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2014年4月7日月曜日

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群
Thoracic outlet syndrome; 動脈(A), 静脈(V), 神経(N) TOSに分類
(J Vasc Surg 2007;46:601-4)

 鎖骨下動脈, 静脈, 腕神経叢が前斜筋, 第一肋骨, 鎖骨などで圧排され, 上腕に不快感, うっ滞, 疼痛を生じる病態.
 とくに圧排されるもの, するものでの定義は無し.
 NTOSが最も多く, 90-98%を占め, ATOSが最も少なく, 1-5%程度.
 ただし, 機能予後, 症状が最も悪いのはATOS. VTOSは1.5-3%前後であり, 圧倒的にNTOSが多い. (これは症状の出現頻度, 外来受診, 手術適応にも影響されている)
 NTOSでは頸部外傷がTriggerとなることが多く, 既往が重要.
 VTOSはPaget-Schrotter病が発見の切っ掛けになることもある.
 ATOSは外傷や運動に関係なく, 突如発症する.
 第一肋骨, Cervical ribなどのAnomalyにより圧排されることが原因となりやすいため, 頸部XPが良いスクリーニングとなる.

胸郭出口は4つの部分に分類
 Pectoralis minor space (小胸筋腱と肋骨に挟まれた部位)
 Costoclavicular space (鎖骨と第一肋骨の間)
 Scalene triangle (第一肋骨, 前, 中斜角筋)
 Sternocostovertebral space (胸骨-第一肋骨-脊柱に囲まれた部位)

Cervical Ribs(頸肋);C6からの遊離肋骨
 人口の0.004-1.0%で認めるAnomaly, 女性が70%を占め, 50%が両側性
 通常, 無症候性だが, 頸部外傷(むち打ち)によりNTOSを発症することがある
 一部で鎖骨下動脈を圧排し, 閉塞や動脈瘤を形成し, ATOS発症へと繋がる.
 頚肋意外にも, 胸郭出口には様々なValiantがある(斜角筋Anomalyなど)

ATOSは初期は無症候性
 血栓形成すると症状(+). それまでは数年に1回USチェックを行い, 動脈形態評価が推奨される.
 異常があれば手術治療の適応.

胸郭出口症候群の症状
ATOSの症状
 手指の虚血, 間欠破行, 蒼白, 冷感, 痺れ, 疼痛といった虚血症状が主.
 健側よりも血圧が20mmHg以上低くなることもある.
 症状は手指に多く, 肩や頸部には稀.
 動脈瘤や閉塞部からの血栓閉塞, 塞栓が原因.

VTOSの症状
 上腕の腫脹や, チアノーゼ所見. 疼痛や痺れも認めるが, 上肢の腫脹を認めるのはVTOSのみであり, 特異的.

NTOSの症状
 上肢の疼痛, 痺れ, 脱力. 頸部痛や後頭部痛も認める.
 末梢の冷感やRaynaud現象もNTOSで認める. (阻血よりも, 交感神経の過活動によるため[C8,T1,腕神経叢の下位])

症状の頻度
症状
50名中の頻度
頸部痛
88%
僧帽筋痛
92%
鎖骨上の疼痛
76%
胸痛
72%
肩痛
88%
上腕痛
88%
後頸部痛
76%
知覚鈍麻;
98%
5指全て
58%
4,5
26%
1-3
14%


所見: NTOS vs ATOS
NTOSとATOSは身体所見で判別可能
 NTOSは斜角筋に圧痛を認め, 以下の誘発テストにより症状(+)
 Neck rotation and head tilting頸部を健側に回旋, 外転させ, 患側に疼痛, 知覚鈍麻が出現する.
 AER(Abducting the arms in external rotation)肩関節を90度外転, 90度外旋させる. 60秒維持し, 症状の出現を評価する.
 ULTL(Modified upper limb tension test of Elvey)座位で, 補助無しで能動的に行う.
  1) 両上腕を90度外転
  2) 両手首を背屈
  3) 頸部を外転. 両側行う.
  1→3の運動は腕神経叢を徐々に伸展する. 肘周囲の疼痛, 指先の痺れがあれば陽性.
 ULTLが陽性→ 3箇所の内, どれかで圧迫(+) 胸郭出口, 小胸筋, 頸椎のどれか.
ATOSの診断
 ATOSは安静時の橈骨動脈拍動減弱がCommon.
 上腕の外転に伴う脈の減弱は有用でないことが多い.
 ULTTや頸部の進展, 回旋での症状誘発は無し.
 症状は前腕, 手に出現するのが一般的であり, 症状や病歴のみで診断がつくことも少なくない.

ATOSに対するMRA検査
 3 studiesのMetaでは, MRAは鎖骨下動脈狭窄に対するSn 52.6% Sp 100%, LR(+) ∞ LR(-) 0.47
 Evidence levelの高いStudyが無く, ATOSのReference standardも様々であるため, 真の有用性は未だはっきりしない.
 MRIにより周辺軟部組織の評価も可能のため, 考慮しても良い検査.

TOSに対するDoppler Adson's Test
 TOSに対するDoppler Adson’s testは, 手術治療による症状改善を予測する因子になり得る.
 TOS患者16名のRetrospective study (World J Surg 2006;30:291-2)
  Adson’s testをしながら, 鎖骨下動脈にDoppler USを施行.
  陽性; Peak systolic velocityが2倍 or 血流が消失 or 低下.
  16名中8名がDoppler Adson’s test陽性.
  その内87.5%(7名)が手術治療により完全に症状改善. 残り1名は軽度改善を示した.

  陰性の8名中, 手術治療に反応を示したのは50%(4名)のみ. 残り2名は部分的に改善, 2名は反応無し.

他の身体所見 (Circulation 2002;106:1874-80)
 Adson’s test
  上肢は進展位, 頸部を伸展位, 同側に回旋させる. 深吸気させて, 橈骨動脈を触れる. 
  脈が弱ければ, 鎖骨下Aの圧迫を示唆.
  陽性率は31%[22-100]であり, 頸部を体側に回旋させた方が陽性率が上昇するとの報告もある. 健常人でも9-53%でAdson’s test陽性.

 Wright’s maneuver
  肩を外転位にし, 上腕を外旋させ, 症状の誘発, 橈骨動脈を触れる.

TOS患者での検査感度.
検査
感度
ULTT
98%
90’ Abduction in external rotation
94-100%
斜角筋圧痛
94%
斜角筋圧迫にて放散する症状
92%
反対側への頸部回旋
90%
反対側への頸部屈曲
90%
触覚の異常
68%

無症候の健常人53名での各検査の偽陽性率
 単一ならば偽陽性も多いが, 組み合わせで偽陽性率は低下
(Acad Emerg Med 1998;5:337-42)
検査
脈の減弱
疼痛
感覚鈍麻
Adson’s test
11%
0%
11%
Costoclavicular maneuver
11%
0%
15%
Elevated arm stress test
62%
21%
36%
Supraclavicular pressure
21%
2%
15%
組み合わせ; 上記の2
6%
2%
21%
上記の3
4%
0%
4%
上記4つすべて
0%
0%
0%

CCM; 肩関節を下後方に牽引し, 30秒保持し症状を見る.
EAST; 両側上肢を挙上し, 3分間手を開いたり, 握ったりする.
SCP; 両側の斜角筋を, 第一肋骨の付近で, 母指で30秒圧迫する.