好酸球性食道炎 Eosinophilic esophagitis(EoE) について
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
好酸球性食道炎は食道粘膜への好酸球浸潤を伴う食道炎.
・GERDに類似した症状を呈するが制酸剤に反応しない
・免疫や食物に対するアレルギー反応が原因となる.
稀であるが, 寄生虫感染, アレルギー性血管炎, Esophageal leiomyomatosis, クローン病も原因となる.
・アトピー性皮膚炎, 喘息, アレルギー性鼻炎, 食物アレルギーの合併例が多い(7割以上)
・遺伝子の関連もあり. 家族歴が陽性の例も多い.
好酸球性食道炎の親より, 子供が発症する可能性は2%程度
・食道炎症状があり, GERDが除外され, さらに粘膜へのEo浸潤があれば診断される.
粘膜へのEo浸潤は≥15/HPFで定義される
好酸球浸潤が認められるが, PPIで反応する病態もあり, その場合はPPI-responsive esophageal eosinophiliaを呼ばれ, 区別される
PPI-responsive esophageal eosinophilia(PPI-REE): 食道粘膜への好酸球浸潤を認め, EoE様に見えるがPPIで改善する病態
・食道粘膜に好酸球浸潤を認める患者群の1/3をしめる.
報告では33-74%を様々.
・PPI-REEがGERDの一部なのか, EoEの一部なのか, 独立した病態なのかは不明.
・EoEの診断の前にはPPIトライアルを行い, PPI-REEの評価を行う必要がある.
(Am J Gastroenterol. 2013 December ; 108(12): 1854–1860.)(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
好酸球性食道炎に関連する環境因子を評価したMeta-analysis.
(Mayo Clin Proc. 2015;90(10):1400-1410)
花粉や空気アレルゲン
・花粉をはじめとした空気アレルゲンは好酸球性食道炎の活動性に関連する.
春季の発症例は冬季の2倍.
気候の影響
・乾燥した地域(OR 1.27[1.19-1.36])
寒い地域(OR 1.39[1.34-1.47])で発症する例が多い.
都会 vs 田舎
・好酸球性食道炎は人口が少ない地域ほど発症率も高くなる傾向
また都会では嚥下障害が多い一方, 田舎では胸やけ症状が多い違いもある.
好酸球性食道炎の症状 (N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
・小児では非特異的な症状が多い. 食事摂取困難, 悪心, 嘔吐, 胸やけ
・学童期〜成人では嚥下障害, 食道の通過障害を認める
他には慢性のGERD症状もある.
・長期間かけて出現するため, 患者が適応し, 食事をゆっくりと, よく咀嚼して行う, 細かく刻む, 飲み物を一緒に飲み込む, 肉など飲み込みにくいものは避ける, 外食を避けるといった対応をしている場合もある.
・成人例が, 無症候性の小児期間を経て発症しているのか, 純粋に成人発症であるのかは不明
EoEとGERDの比較 (J Allergy Clin Immunol 2004;113:11-28)
好酸球性食道炎の検査所見(内視鏡検査)
・内視鏡所見でもっとも多いのが ”White specks” (白いシミ)で, 好酸球の滲出物を見ている所見.
他には粘膜浮腫, 線状の溝, Esophageal ring, 狭窄所見がある
・“crepe-paper esophagus”: 慢性経過のリモデリングにより, ちりめん紙のように食道粘膜が見える所見
ファイバーで触れるだけで容易に出血する
・“tug sign”: 食道粘膜生検を行う際に硬く感じる所見
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
A: 食道が気管のように見える所見(円状環)
B: 線状の溝
C: 白色のプラーク
(Rev esp enfeRm Dig 2015; 107 (10): 622-629)
食道造影も有用. 特に狭窄の評価に有用
・成人例の71%, 小児例の55%が内視鏡で狭窄を認めないが, 食道造影では検出が可能である報告がある.
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
内視鏡所見ではPPI-responsive esophageal eosinophiliaとEosinophilic esophagitisの判別は困難
嚥下障害があり, 上部内視鏡を行い, 食道壁好酸球浸潤(≥15/HPF)を認めた66例の前向きStudy.
・これら患者群にPPI 2回/日を8wk投与し, 再度内視鏡を施行
その際好酸球浸潤 ≥15/HPFをEoEと診断し, 好酸球浸潤改善群 <15/HPFをPPI-REEと診断.
・EoEは40例, PPI-REEは24例であった.
両者の比較では, 内視鏡所見頻度は有意差がでるものの両者を明確に鑑別可能な所見はなし.
(Am J Gastroenterol. 2013 December ; 108(12): 1854–1860.)
好酸球性食道炎の組織所見
・食道粘膜の好酸球浸潤が重要な所見.
≥15 cells/HPFで定義され, 感度 100%, 特異度 96%
・他には好酸球の集積, 微小膿瘍(4つ以上のEoの集積), 管腔表面の好酸球層の形成, 細胞間間隔の拡大, 基底細胞の過形成, rete-peg elongationが認められる
(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
アジア人のEoE
アジア人の好酸球性食道炎症例のLiterature review.
(World J Gastroenterol 2015 July 21; 21(27): 8433-8440)
・EoEの頻度は内視鏡検査117946件に対して77例
20/10万内視鏡の頻度.
・成人例の平均年齢は50歳で, 男性例が73%
・アレルギー性疾患の合併はほぼ全例で認められ, 最も多いのは気管支喘息, アレルギー性鼻炎. ついで食物アレルギー, アトピー性皮膚炎
症状の頻度
・嚥下障害が最も多い症状.
ついで胸やけ, 心窩部痛, 体重が増えない(小児例) など.
血液検査所見
・好酸球増多は33%で認めるが, >1000/µLとなるのは稀
・IgE上昇は59%
・ピロリ抗体陽性例は17%のみ
内視鏡所見
・線状の溝, 円状環, 白色のプラークを認める頻度が高い
アジア人と白人の違い
Literature reviewにおいて, アジア人症例と白人症例を比較し, 好酸球性食道炎, 胃腸症の症状の違いを評価した.
(Allergology International 64 (2015) 253-259)
・アジア人では嚥下障害が少なく, 嘔吐, 下痢症状が多い
好酸球性食道炎の治療
治療の目的は
・症状の緩和
・組織的な改善
・内視鏡所見の改善(狭窄, 炎症)
・長期合併症の予防(狭窄, 通過障害) (N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
初期治療はPPIで行う
・GERDやPPI-REEの除外も兼ねる.
1日2回のPPI投与を行い, 8週間継続内視鏡検査フォロー.
・その際食道粘膜Eo浸潤が改善していればGERDもしくはPPI-REEとしてPPIを継続する.
・PPI投与でも好酸球浸潤があればEoEと診断し, 抗原除去治療か
ステロイド治療を考慮
(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)
ステロイド治療
・ステロイドは全身投与と外用薬双方有用
副作用の観点からは外用ステロイドが優先される.
ステロイド外用治療
・フルチカゾン エアロゾルを飲み込む方法
ブデソニド液を嚥下する方法がある.
・フルチカゾン エアロゾルはフルタイド 50µg, 100µgエアロゾール®が国内では使用可能であり(喘息用), 息を止めた状態で口腔内に噴霧し, それを飲み込むように使用する
使用後は30-60分間は飲食禁止とする
小児では88-440µg/日, 成人では880-1760µg/日を2-3回に分けて使用.(100µg 60回分の製剤では9-17噴霧/日)
・ブデソニドはパルミコート吸入液® 0.25-0.5mgを蜂蜜やシロップに混ぜてOral viscousとして使用. 小児では1mg/日, 成人では2mg/日
朝食後と夜間寝前に使用するのが良い.
・外用ステロイドでは副作用は少ないが1%程度で食道カンジダを発症するリスクがある
・副腎抑制のリスクは全身投与よりも少ない
2ヶ月の使用にて副腎抑制の報告はない.
・フルチカゾン 1760µg/日の使用で, 62%が好酸球浸潤が改善
・外用ステロイド中止後はほぼ全例が再燃する
・維持療法が必要であるが, どのようなレジメンにするかは確立されていない. ブデソニド 0.5mg/日を継続するなど報告がある.
・外用ステロイドの問題点は適用薬剤と値段
フルタイド100µg 60回吸入分で2000円. これを大体3-4日で消費する計算.
パルミコート吸入液 0.5mgは340円. 2mgで1360円/日
その他の薬物治療方法
・ロイコトリエン拮抗薬は症状改善効果はあるが組織所見の改善効果は認められず.
・アザチオプリン 2-2.5mg/kgは症状, 組織所見の改善に有用だが副作用の問題と, 中止により再燃率が高い.
・生物学的製剤: IL-5抗体(Mepolizumab, Resilizumab)は組織所見の改善効果はあるが臨床症状の改善効果は乏しい結果.
食事療法
・Elemental Diet: アミノ酸, CHO, トリグリセリドといった栄養素のみを摂取する方法で, 90%以上で症状の改善, 組織所見の改善が得られる
実際行うのは大変であり, 継続も難しい点が問題.
・SFED: 食物アレルギーの原因として多い6種類の食物を除去する
牛乳, 卵, 小麦, 大豆, ナッツ, 魚介類の6種類
症状, 組織所見の改善効果は高く, 7-9割で効果を認める
再開で症状も再燃.
再燃に関連する食物で多いのは牛乳, 小麦, 卵.
この方法で可能な食事を増やしてゆく方法もあるが
その場合内視鏡, 生検を繰り返す必要があり負担も大きい.
2種類ほど再開して, 検査すると良い
・Targeted Restrictive Diet: 抗原精査目的のSkin prick test, RASTで抗原を調べ, それが含まれた食事を回避する方法.
最も効果は低い. 成人における寛解率は22-32%程度
(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)
治療方法のまとめ
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)