

AIP患者 607例中, 97例がステロイド投与せずに経過観察となった.
このうち54/97(55.7%)で一過性の寛解あり.
(J Hepatobiliary Pancreat Sci (2018) 25:223–230 )
・経過観察された群は全体的に軽症例が多い
経過観察群において再燃のリスクとなる因子は新規発症DMと他臓器障害の合併

ということで今回の症例では経過観察で改善するとも思えず, やはり免疫抑制は考慮する必要がありそう

AIP+DM患者におけるステロイド治療でDMはどうなるか?

AIP+DM患者 30(同時期に出現が17, AIPDMが増悪したのが13)において, ステロイド治療を開始した報告:
(Gut and Liver, Vol. 6, No. 4, October 2012, pp. 501-504 )
投与開始3ヶ月後の評価では半数以上でDM改善を認めるが, 1割弱で増悪する可能性もある.

日本国内におけるCohort:
(Pancreas 2006;32:244-248)
・AIP患者167例中, 66.5%DMを合併.
・AIPに関連したDMと判断された93例中, AIPと同時期に出現したのが52%, DMが先行した症例が33%.

AIP+DM症例におけるステロイド開始後のDMコントロールの変化

・ステロイド開始後にDMが改善傾向であったのは3-5割程度
 増悪例が1-2割で認められる.
インスリン使用例も改善する可能性がある.

AIPに対してステロイドを開始され, 12ヶ月以上フォローした47例を評価した報告
(Pancreas 2012;41: 691-695)
・このうち33例がAIP診断時にDMを合併(DMが先行したのが8, 同時期25)
・PSL30-40mg/d2-4wk継続し, その後2wk毎に5mg減量し, 10mg/d
 以後は2.5-7.5mg/dで維持
DMは専門医によりフォロー
・耐糖能の変化の定義はTable 1
DMの経過
・ステロイド開始後DM, 耐糖能障害は一部で改善
・特にAIPと同時期にDMを診断された症例では改善が見込める.
 ただし増悪する可能性もあり.

・HOMA-β, HOMA-Rの変化は16例で評価され, 改善が見込める例が多い

------------------------------------
自己免疫性膵炎に合併するDMでは, ステロイド治療により耐糖能障害の改善が得られる可能性がある. 
半数程度は改善が見込めるが, 一方で増悪する可能性もあるため注意.

またDMを合併するようなAIPでは自然寛解するリスクも低く, PSLは考慮すべきだろう