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2014年9月30日火曜日

横隔膜の障害

横隔膜の障害 N Engl Med 2012;366:932-42

横隔膜の構造
 ドーム型の筋組織で胸腔と腹腔の境界.
 呼吸に最も関与する筋肉で, C3-C5からの横隔神経で支配
 筋組織は疲労しにくいSlow-twitch type I, Fast-twitch type IIa 線維.
横隔膜の機能障害
 原因不明の呼吸不全として横隔膜の機能低下が挙げられる.
 機能低下は部分的な運動障害(weakness)と完全麻痺(paralysis)がある.
 片側の機能障害では通常無症候だが, 基礎疾患に他の肺疾患合併例, 肥満患者では臥位時の呼吸苦を訴えることもある. また, 労作時呼吸苦も認めることがある
 身体所見では胸鎖乳突筋など補助筋の使用, 呼吸回数増加, 奇異呼吸を認める.

奇異呼吸 (Abdominal paradox)
 吸気圧が-30cmH
2O以下になると生じる現象. (閉鎖された気道で吸気すると起こる)
 片側の横隔膜麻痺では起こらない. もし認める場合は全体の呼吸筋低下が併存している

片側性と両側性横隔膜麻痺の比較
横隔膜障害の経過
基礎疾患により様々.
 Neuromuscular disease(筋ジストロフィーなど)ならば進行性, 外傷性や感染症に付随する麻痺ならば2/3が改善するが, 長期間を要する. 横隔神経の再生には3年くらいかかる.
 Neruralgic amyotrophyでは, 1-1.5年で完全に改善する.
 心臓外科後の麻痺ならばもっと短期間で改善が見込める.
 加齢とともに筋は衰えるため, それで症状が出現することも.

横隔膜障害の原因疾患
 主に中枢神経, 横隔神経, 肺, 筋疾患が原因となる
頸椎損傷はC1-2で多い
 C3-C5では頻度は低下し, C3損傷で人工呼吸が必要とされるのは40%, C4-5の損傷では15%のみ.

心臓外科手術での損傷は, 低温損傷が多い
 心臓を冷やす為に使用するCold NSによる低温損傷が主.
 直接損傷もあり得る.

感染症はVZV, Lyme病など.

GBSでは25%が人工呼吸となる.

Neuralgic amyotrophy(Parsonage-Turner syndrome)では5%
18-69時間の人工呼吸器管理にて横隔膜の萎縮を来す事も知られている.
NEJM 2008;358:1327-35

横隔膜障害の診断
胸部レントゲンでの横隔膜左右差
 片側の麻痺の検出には有用だが, 左右差はVentilator-dependentの患者や, 吸気努力が出来ない患者, 肺容積が低下している患者でも認めるため, 特異性低.
 
片側の麻痺に対する感度90%, 特異度40%.

FluoroscopyによるSniff test
 透視しながら鼻をすすることで, 横隔膜の鋭敏な運動を確認
 左右差があれば片側の麻痺の可能性が示唆.
 ただし, 偽陽性率は6%あり.

呼吸機能検査
 臥位での評価が有用.
 低侵襲で, 除外に使用可能.

sniff nasal inspiratory pressure
 片側麻痺では60%, 両側では30%と著明に低下する (予測値より)

エコーによる横隔膜の評価
 エコーで横隔膜の厚さ, 吸気時, 呼気時の厚さの変化, 横隔膜の運動自体を評価する方法もある.

横隔膜の運動 Am J Respir Crit Care Med Vol 187, Iss. 1, pp 20–27, Jan 1, 2013
腋窩中線, 肝臓からアプローチし, Mモードで横隔膜の動きを評価.
 吸気時に評価し, どの程度横隔膜が偏倚するかを評価.
 A; 1.8cm動いているが,
 Bはほぼ運動無く, 反対に吸気で横隔膜が挙上している.

横隔膜の厚さ
腋窩前線, 最下位肋間で評価. 7-13MHzのLinearを使用し, 臥位, 軽度上体挙上の体位.
皮下組織, 肋間筋, 横隔膜の三層が描出可能な部位で, 呼気時(最小), 吸気時(最大)の厚みの変化を評価する. Neurology® 2014;83:1264–1270
横隔膜は低エコー領域(D)
Aは呼気時の横隔膜(0.29cm)
Bは同じ患者の吸気時(0.6cm) 横隔膜比は2.1となる.
Cは横隔膜の萎縮例(0.05cm)

正常の横隔膜厚は>0.14cm. 吸気/呼気比は>1.2 (γ=0.89-0.98)

横隔膜機能評価方法のまとめ Am J Respir Crit Care Med Vol 187, Iss. 1, pp 20–27, Jan 1, 2013

呼吸苦(+)で横隔膜筋電図検査, 横隔神経伝導速度をオーダーされた66例で左右の横隔膜をエコーにて評価. Neurology® 2014;83:1264–1270
 66例を評価し, 1例のみ片側の横隔膜の描出が困難. 合計131の横隔膜を評価.
 その内 82部位で横隔膜の異常が最終的に判明した.
 エコーによる横隔膜異常の感度は93%, 特異度 100%

他の検査の感度, 特異度を評価すると
呼吸苦+患者において, エコーは神経伝導速度と同等の感度を有し,
筋電図と同等の特異度を有する優れた検査といえる . しかも低侵襲.