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2014年7月2日水曜日

高ガストリン血症 Hypergastrinemia

高ガストリン血症 Hypergastrinemia
Wien Klin Wochenschr (2007) 119/19–20: 564–569

血中ガストリン濃度は2つの機序で上昇 
 胃前庭のGastrin-producing G-cellからの分泌
 Gastrin-producing tumor cellからの分泌.

G-cellは胃前庭の中部の基底膜付近に位置.
 Somatostatin-producing D-cellにより調節を受ける.
 調節には, 食物, pH濃度, H pylori, 空腹, 胃酸濃度が関与.

高ガストリン血症の原因 機序による分類


Gastrin
Feedbackは正常だが,
自律性のガストリン分泌亢進
(Zollinger-Ellison syndrome)
+ ~ +++
胃酸によるG-cell Feedbackは正常
Type A Gastritis
Vagotomy
PPI
前庭切除(ビルロースII)
 
+++
+~++
+
+++
Gastrin代謝障害
腎不全
短腸症候群
 
+
+
H pylori感染症
+~++

Zollinger-Ellison Syndrome
Wien Klin Wochenschr (2007) 119/19–20: 564–569
World J Gastroenterol 2006;12:5440-6

腫瘍細胞によるGastrinの過剰分泌.
 慢性の高Gastrin血症によるEnterochromaffin-like cellの増生, Gastric foldの増加を認める.
 ZESの60-70%で十二指腸 or 膵臓のガストリノーマを認める.
 残りはMEN-1で, 十二指腸に多発性ガストリノーマを認める.
 ZES様の症状, 所見を認めるが, ガストリノーマに寄らないものをZES type 1と呼び, G cell hyperfunction, hyperplasiaが原因となる.(ZES type 2がガストリノーマによるZES.)
 消化管内分泌腫瘍でGastrinomaはInsulinomaに次いで多い腫瘍60%が悪性で, 低分化癌に分類. 好発年齢は40-50歳.

十二指腸潰瘍の0.1%でZESを認め, 発症率は0.5-4/100万/yr.
British Journal of Surgery 2007; 94: 1331–1341

Gastrinoma
 Gastrinomaには孤発性と遺伝性(MEN-1)がある.
 孤発性は十二指腸, 膵臓に生じ, 単一の小腫瘍が特徴.
 遺伝性の場合は十二指腸の多発腫瘍の形をとることが主.
 十二指腸の孤発性Neuroendocrine tumor77例のうち, Gastrin産生腫瘍は49.4%(38). さらに, ZESを来していたのは僅か18例(23.4%)のみ.
 膵臓の孤発性NETでは, 膵ガストリノーマは4.2-5.3%のみ.
 MEN-1のうち, ZES発症例は59.4%.

孤発性Gastrinoma(十二指腸; 35-49%)
 十二指腸の前部, 粘膜下で多く認められる.
 腫瘍の大きさは通常<1cmと小さいが, 診断時に既に60-80%でリンパ節転移を認めている.
 転移リンパ節腫大が原発巣を上回ることも多い.
 リンパ節転移とは別に, 肝転移は10%以下. しかも初期ではさらに少ない.
 従って予後は良好. 10年生存率は84%.

孤発性Gastrinoma(膵臓; 24-45%)
 膵臓のGastrinomaはやや大きめで≥2cmとなることが多い.
 報告では膵頭部に多いとされるが, どの部位にも生じる.
 リンパ節転移は診断時に60%で認め, 肝転移は10-20%と十二指腸よりも高頻度.
 10年生存率は57%と十二指腸よりも予後は悪い.

Gastrinomaの好発部位; Gastrinoma triangle
 膵頭部, 十二指腸の前, 中部の三角. この範囲に80-90%存在.
British Journal of Surgery 2007; 94: 1331–1341

最近の報告では, 診断時に70%は転移(-).
 10年生存率も90-100%と, 早期発見, 治療が可能.
 リンパ節転移の有無で予後は変わらない.
 肝転移例では予後悪く, 10年生存率は31%のみ.
 他の予後増悪因子としては, 原発巣 >3cm, 骨転移, 胃酸分泌コントロール困難例.


MEN1-associated gastrinoma
 MEN1は癌抑制遺伝子11q13の変異により多発性内分泌腫瘍を呈する. (孤発性の33%に同様の変異あり)
 副甲状腺機能亢進症(>90%), 膵十二指腸内分泌腫瘍(65-75%), 下垂体前葉腫瘍(30-65%)
(British Journal of Surgery 2007; 94: 1331–1341)
 ガストリノーマの25-33%がMEN-1に由来するもの.
 ほぼ全例が十二指腸に生じる.
 <1cmの多発腫瘍性病変を生じる.

Extraduodenal, Extrapancreatic gastrinoma
 十二指腸, 膵臓以外のガストリノーマの部位としては, 胃, 空腸, 胆管, 肝, 腎で報告されているが, 非常に稀.

ZESの症状
腹痛が約80%, 下痢が30-70%. 症状は非特異的. (British Journal of Surgery 2007; 94: 1331–1341)

235例のZES患者の症状, 所見頻度 Medicine 2001;80:189-222

ZESの検査所見
ZESのGastrin分泌
 Basal acid output(BAO) >15mEq/hr, 粘膜pH<2となる
 空腹時Gastrinは正常値の5倍以上, >500pg/mLとなる.
 胃内pH<2-5で血中Gastrin値>1000pg/mLならばZESと診断可能.
 しかしながら, 68%で血中Gastrin値100-1000pg/mLであり, それだけでは, 除外診断は困難. >> Secretin testが鑑別に有効かも
 

Secretin負荷でGastrinは上昇するが, ZESでの上昇が特に著明.
 Secretin負荷にてΔGastrin >110pg/mLは, 感度93%でZESを示唆する.
 ΔGastrin>200では感度85%.

他にも, Ca, テオフィリン, Bombesin, グルカゴンでは腫瘍性G-cellのみ刺激する.
 Ca負荷試験のみ臨床的に証明されているが, Secretinよりも感度は低い.(50%程度) (>395pg/mLの上昇を持って診断とする)

負荷試験は, Secretin 2µg/kg IV, → ΔGastrin>120で陽性, Sn/Sp 90%!
グルコン酸Ca10% 5mg/kg/hr を3hr DIV. → ΔGastrin>395で陽性と判断.


ZESの胃酸分泌能評価. Medicine 2001;80:189-222
 胃酸分泌に関与する薬剤は全て中止.
  抗コリン薬は≥3d前
  抗H2阻害薬は≥30hr前
  PPIは≥2wk前より中止.

1晩の絶飲食後にNGチューブを留置.
チューブは50mlのNS注入後にその90%が回収できる位置で固定.
 胃液の吸引を開始; 最初の15min分は廃棄.
  その後1hr胃液を吸引し続け, 15min毎にサンプル採取.
 それぞれの胃液量と, pHを測定した後, 0.01N NaOHを使用し, pHを7に調整. 使用したNaOH(mEq)を計算. (mEq/hr, mEq/15minで表出)

MAO; Maximal acid output 
 Histolog 1.5mg/kg, Pentagastrin 6µ/kgによる誘発後に評価.

BAO; Basal acid output 
 非誘発時の酸分泌能基礎値

235例のZES患者のBAOを評価:
BAO cutoff
手術未
孤発性
手術未
MEN-1
手術後例
≥5


100%
>14.4


73%
>19.2


63%
>10
95%
91%

≥15
93%
84%

≥18
91%
68%

>25
73%
55%

≥31
65%
48%

≥38
52%
36%

胃酸抑制術(+)群ではBAO 1.6-118mEq/hr, 平均27.6±3.5.
未施行群ではBAO 5.9-102.9mEq/hr. 孤発性では平均42.3±1.8, MEN-1では37.5±4.2mEq/hr.
ZES診断クライテリア
1
胃液pH≤3.5
2
空腹時Gastrine値上昇
3
誘発試験陽性(Secretin試験>200pg/mL, Ca試験>395pg/mL)
4
Gastrinomaに矛盾しない組織所見
5
上記の組み合わせ
MEN-1の診断Criteria
 ZES + MEN-1の家族歴
  or 副甲状腺機能亢進症, 下垂体異常, 副腎の異常を認める.
Gastrinomaの局在診断 British Journal of Surgery 2007; 94: 1331–1341
Gastrinoma triangleに80-90%局在する.
 十二指腸-膵頭部-肝十二指腸靭帯で形成される三角形.
 十二指腸Gastrinomaの80%以上が十二指腸前部, 中部にある.
 局在診断の感度は低い. angioやEUSが必要.

EUSは膵頭部の腫瘍への感度が良好. 70-90%.
術中に直接腸管を触診, もしくは直接腸管のUS検査するのが最も高感度. それぞれ91-95%の感度.

シンチによる局在診断 Wien Klin Wochenschr (2007) 119/19–20: 593–596
Gastrinomaの局在診断にSomatostatin-R scintigraphyが有用かもしれない.
 In-111 Octreotideによるシンチ.
 GastrinomaではSomatostatin受容体が発現している.
80名のGastrinoma患者でのtrialでは, SRSは感度70%で局在診断に有効.
 これはUS, CT, MRIと比較して有意に有効と言えた.
 肝転移も83%で判別可能であった.
 <1cmの腫瘍では感度低下.


他のHypergastrinemia
Antral G-cell Hyperfunction; 
 
PPIの使用, H pylori感染が関与. H pyloriの除菌により正常化することが分かっている.

萎縮性胃炎, PPI, 迷走神経切除後の無胃酸症
 血中Gastrin値はZESと同等の高値をとるが, 萎縮性胃炎では胃内pHは>5となる.(vs <2 in ZES)
 慢性的なPPI内服患者では, ほぼ100%Gastrinは上昇するが, 大体が100-155%程度の上昇.
 基礎のGastrin濃度が高い患者群では>1000pg/mLとなり得る.

PPI内服とGastrin値 (Annals of Internal Medicine 1994;121:161-7 )
GERDでOmeprazole 40mg内服した91名のフォロー.
平均48mo[36-64]フォロー.

 血中ガストリン値は 60pg/mL→162pg/mLに上昇.
 >500pg/mLとなった例は10例(11%)
 大体1年後からはプラトーとなる.
 

>500pg/mLとなった10名のデータ
 

 元々基礎値が高く, 開始後1moですでに高値となっている.
 1年以降はプラトー, もしくは減少している傾向.

PPIでは血中ガストリン値は2-4倍に増加.  大体が<250pg/mLであり, >500pg/mLなるのは稀 (Aliment Pharmacol Ther 2000; 14: 651-668.)

Gastrinomaの治療
孤発性Gastrinomaでは手術切除が第一選択.
 予後は手術治療 > 薬剤治療
 しかしながら切除で治癒するのは60%のみ.
 しかも, 5-10yr後に治癒している例は25-30%のみ.
 MEN-1では手術による治癒率はさらに低く, 切除治療はControversial


PPIによる治療
 症状緩和の第一選択となる.
 術後, 分泌能が正常化した患者群でも50%は胃酸過多となる.
 Omeprazole 60mg/dの高用量投与が推奨.
 他に, Pantoprazole 120mg, Lansoprazole 60mg/d, Rabeprazole 60mg/dと, 通常容量の2-3倍量投与が推奨.
 PPI量はBAOを基準に調節するのが理想.
 次回PPI投与直前のBAOを測定し, >10mEq/hrならば増量.
 薬剤性の無胃酸症(BAO<0.2mEq/hr)では減量を.
 *BAOの測定方法は胃酸分泌能測定を参照

Biotherapy; Somatostatin analogues
 Somatostatin受容体は5つ; sstr1-5.
 それぞれがNETに対して抗増殖作用, アポトーシス誘発作用を示す.
 Gastrinoma細胞にはSomatostatin-Rが発現しており, 33例の調査では, sstr2 100%, sstr5 76%, sstr3 79%, sstr1 30%の発現率.
 Octreotide, Lanreotideはsstr2に強い親和性を示す一方, sstr3,4,5への親和性は低い.
 Octreotideでは有意にGastrin値の低下, 胃酸の低下を認める
 PPIと異なり, OctreotideはGastrinそのものを低下させるため, ECL-cell hyperplasia, Gastric NET type 2の予防効果もある.

Octreotide; 
 サンドスタチン50, 100µg
® SC; 100-300µgを2-3回/dで皮下注
 サンドスタチンLAR 10,20,30mg
® IM. 20-30mg/4wk毎に筋注
 肝転移(+)の15名への使用では, 反応率53%. 5-54moで反応を示し, 25±6mo持続する.

INF-α; 3-5x10
6 IU/d SC. 3-5回/wk
 Peg-INF-α 1.0-1.5µg/kg/wkも推奨される.
 腫瘍の安定化は5/13(38%)(6mo)
 副作用によるDose減量は30%

Chemotherapy
 転移性のGastrinomaで, 年間に25%以上の増大を示す例で適応
Well-differentiated gastrinomaでは, Streptozotocin + Doxorubicin/5-FUが推奨.
 ●Streptozotocin; 500mg/m
2/d(2hrでDIV) Day1, 5
 ●Doxorubicin 50mg/m
2/d(20-30minでDIV) Day1,22. 6wk毎に繰り返し.

 ●Streptozotocin; 500mg/m
2/d(2hrでDIV) Day1, 5
 ●5-FU 400mg/m
2/d(4hrでDIV) Day1,5. 6wk毎に繰り返し.

Poorly differentiated gastrinomaでは, Etoposide + Cisplatinが推奨.
 ●Etoposide 100-130mg/m
2/d(1-24hrでDIV) Day1,3
 ●Cisplatin 45mg/m
2/d(1-24hrでDIV) Day2,3. 4wk毎に繰り返し.

Gastric Neuroendocrine Tumor
NETは稀な内分泌腫瘍であり, 年間の発症頻度は2-20/100万程度.
Gastric NETはさらに稀で1-2/100万.
 消化管のNETのうち, 9%がGastric NETが占める.
 未診断例も多く, 実際の頻度はこれよりも多い可能性がある.

Type 1-3に分類される.
 Type 1は慢性萎縮性胃炎との合併. 一般的に予後良好.
 Type 2はMEN-1の1分症. 予後は不良で転移も起こす.
 Type 3は孤発性の腫瘍. 進行性の経過をとる.

Gastric NET type 1; Gastric NETの70-80%
 慢性萎縮性胃炎から無胃酸症となり, G-cellの刺激が亢進し, 高Gastrin血症を引き起こす.
 従って, 高齢(60-70台)女性に多い. また無症候性も多く, 大半が丈夫内視鏡検査で偶発的に発見される.
 また, feedback機構によりEnterochromaffin-like cellの増生を来し, びまん性のECL-cell過生による微小結節を形成.
 多発性のSmall NET(ECL type)も来すことがある.
 腫瘍細胞はchromagranin A, Vesicular monoamine transporter 2(VMAT 2)に陽性となる.
 VMAT 2はヒスタミン産生細胞で出現する物質.
 腫瘍細胞はKi67 <2% (Ki67; proliferation marker)となる.

症状は主には慢性萎縮性胃炎の症状. 非特異的心窩部症状.ヒスタミン産生が増加により, 非特異的Carcinoid syndrome(フラッシング, 喘鳴, 下痢)を来すこともある.
 <1cmのポリープならばその場で内視鏡的切除.
 ≤5個までの多発ポリープも切除が推奨.
 ≥6個の多発ポリープ, ≥1cmのポリープでは, 胃切除を考慮すべき.
 >2cmでは20%でリンパ節転移あり.

Gastric NET type 2; Gastric NETの5-6%.
 MEN-1の1分症. Gastrinomaの1つ
 臨床的にはType 1との区別は困難.
 Type 1との鑑別点は, 胃内pHが低いこと.
 Type 2はZollinger-Ellison syndromeとの併発もあり, また, 10-30%で転移を認める. 腫瘍由来死亡は10%に及ぶ.

Gastric NET type 3; Gastric NETの14-25%.
 孤発性の腫瘍であり, >2cmのポリープを形成.
 Gastric pathologyには関連せず, 従ってGastrin値, pHは正常.
 50-60台が好発年齢で, type 1と異なり男女差無し.
 低分化の腫瘍細胞であり, 転移は50-100%であり.
 腫瘍由来死亡は20-30%, 報告では75-87%というものもある.