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2015年6月30日火曜日

心不全患者へのベータ阻害薬、目標心拍数は?

EFの低下した心不全患者ではACE阻害薬、もしくはARBの使用、
β阻害薬の使用により予後改善効果は示されており、Class I, エビデンスレベルAで推奨されている。(Circulation. 2013;128:1810-1852.)

このβ阻害薬の投与目標は投与量とすべきか、心拍数とするのか、という問題。

心不全に対するβ-blockerの効果を評価したRCTのMeta-analysis (23 RCT, N=19209) (Ann Intern Med 2009;150:784-94)
 β-blockerは心不全患者の死亡Riskを軽減(RR0.76[0.68-0.84])
各要素における死亡Riskの変化では, HRの低下のみが死亡Riskの有意な低下を示している.
 HR reduction; RR 0.82[0.71-0.94]/(-5bpm)
 β-blocker Dose; RR 1.02[0.93-1.10]/dose-up
 他, LVEF, NYHA, Af, 初期HR, Digoxinでは有意差認めない.
 心拍数の低下はLVEFの増加に繋がる
 ちなみに心拍数は安静時の評価。

EF≤40%を満たす心不全患者654例をフォロー
 初回評価時, 4ヶ月後評価において, β阻害薬使用量, 心拍数と予後への影響を評価.
 β阻害薬の投与量は予後に間連せず.
 安静時心拍数は予後への関連が認められた. 
(European Journal of Heart Failure (2012) 14, 737–747)

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EFの低下した心不全におけるβ阻害薬投与では、ただ投与すれば良いのではなく、心拍数を低下させることを目標とすべきということ。
ただし、直接心拍数での調節, Doseでの調節群を比較をしたものは無い
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では心拍数の目標値は?

1033例の心不全患者の解析より (Mayo Clin Proc. 2015;90(6):765-772)
 4.6±3.3年間フォローし, 46.1%が死亡.
 β阻害薬は87%で使用していた

心拍数と死亡リスクの関連を評価すると年齢により2パターンあることが判明
<75歳群では心拍数は低いほど死亡リスクも低下する
≥75歳群では心拍数が68bpmで最も死亡リスクが低く、それ以下、以上では死亡リスクが上昇。

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≥75歳の高齢者におけるEFの低下した心不全では、安静時心拍数 70前後を目標としてβ阻害薬を調節する。
<75歳の患者群では副作用が出ない程度に心拍数60、可能ならば<60bpmを目指す、というマネージメントが良いかもしれない。

このへんの目標値はまだエビデンスが少ない領域であり、今後のStudyで目標値は変わる可能性大
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2015年6月26日金曜日

好中球減少症+市中菌血症患者の特徴

台湾からの報告
好中球減少症 + 市中菌血症患者 116例と
非好中球減少症 + 市中菌血症患者 232例を比較したCase-control study.
(American Journal of Emergency Medicine 33 (2015) 907–912)

データの比較
好中球減少+市中菌血症患者の感染のフォーカスは
呼吸器が1/3、フォーカス無し(菌血症のみ)が1/3、それ以外は血管カテーテル感染が多い。
非好中球減少群では尿路感染症、腹腔内感染症の頻度が高い。

原因菌の比較
好中球減少+市中菌血症では緑膿菌が23.4% vs 2.9%と有意に多い.
 反対に大腸菌, ブドウ球菌, 腸球菌は少ない

緑膿菌感染のリスクに関わる因子は
 好中球減少 OR 7.48[3.20-17.47]
 男性 OR 2.22[0.98-5.03]
 肝硬変の合併 OR 0.32[0.14-0.74] となる

重症度, 予後の比較
当然好中球減少症+市中菌血症では重症例が多く、死亡率も高い。
28日死亡率は32.8%となる。

2015年6月23日火曜日

血球数によるびまん性大型B細胞リンパ腫の予後評価

非ホジキン悪性リンパ腫の予後判定にはInternational Prognostic Index(IPI)を使用するが、これはRituximabが使用可能となる以前より使用されていたものであり, 現在の状況には合わない可能性が高い。

IPI
Factor Adverse Feature
年齢 >60yr
Performance status >=3(Self-careのみ)
LDH >ULN
節外病変 >=2か所
Stage(Ann Arbor) III, IV
Risk Group Factors 5 Disease-free 5 生存率
Low 0-1 70% 73%
Low-intermediate 2 50% 51%
High-intermediate 3 49% 43%
High 4-5 40% 26%

Rituximab使用可能となってから、びまん性大型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後は著しく改善し、それに伴い予後予測スコアの再評価も必要となっている。

新たな予後スコアには
遺伝子による評価(GEP: gene expression profiling), Mutational analysis,
免疫組織学検査による評価(immunohistochemistry-based),
早期のPET所見からの評価など様々あるが, どれも費用のかかる検査.
血算、血球数からDLBCLの予後を評価する方法もあり, 好中球/リンパ球比(NLR), リンパ球/単球比(LMR), リンパ球数/単球数予後スコア(ALC/AMC PS)が有用との報告がある。血算による評価は非常に安価である点が利点と言える。
好中球/リンパ球比(NLR)による予後予測
DLBCLでR−CHOPで治療された255例においてNLRと予後を評価した後ろ向きStudy
 NLR < 3.5は有意にOS, PFS良好を示唆する.
 5年OS 87% vs 56%
 5年PFS 72% vs 45% (Am J Hematol. 2010 Nov;85(11):896-9.)
リンパ球/単球比 (LMR)による予後予測
DLBCLでR−CHOPで治療された438例を解析
 そのうち200例をランダムに抽出し, LMRと予後の関係を評価し, その後残りの238例と全患者(438例)でValidationを施行した.
 LMR≤2.6は有意な予後不良因子となる (PLoS ONE 7(7): e41658.)

DLBCLで治療された1057例を対象としてLMRと予後を評価.
 リツキシマブ使用群(700例), 非使用群(357例)で評価.
リツキシマブ非併用群ではLMRは予後予測因子とはならない
 (4年OS 61%[LMR>2.6] vs 56%[LMR≤2.6])
リツキシマブ併用群ではLMRは予後予測因子となる
 (4年OS 86%[LMR>2.6] vs 73%[LMR≤2.6]) (Am. J. Hematol. 88:1062–1067, 2013.)
アジア人を対象としたNLR, LMR, ALC/AMC PSの評価
台湾におけるDLBCLでR−CHOPで治療された 148例の後ろ向き解析
上記患者群においてNLR, LMR, ALC/AMC PSの予後予測能を評価.
NLR >4.36は有意にOS, PFS増悪因子となる
 NLR ≤4.36は5年OS 78.4%, PFS 74.6%
 NLR >4.36は5年OS 58.0%, PFS 43.6%
LMR ≤2.11も有意にOS, PFS増悪因子
 LMR >2.11では5年OS 79.9%, PFS 74.5%
 LMR ≤2.11では5年OS 58.9%, PFS 48.7%
ALC/AMC PSは以下で評価:
 低リスク群 : ALC >1162/µL + AMC ≤ 555/µL
 中リスク群: ALC ≤1162/µL もしくは AMC > 555/µL
 高リスク群: ALC ≤1162/µL + AMC > 555/µL
  低リスク群(5年OS 94.4%, PFS 87.0%), 
  中リスク群(5年OS 71.2%, PFS 71.2%)
  高リスク群(5年OS 41.0%, PFS 31.0%)
DLBCLでRを含む化学療法を行う患者群において
CBCによる血球数の評価はほぼ費用はかからず治療反応性を予測する一つの指標となりえる.

2015年6月22日月曜日

動物咬傷によるアナフィラキシー

ある日の当直での症例
中年男性で喘息発作との触れ込みで夜間の救急外来を受診。
喘息既往はあるものの小児喘息のみで成人になって発作はない人。
1時間ほど前より喘鳴が出現し、増悪傾向とのこと。

薬剤使用なし。

みると顔面は紅潮。体幹には紅斑がある。
喘鳴は両側で著明。
血圧は90台、心拍数110bpm、呼吸数24、SpO2 95%(RA)

紅斑は顔面、体幹にあるが、右手がもっとも強い。膨疹もある。
右手の人差し指を見ると、噛まれた後があり、その部位が発赤している。

ハムスターを数年間飼っており、ちょっと前(喘鳴が生じる前)に噛まれたと。
ただ、噛まれたことは何回もあり、いままでこのようなことにはなったことはないとのこと。

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症状からは喘息発作ではなく、アナフィラキシーショックであることは容易に推測がつくでしょう(実際はあまり紅斑は目立たず、小児喘息のみの患者での喘鳴、という点から他の原因を評価し、気づいた症例ですが)

他に薬剤や食事、蜂刺されなどは認められず、
アナフィラキシーの原因としてハムスター咬傷を疑いました。

アナフィラキシーショックの原因、といえば虫(蜂)刺傷や食物、薬剤が三大原因。
この3つで原因の90%を占める。

西欧(ドイツ語圏)の4000例のAnaphylaxis患者の原因
(Dtsch Arztebl Int 2014; 111: 367−75)


と、あまり動物咬傷は一般的な原因とは言えない。

動物や蜂以外の虫によるアナフィラキシーもチラホラと報告されており、
以下の動物、虫が原因の症例報告がある(The Journal of Emergency Medicine, Vol. 36, No. 2, pp. 148–156, 2009)

サシガメ, メクラアブ, ツェツェバエ, マツ行列毛虫
マダニ, ヒメダニ, サソリ, クラゲ, ヘビ, リンカルス

ラット, ハムスター, ネズミ

他には日本国内から犬や猫咬傷でアナフィラキシーとなった症例報告もあった。
(Chudoku Kenkyu. 2004 Apr;17(2):155-8. Allergol Int. 2012 Sep;61(3):511-2.)

動物では齧歯類での報告例が多い。
これはペットや研究用動物として暴露する人間が多い点、そして噛まれやすい点が理由として考えられる。

北海道大学において研究用ラットやウサギとの暴露歴がある学生, 研究員を対象に特異的IgE抗体を評価. (Arerugi. 2014 Sep;63(8):1132-9.)
 特異的IgE抗体陽性率はマウス(14.1%), ラット(17.9%), ハムスター(18.8%), モルモット(17.4%), ウサギ(11.3%)

 陽性例の方がアレルギー症状も多い結果(38.1% vs 8.8%)

アレルギー症状で一般的なのは吸入抗原による喘息発作や鼻炎、結膜炎であり、
アナフィラキシーとなるのは極一部のみ。(Ann Allergy Asthma Immunol 111 (2013) 223-224)

また、数年〜数十年暴露し、ある日突然アナフィラキシーショックを呈する症例報告も多いことから、注意が必要となる。(Ann Allergy Asthma Immunol 111 (2013) 223-224)

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ということで、ハムスター咬傷によるアナフィラキシーは報告例はあるが、意外に少ない。
判明していないだけなのか、本当に稀なのか。

動物がアナフィラキシーの原因としてあまり認知されていない点、
長年飼っていることが多いため、その点も認知されにくいのかもしれません。

2015年6月17日水曜日

甲状腺機能低下症では大球性貧血になるのか?

研修医時代には軽度の大球性貧血として甲状腺機能低下症が鑑別に挙がる、と習った。

ただ、その後 多くの甲状腺機能低下症患者を診療しているが、あまり大球性貧血となるイメージはない。

甲状腺機能低下症において大球性貧血となる根拠は実は乏しく、
調べてもあまり文献がヒットしない。

28例の甲状腺機能低下症患者において, 甲状腺補正前と補正後のMCVを比較すると, 16%低下した. (Am J Hematol. 1988 Mar;27(3):190-3.)

甲状腺機能低下症では脂質代謝異常が生じ、それにより赤血球膜の異常が生じるため、MCVが増大するという機序も指摘されている。(Scand J Haematol. 1984 Jan;32(1):19-24.)

甲状腺機能低下症ではVit B12や葉酸欠乏も合併しやすい(鉄欠乏も)ため、大球性となりやすいのかもしれない。

高齢者においてTSH値, FT4値とMCV, Hbの関連を評価したStudyでは, 
 T4が0.4 ng/dL減少毎にHbは0.19g/dL減少し
 MCVは変化を認めない結果であった。(European Journal of Internal Medicine 24 (2013) 241–244 )
 ただし, これらは甲状腺機能正常患者を対象とした評価であり、
 甲状腺機能異常群ではないことに注意。

Iran J Ped Hematol Oncol. 2013;3(2):73-7. において, 甲状腺機能と赤血球データを評価した結果,
 甲状腺機能亢進症も低下症でもHbは有意に低下する。
 そしてMCVは有意差があるものの、ほぼ変わらない。むしろ低下する。
 RDWは開大する。 という結果。

従って、
甲状腺機能低下症は正球性貧血の原因にはなるが、
大球性貧血となるわけではない、可能性が高い。
大球性貧血ならば他の原因の評価も考えた方が良いし、
正球性貧血で甲状腺機能異常を評価することも重要ということ。

2015年6月16日火曜日

軽度の好中球減少患者では甲状腺をチェック

正球性〜大球性貧血患者では甲状腺機能をチェックする人は多いと思いますが、
軽度の好中球減少でも甲状腺機能異常が多いのではないか、という報告。


High Frequency of Thyroid Disorders in Patients Presenting With Neutropenia to an Outpatient Hematology Clinic STROBE-Compliant Article. 
(Medicine 94(23):e886)

好中球数 <2000/µLの好中球減少が3ヶ月以上持続し、血液内科紹介となった218例を対象とした前向きStudy.
これらの患者において好中球減少の原因を評価

原因頻度
甲状腺機能異常が43.6%と最多.
 内訳は橋本病が51例で最も多く、ついでNontoxic goiter, 抗体陰性甲状腺機能低下症
 甲状腺切除後も合わせると、68例が甲状腺機能低下症となる。

特発性は30%程度。
他には自己免疫性、薬剤性、感染症、栄養障害、血液腫瘍など。
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バセドウ病は好中球寿命の低下を引き起こし、血球減少の原因となるが、甲状腺機能低下症も好中球数の低下に関連する可能性がある。
橋本病では抗好中球抗体の産生や自己免疫機序による好中球減少の機序もあるが、甲状腺機能低下自体も好中球減少に関わる可能性があり。

健常人コントロールとの比較がないのでリスクがどの程度かは評価できず。
ただ、「よく分からないけどWBC低いよね」という患者では甲状腺機能は評価しておくと良い。

最近も慢性(数カ月経過)の軽度の好中球、白血球減少の高齢患者がいましたが、その人は自己抗体陰性甲状腺機能低下症でした。チラーヂンにて補正中ですが、今後の好中球数を見守りたいと思います。

2015年6月11日木曜日

脳梗塞の急性期治療: 血管内治療

脳梗塞: 血管内治療
Lancet Neurol 2007; 6: 1086–93

ICAやMCAのようなLarge vesselの梗塞に対するカテーテル治療が近年増加している.
 このようなタイプの脳梗塞ではt-PAの効果はやや劣る傾向があり, 血管内治療が期待される.(再灌流率0-33%)
 血管内治療には局所的血栓融解, ステント留置, 血栓除去がある.
局所的血栓融解
 カテーテルを使用し, 閉塞部位直前でt-PAを投与する方法.

 PROACT II study; MCA梗塞発症6hr以内の症例に対して, カテーテルを使用し, pro-urokinase 6mg vs Placeboに割り付け比較 (生食に溶解し, 30ml/hで2時間投与).
両群ともUFHは投与(2000IU bolus, 500IU/h)
  >> 再灌流率は66% vs 18%とカテーテル治療群で有意に良好.
  >> mRS≤2は40% vs 25%とこれもカテーテル群で良好.
 EMS trial; N=35で, 動脈内t-PA投与 ± IV t-PAを試行.
 再灌流率は良好であったが, 神経学的予後は有意差無し.
 動脈内t-PA群ので有意に症候性出血合併率, 死亡率が高かった
 IMS I, II trial; t-PA 0.6mg/kg投与後, 動脈内t-PA ≤22mgを使用.
 脳出血リスクはNINDS trialと同等(6.6~9.9% vs 6.4%)で, 死亡率もNINDSと同等(16% vs 21-24%).
 RCTではなく, 神経学的予後や具体的な比較は困難. 
 RCTであるIMS IIIでは血管内治療の有効性は認められなかった.

発症3hr以内の脳梗塞(動脈閉塞)に対して, Phase 1(2002-7)ではt-PA投与のみ, Phase 2(2007-8)ではt-PA投与+血管内治療を行い, 結果を比較 (Lancet Neurol 2009;8:802-9)
 Phase 2では, t-PA IV 0.6mg/kg施行後, 動脈内にカテ留置し, 閉塞を評価.
 閉塞が残存していれば, t-PA IA 0.3mg/kg施行.
 それでも閉塞が残存していれば, Angioplastyを施行.
Outcome IV(n=107) IV-IA(n=53) RR
Recanalisation 52% 87% 1.49[1.21-1.84]
NIHSS 0-1 or >4pt低下@24hr 39% 60% 1.36[0.97-1.91]
mRS 0-2@90d 44% 57% 1.16[0.85-1.58]
死亡率@90d 17% 17% 1.06[0.51-2.20]
全出血性副作用 37% 28% 0.93[0.56-1.56]
症候性出血 11% 9% 1.12[0.44-2.89]
 頸動脈閉塞, 非頸動脈閉塞群双方でIV-IAがRecanalisation率が良好との結果であったが
mRSは有意差がなかった.

デバイスによる血栓除去
MERCI; コイル状のワイヤーで血栓を掻き取るデバイス.
 根元の部分はバルーンで, 一度血流を遮断し, 小血栓が末梢に飛ばない様な工夫がある.
Multi MERCI trial; 発症8h以内のLarge vessel stroke 168名のProspective trial. 
Stroke. 2008;39:1205-1212
 MERCIとL5 Retriever(131例)を使用.
 このデバイスによる再灌流率は57.3%, 動脈内t-PAに追加して行った場合は69.5%の再灌流率であった.

Merci retrieval systemのまとめ Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S126–S134
 再灌流率は63.6%, 90日でのmRS≤2達成率は32%.
 症候性頭蓋内出血は7.3%, 合併症が6.3%.

他のデバイスとの比較
Solitaire; ネット状のワイヤーで血栓を除去するデバイス.
SWIFT trial; Solitaire flow restoration device vs Merci Retriever Lancet 2012; 380: 1241–49
 NIHSS 8-30, t-PA非適応もしくは効果の乏しい血管内治療の適応となる発症8hr以内の脳梗塞例 113例のRCT.
 Solitaire vs Merciに割り付け, 両群で神経予後を比較.

Solitaire Merci OR
再灌流(+), 脳出血(-) 61% 24% 4.87[2.14-11.10]
90d神経学的予後良好 58% 33% 2.78[1.25-6.22]
90d 自立達成 36% 29% 1.39[0.61-3.18]
90d mRS 3[1-4] 4[2-6] p=0.035
90d ADL(Barthel index) 70[15-100] 22.5[0-100] p=0.054
90d NIHSS 4.5[1.0-12.5] 30.0[2.0-42.0] p=0.007
Solitaireの方が再灌流率, 神経学的予後が良好であった.

Trevo; 血栓内部を一旦通過させ、ネット状のワイヤーを拡張させることでまず血流を確保し、後に起始部のバルーンを拡張させ、最終的に血栓を回収、残存血栓を吸引する道具,
TREVO 2; Trevo vs Merci Lancet 2012; 380: 1231–40
 発症≤8hのLarge vessel stroke 178名のRCT.
 患者は18-85y, NIHSS 8-29.
 アウトカム; Trevoの方が再灌流達成が良好.

Trevo Merci OR
TICI≥2 再還流達成 86% 60% 4.22[1.92-9.69]
TICI 0 8% 17% 0.44[0.14-1.22]
TICI 1 2% 20% 0.09[0.01-0.42]
TICI 2a 22% 20% 1.12[0.51-2.47]
TICI 2b 54% 38% 1.93[1.02-3.68]
TICI 3 14% 6% 2.68[0.83-10.13]
90d mRS 0-2達成 40% 22% 2.39[1.16-4.95]
脳梗塞発症時間と血管内治療の効果
発症3h以内
IMS III trial; 発症3h以内でt-PA治療施行した脳梗塞患者のRCT. N Engl J Med 2013;368:893-903.
 t-PA+血管内治療群 vs t-PAのみの治療群に2:1で割り付け, 比較.
 アウトカムは90日におけるmRS≤2 (機能的自立達成)
 StudyはN=656の時点で両者に有意差を認めない為に中止.
アウトカム; 

 神経学的予後, 脳出血合併率, 死亡率は両者で有意差無し.
 Subgroup解析でも特に有意差を認める項目は無し.
 合併症は血管内治療群で無症候性脳出血(27.4% vs 18.9%)とくも膜下出血(11.5% vs 5.8%)のリスクが有意に上昇した。

発症4.5h以内
SYNTHESIS trial; 発症4.5時間以内の脳梗塞362例のRCT N Engl J Med 2013;368:904-13
 血管内治療群(経動脈t-PA, 血栓除去術, その組み合わせ) vs. 経静脈t-PA群に割り付け, 3ヶ月後の神経予後を比較.
 母集団; 平均年齢66-67歳, NIHSS 13[9-18]
 心原性塞栓 32-34%, 解離 2-8%, 小血管病 7%. 前方循環 88-94%, 後方循環6-10%.
アウトカム; 3mo後の神経予後は両者で有意差無し.
脳出血, 死亡率も両者で有意差なし.

EXTEND-IA trial
発症4.5h以内の脳梗塞でt−PAの適応となる症例を対象としたRCT.
(Endovascular Therapy for Ischemic Stroke with Perfusion-Imaging Selection. N Engl J Med 2015.)
 t−PA投与に加えて血管内治療群 vs t−PA単独群に割りつけ, 再灌流率, 神経予後を比較.
 患者はCTAにてICA, MCAの閉塞を認める群で, 発症4.5h以内の脳梗塞
 CT perfusionでペナンブラ部位(造影ピークまで6秒以上遅延する部位)と不可逆性の部位(Ischemic core: 脳血流が30%未満)を評価した.
 血管内治療は発症6h以内に施行し, 8h以内に終了できるように調節.

StudyはN=70の時点で血管内治療群で有意に予後改善を認めたため中断
母集団の
発症から受診までの時間は80分[56-115], 78分[54-112]
Ischemic coreは19.6±17.4ml, 18.9±18.5ml
Perfusion-lesionは116±48ml, 105±39ml

CT perfusionにおいてペナンブラが明らかであれば発症<4.5hでもt−PA+血管内治療を併用するほうが予後は良い.

SWIFT PRIME trial: t−PA静脈投与の適応となる発症<4.5hの脳梗塞患者を対象としたRCT.
(N Engl J Med 2015;372:2285-95.)
 t−PA投与のみの群 vs 血栓除去術施行群に割つけ, 比較
 血栓除去はstent retrieverを使用.
 カテーテル治療は発症後6時間以内に施行.
 患者はICA, MCA M1の閉塞で, large Ischemic−coreを認めない症例*

*画像所見によるExclusion criteria
 CT, MRIで出血(+)
 CT, MRIで頭蓋内腫瘍あり
 CT, MRIでCNS血管炎所見あり
 CTの低吸収域, MRIの高信号域がMCA領域の1/3を超える
 初期の単純CT, MRI-DWIで中/広範囲の梗塞巣を認める(ASPECTS<6)
 脳底動脈閉塞所見, PCA閉塞所見あり
 治療者がカテーテル治療が不適切と思うような画像所見.

StudyはN=196の時点で有意差が出たため終了.
血管内治療による再灌流までは252分
血管内治療併用群では有意に神経予後改善効果が認められた
Sub解析ではASPECTS 8-10で有意に予後改善効果が認められている。

発症6h以内
MR CLEAN trial: 前方循環の近位部の梗塞で, 発症6時間以内に血管内治療が可能な患者500例を対象 A Randomized Trial of Intraarterial Treatment for Acute Ischemic Stroke. NEJM 2015 
 近位部とは内頸動脈遠位部, M1,M2,A1,A2の閉塞がCT angio, MRA, 血管造影で証明されるもの.
 通常治療 + 血管内治療 vs 通常治療のみの群に割り付け, 90日後のmRSを比較した.
 通常治療にはt−PA, Urokinaseも含まれる.
 血管内治療は動注療法, 血栓除去, 吸引. 施設の方法となる.
 患者の平均年齢は65.7歳, NHISSは中央値17-18程度.
 t−PAを使用したのは86%, 投与までの時間の中央値は86分であった.
アウトカム
 90日後のmRSは血管内治療群で有意に改善あり
 mRS 0−3, NIHSS改善効果も血管内治療群で良好となる.
 画像所見でも閉塞所見や脳梗塞範囲の改善効果が見込める
 また, 合併症は両者で有意差なかった.

発症8h以内
MR RESCUE trial; 発症8h以内の前方循環, 大血管性の脳梗塞患者118名を, 血管内治療 vs 通常の治療に割り付け N Engl J Med 2013;368:914-23.
 また, MRI, CT所見において, “favorable penumbral pattern”, “non-penumbral pattern”の2つに分類し, 各群で割り付けた.
 favorable penumbral pattern; 予測梗塞コアが≤90mlで, 予測梗塞組織が梗塞リスク領域の70%以下で定義.
アウトカム; mRS≤2を予後良好と判断.
 58%がfavorable penumbral patternと判断.
 両群で神経学的予後は有意差無し.
 penumbral pattern, non-penumbral別の評価でも特に予後は変わらない. >> 画像検査結果で適応は決められない.

REVASCAT trial: 発症8時間以内の脳梗塞患者を対象として内科治療(t−PAを含む) + 血管内治療 vs 内科治療のみで比較 (N Engl J Med 2015;372:2296-306.)
 脳梗塞は前方循環系の近位部の閉塞で, 画像検査で広範囲の梗塞巣が認められない症例.
 発症<4.5hではt−PAを使用し, 投与30分後で再灌流を得られない症例
 それ以外に発症<8hのt−PAの適応とならない症例を対象とした.
 除外項目はASPECTS<7(単純CT), <6(MRI)は除外

 160例導入後は85歳まで範囲を拡大し,ASPECTS <8を除外項目に変更.

アウトカム: 神経予後は血管内治療群で有意に改善.
Sub解析ではASPECTS>8で有意に神経予後が改善しており、
SWIFT PRIMEを合わせてASPECTSを一つの判定基準とすることもありかもしれない。

血管内治療 vs t−PA療法のMeta-analysis Mayo Clin Proc. 2013;88(10):1056-1065
5 RCTs, N= 1197 (MR CLEANは含まれていない)
血管内治療群 vs IV−tPAの比較ではmRS, 死亡率, 頭蓋内出血に有意差なし

Sub-analysisでは, 発症6h以内, 以降別でも有意差無し.
NIHSS≥20の重症例でのみ血管内治療で予後が改善する可能性があるが, それを示唆するStudyは1つのみ.
また, 5 RCTsのみであり, Biasも強いと考えられる.

デバイス間の比較のStudyではほとんどが適応を8h以内で行っており、再灌流率も良好であることを考えると、発症8h以内で血管内治療が効果的である可能性が高いか。
またMR CLEANを含めてMetaすれば6h以内では有意差が出るであろう。
まとめると
3h以内ではt−PAと変わらず、出血リスクが上昇する
4.5h以内ではt−PAと同等 ただし、CT perfusionの結果次第で血管内治療併用がより効果的な可能性がある。適応基準は不明。
6h以内では効果的
8h以内では多分効果的 という感じ。

12h以内を対象としたESCAPE trialが発表されたが、そもそもの患者が4.5h以内が大半をしめるため、それで12h以内が効果あるというのはできそうもない。
(Randomized Assessment of Rapid Endovascular Treatment of Ischemic Stroke. N Engl J Med 2015)

血管内治療適応アルゴリズム Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S243–S255
これと、さらにEXTEND-IAの結果から
 発症<4.5hではIV t−PAを行う. CT perfusionにおいてペナンブラを認める場合、t−PA適応がない場合は血管内治療を考慮
 t−PA治療を行い, 再灌流が認められない場合は血管内治療を考慮
 発症4.5-8時間ではt−PA適応はないため、血管内治療を考慮する
 発症8時間以降では非侵襲的検査を行い、大血管閉塞が認めらた場合に血管内治療を考慮する。ただし8時間を超えておこなう場合のエビデンスは乏しく、主に後方循環での報告となる。

血管内治療の適応クライテリア Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S243–S255
適応項目
, 大血管閉塞による症状
経カテーテル線溶療法は
発症から6hr以内に施行可能
Deviceによる血栓除去術は
発症から8hr以内に施行可能(前方循環)
Deviceによる血栓除去術は
発症から12hr以内に施行可能(後方)
発症6-8hrを超える症例では,
他の画像所見で適応を決める
Potentially disabling neurologic deficit
IV t-PA投与後も症状増悪する症例
除外項目
血管狭窄で手技が困難
大動脈解離が疑われる場合
sBP>185,dBP>110でコントロール不能
PLT<3
ワーファリン使用し, INR>3.0
出血素因がある場合
血糖<50mg/dL
痙攣による麻痺が疑われる場合
画像所見において,
 Midline shiftを伴うMass effectあり
 頭蓋内出血
 亜急性で, MCA領域1/3 or >100ccの梗塞を伴う
 脳腫瘍, 膿瘍, 血管奇形, 瘤などでは線溶療法禁忌
 小さな動脈瘤や良性腫瘍ならば血栓除去は可能
相対禁忌
3mo以内の脳, 脊椎手術, 頭部外傷, 他部位の脳梗塞
頭蓋内出血の既往歴
ターミナル期
妊婦(リスク vs ベネフィットを考慮すべき)
亜急性のIE ± Mycotic aneurysm, stroke
dabigatran使用中の患者
IV t-PA後の血栓除去術の相対禁忌
血糖 >400mg/dL, 頭蓋内出血リスクを考慮して行う
血液透析患者も出血リスクが上昇
血管内治療時のマネージメント Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S182–S191
血圧のコントロール
 sBP<185, dBP<110を目標に降圧. t-PAと同じ.
抗血小板薬は,
 t-PA投与例では24hr以内のアスピリンは頭蓋内出血リスクとなるため, 24hr以降の開始が推奨される. これは動脈内t-PAでも同様.
 Deviceによる血栓除去のみの場合は, 術後の画像検査にて出血がなければ即時開始することが推奨されている.
他のManagementは通常の脳梗塞と変わらない.

血管内治療時, 中の抗凝固療法 Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S174–S181
 決まったものは無し. カテーテル由来の血栓の予防効果,
 閉塞の解除効果が見込めるが, 頭蓋内出血のリスクが増加する
 各Studyでは以下のような対応が取られている.

血管内治療の合併症頻度 Neurology® 2012;79 (Suppl 1):S192–S198