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2014年7月11日金曜日

血管浮腫 Angioedema

血管浮腫 Angioedema
Am J of Med. 2008;121:282-86

血管透過性の亢進によりSelf-limited, 限局的な浮腫を生じる病態.
 全人口の15%で生じると言われており, 女性 > 男性
 蕁麻疹は50%で認められる(タイプにより異なる)
浮腫はNon-pitting, Non-tender, Asymmetric
 好発部位; 眼周囲, 唇, 舌, 四肢, 腸管 → 腹痛, 下痢, 閉塞を来たすこともある
 喉頭浮腫は致死的となり得る (25-40%の致死率)

Angioedemaを来す疾患
 特発性 AE 全体の38%を占める
 Allergic AE(IgE-mediated AE)
 Hereditary AE (先天性)
  Type 1; C1 INH protein欠損 HAE中85%
  Type 2; C1 INH protein異常
  Type 3; Coagulation Factor XII gene mutation
 Acquired AE (後天性: C1 INHを消費 or 自己免疫産生)
  Type 1; Lymphoproliferative diseaseに合併
  Type 2; Autoimmune(Anti-C1 INH antibody)
 薬剤性AE: 主にACE阻害薬
 運動誘発性AE
 Cytokine-associated AE(Gleichs syndrome)
 好酸球性血管浮腫
 自己免疫性甲状腺疾患由来AE

Allergic AE (IgE-mediated)
 1型アレルギー反応による. マスト細胞, ヒスタミン関与
 抗原暴露から数分~数時間で発症する

Hereditary AE (先天性) (NEJM 2008;359:1027-36)
 再発性のNonpitting Edemaを呈する.
 全身の粘膜下, 皮下に生じ掻痒感は伴わない.
 1/5-10万の発症率で, 民族間の差は不明.
 発症は<2yは稀で, 8-12歳での発症が最多.
 7-14日間隔で発作が起こるが, 個人差も強く, 一生発作が起こらない~3日間間隔と幅広い
 発症頻度は平均45.3日に1回となる (Lancet 2012; 379: 474–81)
 外傷, ストレスがトリガーとなることもある
 喉頭浮腫は稀であるが, 約半数の患者が一生涯に1度以上の喉頭浮腫を経験

Hereditary AEの発作形式:
前駆症状を伴うことが多い(刺痛様の感覚)
 無痛性, 蛇行性の有縁性紅斑を1/3に伴い, 24hrかけて増悪を示す
 48-72hrで徐々に消退

喉頭, 腹部に生じるタイプは重度となる
 腹部症状 ⇒ 腹痛, 悪心嘔吐, 下痢. 筋性防御, 反跳痛を伴うケースもあり
 間質への水分漏出により, 低血圧となる
 左右対称性に浮腫が起こることもあり

C1 esterase inhibitor(C1 INH)の異常が主な病態
 C1は古典的経路活性化に関与し, C1 INHは線溶系, 凝固系に関与 → 欠損によりBradykinin, Kallikrein, Plasmin活性↑
 Type 1; C1 INH欠損 (HAEの85%)
 Type 2;
C2 INH異常 (HAEの15%)
 Type 3;
XII因子遺伝子異常 → kinin産生↑ 
 エストロゲンの分泌亢進があり, 妊娠やEstrogen製剤で症状増悪する.
 炎症, 外傷など → C1 INH低下 → Symptom↑
 蕁麻疹は稀で, 影響を受けた部位腫脹

C1-Inhibitor欠損235例のProspective studyでは, (Medicine (Baltimore) 1992; 71: 206–15.)
先天性血管浮腫のtypeは,
 Type Iが180名, Type IIが46名. 男女差は無し.
発症年齢
 <10での発症が多いが, 診断はそれからかなり時間が経過してされる
年齢 初発(%) 診断(%)
0-10 50% 13%
11-20 35% 19%
21-30 11% 21%
>30 1% 47%

発作頻度(1年あたりの発作頻度)
 1年に1回以上が95%を占める.
 毎月発症するのも30%あり.
回数 %
0 5%
<1 26%
1-5 23%
6-12 16%
12 30%

症状頻度
浮腫の部位 %
皮下組織 91%
腹部 73%
喉頭 48%

発作のトリガー
トリガー %
精神ストレス 26%
軽度の外傷 53%
月経 15%

血液検査所見
Type C1-INH Ag(%NHPP) C1-INH fn(%NHPP) C4(%NHPP)
I 16.2±10 15.0±11 20.4±16
II 112.5±97 18±12 23.8±15
正常値 63-137 69-119 67-130
NHPP; Normal Human Pooled Plasma

 46%が末梢の局所的な浮腫, 33%が消化管, 口腔内が6%, 同時に2カ所以上の浮腫を認めるのが15%.
 脳, 関節, 下部呼吸器の浮腫は稀.
 発作は1-5日持続することが多い
 浮腫は~16hr持続. 他に倦怠感や皮疹, 局所の違和感が持続する.
 消化管の浮腫では, 腹部症状, 嘔気嘔吐, 下痢を認める.
 発作時のカプセル内視鏡では腸粘膜浮腫が認められる.

Acquired Angioedema (後天性)
 40歳以降の発症が多い
 Type 1; Lymphoproliferative Disease (High-grade lymphomaなど)
  悪性細胞によるC1 INHの消費が主な病態
 Type 2; 自己免疫性. C1 INHに対する自己免疫による

薬剤性AE
 ACE阻害薬の0.1-2.2%で生じる.
 25%が内服開始後1ヶ月以内 (内服後数年後の発症もある)
 他にはアスピリン, 降圧薬, 麻酔薬, 経口避妊薬が原因となる.
 部位; 舌, 口唇, 顔面

African american, 喫煙者, 女性, 季節性アレルギーはACEIによる血管浮腫のリスク
Immunol Allergy Clin N Am 26 (2006) 725–737

その他
 身体刺激(冷感, 熱, 振動, 外傷), 感情ストレス, 紫外線により誘発されるAEもある

Cytokine-associated AE Syndrome
 好酸球増多に伴うもの, Gleichs syndrome → 通常発熱, 10-20%の体重増加, 好酸球↑, IgM↑を伴う
 原因は不明; GSF, IL-2, 5, 6の増加,  CD4+ Tcellが関与?


蕁麻疹との関連
蕁麻疹(-)
どちらもありえる
蕁麻疹(+)
HAE Type 1,2
慢性特発性AE
身体刺激性AE
Acquired C1 INH欠乏
Allergic AE
ACE阻害薬由来
特発性再発性AE
Aspirin, NSAID由来


蕁麻疹を伴わない, 再発性の血管浮腫929例の解析
(CMAJ 2006;175(9):1065-70)
原因の判明した776例
原因
頻度(%)
:女比
発症年齢
特異的な因子に関連*
16%
0.51
39[13-76]
自己免疫疾患/感染症
7%(55)
0.62
49[3-78]
ACE阻害薬関連
11%
0.93
61[32-84]
C1-inhibitor欠損
25%(197)


 先天性

0.88
8[1-34]
 後天性

1.8
56.5[42-76]
不明(Idiopathic)
38%


 Histaminergic

0.56
40[7-86]
 Nonhistaminergic

1.35
36[8-75]
末梢, びまん性浮腫
3%
0.17

*薬剤, 食事, 虫刺され, 環境, 身体刺激

自己免疫/感染症の55例の内訳

C1-inhibitor欠損 197例の内訳


105例の血管浮腫症例のRetrospective review.
Clinical and Developmental Immunology Volume 2007, Article ID 26438, 6 pages doi:10.1155/2007/26438
105例の原因

蕁麻疹(-)例が55例, 蕁麻疹(+)例が50例. 全身症状を伴う血管浮腫が45例であった.

各タイプの症状頻度, 浮腫の部位
血管浮腫を来す疾患とLab所見
Angioedema
C4
Antigenic
C1 inhibitor
Functional
C1 inhibitor
C1q
C3
先天性AE
(C1-inhibitor
異常)
Type I;
Type 2;
正常
正常
正常
後天性
C1-inhibitor
欠損
or 正常
正常 or
先天性AE
(C1-inhibitor
正常)
正常
ACE-I由来AE
特発性AE
アレルギー性AE
NSAID由来AE
蕁麻疹性血管炎
正常
正常

先天性AE(C1-inhibitor関連)の診断 Lancet 2012; 379: 474–81
C4の低下, C3正常は先天性血管浮腫を示唆する所見.
 無症候性の患者でも認められる所見であり, Screening testとして有用だが, C4正常でも否定はできない.
 C1-inhibitor蛋白は85%で低下(type 1)だが, 15%では正常で, 活性が低いのみ(type 2). その場合は活性を測定する必要がある.

鑑別診断
 C4低下はSLE, hypocomplementamic urticarial vasculitis, Cryoglobulinemiaなどで認める.
 特にSLEでは2次性の血管浮腫を来すため, 鑑別には注意.(他の膠原病やリンパ増殖性疾患でも)

診断のフローチャート

蕁麻疹を伴わない血管浮腫の診断アルゴリズム(CMAJ 2006;175(9):1065-70)


Idiopathic Recurrent Angioedema
 Idiopathic Angioedemaは他に原因のない血管浮腫であり, 除外診断.
 Recurrentは6M-1yの間に3回以上のエピソードがあり, 共通したトリガーや原因がはっきりしない例と定義される.
疫学, 頻度は不明.
 全人口の10-20%が一生涯に1回以上の血管浮腫, 蕁麻疹を認める.
 女性は男性よりもやや多い傾向がある.
 慢性蕁麻疹患者の83%で血管浮腫を認める報告もある.

血管浮腫の治療
 急性期治療; Airway Protectionが重要
タイプ別
アレルギ―性; 抗ヒスタミン, ステロイド, エピネフリン
先天性
急性発作時の治療
 C1 inhibitorのIV投与が第一選択. 500-2000U IVにて30-60min以内に発作は軽快
 (Cynryze® 国内未承認, 米国も)
 喉頭浮腫(+)ならば挿管の考慮
  
Epinephrineは一時的に効果を示す可能性あり
  ステロイド, 抗ヒスタミンのBenefitは無いとされる

短期予防
トリガーが判明しており, 暴露する可能性のある場合 (待機的手術, 出産, 歯科治療等)
 C1-inhibitor 500-1500U; 暴露の1hr前に投与
 17α-alkylated Androgen(ダナゾール) 200mg tid Orally; 暴露の5-10日前より開始
 FFP 2U DIV; 暴露の1-12hr前に投与

長期予防
頻回, 重度の発作がある場合に適応
 17α-alkylated Androgen(ダナゾール®, Max 600mg/d),
 抗線溶療法は 28日のフォローでAttack free 90%

Drug
Adult Dose
Pediatric Dose
17α-Alkylated androgens
ダナゾール
(
ボンゾール®)
200mg/day
(100mg/3
日毎-600mg/day)
50mg/day
(50mg/wk-200mg/day)
Methyltestosterone
(
エナルモン®)
男性のみ 10mg/day
(5mg/3
日毎-30mg/day)
小児へは推奨されない
Antifibrinolytic agent
Tranexamic acid
(
トランサミン®)
1g bid
(0.25g bid-1.5g tid)
20mg/kg bid
(10mg/kg bid-25mg/kg tid)
副作用
17α-Alkylated Androgen  体重増加, 男性化, 性欲低下, 筋肉痛, 頭痛, うつ
  倦怠感, 悪心, 便秘, 肝酵素上昇などなど
Antifibrinolytic agent  悪心, 回転性めまい, 下痢, 起立性低血圧
  筋肉痛, CPK上昇

後天性; 急性AAEならばFFP投与が効果的
  Type 2では自己免疫あるため, 治療反応性不良
薬剤性; 原因薬剤中止
特発性; ステロイド使用は急性期には効果的
  慢性の使用は副作用 > 利点となる
  予防は抗ヒスタミン薬が良い, 3-4M毎にフォロー
  ブラジキニン受容体阻害(Icatibant), カリクレイン阻害薬(DX88)の治験が始まっている


Idiopathic recurrent angioedemaの治療 Immunol Allergy Clin N Am 26 (2006) 739–751
教育: 皮膚が乾燥しないようにする.
 Cosmetic cream, perfumes, deodorantはトリガーとなる可能性あり
 使用を避ける様に指導する.
薬剤治療はStep-wiseに行う

Step 1: 非鎮静系の抗ヒスタミン薬
 Fexofenadine(アレグラ
®), Cetirizine(ジルテック®), Loratadine(クラリチン®), Desloratadine(未承認)

 しばしば高用量で効果的なことがある. 特に蕁麻疹(+)例.
 Fexofenadine 180mg, cetirizine 10mg, loratadine 10mg bid等

Step 2: 鎮静系抗ヒスタミンの追加
 Doxepin, Hydroxyzine(アタラックス®), Diphenhydramine(レスタミン®)
 効果があり, 鎮静作用が許容可能なレベルまで増量可能.

Step 3: 報告レベルではあるが, 効果が期待できる薬剤の追加
 Cyclosporine: 効果期待できるが, 副作用も多い
 Nifedipine: RCTで効果が証明
 MTX, Warfarinの報告もある.
経験的にコルヒチン 0.6mg 1~2回/d, Dapsone 25mg bid, 100mg bidまで増量, Sulfasalazine 500mg 1-2回/dも効果が期待できる.