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2023年3月30日木曜日

静脈血栓症(VTE)一次予防目的のアスピリン

 骨折外傷や整形外科手術においては静脈血栓症(VTE)予防としてヘパリンの投与などが行われる. 海外は低分子ヘパリン(LWMH)が使用される.

 出血リスクが高い症例ではアスピリンも選択肢となるという報告.


股関節置換, 膝関節置換術におけるVTE予防として
アスピリン vs 他の抗凝固薬を比較したTrialsのMeta

(JAMA Intern Med. 2020;180(3):376-384.)

・13 RCTs, N=6060例での解析

・LMWH(5), リバロキサバン(3)との比較が最も多い

・アスピリンは他の抗凝固薬と比較して,
VTE予防効果は同等, 出血リスクもかわらない結果.

 VTEリスク: RR 1.12[0.78-1.62]


 DVTリスク: RR 1.04[0.72-1.51]


 PEリスク: RR 1.01[0.68-1.48]

・出血, 血腫形成リスクは両者で有意差なし

・Sub解析でも特に大きな差は認めない


PREVENT CLOT: 骨折患者を対象とし, LWMHとASAによるVTE予防効果を比較した非劣性RCT.

(N Engl J Med. 2023 Jan 19;388(3):203-213.)

・手術治療が必要となる四肢の骨折, または臼蓋・骨盤骨折の成人症例12211例を対象.

・除外例: 受傷〜受診まで48時間以上, Study導入までに3回以上のVTE予防投与を受けている群, 6ヶ月以内のVTE既往, 治療的抗凝固療法を行っている群, 慢性の血液凝固疾患がある患者.

・入院中のVTE予防としてLWMH群(Enoxaparin 3000U, 1日2回)とアスピリン群(81mg 1日2回投与)に割り付け, 比較.

・退院後は各病院のプロトコールに則ってVTE予防を行なった.

母集団

・BMIは27.4[23.7-32.3]

・担癌患者は2.5%

・VTE既往は0.7%

・下肢骨折が87.5%


アウトカム

・90日死亡リスクはASA群で0.78%, LWMH群で0.73%と有意差なし

・DVT発症率は2.5% vs 1.7%, AD 0.80[0.28-1.31]


 遠位DVTが1.45% vs 0.86%, AD 0.58[0.20-0.96]と差があり


 近位DVTは1.23% vs 0.98%, AD 0.25[-0.12~0.62]と差は認めず

・PE発症率は1.49% vs 1.49%と差は認めず.


 タイプ別でも差はない(症候性, 無症候性, Massiveなど)

・出血リスクも
有意差なし


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四肢外傷や整形術後のVTE予防として、アスピリンも選択肢となりえる.

遠位DVTは増加する可能性はあるが, 近位DVTや肺血栓塞栓症リスクは同等であり, 出血リスクが高い患者や抗凝固療法が行いにくい患者では選択肢として押さえておく価値はある.

2023年3月29日水曜日

ANCA関連血管炎の寛解維持療法: リツキシマブ vs アザチオプリン

 (Ann Rheum Dis. 2023 Mar 23;ard-2022-223559. doi: 10.1136/ard-2022-223559.)

RITAZAREM: 再燃したAAV症例188例を対象としたRCT.

全例でRTX+GCにより寛解導入療法が行われ,
 4ヶ月の時点で寛解を達成した症例を, 

RTXによる維持療法群と, AZAによる維持群に割り付け, 比較したopen-label RCT.

・RTX群は1000mgを4ヶ月毎に投与.


  IgG<300mg/dLでは投与を延期し, >300を満たした際に投与

・AZA群は2mg/kg/日を投与し, 24ヶ月後より減量.
 

 AZAが継続困難な場合は腎機能良好群ではMTX, 不良群ではMMFを使用

・36ヶ月以上フォローし, 再燃率を比較した.


母集団: 割り付けられたのは170例


・PR3-ANCA陽性例が7割

・再燃は重症例が6割


アウトカム


・再燃リスクは有意にRTX維持療法群で低い: HR 0.41[0.27-0.61]

・寛解導入時のPSL量(1.0mg/kg vs 0.5mg/kg)や
ANCAタイプでは特に再燃リスクに差は認めず.

・再燃時に重症例の方が再燃リスクは低い.


重大な合併症リスク

・両群で感染症の頻度はほぼ同等.


・低Igのリスク因子:
 


 RTXとAZAでリスクは同等だが, 

 
AZAは再燃時にさらに
RTXやGC増量で治療されるため結果的に低下する.

・再燃時のPSLが高用量群では
より低Igリスク


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AAVの寛解維持療法では, アザチオプリンよりもRTXの方が維持効果が良好という結果

ただし4ヶ月毎に1000mgとなかなかなスケジュール. コロナ禍ではどうか.

2023年3月28日火曜日

ICU管理となるような重症市中肺炎に対するステロイド投与

 市中肺炎に対するステロイド投与のStudyは2015年あたりより多く発表されている。

例えば: http://hospitalist-gim.blogspot.com/2015/02/blog-post_18.html

他には 市中肺炎785例を対象としたRCT: Lancet 2015; 385: 1511–18 など.


9 RCTs, 6 cohortsのMeta-analysisでは (CHEST 2016; 149(1):209-219)

・ステロイド投与量で多いのはmPSL 30mg/dを7日間

・市中肺炎に対するステロイド投与は, 死亡リスクを改善させない結果.
 

 肺炎の死亡リスク RR 0.72[0.43-1.21]
 重症肺炎の死亡リスク RR 0.72[0.43-1.21]

・ステロイド投与はARDSのリスクを軽減する効果はある
 ARDSリスク RR 0.21[0.08-0.59]


6 RCTsのMetaでは, (Clinical Infectious Diseases® 2018;66(3):346–54)

・ステロイド投与により死亡リスクは変わらない(aOR 0.75[0.46-1.21])


・状態安定化までの期間は1日短縮(-1.03[-1.62~-0.43])


・入院期間も1日短縮(-1.15[-1.75~-0.55])

・高血糖リスクは上昇(aOR 2.15[1.60-2.90])

・
市中肺炎関連再入院率も上昇(aOR 1.85[1.03-3.32])



といった結果があり, 

これまでは死亡リスクは低下させないものの, 重症化リスクを低下させたり,

入院期間の短縮や挿管管理リスクの低下効果が期待できる, というような認識であった


今回ICU管理となるような重症CAPにおけるステロイド投与のStudyが発表

CRICS-TriGGERSep: ICU管理が必要なCAP症例を対象とし, 
Hydrocortisone投与群 vs Placeboに割り付け比較したDB-RCT.

(N Engl J Med. 2023 Mar 21. doi: 10.1056/NEJMoa2215145.)

・重症例の定義は以下の1つ以上を満たす:
 

 人工呼吸器管理(PEEP ≥5cmH2O)
 

 HFNCによる酸素投与: FiO2 ≥50%, P/F <300
 

 マスクによる酸素投与: P/F <300
 

 PSI ≥130, Group Vに分類されたCAP

・除外項目: 気管挿管を希望しない患者, インフルエンザ肺炎, 敗血症性ショック症例.

・Hydrocortisoneは200mg/d, 4-8日継続し, その後減量. 


 投与期間は臨床的改善の有無で決められた.

 
合計8-14日間投与.

・
28日間の死亡リスクを比較した


StudyはN=800の時点で, 死亡リスクに差が認めたために中断.



アウトカム:


・28日死亡率は, Hydrocortisone投与群では6.2%[3.9-8.6]


 Placebo群では11.9%[8.7-15.1], AD -5.6%[-9.6~-1.7]と有意にHydrocortisone群で低下する

・人工呼吸器管理がされていなかった患者群では,
 

 その後呼吸器管理となったのは18.0% vs 29.5%, HR 0.59[0.40-0.86]

・昇圧薬未使用群では, その後昇圧薬を使用したのは
 15.3% vs 25%. HR 0.59[0.43-0.82]と, これらも有意にHydrocortisone群で重症化リスクの低下が期待できる.


・消化管出血リスクや感染症リスクは両者で有意差なし

・インスリン使用量はステロイド投与群で増加する


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重症市中肺炎ではステロイドの投与により予後の改善が期待できる.

これまでも臨床的な改善効果などは認められていたものの, どのような患者群で投与すべきかが明確ではない問題点があったが, これにより投与により利益が期待できる患者群がある程度わかってきたかもしれない.

2023年3月6日月曜日

心筋障害を伴う膠原病

 ○○性の横紋筋融解症+心筋炎症例があったので

膠原病で心筋障害を伴うものはどのような疾患があるのか? を最近のレビューからまとめ

(Autoimmunity Reviews 21 (2022) 103037)


疾患

頻度

特徴

診断に有用な所見

予後への関連

心サルコイドーシス

臨床診断 0.58-7.4%
心臓MR 13-45.7%
剖検 24-45%

見逃されている症例が多い可能性がある
様々な臨床パターン

心内膜生検, PET, AHA, AIDA

予後悪への関連

SLE

臨床診断 3-11%
剖検 15-50%

女性例が90-100%
31%
は心原性ショック

高活動性のLupusは心筋障害のリスク

重症度が低ければステロイドで心機能の改善んが期待

SSc

心内膜生検で 3%程度

心臓Raynaud現象

心臓MRでのびまん性の心筋線維化. AHA, AIDA

SSc関連死亡の26%が心疾患

EGPA

8-38%で心筋炎の報告

好酸球性心筋炎
男女差は無し

ANCA陰性例の方がより頻度が高い

若年診断例で高リスク心筋炎頻度が高いと予後悪と関連

抗リン脂質抗体症候群

稀に報告

致命的な症例の14%が心臓障害を伴うCAPS

心内膜生検心筋MR, 免疫グロブリン, C3沈着所見

CAPSで心筋障害を合併予後が悪い.

皮膚筋炎

38%で心筋障害

心血管障害の合併は主な死因の1つとなる

心内膜生検心筋MR

死亡原因の46.3%が心疾患による

高安病

心内膜生検で50%

アジアの若年女性で多い疾患.

心内膜生検心筋MR, PET

TA活動性と相関して心筋障害を認める

炎症性腸疾患

全体の頻度0.01%
UC
0.018%, 
CD
0.009%
70%
が心外膜炎の報告

5-ASAの薬剤性障害の関連もある.

心筋のリンパ球浸潤や巨細胞浸潤が認められる.

巨細胞性心筋炎は予後不良と関連


サルコイドーシス, SLE, SSc, EGPA, APS, DM, TAK, IBDが代表的なところ.

2023年2月28日火曜日

関節リウマチと線維筋痛症

 線維筋痛症(Fibromyalgia:FM)についてはこちらも参照

http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/04/fibromyalgia.html


1年前に感染症を契機として, 全身の関節痛が出現した中年女性.

近医を受診し, 軽度のCRP上昇, ACPA弱陽性からRAと診断され, DMARDが開始.

しかしながらDMARD開始後も疼痛が改善せず薬剤はどんどん増量.... したが疼痛は持続.

転医を希望され, 紹介となった, という設定の症例.



診察すると腫脹関節は認めないが, 関節はかなり痛がる様子.

おかしいな? と思いエコーを行うが, 滑膜肥厚やPDの亢進所見は認めない.


これは,「 RAだけではない or RAじゃない」のではないかと考えて全身の疼痛を評価すると,

頸部、肩、肘〜 手指はDIP、はたまた関節外の筋把握痛など... さまざまな部位に圧痛を認める


これはFMぽい. 最初はRAだったのか? それは最初に見てないからわからない.

詳細は避けるが, 掘るとどんどん出る環境因子...



ところでRAでFMを合併するのはどの程度か, というのを調べてみた.


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RAとFM

RAとFMSは合併することがある

・報告では381例のRAのうち25.7%でFMの診断基準を満たすものや (Ann Saudi Med 41(4): 246-252. )

 
13.4%で合併するとした前向きCohort 
(Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research) Vol. 61, No. 6, June 15, 2009, pp 794–800)

 20.8%で合併していた報告など (Clinical Rheumatology (2022) 41:1235–1240)

・2019年のSystematic ReviewではRAの18-24%, axSpAの14-16%, PsAの18%で合併すると記載 (Best Practice & Research Clinical Rheumatology 33 (2019) 101423)


・およそRAの5-10人に一人がFMを満たす.


FMを合併したRA患者では, 非合併例と比較して,

・圧痛関節数が多く, PGAも有意に悪い.


 ESRやCRPといった炎症パラメータ, 腫脹関節数は有意差なし (Ann Saudi Med 41(4): 246-252. )

・ステロイドや他のDMARDの使用量も多くなる傾向がある. (rev bras reumatol. 2017;57(5):403–411)


FM合併例と非合併例の比較 (Clinical Rheumatology (2022) 41:1235–1240)

・特に圧痛関節数に大きな差があり, その影響でVASやQOLの低下がある

・また, よくうつ症状や不安症状
倦怠感を訴える例も多い.


同様に合併例と非合併例の比較 (Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research) Vol. 61, No. 6, June 15, 2009, pp 794–800)

・FMに関連する症状として,

 
頭痛や倦怠感, 異常感覚, 
口渇感やドライアイ
睡眠障害, 気分障害がある

・また, 全身の疼痛が目立つ
圧痛点の数も多い.


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・RAとFMはそれなりに合併があり得る.

・FM合併例ではPGAやTJCが増加し, RAの活動性が高く見積もられるものの, それに対してDMARDを増量しても, 解決にはならない可能性がある. 

・しっかり関節所見の評価, エコーなども用いてFMを意識し, それに対するアプローチを行った方がよりよい疼痛管理, 適切なDMARDの使用ができるのでは.

2023年2月21日火曜日

破傷風

 症例: 高齢者, 腸管穿孔による腹膜炎, 敗血症で搬送された.

 緊急手術となり, 手術自体は問題なく終了. 術後ICU管理となった.

 ICU管理2日後, 意識障害と38度台の発熱, 下肢の筋硬直が出現. 

 顎を確認すると, 開口が困難であった.



さて, 何を考えるか?








というわけで, 表題通り破傷風です.


破傷風はClostridium tetani(破傷風菌)による感染症. 

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・嫌気性のGPRであり, 嫌気状態で芽胞化し, Neurotoxinを放出(tetanospasmin, tetanolysin).


 下肢の創傷, 産後・中絶後感染症, 不衛生なIM, 解放骨折がRisk.

 
他にはIM, IV, 鍼灸, ピアス,
中耳炎, 褥瘡からの感染もある

・QuinineのIM後に
発症するものは予後不良
(QuinineはLow pHであり, 
神経移行性がUPするため)

・また, 30%で明らかなEntryが見つからない

・潜伏期; 24hr~60dと幅広い. 
7-10dが最多. 
感染部位, Toxinの性質に由来.


外科手術後の破傷風

・75例の破傷風症例の解析では,
 外傷後が40.9%, 皮膚障害が33.8%, 外科手術後が16.9%の頻度(Med Sante Trop. 2019 Aug 1;29(3):333-336.)

・近年は抗菌薬や周術期の衛生管理の発展があり,
およそ0-3.5%が外科手術後の発症

・主な感染源は消化管.

・一般人口の1-10%で糞便よりC. tetaniが検出される.

・腹部外科手術, 腸管壊死症例などで, 術後の破傷風を発症した症例報告がある.

(BMJ Case Rep 2019;12:e229701.)


腹部外科手術後の破傷風の症例 (Surg Today (2012) 42:470–474)


ワクチンが普及したとは言え, 
未だ800 000~1 000 000/yrの死亡がある.

(内400 000は新生児例)
死亡率は6-60%

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・死亡例の80%がAfrica, 東南アジア.


 先進国でもたまに見られる疾患であり, 注意が必要.

・アメリカでは0.10/100万人口/yrの発症率(2001-2008年).


 65歳以上では0.23/100万とリスクは増加.
(大半がワクチン未接種 or 10年以内のブースター無しの群)

・死亡率は13.2%

・破傷風による死亡率は年齢差が大きく,
<30yrではほぼ0%, >60yrでは50%に及ぶ.(破傷風の75%が>60yr)

(Southern Medical Journal 2011;104:613-617)


ワクチンは10年毎のブースターが必要

・小児期にDPTワクチンを行うが,
 時間経過と共に効果が消失するため, 10年毎のブースターが推奨

・実際96例の日本人旅行者のAntitoxin levelを評価したStudyでは,
 (J Infect Chemother 20 (2014) 35−37)

 <40歳ではほぼ全例で
ブースター前から破傷風に対する
免疫は有しているが, 

 
≥40歳では約半数のみしか有さない

 
ブースターしても100%ではない.


Neurotoxin: Tetanus, Botulinus Toxinは共通部分が多い

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2004;75(Suppl III))

・100kDaのHeavy chain, 50kDaのLighter chainを有し,
 H鎖は末梢神経末端のGangliosideに結合し, Endocytosisを起こす.

・H鎖は小胞壁に通過性の孔を形成し, L鎖が細胞質内へ侵入する.

・Botulinus, Tetanus ToxinのL鎖はZn Activated Proteaseであり,
 Synaptobrevin(VAMP), SNAP-25, Syntaxinに結合, 作用する

・ToxinとTarget Proteins

Toxin

Target

Tetanus toxin

VAMP

Botulinum toxin A

SNAP-25

 B

VAMP

 C

SNAP-25

 D

VAMP

 E

SNAP-25

 F

VAMP

 G

VAMP

 ・Tetanus, Botulinumも作用部位は同じであり,
 分解作用, 伝導の阻害作用を示すが,
 一方は強直, 一方は弛緩症状が主.

・Botulinumは末梢神経末端に残存,

・Tetanusは軸索を逆行し, 神経細胞, CNSへ.
 中枢を抑制し, 末梢は興奮してしまう

 ・両方とも自律神経系も同様に作用するが,
 Tetanusの方が強く作用, 自律神経障害を認める


破傷風の臨床

・全身性破傷風; 全身の筋硬直, 疼痛, 頭痛, 硬直性発作

 局所性破傷風; 感染部位周囲の硬直, 疼痛

・全身性が一般的であるが, 局所性の場合は予後は良好.

・初発症状として, Lock jawが最も多い.

・軽い刺激(音, 触, 光, 注射, 吸引) で硬直発作が誘発されるため,
暗室に入院させ, 出来るだけ刺激を避ける必要がある.

・Spasm ⇒ 喉頭閉鎖, 胸郭の運動低下 ⇒ 肺コンプライアンス低下
, 呼吸停止による死亡例が多い.
(新生児では死亡率65-90% without Ventilator vs 10% with Ventilator)

・Spasmは2wkでピークとなり, 
自律神経障害はSpasm発症後 数日~2wkで出現する
 

 交感神経↑ ⇒ 唾液分泌, 頻脈, 高血圧, 下痢と褐色細胞腫Like.

・筋硬直は6-8wkまで持続することもある.


成人例 500名の解析(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・Entry Site; 下肢 53.3%, 頭部 10.4%
, 上肢 10.8%, 注射 1.8%
, 不明 22.2%

・潜伏期間;  平均9.5d [1-60]

・初発症状~Spasmまでの期間; 48hr[0-264]

・入院時の症状;

Lock jaw

96%

Spasm

41% 

背部痛

94%

発汗

10%

筋硬直

94%

呼吸困難感

10%

Dysphagia

83%

発熱

7%

Reviewより, 入院時の症状の頻度 (Lancet 2019;393:1657-1668)

破傷風の診断は臨床診断が決め手となる

(Southern Medical Journal 2011;104:613-617)

・特異的な検査は無く, 創部培養も補助手段程度の診断能しかない

・創部培養は通常陰性. 症例の30%程度でしか菌は検出されない.

・検査は他の疾患の除外目的として行われる.

・鑑別診断として,


 Tetany, ストリキニーネ中毒, 薬剤性ジストニア, 狂犬病,
 口腔, 顔面感染症, セロトニン症候群, 蜘蛛刺傷など

 
新生児例では,
 低Ca血症, 低血糖, 髄膜炎, 髄膜脳炎, てんかんも重要な鑑別


重症度


破傷風の治療:

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

治療は創部のデブリ & 抗生剤で毒素放出の抑制し,
 遊離毒素の中和をTetanus immunoglobulinで行う.

Anti-tetanus Immunoglobulin(テタノブリン); 発症24hr以内に投与.

 Doseは小児も成人も500IUを筋注.
500IU IMは3000-10000IU IMと同等の効果を示す.

 重症例では1500-5000Uを筋注もしくは緩徐に静脈投与

 罹患期間, 重症度の改善効果を示すが,
 Anaphylactic reactionが20%で認められる.

 カテコラミン, ステロイド, 補液を必要とするものは1%程度


・破傷風トキソイド

 Immunoglobulinによる短期的免疫反応に加えて,
トキソイドによる長期的免疫反応を引き起こす.

 トキソイドでアレルギーを来すのは1/50 000と稀
しかも大半が疼痛,浮腫,Flu-like illness.


破傷風トキソイドとグロブリンは同じ部位に投与しては×

注射部位で反応を起こしてしまう.
同じ部位に投与する場合は, グロブリンの投与量を調節すべき

抗生剤の1st choiceはMetronidazole

・Metronidazole; 400mg q6hr直腸投与. 7-10d継続


  500mg q6hr IV投与. 7-10d継続

・他にはエリスロマイシン, テトラサイクリン, VCM, 
クリンダマイシン, ドキシサイクリンなどを使用.

・ペニシリンも有効であるが, てんかん閾値を下げるため避ける

 PCのβ-lactam環より遠位部の構造がGABAと似ており,
 高濃度で使用すると, CNSにてGABA抑制効果を示す可能性が示唆される

 破傷風の中枢性の筋硬直を助長する可能性があり, 避ける.

 Metronidazoleによる治療と比較し,
 Outcomeは同等であるが, 鎮静, 鎮痛剤の必要量は低下する.

呼吸筋硬直, 喉頭閉鎖による呼吸不全治療, 予防に
挿管, 人工呼吸管理も重要な治療

・PropofolはSpasm, rigidityのコントロールも可能で良い適応.
・鎮静剤としてはベンゾも有用 
⇒ 自律神経障害にも有効だが, 半減期が長く,残存する可能性も.
・筋弛緩薬; Pancuronium, Vecuroniumが良く使用される.

自律神経障害

・カテコラミン過剰状態 ≒ 褐色細胞腫の症状と類似.
 発汗, 頻脈, 高血圧, 流涎など
・ベンゾジアゼピンやβ, α阻害薬が有効.
・Diazepamは大量に必要となり, 200mgまで増量することも.

その他の治療

・マグネシウム
 >15yrの破傷風患者256名のRCT; 硫酸Mg IV群 vs Placebo群で比較
(DB, 7dフォロー) (Lancet 2006;368:1436-43)
 Mg; 40mg/kg 30minでLoading
 Wt >45kgでは2g/hr, Wt =<45kgでは1.5g/hrで持続.
 人工呼吸器使用, 生存率は有意差認めなかったが,
 鎮静剤の必要量は有意に低下を認めた.
 副作用は有意差無し

・Vit B6, ステロイド



2023年1月19日木曜日

本の感想: 臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!

 献本御礼


臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!


総合診療業界の西の雄のお一人である長野広之先生の執筆された本です.

「疾患のミミッカー」という定義には定まったものはなく, 人によりその言葉に持つ印象は異なるでしょう. この本では一般的な疾患を疑う/診断する時に, その疾患に表現型が近い疾患群をミミッカーと定義しています.

つまるところ, ミミッカー =「鑑別疾患の上位5つ」, というような印象でした.

その鑑別を押さえつつ, 診断を間違えないように注意する方策が書かれている. 

そんな内容の本になります.



対象は初期研修近辺かと思います.


個人的にはミミッカーと聞くと,

・正直鑑別に万策突きて, ミミックの可能性がわかっていながら飛び込まねばならないギリギリな感じ.

・それなりに気をつけてても痛い目にあった失敗症例

・想定外に視野のそとからぶん殴られたような症例


をイメージしているので、ミミッカーと呼ぶのには違和感はありました.

ただ, コモンな疾患のコモンな鑑別疾患を扱う本, と考えればよい勉強材料になるのは間違えないので, 初期研修や医学生, 初学者にはお勧めします.