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2015年6月17日水曜日

甲状腺機能低下症では大球性貧血になるのか?

研修医時代には軽度の大球性貧血として甲状腺機能低下症が鑑別に挙がる、と習った。

ただ、その後 多くの甲状腺機能低下症患者を診療しているが、あまり大球性貧血となるイメージはない。

甲状腺機能低下症において大球性貧血となる根拠は実は乏しく、
調べてもあまり文献がヒットしない。

28例の甲状腺機能低下症患者において, 甲状腺補正前と補正後のMCVを比較すると, 16%低下した. (Am J Hematol. 1988 Mar;27(3):190-3.)

甲状腺機能低下症では脂質代謝異常が生じ、それにより赤血球膜の異常が生じるため、MCVが増大するという機序も指摘されている。(Scand J Haematol. 1984 Jan;32(1):19-24.)

甲状腺機能低下症ではVit B12や葉酸欠乏も合併しやすい(鉄欠乏も)ため、大球性となりやすいのかもしれない。

高齢者においてTSH値, FT4値とMCV, Hbの関連を評価したStudyでは, 
 T4が0.4 ng/dL減少毎にHbは0.19g/dL減少し
 MCVは変化を認めない結果であった。(European Journal of Internal Medicine 24 (2013) 241–244 )
 ただし, これらは甲状腺機能正常患者を対象とした評価であり、
 甲状腺機能異常群ではないことに注意。

Iran J Ped Hematol Oncol. 2013;3(2):73-7. において, 甲状腺機能と赤血球データを評価した結果,
 甲状腺機能亢進症も低下症でもHbは有意に低下する。
 そしてMCVは有意差があるものの、ほぼ変わらない。むしろ低下する。
 RDWは開大する。 という結果。

従って、
甲状腺機能低下症は正球性貧血の原因にはなるが、
大球性貧血となるわけではない、可能性が高い。
大球性貧血ならば他の原因の評価も考えた方が良いし、
正球性貧血で甲状腺機能異常を評価することも重要ということ。