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2014年7月14日月曜日

中枢性のめまいを示唆する所見, 情報のまとめ

めまい "Dizzness" の原因頻度
12 trialsのMeta-analysisより South Med J. 2000 Feb;93(2):160-7

原因
頻度
Peripheral vestibular
BPPV
16%[4-44]

迷路炎
9%[3-23]

メニエール病
5%[0-10]

その他(薬剤など)
14%[0-30]
Central vestibular
脳血管疾患
6%[0-20]

脳腫瘍
<1%[0-6]

その他(MS, 片頭痛)
3%[0-12]
Psychiatric
精神疾患
11%[2-26]

過換気症候群
5%[0-24]
非前庭N, 非精神
Presyncope
6%[0-16]

平衡障害
5%[0-15]

その他
13%[0-53]
不明
不明
13%[0-37]
Setting別の頻度は,
診療状況
末梢性
前庭神経症状
中枢性
前庭神経症状
精神疾患
非前庭神経
非精神疾患
不明
プライマリケア
43%
9%
21%
34%
4%
救急(ER)
34%
6%
9%
37%
19%
めまいクリニック
46%
7%
20%
20%
18%
神経内科
49%
19%
10%
17%
10%

中枢病変が原因の急性前庭神経症状(Acute estibular syndrome)
Posterior fossaの脳血管イベントが83%を占める.
 その内脳梗塞が79%, 脳出血が4%.
 多発性硬化症 11%を占める.
 それ以外に多発性硬化症(MS)で中小脳脚に病変を認めることがあり, MSも重要な原因.
(CMAJ 2011;183:E571-E592)
 他の中枢性が6%占める.(腫瘍, Chiari奇形, 術後など)

病歴より中枢性を疑う
前庭神経炎を示唆
Strokeを示唆
徐々に発症するめまい
急性発症のめまい

めまいの前駆症状複数回認める
頸部痛, 頭痛を伴わない
頸部痛, 頭痛を伴う

複視など神経症状を認める
年齢<50yr
年齢>50yr

他の脳血管障害リスクを認める

外傷の既往あり
神経所見異常無し
HITが正常
CMAJ 2011;183:E571-E592

2009-2010年に3箇所のERをめまいを主訴に受診した473例の解析. Mayo Clin Proc. 2014;89(2):173-180
平均年齢 56.7±19.3歳, 女性例が60%.
その内 30例(6.3%)が重大な疾患が原因であった;
 脳梗塞(14), SAH(2), 腫瘍性病変(7), 脱髄病変(2), 重度の椎骨動脈狭窄(2), ACS(2), 髄膜炎+水頭症(1).
脳梗塞 vs 非脳梗塞の比較

脳梗塞を示唆する所見は
 高齢者, CADの既往, 高脂血症, 高血圧症, 継ぎ足歩行困難, 医師の印象 であった.
 やはりリスク因子の評価は重要といえる.

中枢性を疑う所見
中枢性の眼振; Downbeat nystagmus; 小脳中心, 尾側, 扁桃の傷害を示唆
Downbeat nystagmusの原因
原因
頻度
原因
頻度
梗塞
25%
腫瘍
3%
小脳変性
24%
アルコール性小脳失調
2%
多発性硬化症
13%
動静脈奇形
2%
発達障害/奇形
12%
AIDS, 家族性周期性失調
1%
薬剤性
4%
Viral encephalitis, 放射線
1%
外傷
3%
原因無し
5%
その他, 方向交代制眼振, Purely vertical nystagmus, 持続性, 非減衰性眼振 起立不可, 異常肢位局所症状(+)Horners syndrome, Dysarthria, Dysphagia, Diplopia, Dysmetria, 感覚障害, 難治性しゃっくりは, 中枢障害を示唆 (Otolaryngologic Clinics of N Am 2000;33:issue3)
Head Impulse Test(HIT)
前庭機能を評価するTestでVORを評価(Vestibulo-ocular reflex)
 患者姿勢; 座位
 向かい合い, 検者の鼻を見るよう指示
 両手で患者の頭部を保持し, Midlineより20度程度, 素早く頭部を回旋させる.

A; 正常: 患者の目線は検者の鼻から動かない
 ⇒ 前庭機能良好, VOR(+)
 ⇒ Strokeを示唆. >> HIT中枢パターンと呼称
B; 異常: 患者の目線が一旦検者の鼻から外れる
 ⇒ 前庭機能異常, VOR(-) >> HIT末梢パターンと呼称

正中から左右に振ると頚を痛めることがあるため, 20度左右に回旋させた状態から正中に戻す, Reversed HITという方法もある. 個人的にはこちらをお勧めする.

Head Impulse Test; 末梢 vs 中枢の鑑別
回転性めまいを主訴にER受診した33名 + 既にStrokeの診断がついている10名でHITを施行 (Reference Standard; MRI, 術者Blind, Strokeは35/43)(Neurology 2008;70:2378-85)
 HIT(中枢パターン)/Stroke(+) ⇒ 31/34,
 HIT(末梢パターン)/Stroke(-) ⇒ 8/8Neg
 HITのStrokeに対するSn 100%, Sp 72%
 
⇒ HIT(末梢パターン)ならば中枢性のVertigoはほぼ否定可能

HIT, 方向交代制眼振, Skew deviationの感度, 特異度(Meta-analysis) CMAJ 2011;183:E571-E592

感度
特異度
LR(+)
LR(-)
HIT末梢パターン
85%[79-91]
95%[90-100]
18.39[6.08-55.64]
0.16[0.11-0.23]
 PICA, SCA梗塞
99%[96-100]
-
-
0.01[0.00-0.10]
 AICA梗塞
62%[35-88]
-
-
0.40[0.20-0.80]
方向交代制眼振
38%[32-44]
92%[86-98]
4.51[2.18-9.34]
0.68[0.60-0.76]
Skew deviation
30%[22-39]
98%[95-100]
19.66[2.76-140.15]
0.71[0.63-0.80]
AICA梗塞に関しては, HIT異常でも中枢除外が困難...

HITの詳しい解説
眼振の仕組みから
この時の中枢経路は以下の通り

黄色枠に囲まれた部位で障害が起きると, 前庭眼反射は障害され, 頭位眼球反射に異常が生じる. つまりHITで異常が出る場合は末梢性の障害の可能性が高いことを示唆する.

また, HITを行う際, 左回旋時に異常が生じた場合は左前庭神経, 前庭の障害,
右回旋時に異常が生じた場合は右前庭神経, 前庭の障害を示唆する.

BPPVでは前庭機能障害ではないため, HITは異常とはならず, 正常 = つまり中枢パターンとなってしまう為, HITを行う際はBPPVを除外することが必要となるので注意.

上記部位の異常ということは, 「PICA梗塞で延髄外側の神経線維が障害されれば, HITが末梢パターンの脳幹梗塞となるか?」という問いが生じる. 
 理論上はなるが, 報告例はかなり乏しい.
 2010年のStrokeに1例報告あり, Stroke 2010, 41:1558-1560
 53yr女性, HTとDMあり. めまいとふらつきを主訴に受診.
 
左向きの回旋性眼振を認め, HIT陽性(末梢パターン)であった.
 
脳幹症状, 麻痺, 感覚障害のいずれも認めず.


AICA梗塞ではなぜHITの感度が低いか? (末梢パターンとなるか?)
AICAからは前庭動脈が分岐し, AICA梗塞は末梢性, 中枢性双方の前庭機能障害を生じる.
AICA梗塞でめまいを生じた82例の症状 J Clin Neurol 2009;5:65-73
回転性めまいが主症状 80/82(98%)
Central ocular motor or vestibular signs* 79/82(96%)
前庭迷路梗塞 53/82(65%)
蝸牛梗塞 52/82(65%)
前庭, 蝸牛梗塞 49/82(60%)
前庭梗塞, 聴覚障害無し 26/82(32%)
前庭梗塞のみで蝸牛障害無し 4/82(5%)
蝸牛梗塞のみで前庭障害無し 3/82(3%)
回転性めまいを認めない 2/82(2%)
聴前庭障害のみで中枢性の症状を認めない 1/82(1%)

*片側性の追視障害, 視線運動性の眼振. 注視による方向交代制眼振,
 視覚による前庭反応調節の障害.

これらのデータより, AICA梗塞でめまい+例は6パターンに分類される.
Group 1 2 3 4 5 6 7
N=82 35 13 3 4 24 1 2
回転性めまいで発症 + + + + + + -
聴前庭障害合併 + + - - - + -
聴覚障害のみ - - + - - - -
前庭障害のみ - - - + - - -
聴前庭機能正常 - - - - + - +
眼球運動障害合併 + + + + + - -
他の神経障害を合併 + + + + + - +
前駆症状として聴前庭症状あり - + - - - - -
Group 6はAICA梗塞による前庭神経のみの障害.
内耳動脈を絡む場合, 中小脳脚を含む場合に認められ, 
AICA syndromeと呼ぶ.
他のGroupでは眼球運動障害, 他の神経障害を合併するため, おそらくは脳梗塞の診断に迷うことは無いと考えられる.
Group 6のAICA syndromeのみ脳梗塞か, 末梢性か診断に迷うことがあるであろう.
AICA syndromeの場合は難聴も伴うため, 回転性めまい+難聴 はAICA syndromeの可能性があるということも覚えておく必要がある.

HITを含んだ複合所見: HINTS
水平HIT, 方向交代性眼振, Skew deviation(斜変位)
 HIT; 前記載参照
 方向交代性眼振; 末梢性ならば眼振は一方向性. 垂直方向性の眼振も同様だが, 頻度が少ない.
 Skew deviation; 左右のVestibular toneのバランスが障害され, 垂直方向の眼球変位が起こる. 眼球位置を合わせようと, 頭位を傾けることもあり

この3つの所見すべて陰性(HITは末梢パターン)ならば, より高度に中枢性病変が否定できる.

AVS*でER受診し, 1つ以上のStroke Riskを持つ患者101名を対象
(Stroke 2009;40:3504-10)(Prospective)(Stroke 76名, 末梢性25名)
 *Acute vestibular Syndrome(AVS) (回転性めまい, 眼振, 嘔気, Head-motion intolerance, 歩行障害)
 Reference standardをMRI, CTで診断された脳梗塞とし,中枢性めまいに対する身体所見の有用性を評価.

Skew deviationは17%に認められたが, 複視を自覚したのは3名のみ
Skew deviationの約60%は延髄, 橋側面の病変による

PAVS(25)
CAVS(76)
NLR central
頭痛, 頚部痛
12%
38%
0.70[0.56-0.88]
重度の体幹失調
0%
34%
0.66[0.56-0.77]
垂直, 回旋性眼振
0%
12%
0.88[0.81-0.96]
眼球運動障害
0%
21%
0.79[0.70-0.89]
3-Step Exam
4%
100%
0.00[0.00-0.11]
方向交代性眼振
0%
20%
0.80[0.72-0.90]
Skew deviation(+)
4%
25%
0.78[0.67-0.91]
h-HIT 正常
0%
93%
0.07[0.03-0.15]
PAVS: 末梢性AVS, CAVS: 中枢性AVS

Sn
Sp
NLR Stroke
General neurological signs
19%
100%
0.81[0.72-0.91]
Obvious oculomotor signs
28%
100%
0.72[0.63-0.84]
Severe truncal ataxia
33%
100%
0.67[0.56-0.79]
Any obvious signs
64%
100%
0.36[0.27-0.50]
Initial MRI with DWI
88%
100%
0.12[0.06-0.22]
Dangerous bedside HINTS
100%
96%
0.00[0.00-0.12]
Skew deviation, h-HIT, Direction-changing nystagmusを3-step bedside examination batteryとして行うと(HINTS)
 
Sn 100%, Sp 96%, LR(+) 25[3.66-170.59], LR(-) 0.00[0.00-0.11]で中枢性の病変を示唆する.
 通常の診察での感度は51%,
 発症早期のMRIの感度も72%(後日のフォローでStrokeと判明)であり, それら検査よりも優れているという結果.

1つ以上の脳梗塞リスクをもつAVS患者190例で頭部MRIとHINTS plusを評価.
Neurology® 2014;83:169–173
 HINTS plusとは, HINTSに加えて, ベッドサイドでの聴覚評価. 指を擦り合わせて聴覚を評価する項目を含むもの. (AICA syndromeを意識.)

190例のAVS患者の内, 105例が脳梗塞と診断された.
 14%が梗塞範囲≤10mmの小梗塞.
 年齢65.4歳, 41-85歳. 女性が33%.
 発症~MRI撮影までは平均12h[6-48](小梗塞群) 12h[5-24](それ以外)

脳梗塞の部位:
 最も多い前庭構造の障害部位は下小脳脚で73%.
 また, 最も多い障害部位は延髄外側で60%であった.
 そのうち2/3はAVSのみで発症し, Wallenberg症候群を認めなかった.
 小脳の単独梗塞は1例のみ.
 Oculomotorの障害以外の神経所見を認めたのは27%のみであった.
AVSを生じる小梗塞の部位 

頭部MRIとHINT plusの感度

小梗塞
大梗塞(>10mm)
p
初期MRIで偽陰性
53.3%
7.8%
<0.001
初期HINTSで偽陰性
6.7%
3.3%
0.46
初期HINTS plusで偽陰性
0%
1.1%
1
来院時のMRIでは小梗塞例の場合半分以上が偽陰性となる.
HINTSは1例のみ偽陰性だが, HINTS plusでは偽陰性は無い.
大梗塞ではMRIの偽陰性率は低下するが, それでも7.8%ある.

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めまい診断にはMRIよりも身体所見のほうが有用.
そしてリスク因子の評価も超重要.
それらを抜きにして画像に頼るのは ×