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2015年10月29日木曜日

小児期の食物暴露が少ないほど食物アレルギーのリスクとなる

LEAP trial (N Engl J Med 2015;372:803-13.):
重度の湿疹, 卵アレルギーのある乳児640例を対象としたRCT.
対象は生後4ヶ月〜11ヶ月の乳児
 重度の湿疹, 卵アレルギーがある患者群で, さらにピーナッツタンパクのSkin-prick試験を行い, 陰性例(反応なし), 陽性例(1-4mmの紅斑)に分類. 
・それぞれの群で, 生後60ヶ月(5歳)までピーナッツ摂取を避ける群とピーナッツ摂取群に割り付け, ピーナッツアレルギーの頻度を比較した.
・摂取群では, ピーナッツタンパクの経口負荷試験を行い, 陰性群ではピーナッツタンパク 6g/wkを3回以上の食事で摂取, 陽性群ではピーナッツタンパクを避けるように指導.
 (負荷量はSkin-prick試験陰性例で2g, 陽性例で3.9g)

アウトカム
Skin-prick試験 陽性例が98例, 陰性例が530例であった.
・経口負荷試験で陽性となったのは,
  Skin-prick試験陰性例中1例, 陽性例中6例であり, その7例はピーナッツ摂取を避けるように指導. この7例はITT解析に含んでいる.
・60ヶ月後のピーナッツアレルギー頻度は,
  Skin-prick試験 陰性群において, ピーナッツ摂取群では1.9% vs 13.7%(ピーナッツ回避群)
  Skin-prick試験 陽性群において, ピーナッツ摂取群では10.6% vs 35.3%(ピーナッツ回避群)
 と, 有意に抗原摂取群でアレルギー頻度は低い結果.

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アレルギー体質であるからこそ, 
様々な食物を摂取させることが, 将来のアレルギーを回避できる可能性が示唆された重要なRCTと言える.
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おまけ
それとは関係はないけども, 食物アレルギーには交差反応がある.
例えば牛乳アレルギーでは他の羊, ヤギ乳でもアレルギーがあったり, エビアレルギーでは他の甲殻類でもアレルギーがあったり, バナナやキウイなど南国フルーツのアレルギーではラテックスアレルギーが同時にあったりする.

その一覧と頻度で綺麗な図を見つけたので, 最後の紹介しておきます
(J Allergy Clin Immunol 2001;108:881-90.) 

2015年10月27日火曜日

HCAPは広域抗生剤で治療すべきか?

肺炎には市中肺炎(Community-Acquired Pneumonia: CAP)と
医療, 介護 関連肺炎(Health-care-associated Pneumonia: HCAP)と
院内肺炎(Hospital-Acquired Pneumonia: HAP)がある.

また他には人工呼吸器関連肺炎(VAP)や, さらに言えば誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia, pneumonitis: AP)も別に考えるべきだと思うけども、ここでは触れない.

元々、2000年ごろにはCAPとHAPのみであり,
HAPでは耐性菌の頻度が増加するため, 広域抗生剤で治療しましょうと言われてきた。

しかしながら, HAPではないものの, MRSAや緑膿菌などの耐性菌が増加する因子として、医療, 介護の暴露歴が指摘され、2005年にHCAPが定義された。

HCAPの定義は以下のとおり
2005 ATS/IDSAガイドラインによるHCAPの定義
 48時間〜90日以内の入院歴
 長期施設入所者
 30日以内の透析クリニック通院歴
 30日以内の経静脈投与治療通院歴(抗生剤や化学療法)
 30日以内の外傷治療通院歴
 上記のいずれかを満たす患者の肺炎をHCAPと定義した. (Respiratory Medicine (2012) 106, 1606-1612)

各肺炎の原因菌の頻度
日本国内における2005-2007年に入院したCAP, HCAP 371例の原因菌
Microbes
HCAP(141)
CAP(230)
GNR
24.1%
13.0%
 Klebsiella spp(ESBL)
7.1%(0)
1.7%(0)
 Pseudomonas spp
5.7%
1.7%
 E coli(ESBL)
3.5%(0.7%)
0.4%(0)
 Haemophilus influenzae
2.8%
7.4%
 Proteus mirabilis
2.8%
0.4%
 Acinetobacter spp
2.1%
0
 S maltophilia
0
0
 他のGNR
2.8%
1.3%
Microbes
HCAP(141)
CAP(230)
GPC
31.2%
31.3%
 S pneumoniae
13.5%
19.1%
 S aureus(MRSA)
9.9%(3.5%)
6.1%(0.9%)
 Strep
7.1%
5.2%
 他のGPC
2.8%
1.3%
Atypical
0.7%
7.0%
 C pneumoniae
0.7%
5.7%
 M pneumoniae
0
0.9%
 L pneumophila
0
0.4%
Nocardia spp
0.7%
0
検出無し
45.4%
52.6%
(Chest 2009;135:633-40)

Meta-analysisより (Clinical Infectious Diseases 2014;58(3):330–9)

さて, 本題であるが,
2005年のATS/IDSAガイドラインではHCAPでは緑膿菌やMRSAをカバーする抗生剤を用いるべきであると推奨している.
実際個人的にはそんなことはせず、まずCAPカバーの抗生剤や誤嚥性肺炎としてABPC/SBTを用いることが多く, そしてそれで苦労した覚えもない.

その辺を評価したStudyがいくつかあるので紹介する

高齢の施設入所者の肺炎 334例のRetrospective study.
(J Am Geriatr Soc 57:1030–1035, 2009.)
 2003年のCAPガイドラインに準じた抗生剤選択と, 2005年のHCAPガイドラインに準じた抗生剤選択群に分類し, 予後を比較した.
2003年IDSAガイドライン群: LVFX単独, βラクタム+マクロライド
・2005年ATS/IDSA群: 第4世代セフェム, カルバペネム, 緑膿菌カバーのFQ, 緑膿菌カバーのペニシリン系を使用
・上記2群に分類し, 予後を比較した.
・77%が2003年IDSAガイドラインで治療.
両群で治療失敗リスク, 死亡リスクは有意差ない結果.

HCAP 100例のRetrospective study
(Respiratory Medicine (2012) 106, 1606-1612)
ガイドラインに沿った抗生剤治療群(43)とそれ以外の抗生剤治療群(57)でアウトカムを比較.
・患者群のPSIは 124と高く, 敗血症を満たすのは55%,
・薬剤耐性菌は11%で検出.
広域抗生剤群とそれ以外では臨床的安定化までの時間, 抗生剤変更, 在院日数, 死亡リスクに有意差無し.

耐性菌による感染症のリスク因子は,
HCAPの定義を3つ以上の満たす場合と創傷治療で外来通院をしている場合

HCAP 228例のRetrospective study.
(Ann Pharmacother. 2013 Jan;47(1):9-19.)
緑膿菌カバーしたのが106例, 通常のCAPでの抗生剤を使用したのが122例.
・臨床的改善は両者で有意差はなし.
・CAPでの抗生剤で治療した群では, より経静脈投与が短期間(4.39 vs 7.75日)であり, 入院期間も短い結果(6.36 vs 8.58日)であった.

2013年でのMeta-analysis
HCAPの治療において, ガイドラインに沿った抗生剤使用(広域)かそれ以外で比較したMeta-analysis(6 trials) (Lung. 2013 Jun;191(3):229-37.)
広域抗生剤の使用は死亡リスクが上昇(OR 1.80[1.26-2.7])
・在院日数や臨床的安定も両者で有意差はない.
・広域を使用する方が状態が悪い, 重症例ということを差し引いてもHCAPの初期の治療として広域抗生剤(MRSAや緑膿菌カバー)を選択する利点は認められない.

2013年以降のStudy
中国における125例のHCAP症例のRetrospective study.
(Chin Med J 2014;127 (10): 1814-1819 )
そのうち 70例が広域抗生剤で治療を開始され, 55例が市中肺炎で推奨される抗生剤を使用.
・広域抗生剤使用群の方がより治療成功率は良好(70% vs 51%)
・抗生剤の変更頻度も低くて済むが, 在院日数や院内死亡リスクは有意差無し.

HCAP 85097例のうち, 37.5%で広域抗生剤が使用(MRSA もしくは 緑膿菌カバー) 
(J Antimicrob Chemother. 2015 May;70(5):1573-9.)
広域抗生剤使用群はより重症肺炎, 基礎疾患が重度の患者.
・多変量解析において, Empiricalな広域抗生剤使用は死亡リスク改善効果は認められない結果.

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つらつらと書いてきましたが
この辺はほとんどが後ろ向きStudy. 
当然, 広域抗生剤を使用する方が重症であることが予測されますが, それを差し引いても初めから広域抗生剤で開始する意義は乏しい.

自分のやり方は,
1)最初はCAPや誤嚥性肺炎に準じた抗生剤選択: CTRXやABPC/SBT
 当然最初にグラム染色もチェックしておく.
2)治療開始後(抗生剤投与して半日後。朝投与なら夕方、夕投与なら翌朝)にグラム染色フォローし, ブドウ球菌様のGPCや緑膿菌様のGNRが生き残っていないかをチェック.
 >>生き残っていれば, その後の臨床経過を考慮しつつ, 広域への変更を考慮
 >>生き残っていなければそのまま抗生剤を継続. 培養結果を待つ.

 このようなマネージメントでまず問題はありません。

 最初から広域抗生剤を使用する場合は
a) 入院患者の病状をフォローする気がない。
b) いろいろな事情により入院患者をフォローできない。
c) 外すと翌日死ぬかもしれない 場合に限ります.

cはたまにやります。
bは連休前, 連休中とか...(それでもやりませんけども)
aをやってしまう場合は医師を辞めどきですね

2015年10月26日月曜日

ACE阻害薬の肺炎予防効果

ACE阻害薬はSubstance Pを誘導し,  喉頭過敏とすることで咳嗽が出現するが, それが嚥下機能の上昇に関連する可能性がある.

脳梗塞, TIA既往のある6105例を対象としてPerindopril vs Placeboを比較したRCT(PROGRESS trial.)で, 肺炎リスクを評価
(Am J Respir Crit Care Med Vol 169. pp 1041–1045, 2004 )
・オーストラリア, 西欧, アジアで行われたRCT

3.9年間で肺炎は261例.
・ACE阻害薬群とプラセボ群で肺炎リスクに有意差はなし
・しかしながらアジア人においてのみ有意差あり. 肺炎リスクを47%低下させる.(2.2% vs 4.1%, NNT 53)


2012年のMeta-analysis
ACE阻害薬と肺炎のリスクを評価したMeta-analysis (その大半が肺炎をアウトカムとしていない. 降圧薬として用いる薬剤を評価したStudy)
(BMJ 2012;345:e4260)
・18 RCTs, 11 cohort trialsをを含む37 trials抽出

肺炎リスク
・ACE阻害薬 OR 0.66[0.55-0.80], NNT 65[48-80]/2年
・ARBではOR 0.95[0.87-1.04]
・ACE阻害薬 vs ARBでは OR 0.70[0.56-0.86]

脳卒中患者における肺炎リスク
・ACE阻害薬 OR 0.46[0.34-0.62]
・ARBでは OR 0.86[0.67-1.09]

心不全患者での肺炎リスク
・ACI阻害薬 OR 0.63[0.47-0.84]
・ARBでは OR 0.85[0.49-1.47]

アジア人における肺炎リスク

・ACE阻害薬 OR 0.43[0.34-0.54], 非アジア人では OR 0.82[0.67-1.00]
・ARBでは OR 1.04[0.59-1.84]

ということで, ACE阻害薬は肺炎リスクを軽減する可能性がある.
市中肺炎もSilent aspirationが発症に関与している可能性も示唆されており, 肺炎全体のリスクを軽減させると認識してもよい.
ただし, これらのStudyは全て, 他の疾患に対してACE阻害薬を使用している場合のPost hoc analysisであるため, 純粋に誤嚥性肺炎予防, 肺炎予防目的でACE阻害薬を導入する場合は注意が必要となる.

純粋に誤嚥性肺炎予防としてACE阻害薬を導入したRCT
脳血管疾患にて嚥下機能が低下し, 2週間以上の経管栄養を行っている高齢者 93例を対象としたRCT.(JAMDA 16 (2015) 702-707)
・Lisinopril 2.5mg/d vs Placeboに割り付け, 26週間継続.
 12週, 26週における肺炎リスク, 死亡リスク, 嚥下機能を比較.
・嚥下機能はRoyal Brisbane Hospital Outcome Measure for Swallowingを使用(10段階で評価し, 高いほど嚥下機能は正常)

アウトカム: 15例が脱落し, 最終的に71例が26週継続.
・ACE阻害薬使用群の方が死亡リスクが上昇する結果.

・12wkにおける嚥下機能も両者で有意差はない

・死亡原因はどれも有意差はない
 肺炎による死亡例がプラセボ群で18.4%, ACE阻害薬群で42.4%と数値として開きはあるが, 統計学的有意差はない. 

肺炎の予防, 嚥下機能の改善を主目的としたACE阻害薬の使い方はまだ議論がある.
現時点で正しい使い方としては,
高血圧で最初に用いるのはARBではなくACE阻害薬であるということ
・嚥下機能の低下した高齢患者で、もしARBを使用していれば、ACE阻害薬に変更するということ

2015年10月23日金曜日

好酸球性食道炎

好酸球性食道炎 Eosinophilic esophagitis(EoE) について
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
好酸球性食道炎は食道粘膜への好酸球浸潤を伴う食道炎.
・GERDに類似した症状を呈するが制酸剤に反応しない
・免疫や食物に対するアレルギー反応が原因となる.
 稀であるが, 寄生虫感染, アレルギー性血管炎, Esophageal leiomyomatosis, クローン病も原因となる.
・アトピー性皮膚炎, 喘息, アレルギー性鼻炎, 食物アレルギーの合併例が多い(7割以上)
・遺伝子の関連もあり. 家族歴が陽性の例も多い.
 好酸球性食道炎の親より, 子供が発症する可能性は2%程度
・食道炎症状があり, GERDが除外され, さらに粘膜へのEo浸潤があれば診断される.
 粘膜へのEo浸潤は≥15/HPFで定義される
 好酸球浸潤が認められるが, PPIで反応する病態もあり, その場合はPPI-responsive esophageal eosinophiliaを呼ばれ, 区別される
PPI-responsive esophageal eosinophilia(PPI-REE): 食道粘膜への好酸球浸潤を認め, EoE様に見えるがPPIで改善する病態
・食道粘膜に好酸球浸潤を認める患者群の1/3をしめる.
 報告では33-74%を様々.

・PPI-REEがGERDの一部なのか, EoEの一部なのか, 独立した病態なのかは不明.
・EoEの診断の前にはPPIトライアルを行い, PPI-REEの評価を行う必要がある.
(Am J Gastroenterol. 2013 December ; 108(12): 1854–1860.)(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)

(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)

好酸球性食道炎に関連する環境因子を評価したMeta-analysis.
(Mayo Clin Proc. 2015;90(10):1400-1410)
花粉や空気アレルゲン
・花粉をはじめとした空気アレルゲンは好酸球性食道炎の活動性に関連する.
 春季の発症例は冬季の2倍.

気候の影響
・乾燥した地域(OR 1.27[1.19-1.36])
 寒い地域(OR 1.39[1.34-1.47])で発症する例が多い.

都会 vs 田舎
・好酸球性食道炎は人口が少ない地域ほど発症率も高くなる傾向
 また都会では嚥下障害が多い一方, 田舎では胸やけ症状が多い違いもある.

好酸球性食道炎の症状 (N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
・小児では非特異的な症状が多い. 食事摂取困難, 悪心, 嘔吐, 胸やけ
・学童期〜成人では嚥下障害, 食道の通過障害を認める
 他には慢性のGERD症状もある.
・長期間かけて出現するため, 患者が適応し, 食事をゆっくりと, よく咀嚼して行う, 細かく刻む, 飲み物を一緒に飲み込む, 肉など飲み込みにくいものは避ける, 外食を避けるといった対応をしている場合もある.
・成人例が, 無症候性の小児期間を経て発症しているのか, 純粋に成人発症であるのかは不明

EoEとGERDの比較 (J Allergy Clin Immunol 2004;113:11-28)

好酸球性食道炎の検査所見(内視鏡検査)
・内視鏡所見でもっとも多いのが ”White specks” (白いシミ)で, 好酸球の滲出物を見ている所見.
 他には粘膜浮腫, 線状の溝, Esophageal ring, 狭窄所見がある
・“crepe-paper esophagus”: 慢性経過のリモデリングにより, ちりめん紙のように食道粘膜が見える所見
 ファイバーで触れるだけで容易に出血する
・“tug sign”: 食道粘膜生検を行う際に硬く感じる所見
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)

A: 食道が気管のように見える所見(円状環)
B: 線状の溝
C: 白色のプラーク
(Rev esp enfeRm Dig 2015; 107 (10): 622-629)

食道造影も有用. 特に狭窄の評価に有用
・成人例の71%, 小児例の55%が内視鏡で狭窄を認めないが, 食道造影では検出が可能である報告がある.
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)
内視鏡所見ではPPI-responsive esophageal eosinophiliaとEosinophilic esophagitisの判別は困難
嚥下障害があり, 上部内視鏡を行い, 食道壁好酸球浸潤(≥15/HPF)を認めた66例の前向きStudy.
・これら患者群にPPI 2回/日を8wk投与し, 再度内視鏡を施行
 その際好酸球浸潤 ≥15/HPFをEoEと診断し, 好酸球浸潤改善群 <15/HPFをPPI-REEと診断.
・EoEは40例, PPI-REEは24例であった.
 両者の比較では, 内視鏡所見頻度は有意差がでるものの両者を明確に鑑別可能な所見はなし.
(Am J Gastroenterol. 2013 December ; 108(12): 1854–1860.)

好酸球性食道炎の組織所見
・食道粘膜の好酸球浸潤が重要な所見.
 ≥15 cells/HPFで定義され, 感度 100%, 特異度 96%
・他には好酸球の集積, 微小膿瘍(4つ以上のEoの集積), 管腔表面の好酸球層の形成, 細胞間間隔の拡大, 基底細胞の過形成, rete-peg elongationが認められる
(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)

アジア人のEoE
アジア人の好酸球性食道炎症例のLiterature review.
(World J Gastroenterol 2015 July 21; 21(27): 8433-8440)
・EoEの頻度は内視鏡検査117946件に対して77例
 20/10万内視鏡の頻度.
・成人例の平均年齢は50歳で, 男性例が73%
・アレルギー性疾患の合併はほぼ全例で認められ, 最も多いのは気管支喘息, アレルギー性鼻炎. ついで食物アレルギー, アトピー性皮膚炎
 
症状の頻度
・嚥下障害が最も多い症状.
 ついで胸やけ, 心窩部痛, 体重が増えない(小児例) など.

血液検査所見
・好酸球増多は33%で認めるが, >1000/µLとなるのは稀
・IgE上昇は59%
・ピロリ抗体陽性例は17%のみ

内視鏡所見
・線状の溝, 円状環, 白色のプラークを認める頻度が高い


アジア人と白人の違い
Literature reviewにおいて, アジア人症例と白人症例を比較し,  好酸球性食道炎, 胃腸症の症状の違いを評価した.
(Allergology International 64 (2015) 253-259)
・アジア人では嚥下障害が少なく, 嘔吐, 下痢症状が多い

好酸球性食道炎の治療
治療の目的は
・症状の緩和
・組織的な改善
・内視鏡所見の改善(狭窄, 炎症)
・長期合併症の予防(狭窄, 通過障害) 
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)

初期治療はPPIで行う
・GERDやPPI-REEの除外も兼ねる.
 1日2回のPPI投与を行い, 8週間継続内視鏡検査フォロー.
・その際食道粘膜Eo浸潤が改善していればGERDもしくはPPI-REEとしてPPIを継続する.
・PPI投与でも好酸球浸潤があればEoEと診断し, 抗原除去治療か
ステロイド治療を考慮
(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)

ステロイド治療
・ステロイドは全身投与と外用薬双方有用
 副作用の観点からは外用ステロイドが優先される.
ステロイド外用治療
・フルチカゾン エアロゾルを飲み込む方法
 ブデソニド液を嚥下する方法がある.
・フルチカゾン エアロゾルはフルタイド 50µg, 100µgエアロゾール®が国内では使用可能であり(喘息用),  息を止めた状態で口腔内に噴霧し, それを飲み込むように使用する
 使用後は30-60分間は飲食禁止とする
 小児では88-440µg/日, 成人では880-1760µg/日を2-3回に分けて使用.(100µg 60回分の製剤では9-17噴霧/日)
・ブデソニドはパルミコート吸入液® 0.25-0.5mgを蜂蜜やシロップに混ぜてOral viscousとして使用. 小児では1mg/日, 成人では2mg/日
朝食後と夜間寝前に使用するのが良い.
・外用ステロイドでは副作用は少ないが1%程度で食道カンジダを発症するリスクがある
・副腎抑制のリスクは全身投与よりも少ない
 2ヶ月の使用にて副腎抑制の報告はない.
・フルチカゾン 1760µg/日の使用で, 62%が好酸球浸潤が改善
・外用ステロイド中止後はほぼ全例が再燃する
・維持療法が必要であるが, どのようなレジメンにするかは確立されていない. ブデソニド 0.5mg/日を継続するなど報告がある.
・外用ステロイドの問題点は適用薬剤と値段
 フルタイド100µg 60回吸入分で2000円. これを大体3-4日で消費する計算.
 パルミコート吸入液 0.5mgは340円. 2mgで1360円/日

その他の薬物治療方法
・ロイコトリエン拮抗薬は症状改善効果はあるが組織所見の改善効果は認められず.
・アザチオプリン 2-2.5mg/kgは症状, 組織所見の改善に有用だが副作用の問題と, 中止により再燃率が高い.
・生物学的製剤: IL-5抗体(Mepolizumab, Resilizumab)は組織所見の改善効果はあるが臨床症状の改善効果は乏しい結果.

食事療法
Elemental Diet: アミノ酸, CHO, トリグリセリドといった栄養素のみを摂取する方法で, 90%以上で症状の改善, 組織所見の改善が得られる
 実際行うのは大変であり, 継続も難しい点が問題.
SFED: 食物アレルギーの原因として多い6種類の食物を除去する
 牛乳, 卵, 小麦, 大豆, ナッツ, 魚介類の6種類
 症状, 組織所見の改善効果は高く, 7-9割で効果を認める
 再開で症状も再燃.
 再燃に関連する食物で多いのは牛乳, 小麦, 卵.
  この方法で可能な食事を増やしてゆく方法もあるが
  その場合内視鏡, 生検を繰り返す必要があり負担も大きい.
  2種類ほど再開して, 検査すると良い

Targeted Restrictive Diet: 抗原精査目的のSkin prick test, RASTで抗原を調べ, それが含まれた食事を回避する方法.
 最も効果は低い. 成人における寛解率は22-32%程度
(Current Management of Eosinophilic Esophagitis 2015. J Clin Gastroenterol 2015)

治療方法のまとめ
(N Engl J Med 2015;373:1640-8.)


2015年10月20日火曜日

血清IgG4値のカットオフと感度/特異度

中国における調査: 2007−2014年にかけて, IgG4値を評価された2901例を解析.
(Medicine 94(41):e1707) 
・そのうち 161例(5.6%)がIgG4-RDと診断された.
・IgG4値は有意にIgG4−RD群で高く(1062.6 vs 104.3mg/dL), IgG4 ≥135mg/dLは感度 86%, 特異度 77%, LR+ 3.70, LR− 0.19でIgG4-RDを示唆する結果.

IgG4-RDと診断された内訳と、そのIgG4値

非IgG4-RDと診断された内訳と、IgG4>135mg/dLとなる割合
 いろいろな疾患でIgG4>135mg/dLとなる.
 自己免疫性膵炎と膵癌との鑑別に有用、と言われてきたが、これを見るとそうでもなさそうな感じ。

ちなみに、IgG4が上昇する非IgG4疾患はこちら(Mayo Clin Proc. 2015;90(7):927-939)
疾患
IgG4上昇例(%)
疾患
IgG4上昇例(%)
Sjögren症候群
7.7%
好酸球増多症
12.5%
膵癌
5.2%
間質性肺炎
33.3%
SLE
13.9%
Behcet病
10%
関節リウマチ
14.5%
EGPA
71.4%
胆管癌
6.2%
喘息
14.3%
慢性膵炎
4.4%
炎症性筋症
16.7%
全身性硬化症
6.8%
抗リン脂質抗体症候群
20%
肝硬変
9.1%
MCTD
0
慢性肝炎
4.8%
MPA
20%
Castleman病
43.7%
健常人
1.3%

話は戻って、このStudyのデータより、IgG4値のカットオフと感度、特異度を評価
カットオフ
感度(%)
特異度(%)
LR+
LR−
>135mg/dL
86%
77%
3.70
0.19
>201mg/dL
80%
89%
7.00
0.23
>270mg/dL
75%
94%
12.79
0.26
>402mg/dL
62%
98%
36.21
0.39
>405mg/dL
62%
98%
27.11
0.39
>603mg/dL
50%
99%
90.77
0.51
135mg/dLの倍数と、最も感度/特異度が良好な値、除外に使用できる値を評価.

・>400mg/dLならば本物の可能性がかなり高いと言える.
・135mg/dLはカットオフとしては微妙なところ.
 また、当然<135mg/dLでも否定は困難である.