参考: IDSAの院内髄膜炎, 脳室炎ガイドライン2017
Postoperative CNS infection(PCNSI)は脳外科術後の髄膜炎, 硬膜下膿瘍, 脳膿瘍であり, <1%~7%で認められる合併症. (Clinical Infectious Diseases 2007;45:55–9 )
・髄膜炎は無菌性が多く, 60-75%が無菌性. 無菌性の機序は不明確
(Clinical Infectious Diseases 2007;44:1555–9 )
・脳外科術後で熱原不明の発熱を認める場合, 頭痛や髄膜刺激兆候を認める場合は必ず疑うべき.
・原因菌は主に黄色ブドウ球菌, Propionibacterium acnes, Pseudomonas aeruginosa, 複数菌, 培養陰性など.
・複数菌の頻度は全体の10%前後.
・170例の脳外科術後感染症症例のうち, 18例が複数菌の感染であった. (Biomed J 2013;36:295-303)
原因菌の頻度(Biomed J 2013;36:295-303)
・多いのは黄色ブドウ球菌, CNS, 緑膿菌, 大腸菌, Klebsiella, Acinetobacter
・抗菌薬はMRSAや緑膿菌カバーを考慮する必要がある
術後細菌性髄膜炎の評価
脳外科術後30日以内の発熱や説明困難な神経障害, 症状を呈した患者で腰椎穿刺を施行した患者を前向きに評価.
(Clinical Neurology and Neurosurgery 115 (2013) 1820–1825 )
・抗菌薬使用中の患者は除外. 周術期の予防的抗菌薬は許容.
・術後細菌性髄膜炎(PNBM)とCSF所見を評価した. PNBMの定義は以下
proven PNBM: CSF培養陽性, グラム染色陽性 + CSF-WBC≥100/mL and/or CSFグルコース<40mg/dL, CSF/血清グルコース <0.4
presumed PNBM: CSF採取前24時間以上前に抗菌薬投与を受けている場合で, CSF-WBC≥250/mL + CSF/血清グルコース <0.5を満たす
母集団の比較
・LPは術後1週間前後で行われている
CSF所見の比較
・CSF-WBC, Glu, 蛋白すべて診断には有用であるが, 最も差が明確にでるのはLac.
脳外科術後で髄膜炎を疑う患者178例のCSF所見を評価
(Clinical Biochemistry 48 (2015) 50–54 )
・術後48-72時間以内に頭痛や項部硬直, 発熱を呈した患者を対象.
このうち50例が細菌性髄膜炎と診断された.
・診断基準: 以下の4つで定義:
1) 髄膜刺激症状, 意識障害, 頭痛, 発熱 2) CSFのグラム染色, 培養陽性
3) CSF-WBC ≥1000/µL, 多核球 ≥75% 4) CSF glucose<2.5mmol/L, CSF/血清 <0.4
CSF所見
・両者の比較では, CSF-WBCや蛋白は非PNBMでも高値となり得る.
Lacは有意にPNBMで高値となり, 両者の判別に有用.
・CSFプロカルシトニンも有用であるが, Lacの方がさらに有用といえる
各CSFパラメータの関連
術後細菌性髄膜炎の評価におけるCSF乳酸値の有用性を評価したMeta
(BMC Infectious Diseases (2016) 16:483 )
・5 trialsのMetaでは, CSF中乳酸値上昇は
感度 92%[85-96], 特異度 88%[84-92], LR+ 7.7[3.9-15.1], LR- 0.11[0.06-0.19]
OR 83.1[36.8-187.5]で細菌性髄膜炎を示唆する.
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脳外科術後の発熱や炎症反応高値で, 髄膜刺激兆候を呈する場合や, 他にFocusがはっきりしない場合は髄膜炎な中枢感染症を疑い, 可能ならば抗菌薬開始前にCSFの評価を行う.
髄膜炎としても無菌性の可能性はあるため, グラム染色陰性ならばEmpiricalに抗菌薬を開始し, 培養陰性を確認して終了を考慮する.
その判断にCSF乳酸値は抗菌薬の継続の判断に有用な可能性があり, 可能ならば乳酸値の評価も行うとよいかもしれない.
それにしても, 細菌性髄膜炎の定義も報告によりマチマチ.
術後の髄液細胞数増加、蛋白上昇の影響も考えねばならない点から, 明確な判断指標がつくれないのが悩ましい