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2012年8月28日火曜日

TIAにおけるABCD1-3ルール

TIA患者で問題となるのは, TIA後の脳梗塞発症リスクが高いという点.
どのくらいのリスクかを推定するのに有名なのはABCDルール.
現在ABCDルールは ABCD, ABCD2, ABCD3, ABCD3-I まで出現してきており, 現時点でまとめてみる.

ABCDルール (Lancet 2005;366:29-36, Lacet 2007;369:283-92)

2pt
1pt
0pt
Age

>=60yr

BP

sBP>140 and/or dBP>=90

Clinical features
片側の脱力
脱力(-), 言語障害あり
その他
Duration
>=60min
10-59min
<10min

年齢, 血圧, 臨床症状, 症状出現期間の4つの項目で評価し, ptと脳梗塞発症率は以下の通り,
Pt
2d
7d
0
0[0.0-9.4]
0[0.0-9.4]
1
1.0[0.0-3.8]
1.0[0.0-3.8]
2
1.4[0.7-2.8]
1.6[0.8-3.1]
3
1.3[0.8-2.4]
1.6[0.9-2.7]
4
3.4[2.5-4.6]
5.0[3.9-6.4]
5
6.1[4.7-7.8]
8.3[6.7-10.3]
6
7.7[6.0-9.7]
11.1[9.1-13.5]
4pt以上ならば1週間以内の脳梗塞リスクは5%であり, 入院適応とされている.

ABCD2ルール(Lancet 2007;369:283-92)
ABCDルールに糖尿病の有無(DM)の項目を足し, Dが2つでABCD2ルール.
Feature
Point
Age >60
1
BP(sBP>140, dBP>90)
1
Clinical; 片麻痺
      構音障害
2
1
Duration; 10-60min
    >60min
1
2
Diabetes
1
脳梗塞発症率は,
pt
2 Days
7 Days
90 Days
=<1
0[0.0-2.2]
0[0-2.2]
3.1%
2
1.4[0.6-3.0]
1.7[0.8-3.3]
3
1.3[0.7-2.4]
1.5[0.9-3.3]
4
3.8[2.8-5.1]
5.5[4.3-7.0]
9.8%
5
5.1[3.8-6.7]
7.2[5.7-9.0]
6
8.8[7.0-10.9]
12.3[10.2-14.7]
17.8%
7
6.3[3.3-11.3]
10.6[6.7-16.4]


ABCD2ルールと24時間発症率 (Neurology 2009;72:1941-7)
初回TIAの488名の解析. 発症24時間以内の脳梗塞発症率は5.1%.
ABCD2ルール スコアと来院24時間以内の脳梗塞発症率は,
ABCD2 rule
Risk (%)
>=4
5.0%[2.5-7.5]
>=5
7.3%[3.6-11.0]
>=6
9.1%[3.4-14.8]
7
16.7%[0-46.5]
またTIA後の脳梗塞発症は24時間以内が最も多く, 約1週間前後までリスクは高い.

シンガポールのValidationでは, ABCD2ルールのCutoffは3とすべきとの意見
(Am J Em Med 2010;28:44-8)
TIAの470名のRetrospective study. スコアと脳梗塞発症率は, 以下の通り.
Score
2D
7D
30D
90D
0
0
0
0
0
1
0
1.1%
1
1
2
2.4%
2.3%
2.1%
1.9%
3
9.8%
10.2%
11.3%
10.6%
4
22%
22.7%
22.7%
22.1%
5
28%
27.3%
28.9%
32.7%
6
28%
27.3%
25.8%
24%
7
9.8%
9.1%
8.2%
7.7%
Total
17.4%
18.7%
20.6%
22.1%


3pt以上よりリスクが上昇するという結果.

カルフォルニアのValidationでは, ABCD2ルールのCutoffはさらに下げるべきとの結果.
(Ann Emerg Med 2010;55:201-10)
TIA1667名のProspective study. ABCD2スコアと7日以内の脳梗塞発症率は,
ABCD2 score
7d脳梗塞(%)
7d disabling(%)
0
0
0
1
5.6[0-24.2]
0
2
14.7[2.1-24.3]
0
3
11.8[5.2-18.4]
0
4
18.7[14.0-23.5]
2.2[0-4.4]
5
24.6[19.8-29.3]
5.3[3.1-7.6]
6
25.9[20.6-31.3]
7.4[4.9-9.9]
7
29.2[17.8-40.6]
6.3[0.9-11.6]
これでは1ptでも5%のリスク. 2ptでは15%と低スコアでも高リスクとなってしまう. 後遺症を来すほどの脳梗塞は少ない.

カナダのValidationから得られたABCD2スコアと脳梗塞発症LRでは,
脳梗塞発症リスクを強く否定したいのならばCutoffは<2とすべき.
(CMAJ 2011;183:1137-45)

結局当初いわれていたABCDルール <4pt, ABCD2ルール <3-4ptをCutoffとしても脳梗塞発症リスクが低いとは言えないというのがValidationで判明してきた.
0-1ptならばまあ低リスクと言えるかもしれない.

ABCD3ルール, ABCD3-Iルール (Lancet Neurol 2010;9:1060-9)
ABCD2に "7日以内のTIAの既往" の項目が追加されたものをABCD3ルールと呼び,
さらに "同側頸動脈の≥50%狭窄" "急性期のMRI-DWIでHighを認める" の画像項目がつかされたものをABCD3-Iルールとした.

ABCD3
ABCD3-I
Age ≥60yr
1
1
BP≥140/90mmHg
1
1
臨床; 麻痺(-), 構音障害あり
 片側の麻痺あり
1 
2
1 
2
期間; 10-59min
 ≥60min
1 
2
1 
2
DM
1
1
1) 7d以内のTIA既往あり
2
2
2) 同側頸動脈の≥50%狭窄
NA
2
3) 急性期のMRI-DWIHigh
NA
2
Total
0-9
0-13


スコアとリスク分類, 7日以内の脳梗塞発症率は以下の通り(TIA患者3886名のCohort)
Risk
ABCD2
ABCD3
ABCD3-I
Low
0-3
0-3
0-3
Intermediate
4-5
4-5
4-7
High
6-7
6-9
8-13

Risk
ABCD2
ABCD3
ABCD3-I
Low
0.6%
0%
0%
Intermediate
2.5%
1%
0.8%
High
4.3%
3.4%
4.1%



脳梗塞発症予測に関しては, ABCD3ルールはABCD2ルールと同等.
つまり, TIAの既往の評価のみでは特に優位な点は認めない.
しかしながら画像評価を加えたABCD3-Iルールではより鋭敏にリスク評価が可能.

ちなみにTIA患者において, ABCD2スコアとMRIの異常所見には相関性は認めず, MRI所見は頸動脈ドップラーエコー異常所見のみ軽度の相関性を認めている(Stroke 2009;40:3202-5)
 >>つまりMRIや頸動脈エコー所見はTIA後の脳梗塞発症リスクの独立因子と言える可能性が高い.

臨床的なTIA患者において, 初期の画像でMRI-DWIでHighあり→ Infarctionを伴うTIAと規定したとき, Infarctionを伴うTIAと伴わないTIAの2群間でその後の脳梗塞発症リスクを評価(Neurology 2011;77:1222-1228)
MRI-DWIでの異常を伴わないTIA群ではABCD2スコアによらず, 脳梗塞発症リスクは低いという結果. 一方, MRI所見を伴うTIAではABCD2スコア≥4で脳梗塞発症リスクが高い.

以上より, TIAを考慮した際はABCD2,3ルールのみならず, やはり画像所見の評価は重要と言える. 画像所見があればABCDスコアが低値でも注意すべきである.
画像所見が無く, ABCDスコアが低リスクならば脳梗塞リスクも低いと言えるかもしれないが, この点に付いてはまだValidationが必要と考えられる.