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2014年4月21日月曜日

血球貪食症候群

血球貪食症候群 Hemophagocytic Lymphohistiocytosis (HLH)
(Lancet Infect Dis 2007;7:814-22)

血球貪食食群とは
NK cell, 細胞傷害性T cellの異常・消失
 →免疫抑制機能が低下 → 多臓器障害, Mφの活性化・増殖 → 網内系での血球貪食増加
 → 汎血球減少, 肝脾腫大, リンパ腫大 を来す病態

Primary(Genetic) と Secondary(Reactive)の2つ
 Primaryの中でも遺伝子異常は40%にしか認めず, 発症年齢も全年齢にわたるため, 分類は難しい
 一般的にPrimaryの方が重症

Primary(Genetic) HLH
 家族性血球貪食性リンパ組織球症
  30000-50000出生に1例, < 1歳に70-80%が発症し, 致死的
 免疫欠乏性
  Chediak-Higashi Syndrome
  Griscelli syndrome
  X-linked lymphoproliferative syndrome
  Severe combined immunodeficiency
  Lysinuric protein intolerance
  Hermansky-Pudlac syndrome

Secondary(Reactive) HLH
 感染症起因性
  Virus-associated; ヘルペス(HSV, VZV, CMV, EBV, HHV6,8), HIV, Adenovirus, 肝炎ウイルス, パルボ, Influenza
  その他; 細菌(Mycobacteria, spirochaetes含む), 寄生虫(Leishmania donovani), 真菌
 悪性腫瘍性
 リンパ組織球性(リンパ腫)
 Mφ Activation syndrome(自己免疫性)

 ウイルス由来が70%を占め, 致死率は52%
 中でもEBVによるものは74%を占め, 死亡率73%と高い.

遺伝性(家族性)血球貪食症候群
 以下の遺伝子異常が報告されている.
 また, 日本国内には35例のFHLが報告されており,
 FHL2と3が半数以上を占める. 
(Clinical and Experimental Immunology 2011;163:271–283)  (Blood. 2005;105: 3442-3448)

日本国内のHemophagocytic Lymphohistiocytosis. (Int J Hematol. 2007;86:58-65.)
 2001-2005年に診断されたHLH 799例中, 567例で原因を評価.
 年齢分布と原因の頻度
若年性が半数以上
原因は, EBV関連が最多. 次いで他の感染症, 悪性腫瘍, 自己免疫.

年齢と原因の関連性
 EBV関連は若年で特に多い. 他の感染症も若年で多いが, どの年代でも生じ得る.
 高齢者ではB cell(IVL)やT/NK-cellリンパ腫に伴うものが多い.
 家族性は若年性のみ.

Peking Union Medical College Hospital(中国)で1997-2012年に診断されたHLH 103例の解析 (Medicine 2014;93: 100105)
 男性54例, 女性49例とほぼ同等. 平均年齢39.2±17.7歳[16-78歳].
 原因は血液腫瘍が47.6%で最多. 次いで感染症 23.3%, 自己免疫疾患 13.6%, 原因不明が24例であった.

症状, 所見, 血液検査所見
 脾腫は80%, 肝腫大は65%で認められる
 血球減少ではPLT低下, WBC低下が多く, 貧血は6割程度.
 WBC低下では好中球減少が76/80で認められる.
 LDH上昇はほぼ全例. TG上昇も多い.

Mayo clinicからHLH64例の解析 (Mayo Clin Proc. 2014;89(4):484-492)
 この解析でも悪性腫瘍によるものが約半数ある.

日本国内では感染症によるものが半数で、さらにその半分がEBV.
中国や海外では悪性腫瘍、特にリンパ腫に伴うものが多く, 原因頻度が異なる.

臨床症状のまとめ
症状
%
発熱
70-100%
脾腫
70-100%
肝腫大
40-95%
リンパ節腫大
15-50%
皮疹
5-65%
神経障害
25-50%


検査所見
%
貧血
90-100%
PLT減少
80-100%
WBC減少
60-90%
TG血症
60-70%
Fibrinogenemia
65-85%
Transaminaze血症
35-90%
Bil
35-75%
LDH
45-55%
Ferritin
55-70%
診断ガイドライン
分子レベルでの診断
 PRF mutation, SAP mutation, MUNC13-4 mutations

以下の8つから5つ以上を満たす
 発熱
 脾腫
 血球減少; 2系統以上 (Hg =<9g/dL, Plt<1000,00, Neu<1000)
 高TG血症(TG>=265mg/dL) and/or 低フィブリノゲン(=< 150mg/dL)
 血球貪食増 @骨髄, 脾臓, リンパ節 and 悪性腫瘍(-)
 NK cellの細胞傷害作用低下, 消失
 高フェリチン血症(>=500ng/mL)
 可溶性CD25(IL-2Rα Chain>=2400IU/mL)

末梢血, 骨髄の細胞優位性 (Int J Hematol 2000;72:1-11)
細胞分布の差により, ある程度HLHの原因が分かる.
 A; bl-LGL, Mature LGL優位.
  → HLH全体の36%を占め, 主な原因はEBV感染症.
 B; Promonocytoid cell優位.
  → 全体の15.4%を占め, 新生児HSV, AdenovirusによるHLH
 C; Mature LGL優位.
  → 全体の10%を占め, FHLに多い分布
 D; Hemophagocyteが優位で, 非特異的パターン. 43.6%を占める.
*bl; blast, LGL; Large Granular Lymphocyte

HLHとsIL-2R (Blood 1995;86:4706-4707)
 HPSではsIL-2Rは上昇する.
 日本国内において, 74例のHemophagocytic lymphohistiocytosis(成人3例, 他小児)のsIL-2Rを評価.
 sIL-2Rは465-93500 U/mL.
 sIL-2R ≥10000 or NOTで分けると,高値群が有意に予後不良.

HLHの治療
診断ガイドラインを満たさなくても, 治療は開始
 治療による死亡率の改善効果は高い
 診断が付けば, 遺伝子検索, 原因検索を行なう

Rareな疾患である為, 治療のRCTは皆無
 治療コンセプトは; 炎症抑制, 細胞増殖の抑制 (免疫抑制剤, 免疫調整剤, 細胞傷害作用)
 小児, 成人, 背景疾患, 重症度によっても異なる
 EBVによる血球貪食症候群以外ならば,  原疾患の治療により60-70%が改善を示す

化学療法, 移植
 デキサメサゾン, シクロスポリン, エトポシド → 重症例(EBV, 家族性)に使用される
 骨髄移植 → 遺伝性, 重症例, 再発例に適応 (予後改善効果が示されている NNT 2)
 Monoclonal抗体(リツキシマブ, Daclizumab) → 自己免疫性, 悪性腫瘍由来へ使用

FHL, EBV-HLHでは, 初期治療はDexamethasone, VP-16(Etoposide)が基本.
(Int J Hematol 2000;72:1-11)
 反応が悪い場合, 再発した場合は上記+CsAを長期間投与.
 上記でも効果乏しい場合は化学療法を.
 CHOP, ACOPP, ABVD regimenが推奨される.
 骨髄移植,  血漿交換も選択肢となる.

エトポシドは60-100mg/m2を5日間投与し, 3wk休薬.(Int J Hematol. 2013 Sep;98(3):375-7.)
リンパ腫に伴う血球貪食症候群では, リツキシマブとエトポシド 100mg/body程度を, 上記レジメに従わず投与しても有効である可能性がある(今宿先生談)
EBVによるNK cellリンパ腫+HPS患者の治療の報告

自己免疫性疾患に合併するHLHでは, FHL, EBV-HLHと別に考える必要があり(予後が良いこと, 治療が異なること) (Int J Hematol 2000;72:1-11)
 治療は原疾患の治療が優先される
 ステロイドパルス, Cyclophosphamide, Cyclosporin A投与も推奨されるが, Etoposideは必要なし.
 Cyclosporin Aは3mg/kg/d div for 1wk, その後 6mg/kg/d, ステロイド, MTXも併用することが推奨される.