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2017年2月28日火曜日

日本人における10年間心血管イベントリスク

(Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Mar;5(3):196-213.)より, 182カ国における動脈硬化リスク因子の有無と, 10年間心血管イベントリスクを評価した報告
そのなかから日本国内のデータを抜粋.

評価はLaboratory based(性別, 年齢, 喫煙, 血圧 + 糖尿病, コレステロール値)から評価したものと, Office based(性別, 年齢, 喫煙, 血圧 + BMI)で評価した2つの方法で行った.

Laboratory basedでの評価

Office basedでの評価

外来にラミネートして置いておくべきか...

尿路結石に対するタムスロシン

タムスロシン(ハルナール®)はα1A, α1D阻害作用を示すα阻害薬.
下部尿管にはα1A, α1D受容体が存在するため,
下部尿管結石症患者において, ハルナールは排石率を改善させる可能性がある.

下部尿管結石症に対するタムスロシン, ニフェジピンの効果を比較した2007年のMeta
(Ann Emerg Med. 2007;50:552-63 (α-Antagonist, CCBのMeta))
Tamsulosin; ハルナール®
 結石Φ >5mm[3-18]の下部尿管結石に対する排石率改善効果は
 RR 1.59[1.44-1.75], NNT 3.3[2.1-4.5]
 Controlに比べて2-6日の排石短縮期間
 平均 <14日で排石を認めている(2.7-14.2D)
 副作用は4%, 脱落したのは0.2%
 副作用; ふらつき, 頭痛, 嘔気, 嘔吐, 無力症, 一過性低血圧

・Nifedipine; アダラート®
 結石Φ >5mm, 部位は下部尿管が最多, 一部 中部, 上部尿管の結石に対する肺席立改善効果は
 RR 1.50[1.34-1.68], NNT 3.9[3.2-4.6]
 平均排石期間は < 28日(5-20D)
 副作用は15.2%, 脱落したのは2.9%
 副作用; 嘔気, 嘔吐, 無力症, 胸やけ, 頭痛, 嗜眠, 多幸感, 低血圧

と, 副作用の観点からもタムスロシンは良い排石促進剤と言える.
ただし, 保険適用はない.

ところが, その後のRCTでは効果はあまりないという結論になっている

下部尿管結石77名に対するTamsulosinのRCT
(Am Emerg Med 2009;54:432-9)
結石のSizeは3.6mm[3.4-3.9],
・Tamsulosin 10日間 vs Placeboで比較 
・14日目の時点で結石排泄できていたのは77.1% vs 64.9% (AD 12%[-8.4%~32.8])と, 有意差無し
・他, 落石までの期間, 疼痛期間も両者で有意差無し.

2-7mmの下部尿路結石でERを受診した129名のDB−RCT, multicenter.
(Arch Intern Med 2010;170:2021-7)
・Tamsulosin 0.4mg/d vs Placeboに割り付け, 42日間 or 結石が排泄されるまでフォロー.
・結石径は平均2.9-3.2mm
・42日目における自然排石率は, 77.0% vs 70.5% (p=0.41)と有意差無し.
・結石の大きさ別, 男女別, 投与開始〜の期間別で比較しても有意差無し.

尿管結石症 1167例を対象としたDB−RCT.
(Lancet. 2015 Jul 25;386(9991):341-9.)
・結石はCTで確認. 径≤10mmの尿管結石
 径≤5mmが74-75%, 結石の部位は上部 23-25%, 中部 10-11%, 下部 64-66%
・Tamsulosin 400µg/d vs Nifedipine 30mg/d vs Placeboに割つけ ~4wk継続し, 排石率を比較.
アウトカム
Tamsulosin, Nifedipine双方とも排石率の改善効果は認めず
石の大きさ, 部位別の評価でも有意差無し
 タムスロシンでは結石径>5mmの群で有意差はないが, 結石率が良好な可能性があるか?
 また遠位尿管の結石で排石率が良好な可能性(有意差なし).

403例の遠位尿管結石(≤10mm)患者を対象としたDB-RCT
[Ann Emerg Med. 2016;67:86-95.] 
・タムスロシン 0.4mg vs Placeboに割り付け, 4wk継続し, 4wk後の腹部CTにおける排石率を比較
・結石の大きさは, タムスロシン群で平均 4.0mm, Placebo群で3.7mm

アウトカム:
・4wk後の排石率は, 87% vs 81.9%, AD 5.0%[-3.0~13.0]と有意差なし.
・ただし, 結石の大きさ 5-10mm群で解析すると, 有意にタムスロシンで排石率は良好(83.3% vs 61.0%, 22.4%[3.1-41.6])

ESWL(extracorporeal shock wave lithotripsy)後の腎, 尿管結石に対するα阻害薬の効果を評価した7 trialsのメタアナリシス (BJU Int. 2010 Jul;106(2):256-61.)
・タムスロシンは有意に結石排石率の改善効果(ARD 16%[5-27])を示す。
・0.4mg使用群の比較ではARD 19%[10-29]
 有意差はないものの、排石までの時間も短縮傾向がある(MD -8.24[-19.54~3.07])
・Funnel plotではバイアスはありそう
 数%~10%程度の差かもしれない

これらの結果から, 個人的な印象を述べますと
 様々なRCTでは効果がないと言われていますが, ≥5mmの結石ならばある程度の効果は見込める可能性がある.

・結石径<5mmの尿管結石ではタムスロシンの効果はプラセボと変わらない.
・結石径 5-10mmで、且つ下部尿管の結石ならば試す価値はある
 (ただし薬剤投与による副作用には注意.)
・投与するならば1ヶ月程度を目処とする.

という感じでしょうか.

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2017年時点でのMetaが発表されましたので追記
(Ann Emerg Med. 2017 Mar;69(3):353-361.e3.)

10mm未満の結石では, タムスロシンは有意に排石率改善効果を示す.
・特に5-10mmの大きな結石ではRD 22%[12-33], NNT 5と効果は良好
・一方で<5mmの小結石ではRD -0.3%[-4%~3%]と有意差なし.
・使用する場合は0.4mg/dを21-28日間

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大体上記の印象と同じでちょっと安心

ネフローゼにおける難治性浮腫ではアセタゾラミドを被せると良いかも

(Am J Kidney Dis. 2017 Mar;69(3):420-427.)
ネフローゼにおいて, ループ利尿薬を高用量使用しても改善しない浮腫を難治性浮腫と呼ぶ.
・ループ利尿薬が主に作用する上行脚よりも遠位に位置する尿細管でのNa, H2O再吸収の亢進が主な原因.
・したがって, 難治性浮腫の場合はループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬の併用にて対応するのが一般的.

遠位尿細管における再吸収にはNCC(Na/Cl cotransporter)とCl/HCO3 excahager pendrinが関連しており, pendrinを抑制するアセタゾラミドとNCCを阻害するサイアザイドの併用は良好な利尿作用を示すとの動物実験結果がある.

20例の難治性浮腫を対象としたDB-RCT
・患者はネフローゼ症候群で, フロセミド 80mgを使用しても改善が乏しい浮腫(+), 且つCCr >60mL/minを満たす患者群.
・K<3.5mEq/L, 妊婦, 腎移植, 活動性感染症, 活動性悪性腫瘍, 動脈pH<7.35, 2ヶ月以内のNSAID使用歴, 他の浮腫の原因がある患者は除外.

上記患者群を, アセタゾラミド250mg + ヒドロクロロサイアザイド 50mg群 vs. フロセミド 40mg + ヒドロクロロサイアザイド 50mg群に割付け, 1週間継続(phase 1).

その後両群ともフロセミド40mg/dに変更し, 2週間継続(phase 2)

経過中の尿量, 体重変化を評価した.

母集団データ

アウトカム:

・アセタゾラミド+HCTZ併用群では最初の1wkにおける体重低下が有意に良好.
・その後1wk〜3wkにおける体重低下尿量の増加も良好となる.

各パラメータの経過の比較

体重変化
アセタゾラミド+HCTZ併用のみではなく, その後フロセミドに戻した際の体重低下も良好となる.

尿量, Na排泄量
・尿量やNa排泄量も増加

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難治性浮腫の場合, フロセミド投与の合間にアセタゾラミド+サイアザイド系を1wk程度噛ませることで、尿量、Na排泄が改善する可能性がある.
ネフローゼ以外でも使えるかも

2017年2月27日月曜日

カリニ肺炎予防のST合剤は半量でもよいかも

日本国内からの非盲検ランダム化比較試験

膠原病でPSL ≥0.6mg/kg/dを開始する患者群183例を対象とした非盲検RCT.
(Arthritis Research & Therapy (2017) 19:7)
・20歳以上で新規発症, 再燃したリウマチ性疾患で, PSL≥0.6mg/kg/dの投与を必要とする患者で, PJP予防投与をされたことがない患者群を対象
・ST合剤の禁忌, 生物学的製剤使用, PJP既往あり, コントロール不良な合併症, 体重40kg未満, 妊婦, 授乳婦, 腎不全患者は除外.

上記患者群を
・ST合剤をSingle-strength(SS: SMX/TMP 400/80)/日 投与群,
・Half-strength(HS: S/T 200/40)/日 投与群
・Escalation群(ES: 40/8より開始, 200/40まで10%/wkで増量) に割付け24wk時点でのPJP発症リスクを比較した

母集団

アウトカム: 24wk時点でPJPの発症例は無し.
予防投与中断率は有意にSS群で他のHS, ES群よりも高い結果.

投与量減量が必要な副作用もHS, ES群は有意に低い

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・生物学的製剤の使用がないステロイド投与中の患者では、ST合剤は半量でも良い可能性
・副作用も少なく, 中断リスクも低い.
 特にSLE患者ではST合剤による副作用リスクが高いと言われており, そのような患者群では半量で使用する方が利点が多いかもしれない.

2017年2月24日金曜日

膝窩動脈塞栓症, 膝窩動脈絞扼症候群

中年男性の突如発症の左下肢の痺れ. 痺れ自体は軽度で, L4領域に一致.
しかも発症1時間程度で自然に改善した, という経過.

その後 徐々に間欠跛行が出現し, 約1週間後にABIの低下を指摘. 膝窩動脈塞栓が認められた.

急性の下肢痛, 下肢の痺れでは神経を疑う前に血流を疑うというのは重要なポイントだが, このように発症初期は軽度で, 徐々に増悪するようなパターンもある.

膝窩動脈塞栓症では急性経過と緩徐経過の2パターンある
(Ann Surg. 1991 Jul;214(1):50-5.)
・急性経過は7日間以内で出現し, 典型的な動脈閉塞による虚血症状を呈するパターン.
・緩徐経過は発症は突如発症の安静時痛や間欠跛行となるが, 症状は軽度であり, 7日以上かけて増悪するパターンと定義.

60例の膝窩動脈塞栓症患者の解析では, 急性発症が41例(68%), 緩徐発症が19例(32%)であった.
・緩徐発症群における症状の経過は中央値30日間[7-120]

両群における症状頻度.

・急性経過群では安静痛や急性虚血症状(感覚, 運動障害, 筋障害)を示す.
・緩徐経過群では急性虚血症状は伴わず, 間欠跛行や安静時痛, 足先の壊死を呈する.
・緩徐経過群におけるABIは 0.32
 間欠跛行(+)軍では0.44, 安静時痛では0.27, 壊死群では0.13
・急性経過群ではABIを評価された症例はほぼなし.

塞栓の原因

・医原性を除外すると, 緩徐経過19例, 急性経過24例と両者の頻度はほぼ同じくらい
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膝窩動脈塞栓症では, 急性経過の虚血以外に, 半分程度(医原性を除く)が緩徐進行経過となる. 
やはり以前 雑誌 総合診療の「しびれるんです」という特集で書いた通り, 「突如発症, 急性発症の痺れでは神経の前に血流をチェック」というのは鉄則だと思う.

また膝窩動脈に関連して押さえておきたいのが, 「膝窩動脈絞扼症候群」

膝窩動脈絞扼症候群: Popliteal Artery Entrapment Syndrome
(MILITARY MEDICINE, 179, 1:e124, 2014)(Vascular. 2012 Dec;20(6):314-7.)
・若年の, 特にアスリートに認められる下肢虚血, 機能障害の原因
・膝窩において, 動脈と周囲筋組織が干渉し, 下肢血流が低下. 間欠跛行や下肢の冷感, 運動時の下肢痛が出現する.
・膝窩の解剖により, いくつかのタイプに分類される

頭の片隅に置いておくとよいかもしれません.

2017年2月23日木曜日

ペースメーカー留置患者に対するMRI検査

(N Engl J Med 2017;376:755-64.)
MagnaSafe Registry: FDAにてMRI非対応とされている, 心臓ペースメーカーやICD留置中の患者で, 胸部以外のMRIを評価する患者を前向きにフォローした報告.
・MRIは胸部以外の部位で, 1.5Tの強度で評価する
・デバイスはMRIの前後で評価され, MRI前に再プログラムする.
・アウトカムは死亡, リード不全, 誘発性不整脈, キャプチャー不全, デバイスのリセットリスク, デバイス設定の変更リスクを評価.
・除外項目: 評価困難な遺棄リード, 不全リードがある場合, PM, ICD以外の留置デバイスがある場合, 胸部以外に埋め込みされている場合, バッテリーの寿命が残りわずかの場合, ICDによりペーシング管理している患者

MRI施行前後の評価, 設定

・MRI施行前の評価: PM
 無症候で内因性HR ≥40bpmの場合, デバイスはno-pacing mode(ODO, OVO)に
 症候性 or 内因性HR <40bpmの場合, pacing-dependentと判断し, asynchronous pacing mode(DOO,VOO)に再設定する.
・MRI施行前の評価: ICD
 non-pacing-dependentの患者では, 徐脈時, 頻脈時治療機能をOffとする.
 pacing-dependentの患者は除外(この場合, 徐脈時, 頻脈時治療機能を独立してOffとできない機種があるため)
・MRI評価後は元の設定に戻す.

母集団

アウトカム

・MRIに関連する死亡例は無し.
・再挿入が必要なジェネレーター不全はICD患者で1例のみ.
・リード不全やキャプチャー不全はない
・上室性不整脈は6例のみ. 心室性不整脈は無し.
・設定リセットはPM群で6例. MRIは比較的安全に評価可能な可能性がある

デバイス設定, インピーダンス, 閾値の変化


インピーダンスの変化やペーシング閾値の変動は少なからず認められる
・複数回MRIを施行した患者と単回のみの患者でも設定やデバイスの変化, アウトカムに差はない

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MRI非対応のPM, ICDでも検査前後のデバイス評価, 再設定にて比較的安全に胸部以外の1.5T MRIを施行可能な可能性がある.

2017年2月21日火曜日

Af患者で外傷性脳挫傷を発症した場合の抗凝固療法

Afによる血栓症で脳梗塞となった患者さん.
脳梗塞は左右MCA領域に Shower emboliのような感じで広範囲でもない。

入院後安定してきたし、さあ抗凝固療法を開始しよう! と思った矢先、
転倒、頭部打撲で脳挫傷を併発してしまいました....

・・・・・・という場合に抗凝固をどうするか?(症例は架空です)
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米国における高齢者の評価では, Afで抗凝固使用中に外傷性脳挫傷や股関節頸部骨折, 体幹の外傷を受傷した場合, その後の抗凝固薬の使用頻度は以下のとおり

・その後の抗凝固薬の再開率は外傷性脳挫傷では低い(OR 0.41[0.36-0.46],再開率 41%).
 頸部骨折ではほぼ全例で抗凝固薬を再開している(OR  0.93[0.87-1.00])
 体幹の外傷では OR0.69[0.60-0.80], 再開率 69%程度.
・頸部骨折や外傷では受傷後1−2ヶ月で再開することが多い.
・脳挫傷では1−6ヶ月かけて再開していっている.
(J Clin Pharmacol. 2015 Jan;55(1):25-32.)

抗凝固薬を使用している≥65歳の患者で外傷性脳挫傷で入院した10782例の解析(後ろ向き)
 退院後〜抗凝固薬の再開時期と合併症を評価
 患者の平均年齢は81.3±7.3歳. 82%が心房細動あり.
外傷性脳挫傷 退院後からの期間とワーファリン開始率.
・1ヶ月で26%が再開, 1年で47%が再開している.

ワーファリンの再開の有無別の血栓症リスク, 出血のリスク
血栓症のリスクはワーファリン使用群で低下する.
出血性イベントは使用群で増加するが, 脳出血リスクは増加しない結果.
(JAMA Intern Med 2014;174:1244-1251)

オランダのNationwide databaseにおいて, 1998-2016年に, Af患者でワーファリンを使用中の患者で頭蓋内出血, 外傷性脳出血をきたした群を評価.
(Outcomes Associated With Resuming Warfarin Treatment After Hemorrhagic Stroke or Traumatic Intracranial Hemorrhage in Patients With Atrial Fibrillation. JAMA Intern Med)
・脳出血, くも膜下出血, 硬膜外血腫, 硬膜外血腫を含む
・ワーファリン再開の有無とその後の出血, 血栓症リスクを評価.

・Af患者で頭蓋内出血をきたした症例が6749例. 
 1372例が入院中に死亡, ワーファリン使用なしが2381例.
 436例が退院後14日間以内に死亡.
 残りの2415例を評価(非外傷性頭蓋内出血 1325, 外傷性 1090)
・期間中にワーファリンを再開されたのが141例.

ワーファリン再開群と非再開群におけるアウトカム


・ワーファリン再開群方が塞栓症リスクは低下する
・頭蓋内出血再発リスクは同等か, 外傷性脳出血の場合はむしろ低い
・全死亡リスクも低下
 (予後が良いから再開したという可能性もある)

頭蓋内出血ではワーファリン再開による再出血リスクは上昇する可能性もあり, 注意すべきと言えるが, 外傷性頭蓋内出血では再出血リスクとはならない可能性.

ということで, ワーファリン使用中の外傷性頭蓋内出血では状態に応じて 1−3ヶ月で再開してゆくのが良い, ということになるか.

もっと早期に再開したらどうなるのかは不明.
これと似たような問題として, 外傷性脳挫傷患者に対する血栓症予防をどうするか、どのタイミングで開始するかという問題がある

外傷性脳挫傷患者に対する血栓症(VTE)予防
外傷性脳挫傷患者において, 頭蓋内病変の増悪に関わるリスク因子を解析した後ろ向きStudy (J Trauma. 2010;68: 886 – 894) 
・外傷性脳挫傷で入院した340例の解析
・患者は初回CTフォローにおいて, 所見が安定していた248例と所見が増悪していた92例の2群に分けて評価.
・血腫増大に関連する因子は,
初回安定群における血腫増大リスク
OR
VTE予防
0.48[0.18-1.29]
55歳
1.74[0.56-5.46]
初回増悪群における血腫増大リスク
OR
VTE予防
13.1[1.65-103.37]
硬膜外, 硬膜下血腫
5.15[1.21-21.89]
GCS 3-8
4.64[1.12-19.22]
BMI25
4.32[1.19-15.70]
・初回のCTフォローで血腫が増大している群ではVTE予防が血腫増大リスクとなる.
・初回のCTフォローで血腫が安定している群ではVTE予防は血腫増大のリスクにはならない結果.

外傷性脳挫傷 480例を後ろ向きに評価.
・患者は初期のCTフォローで所見が安定している患者群
・VTE予防, 予防の開始時期(<72h, ≥72h), 予防の継続/中断の影響を評価した.
VTE予防の有無, 開始期間で特にVTE予防効果に有意差なし
VTE予防の中断は有意なリスク因子となる結果

頭蓋内病変の増悪リスクは
・初期のCTで安定している患者群だが, 晩期でCT所見増悪したのが9.79%
・VTE予防の有無, 開始期間は増悪には関連しない結果であった.

これらより, 外傷性脳挫傷において, 初期のCTフォローで血腫増大がない症例や,
頭蓋骨切除術やICPモニタリングが必要のない低リスク群では, 早期のVTE予防目的の抗凝固療法を行っても脳出血の増大リスクにはならない可能性がある.

DEEP 1 trial: 低リスクの外傷性脳挫傷患者群を対象としたDB−RCT.
(J Trauma Acute Care Surg. 2012;73: 1434-1441)
患者は低リスク群*の脳挫傷で, 24時間後の頭部CTで増悪がない症例
・Enoaparin 30mg bidを24−96時間継続 vs プラセボ群に割り付け
 割り付け後 24時間後に再度CTを評価し, 血腫の増大を比較(受傷後 48時間での評価) 
 増大あればその時点で終了.
・また, 96時間後のVTE合併リスクを比較した.

*低リスク群は以下を満たす
 頭蓋骨切除術, ICPモニターの必要がない症例
 硬膜下血腫 ≤8mm, 硬膜外血腫 ≤8mm
 挫傷, 脳室内血腫 ≤2cm, 脳葉内に多発性の挫傷(-)
 CT血管造影で異常を認める くも膜下出血がない.

外傷性脳挫傷683例中, 低リスク群は62例(<10%)のみ.
62例を両群に割り付け, アウトカムを比較.
割り付け後 24時間後のCT所見の増悪頻度は
 Enoxaparin群で5.9%[0.7-19.7], Placebo群で3.6%[0.1-18.3], RD 2.3%[-14.4~16.5]と有意差なし
・臨床的な症状の増悪は両群で認められず.
・VTEはPlacebo群でDVTが1例のみ認められた.

外傷性脳挫傷患者におけるVTE予防の開始時期別で比較したMeta-analysis
・早期開始群(<72h) vs 晩期開始群(≥72h)を比較.
・Retrospective cohortを含む.
・VTE発症率は 43/713(6.0%) vs 106/911(11.6%), RR 0.52[0.37-0.73]と有意に早期開始群で低い結果.
・頭蓋内出血の増悪リスクは RR 0.64[0.35-1.14]と有意差なし.
(J Neurotrauma. 2013 Apr 1;30(7):503-11.)

これら結果より,
低リスク群の脳挫傷患者であれば早期にVTE予防を行っても, 脳出血増悪リスクはないと考えられる. ただし, VTEの予防効果に有意差があるかどうかは疑問であり, 必須とも言い切れない.
それ以外のVTEリスク因子を評価し, VTE高リスク群であれば, 以下のようなフローチャートで抗凝固薬投与を考慮するのもありであろう.

脳挫傷患者でVTE高リスク群におけるVTE予防の適応
(Clinical Neurology and Neurosurgery 123 (2014) 109–116 )


さて、冒頭の症例において、ワーファリンを再開してよいかどうか、再開するタイミングをどうするか.
 脳挫傷患者におけるVTE予防のタイミングと、Af患者の脳挫傷症例における血栓症予防の抗凝固療法の再開タイミングとを混合して考えるわけにはいかないかもしれないが, 低リスクの脳挫傷ならば早期にワーファリン再開も可能かもしれない.

2017年2月20日月曜日

腫瘍別の静脈血栓症再発リスク

Am J Med. 2016 Nov 22. pii: S0002-9343(16)31190-1. doi: 10.1016/j.amjmed.2016.10.017. [Epub ahead of print]
The Clinical Course of Venous Thromboembolism May Differ According to Cancer Site. より

VTE既往がある患者で, 再発目的に抗凝固療法を施行している患者群のデータ(RIETE)において, 乳癌, 前立腺癌, 大腸癌, 肺癌を背景にもつ患者群を抽出し, 腫瘍別のVTE再発リスク, 出血リスクを評価.
乳癌が938例(遠隔転移は42%), 前立腺癌が629例(転移 36%), 大腸癌が1189例(転移 53%), 肺癌が1191例(転移 72%)
・平均フォロー期間は139日間

患者群のデータ, 治療内容


腫瘍別のVTE再発リスクと予防による出血リスク


・乳癌, 大腸癌はVTE再発リスクと出血リスクは同等.
・前立腺癌では再発よりも出血リスクの方が有意に高い.
・肺癌では再発リスクの方が出血リスクよりも高い結果.

VTE再発リスク, 出血リスク因子

・乳癌を基準とすると, 前立腺, 大腸癌, 肺癌は再発リスク, 出血リスクも高い.
 特に再発リスクが高いのは肺癌. 
 出血リスクはどれも同等程度

2017年2月17日金曜日

アルコール性肝障害の予後はすごく悪い

肝硬変の予後を評価するにはMELDやChild-Pughなど色々なスコアがある.
例えば, Child-Pughは以下の5項目を点数化し, 5-6点をA, 7-9点をB, 10-15点をCと分類する

1pt
2pt
3pt
腹水
(-)
軽度
中等度
Bil(mg/dL)
 =< 2
 2-3
 > 3
Alb(g/dL)
 > 3.5
2.8-3.5
 < 2.8
INR
 < 1.7
1.8-2.3
 > 2.3
脳症
(-)
1-2
3-4

また、ALBIグレードというAlbとBilのみで計算する簡易な評価方法もあり,

日本人におけるALBIとChild-Pugh別の生存期間は以下のとおり
・Child-Pugh Cになると1.5年程度で50%の死亡リスクとなる
・Bでは1年生存率は80%程度.
(J Clin Oncol 33:550-558. © 2014)


アルコール性肝障害の予後

デンマークのNaiton-wide cohortにおけるアルコール性肝障害患者の予後
(Alcohol and Alcoholism, 2015, 50(3) 352–357)
・全体でみると, 1年生存率は70%[69-71], 5年生存率は43%[42-45]
・アルコール性肝硬変患者では当然死亡リスクは高く, 1年生存率は約65%程度だが, 肝炎患者でも1年生存率は70-80%程度.

短期予後: 同じくデンマークのデータより, 28日, 84日死亡率を評価
(Journal of Hepatology 2011 vol. 54 j 760–764)
(点線が28日, 実線が84日)
・肝硬変(+)群では28日死亡率は15-20%, 84日死亡率は25-30%と高い.
・肝硬変(-)でも10-20%と高い

死亡リスク因子:
・年齢, 肝硬変が有意なリスク因子.

短期予後:アルコール性肝障害患者を対象とした19 RCTsのControl群における短期死亡リスクを評価(N=661)
(World J Gastroenterol 2010 May 21; 16(19): 2435-2439)

死亡率は160日間[21-730]のフォローで34.2%であった.
・死亡原因は肝不全が55.5%, 消化管出血 21.2%, 敗血症 7.3%が最も多い
・1ヶ月死亡率は20.4%

母集団で分けた時の1ヶ月死亡率:

・中等度〜重度の肝障害では22.7%となる.

死亡原因は何が多いか?

アルコール性肝障害患者の死亡原因(@デンマーク)
(Clinical Gastroenterology and Hepatology 2014;12:1739–1744)
・84日以内の死亡理由は肝不全, 感染症, 肝腎症候群が多い原因.
・85日以降では出血や腫瘍, 原因不明なども増加

肝硬変の有無別の死亡理由

肝硬変(-)例も10年間で24%が肝硬変に進行.
・飲酒継続がリスク(HR 2.14[1.50-3.05])

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・アルコール性肝障害ではウイルス性や他の慢性肝炎よりも全体的に予後が悪く, アルコール性肝炎患者の予後は肝硬変Child-Pugh B程度と同じくらいと考えておく必要がある.
 大まかに, アルコール性肝炎 = 慢性肝疾患の肝硬変A-B
 アルコール性肝硬変 = 慢性肝疾患の肝硬変 C と捉えておくと良いかも. (特に飲酒継続している患者ではそれ以上)

・また短期的に増悪, 合併症を併発し, 死亡に至る可能性もあり, その点よく患者や家族に説明せねばならない(アルコール性肝障害の場合, Acute on chronicの急性肝炎を生じるリスクがある).
・まあ酒はやめよう. 本当に.