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2018年4月21日土曜日

本の感想: 「これって自己炎症性疾患?」と思ったら

献本御礼

「これって自己炎症性疾患?」と思ったら

国立国際医療研究センター病院で不定愁訴外来や不明熱外来をされておられた國松淳和先生(現 南多摩病院)の著書

自己炎症性疾患外来もやっておられ総合診療医としての特殊性その長所の伸ばし方生かし方は遠く京都にいながら注目しておりました.

最近御本人とお会いし無事にFBでも友達となることに成功しました♪.

そんな國松先生が書いた自己炎症性疾患の本!
これは注目していました。
献本いただかなくても買うつもりでしたのでありがたかったです.

 個人的にはFMF, CRO/CRMO, SLEFMFを診療した経験があります最近Schnitzler症候群疑いを詰めています自己炎症かと疑いつつフォローしている患者さんもおり一般総合診療/内科医としてはやはり重要な分野と思っています.

この本は類書がまずありません!とてもよくまとまっておりまさに
「自己炎症性疾患ってなんだろうか.
「今まで一般内科外来やちょっと膠原病をかじってきたものの自己炎症性疾患にも注目しないといけない」というビギナーからある程度経験がある医師にはうってつけな本と思います.
(
そもそも希少疾患ですから、経験が豊富!と胸はって言える医師はそんないないはずです)

 ただの疾患解説本ではなく実臨床に則してどのような病歴やプレゼンテーションで想起すべきか疑うかを明確に記載してくれており読みながら「あの症例って・・・実はそうだったのかも・・・」と反省する医師もいるのではないでしょうか(実は僕も・・・読みながらそんな感情がいくつかありました・・・1-2例程度だったのがまだ救いでしょうか)

 個人的には反復する「虫垂炎」「胆嚢炎」様の疾患で疑うといった解説やコルヒチンの使い方副作用への対応のお話そして今現在自分の臨床でHOTな蕁麻疹様血管炎と好中球性皮膚症のお話がとても興奮しました.

 一般内科なんでも内科総合診療科に属し初診外来や救急外来入院診療をやるようなお仕事ならば一度は目を通し「自己炎症性疾患」というカテゴリー疾患概念ゲシュタルトをある程度構築しておくべきと思いますその効率の良い方法がこの本を読むことでしょう.

 うちの科の後輩には薦めようと思います.

2018年4月18日水曜日

アルコール摂取量と予後

健康を障害する飲酒量は
 男性で4U/日, 週計算では21U/wk,
 女性で2U/日, 週計算では14U/wkと言われている.

ちなみに1U = 8gであり、ビール1Lあたりアルコールは40g = 5U程度となる
21Uは168g, 14Uは112g

Lancetより, アルコール摂取量と予後の関係を大規模で評価した報告
(Lancet 2018; 391: 1513–23)

83Prospective study, 599912例のCurrent drinkerにおいて飲酒量と死亡リスク, 心血管イベントリスクを評価した報告
・死亡リスクは>100g/wk(12.5U), 心血管リスクは>200g/wk(25U)で上昇する.

各イベント別のリスク
・Strokeリスクは飲酒量に比例して上昇
・MIリスクは飲酒により低下するが, 心不全リスクは上昇
・心血管死亡リスクは上昇する.

100g/wkをカットオフとした時の各イベントリスク

年齢別, 飲酒量別の寿命短縮期間(<100g/wkとの比較)
・例えば40歳男性で, >350g/wkの飲酒している場合, 4-5年早く死ぬ.
 200-350gでは1-2, 100-200gでは半年程度.

2018年4月16日月曜日

一酸化炭素中毒の急性期MRI所見と予後

(JAMA Neurol. 2018;75(4):436-443.)
韓国におけるCohrot study.
急性のCO中毒で受診し, 頭部MRIを評価された433例を解析.
さらにフォローできなかった症例やCPA症例などは除外し387例において急性期のMRI所見と神経後遺症リスクを比較.
・CO中毒の対応は100%O2投与が基本.
 意識障害, 神経症状, 心血管障害, 重症アシドーシス, COHb≥25%では高気圧酸素療法を行なった.
・MRI1.5Tを使用し, DWIで評価.

患者群のデータ

頭部MRI所見
・26.9%DWIの高信号あり.
多いのは淡蒼球

頭部画像の例

晩期神経障害のリスク

・COの暴露期間とMRI異常所見が有意なリスク因子となる
 特にMRI所見は強いリスク因子
・来院時意識障害もリスクを上昇させる可能性

MRI異常所見は,
感度 75.2%[66.9-83.7], 特異度 90.2%[86.8-93.7]晩期神経障害を示唆する所見

2018年4月14日土曜日

Schnitzler Syndrome

Schnitzler syndrome

Schnitzler syndromeは蕁麻疹様皮疹, M蛋白血症, 好中球由来の炎症所見で定義される疾患
・40歳以上の慢性蕁麻疹+M蛋白不明熱で疑う疾患
(Allergy 2017; 72: 177–182. )

SchSの症状/所見頻度
・慢性経過の蕁麻疹様皮疹, 炎症反応, 発熱, M蛋白血症,
 骨痛や関節痛, リンパ節腫大など
・M蛋白血症はIgMκが8-9割を占める

M蛋白血症は診断時には認めないこともある診断後数年経過して生じることもある.
・10年以内に血液腫瘍を発症するリスクは15%.
 その大半がWaldenstrom macroglobulinemia.
 どの患者群でリスクが高いかは不明
(Immunol Allergy Clin North Am. 2014 Feb;34(1):141-7. )

診断基準:

各クライテリアの感度, 特異度
・慢性的な蕁麻疹を呈する類似した病態である, 42例のSchnitzler syndrome, 12例のAOSD, 7例のCryopyrin-associated periodic disease, 9例のWaldenstrom disease, 10例の慢性蕁麻疹患者において評価.
(Allergy 2017; 72: 177–182.)

SchSの鑑別疾患

SchSの治療
・他の自己炎症性疾患と同様抗IL-1β抗体を使用する
 他はステロイドやコルヒチンが一部で効果的

SchS 281例のLiterature review
(Clinical and Translational Allergy 2014, 4:41 )
・~20148月までに発表された症例報告をReivew
発症年齢は51蕁麻疹は発熱の3[1-14]前から生じている.
症状は慢性蕁麻疹間欠性発熱関節痛(関節炎は少ない)
 骨痛体重減少血管浮腫など

血液検査
・M蛋白はIgMκが多い.

病理所見
・皮膚への好中球浸潤を認める
 血管炎所見もあるがOverestimationの可能性が示唆
SchSは好中球性蕁麻疹が主で
 血管炎は認めないか, 主な所見ではないのが基本.
免疫染色では3割で陽性. IgM, C3が多い
ちなみに, 同様の皮膚所見を呈する疾患(Neutrophilic urticarial dermatosis)は
 AOSD, Lupus, Schnitzler syn. Cryopyrin-associated periodic syndromeがある
( J Am Acad Dermatol 2012;67:1289-95.) 

骨所見では,
・骨過形成が認められる.
 シンチでは取り込みの増加

関連する血液腫瘍は
WM, Lymphoma, MMなど
---------------------------

WMでも発熱やリンパ節腫大, 肝脾腫, 関節症状, 骨病変などは生じる.
ではWMとSchSはどう違うのか?
そもそも同じ病気?
WMは血液腫瘍でSchSは自己炎症性疾患で違う病気なのか?

この辺は調べても明確に記載している論文はない
過去にはWMにSweet症候群(好中球性皮膚症)と40度の発熱を合併した症例報告もあり, それではSchSではなくWMとして扱われていた。

WMとSchSの好発年齢も50-60歳台と近い.

WMの皮膚症状はどのようなものがあるのか?

WMの皮膚症状は稀で5%程度
・腫瘍浸潤によるものと,
 過粘稠に伴う皮膚所見
 クリオグロブリン血症による皮膚所見が主.
他にM蛋白に特異的な免疫による水疱形成や丘疹
Schnitzler Syndrome(好中球性蕁麻疹)
 播種性黄色腫
 紫斑
 蕁麻疹
 Sweet症候群(好中球性皮膚症)が報告されている
(Ann Dermatol 30(1) 8790, 2018)

WMで皮膚症状を呈することはそもそも稀であり,
生じる場合はクリオや過粘稠、腫瘍浸潤、免疫反応がやはり多いのだろう
それが好中球の浸潤を伴う蕁麻疹を認め、さらに臓器傷害を伴うものをSchSと認識したらよいような感じ. 

まあそんな認識でいることにしよう



蕁麻疹様血管炎

蕁麻疹様血管炎 Urticarial Vasculitis(UV)

24h以上続くじんま疹と病理でLeukocytoclastic vasculitisを認める病態.
Cutaneous vasculitis(CV)1.

UV24時間以上持続する膨疹に加えて発熱や関節痛, 皮膚色素沈着, 腹痛などを呈する場合に疑う.
・組織所見ではLeukocytoclastic vasculitis所見が認められる
・病変は数カ月持続するが, 数年持続する例は稀
・慢性蕁麻疹の2-20%で認められる報告がある.
 また病理組織で定義すると慢性蕁麻疹の5%で認められる.

補体低下を伴うHypocomplementemic UV(HUV: 53-82%)補体正常のNormocomplementemic UV(NUV: 18-47%)がある.
・NUVでは全身症状を呈することは少ないが
 HUVでは肺や腎臓, 眼など全身症状を呈しやすい. さらいHUVでは発熱や関節痛, 倦怠感, 結膜炎, Episcleritis, 腎炎, 弁膜症なども生じる
HUVの一部では抗C1q抗体の関連がある. C1q抗体はSLEでも認められ, SLEで抗C1q抗体が陽性となる場合, 85%で糸球体腎炎を伴う.
・SLE患者の5-10%UVを伴い, SLE+C1q抗体陽性の28-47%UVを合併
 SLE, C1q抗体によるUVHUVS(syndrome)と呼ばれ

UVは特発性が多いが, HBV, HCV感染や悪性腫瘍, 薬剤, 寒冷, 運動により誘発されるタイプもあり
・薬剤はUV10%で関連あり: Infliximab, Procainamide, 抗不安薬, MTX, ST合剤, ジルチアゼム, シメチジン, Enalaprilin, NSAIDで報告あり
UV患者では背景疾患の精査を行うべき: ウイルス感染, M蛋白血症, 血清病, SLE, Sjogren症候群, クリオグロブリン血症, PV, ET, SSc, リンパ腫, 白血病, 甲状腺疾患.
 近年IgG4関連疾患によるUVの報告もあり

M蛋白血症に伴うUVSchnitzler syndrome(SchS)とのオーバーラップがある
・SchSは自己炎症性疾患の1つで, MMWMへ進行するリスクがある
 (SchSは血管炎ではなく, 血管周囲, 皮膚間質への好中球浸潤を認め, UVとは区別される. 論文によりこの辺は異なる)
(Medicine 2014;93: 53-60)(http://dx.doi.org/10.5772/68109)(Intern Med 50: 1109-1112, 2011)

UVの臨床症状/所見
・24時間以上持続する蕁麻疹(64%)改善後に紫斑や色素沈着を生じる(35%)
 皮疹は無症候性~掻痒感を伴うもの, 有痛性, 圧痛, 焼けるような痛み(~33%)と様々.
 皮疹は主に膨疹だが, 稀にLivedo reticularis, 水泡も生じる
・血管浮腫は蕁麻疹と共に出現することもある(~42%)
 HUV13%, NUV23%で血管浮腫を伴う報告もあり

UVにおける全身症状
・全身症状はHUVで特に多い.
 NUVでは45%, HUVでは65%で全身症状を伴う

症状の頻度
(Immunol Allergy Clin North Am. 2014 Feb;34(1):141-7.)

HUVSとSLEの症状の比較
(J Clin Aesthet Dermatol. 2012;5(1):36–46.) 

(Curr Rheumatol Rep. 2009 Dec;11(6):410-5)

UVの組織所見
・皮膚組織所見が診断のGold standardとなる.
皮膚毛細血管のLeukocytoclastic vasculitis所見が重要
・炎症は血管壁, 血管周囲に認められる
 浸潤炎症細胞は主に好中球で, EoLyは少ない
・免疫染色では血管壁, 血管周囲へのIg, 補体, Fibrinogenの沈着を58-79%で認められる.
 基底膜への沈着はHUVで多い(70-96%). NUVでは少ない(1-18%)

(Immunol Allergy Clin North Am. 2014 Feb;34(1):141-7. )


UVの治療
治療選択はステロイド, ヒドロキシクロロキン免疫抑制療法, RTXが多い.
 コルヒチンも一部で選択されている
・ケースレビューにおける各薬剤の反応性
(Arthritis and Rheumatology 2015;67:527-534)

UVのケースレビュー

766例のCV(皮膚血管炎)の内, UV21(2.7%)であった.
男性例9, 女性例12, 平均年齢35y[1-78]. 8/2120歳未満の発症であった.
(Medicine 2014;93: 53-60)
・発症のトリガーと考えられるものは,上気道感染症と薬剤(ペニシリン)が最多で4.
 他にはHIV(1), 悪性腫瘍(1)が挙げられる.
皮疹以外の症状は, Palpable purpura(7), 関節痛, 関節炎(13), 腹痛(2), 腎症(2), 末梢神経障害(1).
補体低下は2(C4C1q)

治療はステロイドを含めた免疫抑制剤が主(12),
・他は抗ヒスタミン(6), クロロキン(4), コルヒチン(2), NSAID(3), アザチオプリン(1).
再燃は4例で認められた.

インド南部における前向き報告:
(JEADV 2008, 22, 789–794)
・UV患者 75例中NUV 54, HUVS 14
・全身症状はHUVSでより多い
検査, 組織所見


いくつかのケースレビューのまとめ

(ASIAN PACIFIC JOURNAL OF ALLERGY AND IMMUNOLOGY (2009) 27: 95-102 )