KCL投与は不整脈リスクとなり, 事故も多いため, 投与速度や投与量については過敏にならざるを得ない.
添付文章には、投与濃度は40mEq/Lまで, 投与速度は20mEq/hまで, 1日100mEqまでとの記載があり, 多くはこの量を守って投与していると考えられる.
しかしながら, 心不全などで補液負荷を行いにくく, また重度の低K血症で補正を急がねばならない場合もあり, その点が臨床上困ることも少なくない.
CVからはどの程度の濃度まで許容されるか?
ICU管理中の成人患者で, 血清K<3.5mEq/Lを満たす48例(25-86歳)を前向きに評価したCohort study.
(Crit Care Med 1991;19:694)
・原疾患は心臓外科手術後(9例), 敗血症, 多臓器不全(9例), 複雑性の心筋梗塞(7例), 呼吸不全(5例)
・上記患者群において, 以下の3種類のKCL溶液をCVCより1時間で投与し, 合併症やK濃度変化を評価した.
20mEq/100mL溶液(200mEq/L)
30mEq/100mL溶液(300mEq/L)
40mEq/100mL溶液(400mEq/L)
結果, どの群でも血行動態不安定化, 不整脈の報告はなし.
・K上昇は有意に40mEq群で多い
20mEq投与: 0.5±0.3mEq/L上昇
30mEq投与: 0.9±0.4mEq/L上昇
40mEq投与: 1.1±0.4mEq/L上昇
ICUにて20mEq/100mLのKCL補正溶液を495回使用した経験では,
(Arch Intern Med. 1990 Mar;150(3):613-7.)
・上記補正液は1時間で投与する.
・投与前後のK値の変動は+0.25mEq/L
・致命的な副作用の報告はないが, 10例で軽度の高K血症が報告.
・上記濃度であれば比較的安全に使用可能であろうと結論.
40例の低K血症患者で20mEq/100mLのKCLを1時間で投与し, 補正した報告.
(J Clin Pharmacol. 1994 Nov;34(11):1077-82.)
・上記のうち26例はCVで, 14例は末梢静脈より投与.
・投与後のK上昇値は0.48mEq/La[-0.1~1.7]
・不整脈や心収縮の変化を認めた報告はなし.
ICU管理中に低K血症を認めた128例を対象としたRCT.
(Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue. 2008 Jul;20(7):416-8.)
・患者はClCr >0.5mL/sec, 尿量50mL/hを満たす.
・上記患者群を
・高濃度群(KCL 1208mEq/Lを8mL/hで投与: 10mEq/h)
・Control群(KCL 201mEq/Lを48mL/hで投与: 10mEq/h)で投与し, K補正までの時間, 投与量, 合併症を比較
・血清K値は3.10±0.27mEq/L, 3.08±0.25mEq/L
アウトカム;
・補正までの時間はそれぞれ15.5±3時間. 14±5時間で有意差なし
・補正までの投与量は124±26mL, 681±237mLで有意に高濃度群の方が少ない結果.
・投与に伴う不整脈や血行動態の変化は両群で認められず.
-------------------------
・末梢Vからの投与はK濃度 ~40mEq/Lというのは, 静脈炎のリスクを考慮しての濃度であり, 中心静脈では血流速度も速く, 濃度はもっと高くても問題はない. 原液を使用するプラクティスも一時期あった(今は少ない).
・成書(ワシントンマニュアルなど)では100~200mEq/Lまでとする記載もある.
・濃度が高いと, 誤操作時の不整脈リスクが上昇するため, 原則高濃度溶液を使用時はICUや集中治療管理時に限るべきであろう.
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2016年12月21日水曜日
2016年12月19日月曜日
アルコール吸収速度は胃蠕動運動が関連する
さて、忘年会シーズンですね。
胃を亜全摘した後から, アルコールが滅法弱くなったという患者さんや,
いつもと同じ量を飲んでいたのに, 酩酊が強く救急搬送されるような患者さんもいます.
救急と単純酩酊(酔っ払い)は切っても切れない縁がありますが,
飲酒量だけではなく, 胃の運動が吸収速度に関連するという知識があると, ちょっとアセスメントも変わりますでしょうか?
エタノールは胃から緩徐に吸収され, 小腸から急速に吸収される.
・胃の排出速度が速いほど, アルコール吸収速度は速くなり, 胃の排出速度が遅いほど, 吸収は遅いため, ピーク濃度は低下する.
・したがって, アルコール急性中毒を考える場合, 飲酒量のみではなく, 胃蠕動も考慮した方が良い.
(Can Med Assoc J. 1981 Feb 1;124(3):267-77, 297.)
16例のボランティアに0.225g/kgのEt-OHを経口, 経静脈投与し, 血中Et-OH濃度を評価.
(Gut 1998;43:612-619)
・また, 上記患者群において,
Metoclopramide(MCP) 10mg IVを併用した場合,
N-butylscopolamine(NBS) 20mg IVを併用した場合で, 血中濃度を比較.
・MCPでは胃排出速度が亢進し, NBSでは低下する.
胃蠕動運動, 胃排泄速度はエコーにより評価した.
胃の排出速度
血中濃度の比較
左: 経口投与, 右: 経静脈投与
・Et-OH経口投与において,
MCP併用時(胃排出速度亢進)はEt-OH濃度は高く,
NBS併用時(胃排出速度低下)はEt-OH濃度ピークが低い.
それぞれで比較すると
・MCPを併用すると, 経口と静注で血中濃度, ピークまでの時間は同じとなる.
・胃排出速度が速い場合, 飲酒はEt-OHを静注しているようなもの.
胃排出速度が上昇する胃全摘や亜全摘も同様に血中濃度上昇に関与する.
胃を亜全摘した後から, アルコールが滅法弱くなったという患者さんや,
いつもと同じ量を飲んでいたのに, 酩酊が強く救急搬送されるような患者さんもいます.
救急と単純酩酊(酔っ払い)は切っても切れない縁がありますが,
飲酒量だけではなく, 胃の運動が吸収速度に関連するという知識があると, ちょっとアセスメントも変わりますでしょうか?
エタノールは胃から緩徐に吸収され, 小腸から急速に吸収される.
・胃の排出速度が速いほど, アルコール吸収速度は速くなり, 胃の排出速度が遅いほど, 吸収は遅いため, ピーク濃度は低下する.
・したがって, アルコール急性中毒を考える場合, 飲酒量のみではなく, 胃蠕動も考慮した方が良い.
(Can Med Assoc J. 1981 Feb 1;124(3):267-77, 297.)
16例のボランティアに0.225g/kgのEt-OHを経口, 経静脈投与し, 血中Et-OH濃度を評価.
(Gut 1998;43:612-619)
・また, 上記患者群において,
Metoclopramide(MCP) 10mg IVを併用した場合,
N-butylscopolamine(NBS) 20mg IVを併用した場合で, 血中濃度を比較.
・MCPでは胃排出速度が亢進し, NBSでは低下する.
胃蠕動運動, 胃排泄速度はエコーにより評価した.
胃の排出速度
血中濃度の比較
左: 経口投与, 右: 経静脈投与
・Et-OH経口投与において,
MCP併用時(胃排出速度亢進)はEt-OH濃度は高く,
NBS併用時(胃排出速度低下)はEt-OH濃度ピークが低い.
それぞれで比較すると
・MCPを併用すると, 経口と静注で血中濃度, ピークまでの時間は同じとなる.
・胃排出速度が速い場合, 飲酒はEt-OHを静注しているようなもの.
胃排出速度が上昇する胃全摘や亜全摘も同様に血中濃度上昇に関与する.
(Postgraduate Medical Journal 1973;49:27-28)
Control: 11例の健常人
Partial gastrectomy(Billroth II): 8例
Truncal vagotomy + pyloroplasty: 6例
Coeliac syndrome: 7例 での評価
Partial gastrectomy(Billroth II): 8例
Truncal vagotomy + pyloroplasty: 6例
Coeliac syndrome: 7例 での評価
喫煙も関連
喫煙は胃排出時間を遅延させ, アルコール血中ピーク濃度を低下させる.
(BMJ 1991;302:20-23)
・20-35本/dの喫煙歴のある8例のボランティアで評価.
・喫煙の有無と胃排出速度(50%減少までの時間)
・喫煙時と非喫煙時のEt-OH血中濃度
胃排出速度と血中濃度は反比例する
-------------------------
お腹の動きが良いほど, アルコールの血中濃度は上昇.
空腹時に飲酒すると酔いが回りやすいというのもそれが原因.
飲む量はいつも通りなのに〜とか言っている患者さんや,
腹部手術歴がある患者さんではこういう要素にも着目を。
2016年12月17日土曜日
甲状腺のCT値
甲状腺はヨードを含むため, CT値は高い.
(J Comput Assist Tomogr 2016;40: 316–319)
ドイツからの報告では, (Rofo. 1986 Apr;144(4):417-21.)
・健常人の甲状腺CT値は75±6.2HUであり, 甲状腺腫大(+)群よりも高い(66±6.0HU)
・免疫性甲状腺機能亢進症では48.5±7.9HUと低くなるが, 非免疫性(主にヨード過剰摂取に伴うもの)では79.8±12.5HUとさほど変わらない結果.
・甲状腺のヨード含有量とCT値には相関性が認められる.
日本国内より, 甲状腺手術予定の18例における, 甲状腺組織のヨード濃度とCT値を比較.
(Journal of Computer Assisted Tomography 1991;15:287-290)
・18例より, 正常甲状腺組織 48部位で濃度, CT値を比較した.
・CT値 = 65 + 104 x ヨード濃度(mg/g)で計算可能(γ=0.96)
前述のグループからの追試
36例の患者において, 甲状腺組織像, ヨード濃度とCT値を評価した報告.
(Journal of Computer Assisted Tomography 2000;24:322-326)
・ヨード含有量とCT値には相関性を認める.
・組織では濾胞組織が多い(正常)ほど, ヨード含有量も多く, CT値も高い
濾胞が減少し, 間質組織が増生している場合はCT値が低下する.
TSHとCT値の関連:
頸部のCT画像を評価し, 且つTSHを評価した157例を後ろ向きに解析
(J Comput Assist Tomogr 2016;40: 316–319)
・THS <0.4µIU/mLは51例, 0.4-4.0µIU/mLは78例, >4.0µIU/mLは28例.
TSHとCT値
・TSHが正常範囲から逸脱している患者ではCT値も低下する.
年齢とCT値の変化
・高齢者ほど筋肉のCT値は低下するが, 甲状腺は有意差は認めない.
--------------------------
CTで甲状腺、意識してみていますでしょうか?
頸部CT以外にも、胸部CTでも甲状腺が評価できることは多いです.
何かしらの理由で複数回 胸部CTを評価されている場合、どの時点で甲状腺機能低下症が出現したかを推測可能ですし, 甲状腺異常を疑う切っ掛けとなるかもしれませんね
(J Comput Assist Tomogr 2016;40: 316–319)
ドイツからの報告では, (Rofo. 1986 Apr;144(4):417-21.)
・健常人の甲状腺CT値は75±6.2HUであり, 甲状腺腫大(+)群よりも高い(66±6.0HU)
・免疫性甲状腺機能亢進症では48.5±7.9HUと低くなるが, 非免疫性(主にヨード過剰摂取に伴うもの)では79.8±12.5HUとさほど変わらない結果.
・甲状腺のヨード含有量とCT値には相関性が認められる.
日本国内より, 甲状腺手術予定の18例における, 甲状腺組織のヨード濃度とCT値を比較.
(Journal of Computer Assisted Tomography 1991;15:287-290)
・18例より, 正常甲状腺組織 48部位で濃度, CT値を比較した.
・CT値 = 65 + 104 x ヨード濃度(mg/g)で計算可能(γ=0.96)
前述のグループからの追試
36例の患者において, 甲状腺組織像, ヨード濃度とCT値を評価した報告.
(Journal of Computer Assisted Tomography 2000;24:322-326)
・ヨード含有量とCT値には相関性を認める.
・組織では濾胞組織が多い(正常)ほど, ヨード含有量も多く, CT値も高い
濾胞が減少し, 間質組織が増生している場合はCT値が低下する.
TSHとCT値の関連:
頸部のCT画像を評価し, 且つTSHを評価した157例を後ろ向きに解析
(J Comput Assist Tomogr 2016;40: 316–319)
・THS <0.4µIU/mLは51例, 0.4-4.0µIU/mLは78例, >4.0µIU/mLは28例.
TSHとCT値
・TSHが正常範囲から逸脱している患者ではCT値も低下する.
年齢とCT値の変化
・高齢者ほど筋肉のCT値は低下するが, 甲状腺は有意差は認めない.
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CTで甲状腺、意識してみていますでしょうか?
頸部CT以外にも、胸部CTでも甲状腺が評価できることは多いです.
何かしらの理由で複数回 胸部CTを評価されている場合、どの時点で甲状腺機能低下症が出現したかを推測可能ですし, 甲状腺異常を疑う切っ掛けとなるかもしれませんね
2016年12月16日金曜日
(特に2ヶ月以内の)バリウム検査は虫垂炎のリスク
(The American Journal of Medicine (2017) 130, 54-60)より
台湾におけるNational Health Insurance Research Databaseより, バリウム検査を施行した24885例とControl群 98384例を比較し, 検査後の虫垂炎リスクを評価.
・バリウム検査は上部消化管, Single-, double-contrastが含まれる
・60日以内に繰り返し検査を施行した群はRepeated BE群に分類
・Control群は同時期に検査を施行しない患者群から, 年齢, 性別, 基礎疾患を合わせて抽出した患者群.
患者群のデータ
虫垂炎のリスク
・バリウム検査は有意に虫垂炎リスクを上昇させる.
・60日以内に繰り返し検査を行う群ではさらにリスクが高い.
・特に検査後2ヶ月以内はHR 9.7と高リスク.
・バリウム検査による虫垂炎リスク上昇は1年くらい持続する
--------------------------
腹痛患者には最近のバリウム検査既往もチェックせねばなりませんね.
台湾におけるNational Health Insurance Research Databaseより, バリウム検査を施行した24885例とControl群 98384例を比較し, 検査後の虫垂炎リスクを評価.
・バリウム検査は上部消化管, Single-, double-contrastが含まれる
・60日以内に繰り返し検査を施行した群はRepeated BE群に分類
・Control群は同時期に検査を施行しない患者群から, 年齢, 性別, 基礎疾患を合わせて抽出した患者群.
患者群のデータ
虫垂炎のリスク
・バリウム検査は有意に虫垂炎リスクを上昇させる.
・60日以内に繰り返し検査を行う群ではさらにリスクが高い.
・特に検査後2ヶ月以内はHR 9.7と高リスク.
・バリウム検査による虫垂炎リスク上昇は1年くらい持続する
--------------------------
腹痛患者には最近のバリウム検査既往もチェックせねばなりませんね.
2016年12月15日木曜日
ジカウイルスによる妊娠, 胎児への影響
妊婦でのZika virus (ZIKV)感染と妊娠, 胎児への影響を評価した前向きCohortがNEJMとJAMAよりそれぞれ発表されたので, ここで2つ紹介.
Zika virus感染症はデング熱に類似した症状を呈する感染症. 皮疹が主で, 発熱の頻度はやや少ない. また皮疹は斑状丘疹が多い.
妊婦や胎児に感染することで, 中枢神経の奇形をきたすことが報告されている
(Birth Defects Among Fetuses and Infants of US Women With Evidence of Possible Zika Virus Infection During Pregnancy. JAMA)
まずはNEJMから
ブラジルにおける前向きCohort.
妊婦でAcute febrile illness clinicに受診し, 5日以内の皮疹を認めた患者を対象とし, 感染症検査と胎児の評価を行なった.
(N Engl J Med 2016;375:2321-34.)
・ZIKA virusの検査はRT-PCRを施行(血清, 尿).
他にChikungunyaのIgG, IgM, DengueのPCR, Parvovirus B19 PCR, CMV PCR, HIV PCR, 梅毒検査も施行.
対象患者は345例, ZIKV RT-PCR陽性は182例(53%)であった
・このうち2016年7月31日までに出産する予定の207例(陽性 134例)をフォローした.
母集団データ
症状の頻度
アウトカム(妊娠)
・ZIKV陽性で妊娠アウトカムが判明したのは93%だが, 陰性群では83.6%のみ
・Adverse pregnancy outcomeリスクはZIKV群で有意に上昇
Zika virus感染症はデング熱に類似した症状を呈する感染症. 皮疹が主で, 発熱の頻度はやや少ない. また皮疹は斑状丘疹が多い.
妊婦や胎児に感染することで, 中枢神経の奇形をきたすことが報告されている
(Birth Defects Among Fetuses and Infants of US Women With Evidence of Possible Zika Virus Infection During Pregnancy. JAMA)
まずはNEJMから
ブラジルにおける前向きCohort.
妊婦でAcute febrile illness clinicに受診し, 5日以内の皮疹を認めた患者を対象とし, 感染症検査と胎児の評価を行なった.
(N Engl J Med 2016;375:2321-34.)
・ZIKA virusの検査はRT-PCRを施行(血清, 尿).
他にChikungunyaのIgG, IgM, DengueのPCR, Parvovirus B19 PCR, CMV PCR, HIV PCR, 梅毒検査も施行.
対象患者は345例, ZIKV RT-PCR陽性は182例(53%)であった
・このうち2016年7月31日までに出産する予定の207例(陽性 134例)をフォローした.
母集団データ
症状の頻度
・皮疹はMaculopapular(斑状丘疹)となる例が有意に多い.
・結膜充血は有意に多いがそこまで大きな差はない
・筋痛や少なく, 発熱の頻度も少ない.
アウトカム(妊娠)
・ZIKV陽性で妊娠アウトカムが判明したのは93%だが, 陰性群では83.6%のみ
・Adverse pregnancy outcomeリスクはZIKV群で有意に上昇
胎児死亡リスクは同等
ZIKV群では有意に緊急帝王切開となるリスクが上昇する.
・ZIKV陰性群はChilungunyaが陽性となることが多い.
アウトカム(胎児)
・成長に有意差はない.
・出産後NICU管理はZIKVで有意に多い(20.6%)
・Small for gestational ageは有意差ないが, ZIKV暴露群で多い傾向
・Adverse infant outcomeの数は有意にZIKV暴露群で多い.
頭囲, 体重の分布
・ZIKV暴露群では頭囲が-2SDとなる例が数例認められている
・全体では有意差はない.
JAMAより
(Birth Defects Among Fetuses and Infants of US Women With Evidence of Possible Zika Virus Infection During Pregnancy. JAMA)
CDCでは2016年2月より, 暴露リスク(性感染, 流行地域への旅行, 蚊刺傷)がある妊婦では症状の有無に関わらず, 全例でZika virusの検査を行うように勧告している.
・2016年2月から開始されたサーベイランス(USZPR: US Zika Pregnancy Registry)は米国全州と全準州(プエルトリコを除く)でリスクのある妊婦のZika virus感染と胎児アウトカムをフォローしている.
・2016年9月22日までのデータを評価し, Zika virus感染と妊娠, 胎児アウトカムを評価.
・Zika virus感染, 感染疑いは以下で定義:
母体, 胎盤, 胎児のいずれかの血清, 尿, 羊水, CSF, 臍帯から以下が検出.
・Zika virus RNA(RT-PCR)
・IgMやPRNT(plaque reduction neutralization testing) titer≥10でデングが陰性 など
USZPRでZika virus感染疑いを満たし, 出産した442例を解析
・これらのうち61%は無症候であった
・診断で施行した検査
アウトカム: 胎児奇形
・母体の症状の有無に関わらず, 6%で胎児奇形あり. 小頭症や脳奇形が多い
・妊娠の初期に感染する場合は11%とさらに高リスク.
・小頭症は全体で18例(4%)報告あり.
----------------------------
妊婦におけるZika virus感染は小頭症をはじめとした中枢神経系の奇形のリスクとなる.
特に初期で暴露した場合は11%と高リスク.
JAMAの報告では中期, 後期の暴露では0%とリスクは低い.
NEJMの報告では"Adverse Pregnancy outcomes", "Adverse infant outcome"はZIKV暴露群で著明に多く, 前者は46.4%と半数弱に及ぶ. ただし, 胎児死亡リスクは有意差なく, 妊娠合併症リスクも有意差なし. 緊急帝王切開リスクが上昇する.
"Adverse Pregnancy outcomes", "Adverse infant outcome" の具体的な中身ななんなのだろうか? 論文を読んでもイマイチわかりませんでした(細かく調べればあるかもしれませんが、、、)
2016年12月13日火曜日
下垂体卒中
下垂体卒中(pituitary apoplexy)は下垂体の梗塞, 出血を呈する病態で, 下垂体腫瘍の2-12%で合併する.
・まれな疾患であり, 有病率は6.2/10万, 罹患率は0.17/10万人年
特に非機能性腺腫で多く, 0.2-0.6/100pt-yの発症率
・無症候性のPAも多く, 下垂体腺腫の〜25%で出血や梗塞後の病変が認められるという報告もある.
・下垂体卒中で初めて腺腫を診断されたのが25%.
・発症年齢中央値は48歳.
・突如発症の頭痛や視力障害, 眼球運動障害を認める
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
発症前にトリガーエピソードを認めたのが27%.
・脳血管造影や手術治療(心臓外科, 整形外科など), 外傷, 頭部外傷, TRH, Chlorpromazine, GnRH投与, CRH投与など.
下垂体卒中の誘因
(Journal of Clinical Neuroscience 22 (2015) 939–944)
Literature reviewによる下垂体卒中の誘因 (Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
・血管造影では術直後〜6時間で生じている
・整形外科手術では術後48hまで報告あり.
・心臓外科手術の報告例は多く, 術後数日経過して発症する例もあり
・他の手術も少ないが報告がある
・頭部外傷では軽症例も原因となる
・また外傷直後〜数週間後の発症もあり
・ホルモン負荷試験後の発症報告も多い
これも直後〜数日まで. 比較的短期での発症が多い
・GnRH agonistの使用は原因となる
・DA(dopamine agonist)の使用もリスク.
下垂体卒中の症状
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
・診断時の症状は, 頭痛が73%, 嘔吐が49%, 意識低下が2〜42%, 視野障害が49%, 視力障害が68%, 脳神経麻痺が48%, 下垂体機能低下が64%
頭痛が最も多く, 80%以上で認められる
・くも膜下腔への血液の漏出や, 髄膜伸展による頭痛であり, 突如発症のThunderclap headacheとなる.
・一部で緩徐進行型もあり.
・眼の奥の痛みが多いが, 両側性の頭痛やびまん性の頭痛のこともある
視覚, 視野障害, 眼球運動障害
・約半数で認められ, 出血による下垂体腺腫の増大が原因となる
・眼球運動障害は52%であり, III, IV, VI神経の障害による
235例の下垂体卒中患者のReviewにおいて,眼球運動障害を認めたのは59例(25%)
(WORLD NEUROSURGERY 94: 447-452, OCTOBER 2016)
・眼球運動障害合併例では, より下垂体腺腫が大きく, 視力障害や意識障害, 汎下垂体機能低下の合併率が高い.
・59例のデータと脳神経障害のパターン
他の脳神経障害
・髄膜刺激症状としての羞明(40%), 悪心/嘔吐(57%)
髄膜刺激症状(25%)
・発熱も一部(16%)で認められ, 目くらましとなる.
・CSF中リンパ球も増加するため, 髄膜炎と誤診されることもある
症状からのスコアリング
下垂体卒中による下垂体機能障害
・急性のホルモン分泌障害も合併し得る. 腺腫容積増大による圧排が原因.
ACTH分泌の低下は50-80%で認められる.
・下垂体卒中におけるACTH欠乏の頻度は高く, 致死的となるため, 疑えばすぐに検査を行い, Empiricに補充を行うべきである.
下垂体卒中の診断
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
下垂体卒中と類似した症状, 経過となる重大な疾患はくも膜下出血, 髄膜炎, 海綿静脈洞血栓症, 中脳梗塞.
・LPは髄膜炎と下垂体卒中の鑑別にさほど有用ではない
・下垂体卒中でも細胞数やタンパクは上昇する.
培養は有用であるが, すぐに結果はでない.
下垂体卒中と鑑別が必要な疾患
(Journal of Clinical Neuroscience 22 (2015) 939–944)
診断の中心となるのは画像検査となる.
・頭部CTはSAHの除外に有用. また下垂体腫瘍の検出も可能.
・MRIは下垂体卒中の評価に最も有用な画像検査.
感度は88-90% (Insights Imaging (2014) 5:753–762)
時間経過とCT, MRIの所見
(Endocrinol Metab Clin N Am 44 (2015) 199–209)
画像所見の例: (Insights Imaging (2014) 5:753–762)
下垂体卒中の治療
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
下垂体卒中の経過は様々であり, 一概には言えない.
・梗塞のみならば出血合併と比較して予後は良い傾向にある.
・軽症ならば頭痛や下垂体不全症状は数日〜数週で改善するが 重症例では意識障害や神経障害, 視力障害が進行する
下垂体卒中を診断したらステロイドは補充.
・ACTH分泌不全の合併頻度が高いのと, 致命的となるため, 診断すればEmpiricに補充する.
・hydrocortisone 50mg q6hもしくは持続投与(敗血症やクリーゼと同様)
・低血糖や低Na血症にも注意する.
外科手術
・蝶形骨洞アプローチで, Decompressionを行う.
・合併症としては髄液漏や下垂体機能低下, 尿崩症が挙げられる.
下垂体卒中に対する外科的手術は, それ以外の下垂体手術よりも術後下垂体不全のリスクが高い.
(PA患者 術前 45% → 術後 71%, OR 4.7[1.30-25.33])
(非PA患者 術前 48% → 術後 55%, OR 1.5[0.68-3.41])
・これは晩期で出現する下垂体不全の影響や大半が緊急手術となるため, 術者の経験の問題などが原因として考えられる.
保存的加療
・ステロイドの大量投与を行い, 保存的に加療する方法もある
・視覚障害が高度な患者や意識障害がある場合は外科的に加療し, それ以外では保存的に加療することで, 7/12は保存的に加療できた.
・その6/7は視覚障害は改善し, 下垂体機能も外科的治療群と同等.
外科手術 vs 保存的加療を比較したMeta
(Journal of the Neurological Sciences 370 (2016) 258–262)
・外科手術の方が有意に視野障害, 眼球運動障害の改善は良好
視野障害 OR 0.32[0.10-0.97]
眼球運動障害 OR 0.17[0.03-0.79]
・下垂体機能予後については有意差なし: OR 0.74[0.37-1.48]
視力障害についても有意差なし: OR 0.37[0.08-1.66]
意識障害や視野障害, 眼球運動障害が高度, 増悪する例では外科手術を行うべきと考えられる
・まれな疾患であり, 有病率は6.2/10万, 罹患率は0.17/10万人年
特に非機能性腺腫で多く, 0.2-0.6/100pt-yの発症率
・無症候性のPAも多く, 下垂体腺腫の〜25%で出血や梗塞後の病変が認められるという報告もある.
・下垂体卒中で初めて腺腫を診断されたのが25%.
・発症年齢中央値は48歳.
・突如発症の頭痛や視力障害, 眼球運動障害を認める
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
発症前にトリガーエピソードを認めたのが27%.
・脳血管造影や手術治療(心臓外科, 整形外科など), 外傷, 頭部外傷, TRH, Chlorpromazine, GnRH投与, CRH投与など.
下垂体卒中の誘因
(Journal of Clinical Neuroscience 22 (2015) 939–944)
Literature reviewによる下垂体卒中の誘因 (Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
・血管造影では術直後〜6時間で生じている
・整形外科手術では術後48hまで報告あり.
・心臓外科手術の報告例は多く, 術後数日経過して発症する例もあり
・他の手術も少ないが報告がある
・頭部外傷では軽症例も原因となる
・また外傷直後〜数週間後の発症もあり
・ホルモン負荷試験後の発症報告も多い
これも直後〜数日まで. 比較的短期での発症が多い
・GnRH agonistの使用は原因となる
・DA(dopamine agonist)の使用もリスク.
下垂体卒中の症状
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
・診断時の症状は, 頭痛が73%, 嘔吐が49%, 意識低下が2〜42%, 視野障害が49%, 視力障害が68%, 脳神経麻痺が48%, 下垂体機能低下が64%
頭痛が最も多く, 80%以上で認められる
・くも膜下腔への血液の漏出や, 髄膜伸展による頭痛であり, 突如発症のThunderclap headacheとなる.
・一部で緩徐進行型もあり.
・眼の奥の痛みが多いが, 両側性の頭痛やびまん性の頭痛のこともある
視覚, 視野障害, 眼球運動障害
・約半数で認められ, 出血による下垂体腺腫の増大が原因となる
・眼球運動障害は52%であり, III, IV, VI神経の障害による
235例の下垂体卒中患者のReviewにおいて,眼球運動障害を認めたのは59例(25%)
(WORLD NEUROSURGERY 94: 447-452, OCTOBER 2016)
・眼球運動障害合併例では, より下垂体腺腫が大きく, 視力障害や意識障害, 汎下垂体機能低下の合併率が高い.
・59例のデータと脳神経障害のパターン
他の脳神経障害
・髄膜刺激症状としての羞明(40%), 悪心/嘔吐(57%)
髄膜刺激症状(25%)
・発熱も一部(16%)で認められ, 目くらましとなる.
・CSF中リンパ球も増加するため, 髄膜炎と誤診されることもある
症状からのスコアリング
下垂体卒中による下垂体機能障害
・急性のホルモン分泌障害も合併し得る. 腺腫容積増大による圧排が原因.
ACTH分泌の低下は50-80%で認められる.
・下垂体卒中におけるACTH欠乏の頻度は高く, 致死的となるため, 疑えばすぐに検査を行い, Empiricに補充を行うべきである.
下垂体卒中の診断
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
下垂体卒中と類似した症状, 経過となる重大な疾患はくも膜下出血, 髄膜炎, 海綿静脈洞血栓症, 中脳梗塞.
・LPは髄膜炎と下垂体卒中の鑑別にさほど有用ではない
・下垂体卒中でも細胞数やタンパクは上昇する.
培養は有用であるが, すぐに結果はでない.
下垂体卒中と鑑別が必要な疾患
(Journal of Clinical Neuroscience 22 (2015) 939–944)
診断の中心となるのは画像検査となる.
・頭部CTはSAHの除外に有用. また下垂体腫瘍の検出も可能.
・MRIは下垂体卒中の評価に最も有用な画像検査.
感度は88-90% (Insights Imaging (2014) 5:753–762)
時間経過とCT, MRIの所見
(Endocrinol Metab Clin N Am 44 (2015) 199–209)
画像所見の例: (Insights Imaging (2014) 5:753–762)
下垂体卒中の治療
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
下垂体卒中の経過は様々であり, 一概には言えない.
・梗塞のみならば出血合併と比較して予後は良い傾向にある.
・軽症ならば頭痛や下垂体不全症状は数日〜数週で改善するが 重症例では意識障害や神経障害, 視力障害が進行する
下垂体卒中を診断したらステロイドは補充.
・ACTH分泌不全の合併頻度が高いのと, 致命的となるため, 診断すればEmpiricに補充する.
・hydrocortisone 50mg q6hもしくは持続投与(敗血症やクリーゼと同様)
・低血糖や低Na血症にも注意する.
外科手術
・蝶形骨洞アプローチで, Decompressionを行う.
・合併症としては髄液漏や下垂体機能低下, 尿崩症が挙げられる.
下垂体卒中に対する外科的手術は, それ以外の下垂体手術よりも術後下垂体不全のリスクが高い.
(PA患者 術前 45% → 術後 71%, OR 4.7[1.30-25.33])
(非PA患者 術前 48% → 術後 55%, OR 1.5[0.68-3.41])
・これは晩期で出現する下垂体不全の影響や大半が緊急手術となるため, 術者の経験の問題などが原因として考えられる.
保存的加療
・ステロイドの大量投与を行い, 保存的に加療する方法もある
・視覚障害が高度な患者や意識障害がある場合は外科的に加療し, それ以外では保存的に加療することで, 7/12は保存的に加療できた.
・その6/7は視覚障害は改善し, 下垂体機能も外科的治療群と同等.
外科手術 vs 保存的加療を比較したMeta
(Journal of the Neurological Sciences 370 (2016) 258–262)
・外科手術の方が有意に視野障害, 眼球運動障害の改善は良好
視野障害 OR 0.32[0.10-0.97]
眼球運動障害 OR 0.17[0.03-0.79]
・下垂体機能予後については有意差なし: OR 0.74[0.37-1.48]
視力障害についても有意差なし: OR 0.37[0.08-1.66]
意識障害や視野障害, 眼球運動障害が高度, 増悪する例では外科手術を行うべきと考えられる
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