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各種ガイドラインにて, 低Na血症の補正速度は大体 8mEq/L/24時間を超えないようにすべきとの推奨がある.
これはそれ以上では浸透圧性脱髄症候群を生じるリスクがあるため.
しかしながら, どの程度の速度がリスクとなるか, というのは結構曖昧であったりする.
古い論文では,
(J Am Soc Nephrol 1994;4:1522-30)
血清 Na=<105mEq/Lの56 Casesを解析.
・その内14名が補正に伴う神経症状を認めた(恒久的10名, 一時的4名)
神経症状; 痙攣, 意識障害, 構音障害, 歩行障害, 頭痛, 嘔気など
・神経症状出現 vs 非出現群の比較.
Variable | Cutoff | All pt | Chronic HypoNa |
~120mEq/Lまでの補正速度 | =<0.55mEq/L/hr | 0 | 0 |
>0.55mEq/L/hr | 35% | 56% | |
24hrでの補正量 | =<12mEq/L | 0 | 0 |
>12mEq/L | 33% | 50% | |
48hrでの補正量 | =<18mEq/L | 0 | 0 |
>18mEq/L | 33% | 52% |
24時間で12mEq/Lを越える上昇で神経障害が出現する結果.
近年, 2つのコホートがでていたのでまとめてみる。
カナダにおける多施設cohort
(NEJM Evid 2023; 2 (4) DOI: 10.1056/EVIDoa2200215)
・2010~2020年の入院患者において, 初期に低Na血症(<130mEq/L)を認める患者群を抽出し, 浸透圧性脱髄症候群(ODS)を発症した患者のリスク因子を評価した.
・ガイドラインを超える補正速度(>8mEq/L/日)を認めた場合「急速補正」と定義.
低Na血症を認めた患者は22858件, 17254例.
・平均年齢68歳. 女性50%
・Na<110が1.2%, Na 110-119が11.9%であった.
・急速補正は17.7%で認められた.
・ODSと診断された例が12例(0.05%)
初期Na<120の症例のうち, ODSを発症したのが0.3%
・ODSを発症した12例の初期Na値は111[106-115]mEq/L(vs 非ODS群126[122-128])
Na<110が7例(58%)と多い(vs 非ODS群では1.1%)
その分血清浸透圧も低い
・急速補正例はODS群で5例(42%)(vs 非ODS群で15.9%)
重度の低Na血症(<120mEq/L)で入院となった患者群を対象としたCohort study.
(NEJM Evid 2023; 2 (10) DOI: 10.1056/EVIDoa2300107)
・1993-2018年にMassachusetts General Hospital, Brigham and Women’s Hospitalに入院した重症低Na血症患者を対象.
・Naの補正速度と死亡リスク, CPM(Central Pontine Myelinolysis)リスクを評価.
・対象患者は3274例. 補正速度は<6mEq/L/24h, 6-10mEq/L/24h, >10mEq/L/24hで分類.
補正速度<6が38%, 6-10が29%, >10が33%とほぼ同数認められた.
アウトカム
・院内死亡リスク: Na補正<6は死亡リスクが高く, >10の群では死亡リスクが低い結果.
また高齢者や合併症が多い患者も死亡リスク因子となる.
Propensity-score analysisでは補正速度<6のみ死亡リスクに関連
補正速度の死亡リスク因子に関わる背景疾患
・悪性腫瘍や心不全症例では緩徐なNa補正は死亡リスクを上昇させうる
・肝硬変では急性のNa補正は死亡リスクを低下させる
(速度よりも原疾患に対する影響はつよいか)
CPMの発症は7例のみ.
・補正速度は 8mEq/L/24hを越える例が2例: 19, 17
GL通り, <8mEq/L/24hで生じた例が5例: 3, 6, 6, 8, 8
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まず, ODS自体, Na<110-120となるような低Na症例の0.2-0.3%程度と非常に稀な合併症.
補正速度が速い場合, リスクにはなり得るが, ではガイドライン通りの補正速度ならば大丈夫かというと, それでも生じる.
背景疾患(悪性腫瘍やアルコール依存, 低栄養など)や, 初期のNa濃度も重要なリスクとなる.
また, 背景疾患によってはNa補正をはやめた方が予後がよい可能性もあり, 「ODSを怖がって迅速な補正をしない」ことの不利益にも眼を向けるべきであろう.
心房細動による心原性脳梗塞では, 急性期における梗塞再発リスクが0.1-1.3%と高く, なるべく早期に予防的抗凝固療法の開始が理想である.
しかしながら, 早期の抗凝固療法は脳出血のリスクとなる可能性もあるため, 開始のタイミングは難しい.
EHRA-ESCガイドラインでは
・TIAでは翌日より抗凝固開始
Minor strokeでは3日後 (NIHSS<8で定義)
Mild strokeでは6日後 (NIHSS 8-15で定義)
Severe strokeでは12日後 (NIHSS >15) に開始することを推奨しており,
・これらは1-3-6-12 ruleと呼ばれる.
(Lancet Neurol. 2019 Jan;18(1):117-126.)(Europace. 2018 Aug 1;20(8):1231-1242.)
他のガイドラインの推奨のまとめ
ただ, これらよりも早期に開始しても出血リスクは増加しないとの報告も最近増えてきている
日本国内より, 1-2-3-4 ruleの提唱
(Stroke. 2022 May;53(5):1540-1549.)
・国内より2つのProspective cohortのデータを解析.
TIA, NIHSS 0-7, 8-15, ≥16の脳梗塞症例において, DOACの開始時期を評価.
DOAC開始の中央期間よりも早い症例を早期投与群と定義し, 早期投与と予後を比較した.
・1797例の患者において, TIAでは2日,
脳梗塞例では軽症, 中等症, 重症でそれぞれ 3,4,5日で開始していた.
両群における出血, 塞栓症のリスク
・早期群: 1-2-3-4日後に開始した群は, 晩期群と比較してよりStroke再発リスクは低く, 大出血は両群で同等であった.
ELAN: Nonvalvular Afを認める脳梗塞症例を対象とし, 抗凝固療法(DOAC)開始のタイミングを比較したRCT.
(N Engl J Med 2023;388:2411-21.)
・脳梗塞は軽症(梗塞巣≤1.5cm),
中等症(中大脳動脈, 前大脳動脈, 後大脳動脈の皮質表在枝の分布にある梗塞),
重症(中等症の動脈支配領域のさらに広範囲の梗塞や>1.5cmの脳幹, または小脳の梗塞)に分類し, それぞれでDOACの開始タイミングを設定し比較
・N=2013例
・早期開始群: 軽症, 中等症では48時間以内, 重症では6-7日目(1-2-2-6)
晩期開始群(ガイドラインによる推奨 1-3-6-12): 軽症では3-4日目, 中等症では6-7日目, 重症では12-14日目
・アウトカムは脳梗塞再発リスクと出血リスク.
アウトカム
・脳出血リスクは両者で有意差なし.
・脳梗塞再発リスクは有意差はないものの, 早期開始群で1%程度低下する可能性が示唆された.
・90日アウトカムでは, 複合アウトカムで 有意差を認める
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心房細動+脳梗塞症例における抗凝固の開始時期は従来のGLで推奨されている投与開始期間よりも大きく短縮される可能性がある.
TIAでは早期に, 軽症では1-2日後, 中等症でも2-3日後, 重症では4-6日を目安とするとよいのかもしれない. ルール的には 1-2-3-5 的な?
トキソプラズマ症はToxoplasma gondiiによる人畜共通原虫症.
・ネコ科の動物を終宿主とする細胞内寄生原虫であり,
中間宿主としてヒトやブタ, ヤギなど哺乳類やニワトリ, カモなどの鳥類に感染する.
T. gondiiのライフサイクル
(Saudi J Biol Sci. 2021 Jan; 28(1): 962–969.)
・猫の糞とともに虫卵が排出され, 環境内で1-5日経過したものが感染性を有する
・他の動物が汚染された土や植物などを摂取し, 感染. 中間宿主となる.
体内でタキゾイドを放出し, 拡大. 神経や筋組織でシストを形成.
・猫がそのシストを含む肉を摂取すると感染.
・ヒトはシストや虫卵を摂取し 感染するが, 他に垂直感染もある
・74-77度や 中心温度66度以上, また-12度の冷凍で 感染リスクは低下.
ヒトへの感染
(Rio de Janeiro, Vol. 104(2): 221-233, March 2009)
・症状は無症候性〜免疫不全患者の重症感染症,
妊婦が感染することで胎児に垂直感染を呈し, 先天性トキソプラズマ症となることがある.
先天性トキソプラズマ症
・妊婦から胎盤を通過して胎児に垂直感染する
・不顕性感染〜死産, 水頭症, 脈絡膜炎, 脳内石灰化, 精神運動機能障害
リンパ節腫脹, 肝障害, 黄疸, 血球減少など
後天性感染症
・急性症状: 無症状が多いが, 発熱やリンパ節腫脹, IM-like syndromeなど
不明熱の原因にもなり得る.
・眼トキソプラズマ症: 先天性感染の再活性化が原因. 後部ブドウ膜炎, 視力障害, 眼痛など
・日和見感染症: HIV患者などでは潜伏感染していたトキソプラズマが再活性化し, 脳炎, 脈絡膜炎, 肺炎などの重篤な症状を呈する
Toxoplasmosisによる腸炎
・経口の急性感染後, 重度の腸炎や小腸壊死を呈する症例や, 播種性トキソプラズマ症の初期に重症腸炎を呈する例など報告がある(Case Rep Gastrointest Med. 2017;2017:3491087.)(South Med J. 1995 Aug;88(8):860-1.)
・動物研究では, 経口感染後, 小腸に強い炎症を生じる.
上皮細胞の軽度の落屑, 中等度〜重度の壊死を認める症例など.
病理学的変化は回腸遠位で最も顕著であり, 十二指腸や空腸は保たれる
・また肝障害を呈する頻度も高く, 肝臓血管周囲や実質内に炎症性細胞浸潤を認める.
・寄生原虫は回腸に多数検出される.
・ヒトでの報告が少ない理由の1つに摂取される虫体量が考えられる.
日本におけるToxoplasma gondiiの疫学
(Parasitology International 87 (2022) 102533)
ヒトにおけるT. gondii抗体の保有率
・一般人口における保有率は1割 北九州では高い.
・眼病変患者における保有率は 数%とむしろ低い.
猫や他の動物の抗体保有率
・猫は徳之島や西日本の野良猫で多く認められる.
・他の動物では羊, ヤギで多い
東北の羊でおよそ3割, 沖縄のヤギは75%に及ぶ.
・鶏は地域差がありそう. 宮崎では11%だが, 岐阜では0%
野生動物での保有率
・様々だが, 猪や蝦夷鹿は多く, またカモシカも多そう
Toxoplasmosisの治療(平成26年, 診療の手引きより)
・急性感染症で, 免疫正常, 軽症例では治療は不要.
・先天性トキソプラズマ症の治療は 3剤療法: ピリメタミン, スルファジアジン, ホリナート
・免疫不全者では, 上記3剤療法を4-8週間. その後は維持療法として免疫状態が改善するまで継続が推奨される.
・代替療法としてST合剤 また,
上記3剤療法のスルファジアジンの代替として, クリンダマイシン, アジスロマイシン, ダプソン, アドバコンのいずれかを使用することも可能.
2023年9月(ごろ)にでました心房細動における抗凝固療法の重要な論文2つ.
1つめ: Frailの高齢者でWarfarin→DOACとすると, 出血のみ増える
(Circulation. 2023 Aug 27. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.066485.)
FRAIL-AF: Warfarinを使用中の75歳以上のAf患者で, 且つFrailを認める(Groningen Frailty Indicator score ≥3)患者群1330例を対象とし,
・Warfarinを継続する群と, DOACへ変更する群に割り付け比較したOpen-label RCT
・GFR<30mL/min/1.73m2とValvular Af群は除外
・12ヶ月間継続し, 塞栓症リスク, 出血リスクを比較した.
・DOAC切替群は当初INR <2.0で切り替えていたが, その場合切替直後の出血が増加したため, その後(DOAC群102例導入後)はINR<1.3で切替とした.
母集団
アウトカム
・DOAC切替群で有意に出血リスクが増加したため, Studyは終了
・Major bleedingは有意差なし. CRNMの上昇が主.
・塞栓症イベントは有意差なし.
増加する出血は
・皮膚, 消化管, 泌尿生殖器系
・特に消化管はMajor bleedingも目立つ.
感想
・やっぱり腎機能も不安定なフレイル高齢者でDOACは正直怖いですよね.
DOACはワルファリンと比べて出血リスクは低いという話ですが, 結局消化管については差はないし, こういうところで悪く出ちゃうのは想像に難くないよね.
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2つめ: 無症候性のAfでの抗凝固ってどうするのか?
(N Engl J Med. 2023 Aug 25. doi: 10.1056/NEJMoa2303062.)
・埋め込み型デバイスや, 経皮型デバイスにより検出されたAf症例をAHREs(atrial high-rate episodes)またはSubclinical Afと呼ぶ.
・この場合の抗凝固療法の適応は定まったものはないが, 24h以上持続するような症例や, Strokeのリスクがある症例では抗凝固療法を推奨する意見がある.
NOAH-AFNET 6: 高齢者におけるAHREsに対するNOAC(Edoxaban)を評価したDB-RCT.
・患者は65歳以上で, 埋め込み型デバイスによりAHREsが検出され, 今までECGでAfと診断されたことがない患者群.
・AHREsは≥170/minの心房拍動が6分以上持続する症例で定義
・さらに1つ以上のStrokeリスクを有する患者(CHA2DS2+V)(参考はこちら)
・除外項目: ECGでAfが記録されている患者, 30日以内のACS, PCI, CABGの病歴, 余命が12ヶ月未満, 抗凝固薬が禁忌, DAPTが適応となる症例, 他に抗凝固療法が必要とされる疾患.
これらを満たす患者群をEdoxaban vs Placebo群に割り付け, 心血管死亡, Stroke, 塞栓症の頻度と発症までの期間を比較
・Edoxabanは60mg/d, 体重≤60kg, CCr 15-50mL/min, P-glycoprotein阻害作用がある薬剤との併用時は30mg/d
・Placebo群では偽薬またはアスピリンが含有されたものが用意され, 血管疾患や冠動脈疾患, 脳卒中の既往などによりアスピリンが適応と判断された場合はアスピリン含有Placeboが使用された.
患者群
・75歳以上が2/3
・AHREsの持続時間は2.8時間(0.8-9.4)
・CHA2DS2-VAScスコアは4[3-5]
アウトカム
・Studyは安全性の懸念より途中で中断
・心血管イベントリスクは両者で有意差は認めないがEdoxaban群では有意に出血リスクが上昇する結果
ACR/EULAR 2023のCPPD疾患の分類基準がでました
(Ann Rheum Dis : 10.1136/ ard-2023-224575)
まずDefinition criteria:
・関節炎所見/症状を認め, 他に原因となる疾患が認められない患者(RAや痛風etc)において, Crowned dens syndromeを満たす場合や関節液よりCPP結晶が認められる場合はCPPD疾患と診断
・それ以外ではスコアが>56点ならばCPPD疾患とする.
CPPDの診療スコア
・一度でも認められた場合に算定
同一ドメインで複数認められた場合は最もスコアが高いものを採用
画像検査は少なくとも1カ所以上の有症状関節で評価することが必要(CR, US, CT, DECT)
項目 | 点数 | |
A 年齢 | ≤60歳 | 0 |
B 関節炎の経過 | 持続性, または典型的な炎症性関節炎ではない | 0 |
C 罹患関節の部位 | 第一MTP関節 | -6 |
D 関連する代謝性疾患(先天性ヘモクロマトーシス, 原発性副甲状腺機能亢進症, 低Mg血症, Gitelman症候群, 低リン血症, CPPD疾患の家族歴) | なし | 0 |
E 罹患関節の関節液所見 | 2回精査し, CPP結晶が陰性 | -7 |
F 画像検査にて手関節, 手指関節のOA変化(K/Lスコア≥2で定義) | 以下の所見なし/検査なし | 0 |
G 罹患関節の画像検査にて, CPPDの証拠を認める | US, CT, DECTで初見を認めない(CRで所見を認めない, またはCR未施行) | -4 |
H 症状に関わらず, 関節にCPPDの証拠が認められる | なし | 0 |