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2016年2月23日火曜日

敗血症の定義 Sepsis-3

European Society of Intensive Care MedicineとSociety of Critical Care Medicineにおいて, 19名の感染症, 外科, 呼吸器スペシャリストの特別委員会で敗血症, 敗血症性ショックを再定義.
敗血症の定義は2001年以来の変更となる
・敗血症による臓器機能の変化, 形態学, 細胞生物学, 生化学, 免疫学, 病理など様々な側面より評価
・敗血症の主要な概念は以下のとおり
  敗血症は感染に伴う死亡の主な原因.
  敗血症は病原体の因子と患者本人の因子により生じる
  敗血症による臓器障害は潜在性のこともある
  敗血症の病態や臨床像は基礎疾患や合併症により変化することがある
  一部の感染症では, 患者本人の全身性反応の惹起なく, 局所の臓器障害を呈する
(JAMA. 2016;315(8):801-810.)

敗血症(Sepsis)の定義(意訳あり)
・感染症に対する患者本人の無調節な免疫反応による, 致命的な臓器障害を呈する病態を敗血症と定義.
・臓器障害は急性のSOFA≥2点の変化で定義される.
 ほとんどの患者では, SOFAの基礎値は0点となる.
 初期には軽度の臓器障害のみで, 徐々に増悪した場合でも死亡リスクは高いため, 同様に扱うべきである
・感染症が疑われる患者で, 長期のICU管理が必要となりそう, もしくは瀕死状態の場合はベッドサイドでqSOFA(Quick SOFA)を評価する.
 > qSOFAは以下の3項目で迅速に評価可能な臓器障害の指標:
  呼吸数 ≥22回/分, 
  意識障害(GCS<14), 
  収縮期血圧 ≤100mmHg
・qSOFAは簡便で, 検査を必要としない指標であるが, 正確性はSOFAと比べて劣る. 感染症患者において, 迅速に敗血症を疑うきっかけとして用いる.
(JAMA. 2016;315(8):801-810.)

SOFAスコア

敗血症性ショック(Septic shock)の定義
・敗血症性ショックは, 敗血症の一部であり, 敗血症患者において, 循環動態, 細胞, 代謝機能の異常が重度であり, 大幅に死亡リスクが上昇する病態と定義.
・敗血症患者で十分な補液を行っているのにもかかわらず, MAP≥65mmHgを達成するために昇圧剤の投与が必要とする場合, 乳酸値>2mml/L(18mg/dL)の場合に敗血症性ショックと判断する.
・この場合の死亡リスクは40%以上となる
(JAMA. 2016;315(8):801-810.)

以下は同時に発表された補助的な論文のつまみ食い:

臓器障害の指標についての比較
ペンシルバニア南西部の12病院において,2010-2012年に診断された敗血症疑い患者を評価.
・これら患者群において, SOFAスコア, SIRSクライテリア, Logistic Organ Dysfunction system(LODS), qSOFAスコアと院内死亡率を評価.

ICU患者と非ICU管理患者における院内死亡率をアウトカムとした時のArea Under the Receiver Operating Curve

SOFA, LODS双方がより死亡リスクを評価するのに適しており, SIRS, qSOFAよりも有用. 
SOFAとLODSでは特に差はなく, LODSの方が複雑であることを考えると, 死亡リスクを評価するための臓器障害評価にはSOFAが最適と言える

ちなみに, qSOFAの項目と院内死亡ORは以下のとおり
 呼吸数 ≥22/分 OR 3.18[2.89-3.50]
 収縮期血圧 ≤100mmHg OR 2.61[2.40-2.85]
 意識障害(GCS<14) OR 4.31[3.96-4.69]
(JAMA. 2016;315(8):762-774.)

敗血症, 敗血症性ショックの定義と死亡リスク
感染症症例のMeta-analysisより, 敗血症性ショックの定義と死亡リスクを評価
・新しい敗血症性ショックの定義(Group 1)では院内死亡率が42.3%[41.2-43.3]
・Group 2: 乳酸値が満たさない場合は死亡率 30%
・Group 3: 輸液後低血圧(+)だが, 昇圧剤の使用はなく, 乳酸値>2mmol/Lの場合は死亡率 20-30%
・Group 4: 乳酸値>2mmol/Lのみで補液で血圧が反応した場合は死亡率 20-30%
・Group 5: 輸液前から血圧が保たれている場合で乳酸値 2-4mmol/Lでは30%
・Group 6: 輸液後低血圧(+)だが, 昇圧剤の使用はなく, 乳酸値≤2mmol/Lでは死亡率20%程度.

死亡リスクを見ると, G1 > G2~5 > G6となる.
(JAMA. 2016;315(8):775-787. )

2016年2月22日月曜日

肺炎後の肺癌リスク

肺炎治療後に胸部XPをフォローしていますでしょうか?
肺炎の経過をフォローするのには画像所見はあまり重要ではありません.
 肺炎の改善と画像所見の改善には幾分かズレがあり, 画像所見の改善は遅いです.
 従って, 経過が芳しくない場合, 非典型的な経過では画像所見をフォローしますが, 一般的な市中肺炎の経過では画像所見のフォローは必須とも言えません.

肺炎後の胸部XPのフォローの目的の1つに, 肺癌の評価という目的があります

3398名の胸部XPで診断された肺炎例のCohort.
(Arch Intern Med. 2011 Jul 11;171(13):1193-8.)
・治癒後90d, 1yr, 5yrにおいて, 胸部XPで発見された肺癌頻度を評価.
・>50yrが59%, 男性例52%, 喫煙者17%.

肺癌が発見されたのは, 1.1%@90d, 1.7%@1yr, 2.3%@5yr.
・発見までの期間は平均109d[27-423].
肺癌発見のリスクとなる因子は, 
 >50yr HR19.0[5.7-63.6], 男性 HR1.8[1.1-2.9], 喫煙者 HR1.7[1.0-3.0]
・発症後<90dにXP評価した1354例に限定すると, 2.5%で肺癌(+).
・さらに>50yrに限定すると, 2.8%で肺癌(+)であり, 
 高齢者の市中肺炎後のフォローとしてXPは考慮してもよいかもしれない.

イスラエルの大規模病院における後ろ向き解析において,
40歳以上で30 pack-years以上の喫煙歴を有し, さらに市中肺炎で入院した患者群を評価.
(The American Journal of Medicine (2016) 129, 332-338)
・上記のうち肺癌(転移を含む)の既往がない381例中,  退院後1年以内に肺癌を診断されたのは8.14%[5.9-11.2]

・肺癌の検出は, 3ヶ月以内で2/3

母集団のデータ:
・喫煙量の中央値は大体60pack-yearsと超ヘビースモーカーと言える.
・肺癌のリスクはCOPDの有無に関わらない (COPDは肺癌(-)群の52.2% vs 肺癌群の60.6%)
・肺癌の家族歴の有無は数値として差があるが, 有意差は認めない. 肺癌の家族歴がある患者群が少なすぎる為.

肺炎の部位と肺癌のリスク
上肺野の肺炎では肺癌のリスクが高くなる.

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とても興味深い結果.
喫煙者(30 pack-yearsを超える)で, 40-50歳以上で, さらに上肺野の市中肺炎症例では,
肺炎改善後の胸部レントゲンフォローが必須と言えるかもしれない.
(特に入院症例では)

肺炎改善後は特に必要性がなければそのままフォローも終了することも多く, 結構抜け落ちるかもしれないマネージメント.

健康診断で年1回の胸部XPを評価している場合はまだ良いでしょうが,
それを確認しつつ, 上記を満たす患者さんでは, 少なくとも1ヶ月後, 3ヶ月後くらいには胸部XPをとりに来てもらう必要があるかもしれません.

2016年2月19日金曜日

入院患者の静脈血栓症予防目的に抗凝固薬を使用した患者群における出血リスク

入院患者の静脈血栓症予防目的に抗凝固薬を使用した患者群における出血リスク(長い!)

を評価するスコア: IMPROVE bleeding risk score(BRS)

IMPROVE: 急性疾患で入院となった成人症例における,VTE予防目的の抗凝固療法を評価したCohort study. (外傷や手術治療例は除外)

このCohortにおいて, 出血リスクとなる因子を抽出し, 出血リスクを評価するスコア「IMPROVE BRS」を作成 (CHEST 2011; 139(1):69–79)
・Major bleeding: 致死的な出血, Hb≥2g/dL低下する出血, 輸血(4U)を必要とする出血, 致命的な臓器の出血(頭蓋内, 後腹膜, 眼球内, 副腎, 脊髄, 心膜内)
・Nonmajor but clinially relevant: 消化管出血(痔核を除く), 肉眼的血尿, 鼻出血(処置が必要, 再発性, 5分以上持続), >5cmの紫斑, 血腫, 関節内出血, 月経過多/子宮出血など.

出血リスク因子:

リスクから作成したスコア: IMPROVE BRS
リスク因子
点数
男性例
1.5
年齢: 40~84歳
2
 年齢: 85歳
3.5
ICU/CCU管理
2.5
中心静脈カテーテルあり
2
担癌患者
2
リウマチ性疾患あり
2
3ヶ月以内の出血歴
4
活動性の胃十二指腸潰瘍
4.5
腎不全: GFR 30-59mL/分
1
腎不全: <30mL/分
2.5
肝不全(INR>1.5)
2.5
血小板 <5万/µL
4

IMPROVE BRS <7.0点では, Major bleeding 0.4%, 全出血は1.5%
IMPROVE BRS ≥7.0点では, Major bleeding 4.1%, 全出血は7.9%

このIMRPVE BRSのValidaitonがでました.
入院患者でVTE予防目的に抗凝固薬を使用する1668例を前向きにフォローし, IMPROVE BRSと出血リスクを評価 (CHEST 2016; 149(2):372-379)
・IMPROVE BRS <7.0では, Major bleedingは1.6%, ≥7.0点では5.4%
・抗凝固薬によるVTE予防をしている患者群においてIMPROVE BRS ≥7.0はMajor bleedingリスクを上昇させる(HR 2.6[1.1-5.9])


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入院患者におけるVTE予防は出血リスクも考慮しつつ適応を考える必要がありそう.
でも高齢男性でICU管理でCVC入っていたらもう満たしてしまうんですよね...

活動性肺結核に暴露し, 感染した場合(潜在性結核)の発症リスク

活動性肺結核患者と接触し, 感染したと考えられた患者群613例において, その後の結核発症率を評価. (CHEST 2016; 149(2):516-525)
・暴露後に感染したと考えられるのは以下の場合で定義.
  LTBI conversionを認めた場合
  非流行地域, BCG未接種患者でツベルクリン陽性の場合
・潜在性結核(LTBI)の定義はTST≥10mm, もしくはIGRA陽性で定義
・LTBI conversionの定義は, 以前の検査でTST<10mm, IGRA陰性の患者がTST≥10mm, もしくは6mm以上の増大, IGRA陽性化を満たす場合で定義

・接触した時期は, 結核患者より最初に結核が検出された日, 不明瞭な場合は検出された日から6日前と定義.

対象群のデータ
 患者は若年が多く, 成人症例も40歳程度まで.

フォロー中に活動性結核を発症したのは67/613(10.9%)
・1650日間(4.5年間)での発症率は11.5%[8.9-14.1]
 補正発症率は4.5年間で14.5%[11.1-17.9]の結果.

”感染の定義”と年齢別, フォロー期間中の発症率

・≤14歳の小児例では結核発症リスクが高い.

期間, 年齢別の結核発症率の推移
・暴露から最初の5ヶ月間で発症リスクが高く, その後は横ばい〜やや増加する程度.

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結核暴露後の発症リスクを評価した重要なStudyといえる.
対照群は若年でおもに医療従事者で使用できるデータかもしれない.

高齢者のように免疫が低下している場合はまたリスク高くなることが予測される.

LTBIの治療は, 
小児のLTBIではやはり積極的に治療を行った方がよいのかもしれない.
成人例ではルーチンの治療の必要はなく, 免疫抑制剤や化学療法を行う患者群で十分なのでしょう.

2016年2月18日木曜日

無症候性の頸動脈狭窄患者へのステント術 vs 内膜切除術の比較

Randomized Trial of Stent versus Surgery for Asymptomatic Carotid Stenosis. NEJM 2016
ACT I trial: 無症候性の頸動脈狭窄(70-99%)の患者群に対する内膜切除術 vs ステント術を比較したRCT.
・患者は≤79歳で70-99%の頸動脈狭窄がある患者.
 180日以内の同側のTIA, 脳梗塞, 一過性黒内障を認めない群.
・全例でアスピリン 325mg/日を使用し, ステント群では術前3日〜術後30日までクロピドグレルを併用
・ステント群では, 術中に遠位部の塞栓を予防するためにEmboshield, Emboshiedl Proなどのデバイスを併用した.

・患者は1453例, ステント群が1089例, 内膜切除群が364(3:1で割り付け)
 当初の予定では1658例を予定していたが, 症例が集まらずに1453例の導入となった.

患者群

アウトカム
30日間の塞栓症, 死亡リスクは有意差なし

・30日後〜5年間の同側Stroke-Free rateも有意差なし(97.8% vs 97.3%)
・生存率も有意差なし(87.1% vs 89.4%)
・全Strokeリスクも有意差なし(93.1% vs 94.7%)

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症候性の頸動脈狭窄患者を対象とした, ステント術と内膜切除術を比較したRCTは多くでており, その結果では, 短期的(術後30日間)のステント群におけるStrokeリスクが上昇する結果であった.

2010年のメタアナリシス
Outcome
内膜切除
ステント
OR
30d死亡, Stroke
5.4%[4.0-7.0]
7.3%[4.9-10.1]
0.67[0.47-0.95]
30d Stroke
4.2%[2.7-6.1]
5.7%[3.0-9.2]
0.65[0.43-1.00]
30d 死亡
1.4%[0.08-2.1]
1.2%[0.7-1.8]
1.14[0.56-2.31]
30d MI
2.6%[0.4-6.3]
0.9%[0.05-2.9]
2.69[1.06-6.79]
30d 顔面N麻痺
7.5%[5.8-9.4]
0.45%[0.01-1.0]
10.25[4.02-26.13]
(BMJ 2010;340:c467)

長期的にみても, この差を保ったまま, ステント群でStrokeリスクが高いという結果が, 多くのRCTから出ている: ICSS trial(Lancet 2015; 385: 529–38), CREST trial(N Engl J Med 2010;363:11-23.), EVA-3S trial(Lancet Neurol 2008;7:885-92)

今回, 短期的にも長期的にも両者でリスクは同等との結果.
術中の血栓症予防デバイスが効果的であったか、無症候性の患者を対象としたことが影響しているかは分からない.
CREST trialにおいて, 無症候性患者群のみを評価した報告では, 両者でアウトカムは同等であったというのもある(JAMA. 2013;310(15):1612-1618 ).

無症候性の頸動脈狭窄患者で, 手術治療を考慮するならばステントが第一選択で良いかもしれない.
欲をいえば, ステント vs 内膜切除 vs 内科的治療のみ で比較したらどうなったのだろうか?

2016年2月16日火曜日

外傷後頭痛

外傷後頭痛 post-traumatic headache
(Handb Clin Neurol. 2015;128:567-78.)

頭部外傷, 軽度の脳挫傷後に出現する頭痛で, 脳振盪後症候群の1症状
・脳振盪後症候群は頭部外傷後に集中力の低下や悪心嘔吐, めまい, 抑うつ気分などが持続する病態. 頭痛も症状としてあり, 最も長く持続する症状が頭痛と言われている.
外傷性脳損傷後の57.8%[55.5-60.2]に慢性頭痛を伴う
 軽症頭部外傷で75.3%[72.7-77.9], 
 中等症, 重症頭部外傷で32.1%[29.3-34.9]で頭痛を合併する報告もあり (JAMA 2008;300:711-9)
・様々な報告をまとめると, 外傷後頭痛は軽症頭部外傷の30-90%, 中等症〜重症頭部外傷の33%程度で合併する.
 軽症頭部外傷: GCS 13-15で, 意識障害が30分未満, 脳振盪の症状がある
 重症頭部外傷: GCS <13, 意識障害が30分以上, 48時間以上持続する健忘, 画像所見で以上を認める患者群と定義される.
・軽症頭部外傷の方が合併リスクが高い.

外傷後頭痛の定義では頭部外傷後7日以内に生じる頭痛と定義されている
・さらに 3ヶ月程度で改善する急性経過,  3ヶ月以上持続する慢性経過に分類される.
・しかしながら軽症の頭部外傷の小児例を前向きにフォローした研究では, 外傷後頭痛は14%で認められ, 受傷〜発症までは15.8日±11.6であった.
 3ヶ月以上持続した慢性経過症例はその半数の8%程度. (Dev Med Child Neurol. 2013 Jul;55(7):636-41.)

外傷後頭痛の機序は未だはっきりしていない
・頸部へのダメージによる神経の炎症
・外傷に伴う部分的な過敏症
・PTSDに伴う精神的な疼痛 など予測されている.
(J Man Manip Ther. 2014 Feb;22(1):36-44.)

外傷後頭痛のタイプ
・外傷後頭痛は片頭痛様や緊張性頭痛様, 群発頭痛様, 頸性頭痛様と様々な一次頭痛の様相をとる.
(J Man Manip Ther. 2014 Feb;22(1):36-44.)

・頭痛の部位は側頭部, 前頭部, 頸部で特に多い (慢性経過例)
(J Man Manip Ther. 2014 Feb;22(1):36-44.)

外傷後頭痛の治療
頭痛の急性期治療はタイプに応じて決める
 緊張性や片頭痛タイプではNSAID.
 片頭痛タイプはトリプタン製剤やメトクロプラミドも試される.
(Handb Clin Neurol. 2015;128:567-78.)
・薬剤誘発性頭痛を避けるために, NSAIDやトリプタン製剤の頻用は避ける.
(Dev Med Child Neurol. 2013 Jul;55(7):636-41.)

脳振盪後症候群が3ヶ月以上持続すれば, 軽度の運動療法が推奨
・頭痛の予防治療は患者の状態に合わせて考慮
不眠があればメラトニンやアミトリプチリンを試す
 メラトニンは3mgより開始し, 最大10mgまで増量
 アミトリプチリンは5mgより開始し, 1mg/kgまで増量
・肥満があり, 脳挫傷による認知障害があればトピラマート
・片頭痛タイプならばバルプロ酸やガバペンチンなど片頭痛の予防薬を試す.
薬剤は頭痛が改善してから3ヶ月間は継続しその後徐々に減量

2016年2月13日土曜日

非アルコール性脂肪肝, 脂肪性肝炎(NAFLD/NASH): NAFLD, NASHの治療

NAFLD, NASHの治療で共通するのはリスク因子への介入.
・肥満, 高脂血症, 糖尿病への介入が基本となる.

NASHとなると, 肝炎所見や線維化の改善も目標に投薬治療を併用する.
治療の一覧 (JAMA. 2015;313(22):2263-2273.)
・第一選択はビタミンE (ユベラ®)
・他に効果が見込めるのはピオグリタゾンであるが, 長期使用により膀胱癌リスクが上昇する.
・メトフォルミンは効きそうなイメージがあるが, イマイチ.

ビタミンE vs ピオグリタゾン vs プラセボ
DM(-)のNon-alcoholic steatohepatitis患者247名のRCT
・Pioglitazone(30mg/d) vs Vit E(800U/d) vs Placebo で96wkフォロー(ITT)
・脂肪肝の進行度, 重症度を評価.
・重症度はSteatosis(0-3pt), Lobular inflammation(0-3pt), Hepatocellular ballooning(0-2pt)の合計で評価 (NAFLD score). 
・1pt以上の低下を改善ととる
アウトカム
Outcome
Pioglitazone
Vit E
Placebo
vs Pioglitazone
vs Vit E
改善あり
34%
43%
19%
P=0.04, NNT 6.9
P=0.001, NNT 4.2
増悪無し
48%
51%
25%
P=0.003
P<0.001
Steatosis改善
69%
54%
31%
P<0.001
P=0.005
Loblar inflammation改善
60%
54%
35%
P=0.004
P=0.02
Hepatocellular ballooning改善
44%
50%
29%
P=0.08
P=0.01
Fibrosis改善
44%
41%
31%
P=0.12
P=0.24
プラセボと比較して, ビタミンE, ピオグリタゾンは脂肪肝, 炎症所見の改善が認められる.
肝細胞の膨化はビタミンEで有意に改善. 
線維化の改善は有意差なし
(N Engl J Med. 2010 May 6;362(18):1675-85. )

ビタミンE vs メトフォルミン vs プラセボ
TONIC trial; 8-17yrのNAFLD 173例のDB-RCT.(ITT)
・Vit E 800IU/d vs Metformin 1000mg/d vs Placeboに割り付け, 96wkフォロー
・患者は生検で診断されたNAFLD患者.
Outcome; ALTの低下(基礎値から>50%の低下 or ≤40IU/Lの達成)

Vit E
Metformin
Placebo
Vit E vs Placebo
Met vs Placebo
ALT持続的低下
26%[15-39]
16%[7-28]
17%[9-29]
0.26
0.83
Baselineからの低下
(U/L)




  @24wk
-49.2[-64.4~-33.9]
-3.0[-21.1~15.0]
-24.5[-43.0~-5.9]
0.005
0.09
  @48wk
-44.5[-60.3~-28.7]
-11.7[-45.3~22.0]
-25.0[-43.7~-6.4]
0.04
0.52
  @72wk
-44.2[-65.9~-22.5]
-20.5[-59.8~18.8]
-36.4[-57.1~-15.8]
0.29
0.51
  @96wk
-48.3[-66.8~-29.8]
-41.7[-62.9~-20.5]
-35.2[-56.9~-13.5]
0.07
0.4
ビタミンEはALTの有意な低下が認められるが, メトフォルミンは有意差なし.

組織所見の変化
 肝細胞の膨化所見の改善がビタミンE群とメトフォルミンで認められる
 メトフォルミンに組織所見の改善効果はあまり期待できない.
(JAMA. 2011;305(16):1659-1668)

スタチンはどうか?
2013年のコクランレビューではNASH/NAFLDに対するスタチンの効果を評価したRCTは2つのみ
・いずれも小規模で, 有意差は認められていない.
・肝酵素やエコー所見の改善はスタチン群で若干認められる可能性はあるが, 組織の評価はされていない.
(Cochrane Database Syst Rev. 2013 Dec 27;12:CD008623.)

そしてつい最近発表されたGLP-1受容体作動薬
LEAN trial: 肥満+NASH患者52例を対象として,
 Liraglutide 1.8mg/d 皮下注射群 vs プラセボに割り付け比較したDB-RCT.
・患者は生検で証明されたNASH患者で, BMI 25を満たす患者群.
・2型DM患者はそれぞれ Liraglutide群で35%, プラセボ群で31%.
投薬は48wk継続し, 肝生検における組織の改善を評価
・組織的に改善を認めたのはLiraglutide群で39%, プラセボでは9%と有意にLiraglutideで良好(RR 4.3[1.0-17.7])
・BMIも有意に低下(WMD -1.59[-2.66~-0.51])
副作用は消化管症状が多い
 Liraglutideで低血糖は認めず.
(Lancet 2016; 387: 679–90 )

他にはFarnesoid X nuclear receptor ligand obeticholic acidという, 
6−ethylchemodeoxycholic acid(obeticholic acid)はfarnesoid X nuclear receptorアクチベーターで, 肝脂肪組織の減少効果, 線維化予防効果, 門脈圧亢進に対する効果が期待できるという薬剤もある.
・FLINT trialでは組織所見の改善, 線維化所見の改善効果が認められた(DB-RCT)(Lancet 2015; 385: 956–65 )

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NAFLDではリスク因子への介入が主であるが, NASHを疑う患者では出来れば肝生検を.
状況的に肝生検が困難な場合は, NASHとみなして, ビタミンEを開始し, 定期的な肝酵素, エコー検査や画像フォローを行う.

DM合併があればピオグリタゾン(膀胱癌リスクがあるものの、、、)という感じであったが, そこにGLP-1受容体作動薬の選択肢も加わる可能性が高い.

同じようにインクレチン製剤であるDPP-4阻害薬も効果が見込める「かも」しれません. 今後の研究に期待.

いずれDMの合併がなくてもこれらの薬剤が使用可能となる可能性もあるでしょうが, ピオグリタゾン(アクトス®)は以前からある薬剤ですが, 適応取得の動きとかはないんでしょうか?
 膀胱がんリスクや心不全リスクで使用頻度も下火ですし, あまり力もいれてないんでしょうか? その辺の事情はよくわかりません.
 DPP-4やGLP-1R作動薬ならば適応取得となるかもしれませんね.