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2014年9月29日月曜日

VAP(Ventilator Associated Pneumonia) 予防: 体位, 口腔内ケア

Ventilator Associated Pneumonia: 人工呼吸器関連肺炎
体位による予防, 口腔内のDecontaminations

挿管管理中はHead-up 30-45度維持は必須.
 VAP予防効果はNNT 4-6と非常に高い
86名の挿管, 人工呼吸器管理患者のRCT Lancet. 1999 Nov 27;354(9193):1851-8.
Semirecumbent(39) vs Supine(47) positionにて管理し, 臨床的, 微生物学的VAP発症率を評価.
Semirecumbentは45度Head-upの体位.
Outcome
Semirecumbent
Supine
AD
NNT
臨床的VAP
8%
34%
26%[10-42]
3.8
微生物学的VAP
5%
23%
18%[4-33]
5.6
差がつきすぎたため, Studyは途中で中止となっている.
又、このStudyよりVAPのRisk Factorとして,
 Enteral Nutrition OR 5.2[1.3-24.8]
 Supine position OR 6.2[1.5-29.7]
 GCS <9 OR 7.1[2.0-26.5] が認められた.

患者の体位とVAPのリスクを評価したMeta-analysis Journal of Critical Care (2009) 24, 515–522
 45度Head-upを評価した3 RCTs(N=337), 腹臥位を評価した4 RCTs(N=1018)
VAPリスクは45度Head-upでOR 0.47[0.27-0.82]と有意に低下.
腹臥位では低下する傾向にあるが, 有意差は無し.
死亡リスクについては両者とも有意差無し.

Head-up + 側臥位がベスト
ICUで挿管管理(48h以内)された150例のRCT. Crit Care Med 2010; 38:486 – 490
 肺炎, ARDSで挿管された患者群や側臥位に出来ない患者は除外.
 患者は48h以上挿管管理された群.
 通常の管理 + Continuous lateral rotation therapy群 vs 通常の治療群でVAP発症リスクを比較.
CLRT; 上体を最大90度側臥位に維持する方法. 60度から開始し, 2-6hrかけて90度まで上げる.1日あたり18時間以上の側臥位を維持する.
 CLRTはHead-up 30-45度の状態で行い, 通常の治療群はHead-upとsemilateral position を2-4h毎に行う.
アウトカム
28日以内のVAPはCLRT群で11% vs 23%と有意にリスク低下.
挿管期間も短縮する.

Head-upが循環に及ぼす影響
挿管患者で血行動態安定している200例を対象としたRCT Critical Care 2013, 17:R80
 0度, 30度, 45度Head-upにて平均動脈圧(MAP), ScvO2を評価.
 血行動態安定とは, 昇圧剤は使用可能で, 血圧が安定しており, 追加補液を必要としていない状態.
 急性心不全, ECMO, PCPS使用等は除外. 臥位や体位を調節できない患者も除外.
体位の変換によるMAP, ScvO2の変化

45度ではMAPもScvO2も有意に低下. 30度ではMAPのみ低下.
Head-upにて血圧が低下するリスク因子
 NA使用, PEEP, 呼吸器モード(Controlモード)で有意に血圧低下のリスク.
 バックレストを上げる方法はリスク低下因子.

口腔内のDecontaminations
口腔内Chlorhexidine Rinseの院内肺炎に対する効果
 >=48hrの人工呼吸管理を必要とする患者385名を3群に割り付け
 Placebo(PLAC) vs 2%CHX vs 2%CHX/COLの3群でVAPの頻度を比較 
 口腔, 頬粘膜に上記薬剤を6hr毎に塗布. CHX; Chlorhexidine, COL; Colistin (RCT, DB)
(Am J Respir Crit Care Med 2006;173:1348-55)
 VAPは臨床医の判断 + 3名のICU医の判断により判定.
Outcome; VAPの発症率
Outcomes
PLAC
CHX
CHX/COL
P vs C
P vs C/C
VAP
18%
10%
13%
HR 0.35[0.16-0.79]
HR 0.45[0.22-0.93]
 気管チューブのColonizationもCHX, CHX/COLで有意に少ない
 死亡率, ICU滞在期間は3者有意差無し.
 口腔内DecontaminationはVAP発症率を減少させる
 0.12%CHXを使用するEvidence Levelの低いStudyもあり(心臓手術患者に対する)

11 RCTのMeta-analysis(N=3242) (BMJ 2007;334:889)
 抗生剤の口腔内塗布(4 trials, N=1098)に関しては, VAP Riskの軽減効果無し(RR 0.69[0.41-1.18])
 Antiseptic oral decontamination(7 trials, N=2144)に関しては, VAP Risk低下効果を認める(RR 0.56[0.39-0.81]), NNT14[10-31].
 死亡率に関しては, 抗生剤, Antisepticの口腔内塗布によるRisk軽減効果は無し(RR 0.97[0.80-1.18])
 人工呼吸器離脱までの期間, 入院期間も有意差は認めない.

Chlorhexidineもしくはpovidone-iodineを用いた口腔ケア
 vs 通常の口腔ケアにおいて, VAPリスクを比較した14 trialsのMeta
Lancet Infect Dis 2011; 11: 845–54
 12 trialsがChlorhexidine(N=2341), 2 trialsがiodine(N=140)
 CHXは0.12%~2%(最多は0.12%, 0.2%)の口腔リンス(15ml)を用いて, 1日2-4回の口腔ケア(最多は2回)を行う.
 Iodineは1%溶液を3回/d, 10%溶液を6回/dで使用している.
Outcome; 
  VAPリスクはCHXによる口腔ケアで有意に低下(RR0.72[0.55-0.94])
  Iodineでは有意差無いが, 減少する可能性あり(RR0.39[0.11-1.36])
 CHXの濃度別のリスク評価: 2%でのみ有意差あり.
0.12% (6 trials)
0.73[0.51-1.05]
0.2% (4 trials)
0.79[0.46-1.36]
2% (2 trials)
0.53[0.31-0.91]

イソジンによる口腔ケア vs Placebo. Crit Care Med 2014; 42:1–8
 頭部外傷でGCS≤8, 脳出血で24h以上の挿管管理となった患者で, イソジンによる口腔ケア 6回/d vs Placeboに割り付け, VAP, VATのリスクを比較したDB-RCT. N= 179.
 結果は両者で有意差無しとの結果. 死亡率も同等.

Chlorhexidineによる口腔ケア vs Placeboを比較した16 RCTsのMeta. JAMA Intern Med. 2014;174(5):751-761
RR
心臓外科患者
非心臓外科
全体
院内肺炎リスク
0.56[0.41-0.77]
0.78[0.60-1.02]
0.73[0.58-0.92]
死亡リスク
0.88[0.25-3.14]
1.13[0.99-1.29]
1.13[0.99-1.28]
挿管期間
-0.05[-0.14~0.04]
-0.15[-2.18~1.89]
0.01[-1.12~1.14]
ICU期間
-0.10[-0.25~0.05]
0.08[-1.41~1.57]
-0.10[-0.25~0.05]
 院内肺炎リスクは心臓外科患者群でのみ有意差がある.
 死亡や滞在期間, 挿管期間では有意差は認められなかった.

口腔内のクロルヘキシジンについてはMeta-analysisの年代, 含まれるRCT, Sub-analysisによりVAP予防効果があるとするものもあれば, 無いとするものもある.
濃度別では2%のみ効果を認めており, 母集団別では心臓外科患者のみで有意差を認めた報告もある. 
行うならば2%以上のクロルヘキシジンを用いるべき.
またイソジンでは効果は無い模様.

SDD, SOCの効果
Selective Digestive Decontamination(SDD); 非吸収性抗生剤の口腔内, 食道, 胃内の塗布 Tobramycin, Colistin, Amp B
Selective Oropharyngeal Decontamination(SOD); 非吸収性抗生剤の口腔咽頭塗布

 抗生剤塗布 ± 抗生剤投与 vs Placebo ± 抗生剤投与にて VAP Riskは0.52[0.43-0.63], 死亡Risk 0.97[0.81-1.16] (Cochrane Database of Systematic Reviews 2004, Issue 1. Art. No.: CD000022)

ICU入室 >72hr, 挿管>48hrが予測される患者5939名のCluster RCT NEJM 2009;360:20-31
通常治療 vs SDD vs SODで比較
 SDD; Selective digestive tract decontamination
  4日間のCefotaxime DIV, Tobramycin, Colistin, Amp Bの口腔内, 胃内塗布
 SOD; Selective oropharyngeal decontamination
  4日間のTobramycin, Colistin, Amphotericin Bの口腔内塗布のみ
アウトカム
Outcome
Standard
SDD
SOD
SDD HR
SOD HR
SDD NNT
SOD NNT
28日死亡率
27.5%
26.9%
26.6%
0.83[0.72-0.97]
0.86[0.74-0.99]
167
111
SDD,SODは有意に死亡リスクを軽減し得るが, NNTは100を超えている.
 人工呼吸器離脱, ICU退室, 退院率は有意差無し.

感染症 原因菌の頻度
原因菌
Standard
SDD
SOD
SDD HR
SOD HR
SDD vs SOD
S aureus
1.1%
0.4%
0.5%
0.40[0.20-0.93]
0.43[0.20-0.93]
0.93[0.37-2.40]
S pneumoniae
0.2%
0.0
0.1%
0.32[0.03-3.12]
0.35[0.04-3.35]
0.93[0.06-14.90]
GNR spp
1.8%
0.8%
0.9%
0.43[0.24-0.77]
0.49[0.27-0.87]
0.88[0.44-1.74]
Enterobacteriaceae
4.4%
0.9%
3.1%
0.19[0.12-0.32]
0.70[0.50-0.98]
0.28[0.16-0.47]
Enterococcus spp.
2.8%
2.3%
2.6%
0.85[0.57-1.25]
0.93[0.63-1.37]
0.91[0.61-1.36]
Candida spp.
0.8%
0.4%
0.7%
0.49[0.21-1.11]
0.91[0.45-1.85]
0.53[0.23-1.24]
1回以上の菌血症,
カンジダ血症
9.3%
4.3%
6.5%
0.44[0.34-0.57]
0.68[0.53-0.86]
0.65[0.49-0.85]

このStudyにおいて, SDD, SOD, Standard群で, 気道内, 直腸内の細菌検査を施行.
(Am J Respir Crit Care Med 2010;181:452-7)
各薬剤耐性菌の割合の変化
Sample
Drug
Pre
Intervention
Post
Rectal
Ceftazidime
6%[4.7-7.5]
5%[3.9-6.7]
15%[12.4-17.0]

Tobramycin
9%[7.7-11.2]
7%[5.5-8.7]
13%[10.4-14.7]

Ciprofloxacin
12%[9.7-13.5]
7%[5.1-8.2]
13%[10.8-15.2]
Respiratory
Ceftazidime
10%[7.6-13.3]
4%[2.6-4.6]
10%[7.4-13.0]

Tobramycin
10%[6.9-12.5]
6%[4.5-6.9]
12%[8.8-14.6]

Ciprofloxacin
14%[10.4-17.0]
5%[3.5-5.7]
12%[9.0-14.9]
直腸検体におけるCeftazidimeに対する耐性菌の有意な上昇が認められる.

上記Studyで3日以上ICUに滞在していた5463例(92%)をフォローし, 耐性菌リスクを比較
Lancet Infect Dis 2011; 11: 372–80
耐性菌による菌血症, 気道内のColonizationを評価.
 菌血症に関しては, SDD, SODを行った群で有意に低リスク.
 耐性菌による菌血症についても同様. SDD<SOD=Standardとなる.
気管内Colonization 

 SDD, SODでは真菌, 腸球菌のColonizeが上昇するが, 他の菌は減少.

 耐性菌に関しても著明な増加はなく, 減少する傾向すらある.

SDDのMeta-analysis
7 RCTのMeta(n=1270)では,  SODは多臓器障害のRiskは低下させても, 死亡率は低下させない. (Crit Care Med 2010;38:1370-6)
Outcome
SDD
Control
OR
多臓器障害
20.7%
34.6%
0.50[0.34-0.74]
死亡率
18.7%
22.9%
0.82[0.51-1.32]
突出した結果を出した2つのRCTを除けば, 多臓器障害合併率も有意差無し(OR0.84[0.48-1.41])
結果的に, SDDに関してはまだHigh-quality RCTが少なく, 死亡率も改善させない. 
多臓器障害が低下する可能性はあるが, それ自体は死亡には関連しないことは言える.

耐性菌を評価したMeta Lancet Infect Dis 2013; 13: 328–41
35 trialsのMeta. SDD, SOD群 vs Control群において, 耐性菌のリスクを比較.
多剤耐性菌
OR
MRSA
1.46[0.90-2.37]
VRE
0.63[0.39-1.02]
GNR
OR
アミノグリコシド
0.73[0.51-1.05]
ポリミキシンE, B
0.58[0.46-0.72]
FQ
0.52[0.16-1.68]
3rdセフェム
0.33[0.20-0.52]
 MRSA, VREのリスクは両者で変わらず.
 GNRのうち, ポリミキシン, 3rdセフェムに対する耐性菌の頻度はむしろ減少するとの結果.
 ただし, 短期的なStudyのみであり, 長期的な耐性菌リスクは不明.