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2016年10月15日土曜日

尺側の手関節痛

尺側の手関節痛は, "Ulner-sided wrist pain"という呼び名まである, 手首の痛みを考える際の症候の1つ.

そう言われれば, 手首の痛みは尺側のことが多い気がする.

疼痛は主に外傷やスポーツに伴うことが多いが, 加齢や毎日の負荷による変性疾患が原因となることも多い.

尺側の手関節痛

尺側の鑑別疾患の鑑別疾患:
(J Hand Surg Am. 2014 Sep;39(9):1859-62.)

スポーツによる尺側手関節痛
(Orthop Clin N Am 47 (2016) 789–798)
スポーツでは特異的な運動, 行為により障害を認めるため, どのようなスポーツがどの障害に関連しているかを想像, 押さえておくことは重要.

有鈎骨鈎骨折
手根骨骨折のうち2-4%のみと少ないが, ラケットを使用するスポーツやゴルフで生じることが多い.
・血流が少ないため, 治癒しにくい.
・小指球の痛みや小指の屈曲で疼痛を生じる
・XPでは有鈎骨の評価が難しく, CTで評価する方が良い
有鈎骨鈎の位置(H): ちょうどバットの柄が当たる位置.
CT画像(右)

豆状骨骨折
・手根骨骨折の2%をしめる.
・直接的な衝撃以外に, 豆状骨の周囲を覆う尺側手根屈筋の収縮による衝撃が関与する.

Hypothenar hammer syndrome: 小指球ハンマー症候群
・Guyon管からでた尺骨動脈は, 小指球の部分で周囲組織が比較的疎となるため, 小指球の衝撃や外傷で動脈瘤や血管障害を生じる.
・小指球で叩くような動作をする職業で多く認められるが, 野球やゴルフ, テニス, バイク, 重量挙げなど, 小指球に負担がかかるスポーツでも生じる.
・症状は末梢の阻血, 疼痛, 小指球の疼痛など.

スポーツや外傷に限らず, 生じ得る疾患
Ulnocarparl impaction syndrome(尺骨突き上げ症候群)
上肢の軸方向への負荷のうち, 尺骨, TFCCにかかるのは18%程度だが, 尺骨の長さ橈骨よりも2.5mm増加すると42%まで増大する. 一方で長さが2.5mm低下すると4.3%まで低下する.
・先天性, 後天性に尺骨が橈骨よりも長い場合, 負荷により尺側の手関節痛を生じる.

・尺骨の突き上げにより, 手根骨の骨化や嚢胞形成, 形状突起の消失など骨変性も生じる.

・疼痛以外には回内回外制限, TFCC損傷などを合併する
(Orthop Clin N Am 47 (2016) 789–798)(JCCA 2014; 58(4):401-412)

Triangular Fibrocartilage Complex(TFCC) 損傷
TFCC: Triangular fibrocartilage complex(三角線維軟骨複合体). 
 手首を安定させるための構造で, 多数の要素から構成される.

・TFCCは外傷や加齢性変化など, 急性〜慢性経過で障害され, 主に手首尺側の疼痛を伴う.
・手首への繰り返す荷重と手首運動負荷により生じる. 手首をよく使用するテニスやゴルフ, ホッケー, ボクシングなどで生じやすい
・TFCCはDRUJ(distal radioulnar joint: 遠位橈尺関節)を安定させ, さらに手首の荷重を安定させるために重要.
・症状としては関節窩の圧痛, 疼痛と手首のクリック音が生じる(遠位橈尺関節の音).
(Magn Reson Imaging Clin N Am 23 (2015) 393–403)(Orthop Clin N Am 47 (2016) 789–798)

TFCC異常の分類: 外傷性, 変性で分類される
1B損傷
1C損傷

(Current Problems in Diagnostic Radiology 45 (2016) 39–50)

TFCCの損傷以外に靱帯損傷による手首の痛みの原因としてScapholunate ligament(SL), Lunotriquetral ligament(LT)がある.


これら靱帯損傷の評価にはストレステストとMRIによる評価がある.

MRIによる評価では, (Meta-analysis)
MRIにおけるTFCC損傷対する感度/特異度は 44-93%/54-100%
 SL損傷は11-89%/55-100%, 
 LT損傷は0-82%/76-100%と幅広い
(The Journal of Arthroscopic and Related Surgery, Vol 31, No 10 (October), 2015: pp 2014-2020)

所見による靭帯損傷の評価:
・手首の痛みで, hand clinicsを受診し, 手首靭帯の損傷が疑われた105例で7種類の誘発試験を施行.
 Scaphoid shift test(SS), lunotriquetral test(LT), midcarpal test(MC), distal radioulnar joint test(DRUJ), triangular fibrocartilage complex stress test(TFCC), TFCC stress test with compression(TFCC comp test), gripping rotatory impaction test(GRIT)

 それぞれの方法はYoutubeで検索, 確認しておくとよい

・RSは関節鏡による評価.

各所見の感度, 特異度:

残念ながら, あまり有用とは言い難い.

尺側手根伸筋腱の疼痛
ECU: externsor carpi ulnaris(尺側手根伸筋)
・ECUの腱鞘炎は慢性経過の尺側手関節痛の原因となる.
・他のTFCC損傷などとの鑑別が難しいが, ECU synergy testが有用な可能性がある.
(J Hand Surg 2008;33A:17771782.)

ECU synergy test

患者は机に肘をついて, 肘を90度屈曲
 前腕は最大回外位とする
 手首はNeutral position.
 指は伸展位
・検者は患者の対側にたち, 片方の手で拇指と中指を掴み, もう片方でECUを触れる.
・患者に, 抵抗に逆らって拇指を外転させるように指示する.
・この時に手関節尺側に疼痛が誘発される場合に陽性と判断.

慢性経過の手関節尺側の疼痛を認める患者55例中,
・ECU synergy test陰性で, 他の診察にて関節内の病変が疑われた21例中, 全例がMRIにて関節内の病変(+)

・ECU synergy test陽性で, 他の診察にて関節内の病変が示唆されなかった11例中, 全例がECU腱鞘内へのブロック注射にて疼痛が改善.
(J Hand Surg 2008;33A:17771782.)

前述のストレス試験と組み合わせると診断能がかなり上昇する可能性がある

慢性経過の手関節尺側の疼痛を認める39例(40部位)において, ECU synergy testとエコー評価を行なった結果,
・RSをエコーによりECUの評価とした場合, ECU synergy testは感度 73.7%, 特異度 85.7%でECU異常を示唆する.
(J Ultrasound Med. 2016 Jan;35(1):7-14.)

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手首の痛みならばまず内科には受診せず, 整形外科にゆくと思います.
なので, 病院総合診療医のための知識よりは, 家庭医向けの知識でしょうか.

個人的にはボルダリングで両側の"Ulner-sided wrist pain"が現在進行系であります. 自分で所見とると, 多分TFCCの痛みなんでしょうね. 安静にします.