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2014年7月16日水曜日

下垂体機能低下症: 下垂体炎

下垂体に影響を及ぼす炎症性疾患
下垂体に影響を及ぼす炎症, 感染症疾患は稀であり, 原発腫瘍よりも少ない.
 Primary(下垂体に限局する障害)と
 Secondary(全身性疾患に合併するもの)の2つに分類される.
Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes 2012, 19:314 – 321

Primary Hypophysitis
Top Magn Reson Imaging 2005;16:301-6
European Journal of Endocrinology 2003;149:363-76
Endocrine Reviews 26(5):599–614

Primary Lymphocytic Hypophysitis (Autoimmune) リンパ球性下垂体炎
 Primaryでは最も多い原因であり, 下垂体の慢性炎症を来す.
 下垂体切除例の内, 0.38-1.1%で認められる.
 女性に多く(5-8:1), 妊娠中, 産後の発症が一般的(47-62%).
 特に妊娠最後の6mo〜産後最初の6moでの発症が多い.
 平均診断年齢は女性で34.5yr, 男性で44.7yr.
 思春期前, 高齢者発症は稀だが, 報告例はある.
 HLA DR4(44%), HLA DR5(23%)に関連するとの報告もあり.
 日本人では少なく,  白人:日本人 = 3:1

Idiopathic Granulomatous Hypophysitis Neurosurgery Quarterly 2002;12:197-215
 稀な慢性炎症疾患.
 下垂体肉芽腫形成は手術例の1-1.4%で認めるのみ.
 二次性に生じることが多いが, 下垂体に肉芽腫形成を認める疾患の20%がPrimary(idiopathic). 報告例も年間1/100万程度と稀.
 女性例の平均発症年齢は21.5yr, 男性では50yrだが, 全体では16-76yrと幅広く発症する
 二次性の原因としては, 結核, サルコイド, 梅毒, Histiocytosis X,Wegener肉芽腫, Pyoderma gangrenosum, クローン病, 異物反応, Adenoma, ラトケ嚢胞破裂, Mucoceles, 外科手術後 等.
 Lymphocyticと異なり, 男女比は同等. 妊娠にも関連無し, 自然寛解も無く, 他の自己免疫性疾患との関連も認めない.

下垂体炎, 下垂体不全の発症年齢
母集団
N
年齢
年齢
M:F
Lymphocytic hypophysitis with pituitary enlargement




Lymphocytic adenohypophysitis
5
33-77
51.3±22.9
1:4
Lymphocytic infundibuloneurohypophysitis




 生検にて確定例
3
33-60
47.3±13.5
2:1
 MRIでの疑い例
9
14-62
43.3±17.1
5:4
Hypopituitarism without pituitary enlargement




 Isolated ACTH deficiency
10
20-81
54.3±16.9
7:3
 Idiopathic TSH deficiency
4
27-70
56.3±20.3
1:3
Non-funtional pituitary adenoma
11
36-75
53.4±11.8
1:10
Other autoimmune diseases
31
13-76
43.6±13.8
8:23
Healthy controls
36
24-74
49.9±13.8
18:18
Primary Hypophysitis 3疾患の特徴 European Journal of Endocrinology (2006) 155 101–107
 妊娠, 他の自己免疫性疾患に関連するのはLymphocyticのみ.
 障害されるホルモンはGonadal, Adrenal, Thyroidalの3系統が多い.
 下垂体柄の肥厚は80%近くで認められる.
 組織学的には, 下垂体全体へのリンパ球, 形質細胞, Mφの浸潤を認める.
 障害される部位(前葉, 後葉, 漏斗, 下垂体神経)によって, Adenohypophysitis(前葉), Panhypophysitis(汎下垂体炎), Infundibuloneurohypophysitis(漏斗下垂体神経炎)と呼ぶ.

これらは自己免疫機序であり, Autoimmune hypophysitisとも呼ばれ, 橋本病, Adrenalitis, 卵巣不全, 萎縮性胃炎, 悪性貧血との合併もあり. SLEとの合併例の報告もある.
 自己免疫性内分泌疾患; 橋本病, 糖尿病, 副甲状腺炎, バセドー病, アジソン病, APS type 1, APS type 3a
 非内分泌免疫性疾患; 白斑, Maiastenia, Alopecia, 悪性貧血, PBC, 慢性萎縮性胃炎
 他の非内分泌疾患; SLE, 後腹膜線維症, Discoid lupus erythematousus, Germinoma, Dacryoadenitis
Top Magn Reson Imaging 2005;16:301-6
European Journal of Endocrinology 2003;149:363-76

自己免疫疾患との合併頻度
 18%で自己免疫疾患との合併を認める. Endocrine Reviews 26(5):599–614

IgG4関連の形質細胞性下垂体炎の存在も判明している.
 他には再発性の視神経炎, Castleman病に併発する例もある.

Cytotoxic T-cell antigen-4抗体 治療に続発する下垂体炎もあり, 薬剤性の下垂体炎の主要な原因.
 上記薬剤はメラノーマに対して使用される.
 薬剤名はipilimumab. 使用患者の72%で自己免疫機序の副作用を生じ, Lymphocytic hypophysitisと下垂体不全は0-17%で認められる.
Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes 2012, 19:314 – 321

LAH, LINH, LPHの症状, 欠乏ホルモンの頻度 
Endocrine Reviews 26(5):599–614
LAH; lymphocytic adenohypophysitis, 
LINH; lymphocytic infundibuloneurohypophysitis, 
LPH; lymphocytic panhypophysitis
リンパ球性下垂体炎ではホルモン欠乏の中でも中枢性副腎不全の頻度が最も高い.
Infundibuloneurohypophysitis(漏斗神経下垂体炎), Panhypophysitis(汎下垂体炎)では尿崩症を伴う例が多い.

Primary Lymphocytic Hypophysitisの症状
 初発症状は下垂体腫大に伴う視野狭窄, 頭痛が多い.(60%)
 次いで, 下垂体前葉ホルモンの欠損.
 ACTH > CRH > Gonadotropin > Prolactin欠損の順で多い.
 PRL欠損により授乳に障害を来す.
 後葉ホルモンの欠損による尿崩症も報告あり(19-31%).
 逆に, 1/3はPRL過多となる.
 Massが柄を圧迫し, Dopamineを低下させPRL分泌を亢進する機序.
下垂体腫大による
頻度
内分泌障害による
頻度
頭痛
60%
下垂体機能正常

視野狭窄
40%
PRL血症
30%
複視

PRL血症



無症候性下垂体機能低下
25%


ACTH低下
最も早期で最も多い(65%)


Acute hyposurrenalism with high mortality



Hypogonadotropic hypogonadism
男性のみ


GH低下

Top Magn Reson Imaging 2005;16:301-6
European Journal of Endocrinology 2003;149:363-76

ちなみに, 下垂体腫瘍による下垂体ホルモン分泌障害の頻度は,
GH欠損が81.4%, Hypogonadismが63.3%, ACTH低下が59.5%, TSH低下が20.4%, 高プロラクチンが38.5%, 低プロラクチンが16.7%
Arq Bras endocrinol metab. 2009;53(1):31-39.

 下垂体炎の場合はACTH, TSHが最も低下しやすいホルモンであり, 腫瘍性とは大きく異なる.

下垂体自己抗体
抗PGSF2抗体, 抗PGSF1a抗体, 抗hGH抗体など発見されているが, 感度, 特異度は低く, 確立されているとは言いがたい(Pituitary gland specific factor)
European Journal of Endocrinology 2002;147:767-775

Lymphocytic hypophysitis 15名, ACTH単独欠損症9名, 下垂体機能不全13名, 橋本病36名, バセドー病29名, Control 57名にて血清Pituitary cytosole autoantigenを評価.
 Human 22-kDa reactivityがLymphocytic hypophysitis(73%), ACTH単独欠損症(78%)で高頻度で認められる.
 H 49-kDa reactivityはLymphocytic hypophysitisで40%, ACTH単独欠損症では0%.
Horm Res 2001;55:288-92

 68, 49, 43 kD human anterior pituitary antigenもLHに特異的に認められるとの報告もある(感度は低) Clinical Endocrinology 2001;54:327-333

Autoimmune hypophysitis 28例, Control 98名(Pituitary adenoma 14, Autoimmune thyroiditis 48, 健常人36例)
 25-27-kDa band, 下垂体抗体のImmunofluorescenceを評価.
 Western blotによる25-27kDa bandは, Autoimmune hypophysitisに対する感度50%, 特異度88%, 下垂体抗体に対するImmunofluorescence検査(市販キット)は, 感度57%, 特異度 81%でAutoimmune hypophysitisを示唆する. (Euroimmun LLC, Boonton, NJ)
Clinical Endocrinology 2008;69:269-78

自己抗体頻度;
 APAはACTH欠損患者の15%, GH欠損患者で26%, Hypogonadism患者の21%で陽性.
 AHAは中枢性の副腎不全患者の18%で陽性となる.
 Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes 2012, 19:314 – 321

APAはAcromegalyの10%, Prolactinomaの8%, 非機能性下垂体腫瘍の12%で陽性となる.
 アマチュアボクサーで下垂体不全となった患者群の21%でAHAが, 23%でAPAが陽性となる報告もあり, 特異的とも言い難い

Lymphocytic hypophysitisの画像所見
European Journal of Endocrinology 2003;149:363-76

LYH
Adenoma
トルコ鞍 XP
トルコ鞍は均一に平坦
トルコ鞍が片側のみ圧迫
下垂体 MRI
左右対称性の下垂体腫大(66%)
視交叉の圧迫, 偏倚
柄の肥厚(56-66%), 偏倚は無し

片側性のトルコ鞍の腫大
トルコ鞍を超える, 片側のみの腫大
柄は対側方向へ偏倚
Gadolinium造影MRI
下垂体腫瘍の全体が造影
Dural tail
 
尿崩症がある場合,
神経下垂体のBright spotの消失
Dural tailは認めない
Bright spot
は認められる
 LYHではT1でIso, hypointense, T2でHyperintenseとなる.
 Gadolinium造影では強く造影される.
 左右対称性の腫大は66%, 非対称性は18%で認められる.
 嚢胞状に認めることもあり, 特にXanthomatous hypophysitisでは嚢胞状と成ることが多い
 下垂体柄の肥厚はHypophysitisに特異的な所見. 感度は56-66%.
 Adenomaは下垂体柄に形成されることは極めて稀.
Neurosurgery Quarterly 2002;12:197-215

20例のLYHと22例の下垂体腺腫患者のMRI所見を比較. AJNR Am J Neuroradiol 2010;31:1944–50
MRI所見
LYH
Adenoma
傍下垂体のT1 High intensityの消失
85%
14%
下垂体柄の肥厚 >3.5mm
85%
0%
下垂体が左右対称
85%
9%
下垂体造影効果: Homogeneous (vs Heterogeneous)
65%
9%
Dural tail
65%
77%
T1, T2Parasellar signal intensity: Dark, Low, Iso, High*


 T2Dark
35%
0%
 T2Low
0%
9%
 T2Iso
65%
91%
 T1Low
10%
0%
 T1Iso
90%
100%
*T2-WI:  
 Dark: 骨皮質と同じ,
 Low: 白質と同じ
 Iso: 灰白質と同じ
 High: 灰白質よりHigh
*T1-WI:  
 Dark: 骨皮質と同じ,
 Low: CSFと同じ
 Iso: 灰白質と同じ
 High: 灰白質よりHigh

LYHの経過 AJNR Am J Neuroradiol 19:439–444, March 1998
9-53yrのLYH or Infundibuloneurohypophysitis 5例の報告
 2名が汎下垂体機能不全, 3名が部分的機能不全あり. 尿崩症は4例で(+).
 治療はホルモン補充療法のみ.
 MRI所見の経過をフォロー.
Case
MR
前葉腫大
後葉High
柄肥厚
ET* 前葉
EEPP
1) 31/M
初回
+++

不明
>120
120

16mo



>120
120
2) 53/M
初回
+++





8mo
+++


90

3) 48/M
初回
++





2mo
++


>120
90

6mo






9mo



90

4) 14/M
初回


+++



12mo






36mo



>120
120

48mo



>120
120
5) 9/F
初回


+++



24mo






36mo



>120
60

48mo






60mo



>120

ET; enhancement time(sec)
 Control 60sec
EEPP; early enhanced posterior pituitary
 Control 30sec
2moで下垂体柄肥厚が改善する例もあれば, 改善までに12moかかる例もあり.
Dynamic所見の改善が早いこともあり, DynamicができればBetter.

症状の持続期間 Endocrine Reviews 26(5):599–614
 no preg; 妊娠に関連しないLAHが最も長期間持続する傾向

LYHの治療 Pituitary (2006) 9:35–45
Self-limitedであり, 約2年間ほどで炎症は消失する
 ただし, 慢性炎症化, 線維化することもあり, 内分泌機能は低下.
 LYHは慢性の自己免疫性炎症疾患であり, ステロイド, 免疫抑制剤の使用が行われる例もある.
 PSL >10mg/dやmPSL 120mg/d 2wk, その後Taperingなど
 様々なTrialがあり, 約半数でMassの縮小化を認めている.
 特に発症<6moの早期症例でより反応性が良好.
 免疫抑制剤では, Azathioprine, MTX, Cyclosporin Aで効果ありとの報告があるが, Evidenceは未だ乏しい.