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2017年12月9日土曜日

溺水後の肺炎の起因菌は?

溺水では9割が肺内に水が入り(Wet lung), 1割は喉頭痙攣でDry lungの溺水となる.

また溺水後の合併症で最も多いものは肺炎.
溺水という状況の元, 起因菌にも注意が必要.

1997年のReviewより, 溺水後の肺炎の起因菌をリストアップ
(CID 1997;25:896-907)
Organism
発症までの期間
淡水
海水
淀んだ水
備考
嫌気性
Gram-negative
Aeromonas spp
24hr以内
+++
+
+
Aeromonas hydrophilaが最多
Burkholderia pseudomallei
2wk以内
++

+
北緯20~南緯20, 東南アジア
Chromobacterium violaceum
>1mo
++

++
熱帯地域, フロリダ
Francisella philomiragia
5d以内
?
++

海水で多い
Klebsiella pneumoniae
4d以内

+


Legionella spp
4d以内, 6wkの報告
+



Neisseria mucosa
24hr以内

+


Pseudomonas aeruginosa
5d以内
+
?
++

Shewanella putrefaciens
4d以内

+

海水中に常在
Vibrio spp
4d以内
?
+

海水中に常在
好気性
Gram-positive
Streptococcus pneumoniae
24hr以内
++
+


Staphylococcus aureus
?
?
?


真菌
Aspergillus spp
7d以内
?
+
+

Pseudallescheria boydii
>1mo
?
?
+++

・多いのはAeromonasで, しかも溺水後24時間以内に生じる急性の経過となる.
・原因菌により発症までのタイミングも様々. 時間が経って発症したものにも注意が必要.

最近のデータを見てみると
(淡水)
2002-2010年に溺水(淡水)でCPAとなった患者で気道内分泌物中の細菌を評価した報告
(Resuscitation83(2012)399–401)
・患者群データ

・気道・肺内分泌物を評価した21例中19例で細菌が検出

2001-2012年に溺水後(淡水)ICU入室した49例中18例で肺炎を発症.
(Intensive Care Med (2014) 40:290–291)
・肺炎は新規画像所見+気道内からの細菌の検出,
 炎症反応陽性, 喀痰の増量で定義.
・原因菌一覧
・最も多いのはAeromonasで他の報告と同様.
次いでStaphylococcus aureus

補足: 近隣の運河, 湖, 水路からの培養


(海水)
2003-2013年に海水で溺水し, その後ICU入室した74例中早期に肺炎を合併したのは36.
(Ann. Intensive Care (2017) 7:45 )
・24例より気道分泌物が採取され, 16例より原因菌が検出

検出された細菌

・グラム陰性菌が6割, 陽性菌が4割程度.
・Enterobacterや大腸菌肺炎球菌, 黄色ブドウ球菌が多い
・淡水で多いAeromonasは無し
AMC(アモキシシリン/クラブラン酸)耐性は5/16

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・溺水後の肺炎では淡水ならばAeromonas + Pseudomonasカバーは重要
 海水では腸内細菌や特殊な菌を考慮する.
・溺水後すぐに発症するのはAeromonasや肺炎球菌を,
 すぐに発症しなくても, 数日経過して発症することもあり, 注意.

ところで, おそらく日本で最も多いであろう風呂溺水後の肺炎のデータは全くと言っていいほど見つけられなかった.
・残り湯, 水換えしていないお風呂, 24時間風呂, 毎日入れ直している風呂の水を培養し, その中に含まれる菌を評価する
・実際風呂溺水後の肺炎のデータを集める

というのは立派な臨床研究になりそうですし, 風呂溺水後の推奨抗菌薬を選択する意味でも重要なんだけども, 誰かやってくれませんか?


2017年12月7日木曜日

リンパ腫でのANA陽性率

症状や疑う膠原病もないのにANAを安易に測るな, というのは有名な話

ANA陽性のうち大半が別に疾患は認めない.
また, 膠原病以外にもANA陽性例は多い
(NEJM 2003;349:1499-50)

ANA陽性でコンサルトされた232例の報告
(The American Journal of Medicine (2013) 126, 342-348)
上記のうち, 2.1%SLE, 9.1%SLE以外のANA関連膠原病.
ANA <1:160では膠原病と診断された症例は1例も無し.

リンパ腫でもANAは陽性となる
127例の悪性リンパ腫と年齢・性別を合わせた非膠原病患者138例でANAを評価した報告.
(Genetics and Molecular Research 2015;14(4):16546-16552)
リンパ腫では有意にANA陽性例(≥1:100で定義)が多い(31.5% vs 6.5%)
・ANAのTiterは
 リンパ腫群では1:10075%, 1:32017.5%, 1:10007.5%
 Controlでは7/91:100, 1:320, 1:10001例ずつ

2017年12月5日火曜日

シガテラ中毒

シガテラ中毒: Ciguatera Fish Poisoning(CFP)

シガテラ中毒は主にサンゴ礁域で毒化した魚を摂取することで生じる中毒症
・シガトキシン(Ciguatoxin)は底生性渦鞭毛藻(Gambierdiscus toxicus)とその近縁種により産生され, 藻食魚 肉食魚と蓄積する
 毒素は加熱や冷凍で不活化されずに残存.
主に熱帯・亜熱帯域で多いが, 地中海でもGambierdiscus属が確認されている.
 日本国内では沖縄で多い
 九州~関東からの報告もあり, 太平洋沿岸域のイシガキダイが原因と考えられている
(食衛誌 2013;54(6):385-391)

国内のシガテラ中毒の季節性と地域
・毎年1-8件程度報告されている. その9割が沖縄
・原因となる魚類とその中毒発生の場所
(食衛誌 2012;53(2):105-120)

沖縄ではしばしばアウトブレイクも生じる
(Toxicon 56 (2010) 656–661)
・1997-2006年に33回のアウトブレイクを認め, 103例のシガテラ中毒例が報告されている
・アウトブレイクの原因魚

シガテラ中毒の症状
 症状は消化管症状, 神経症状, 心血管症状がある
(Mar Drugs. 2017 Mar 14;15(3). pii: E72. doi: 10.3390/md15030072.
An Updated Review of Ciguatera Fish Poisoning: Clinical, Epidemiological, Environmental, and Public Health Management.)(N Z Med J. 2016 Oct 28;129(1444):111-114.)

消化管症状: 摂取後6-12時間以内に出現し, 1-4日持続.
・悪心嘔吐, 腹痛, 下痢は早期に出現する
 ただし, 全例で認めるわけではない

神経症状: 末梢神経症状は摂取後2日以内に生じる
・末梢神経症状: 感覚障害, そう痒感, 筋肉痛, 関節痛, 金属味, 頭痛, めまいなど.
 古典的に温度感覚の逆転が認められる(冷刺激を焼けるような痛みと表現するなど)
神経精神症状: 摂取後数日~数週後に顕在化
 不安や抑うつ, 記憶障害, せん妄, 失調, 昏睡などの報告がある.
 これら神経症状は数週~数カ月持続する.

心臓血管障害: 早期に出現
・消化管症状や末梢神経症状と同時期に出現する
・低血圧, 徐脈は最も致命的となる障害.
 毒素摂取後早期に生じ, 集中治療を必要とする

他の食事や運動で症状が再出現することもあり

症状の報告のまとめ

シガテラ中毒の診断, 治療
診断は臨床診断となる
・消化管症状, 神経症状, 心血管症状を認める患者が流行地域で原因となり得る魚類を摂取した病歴があれば疑う
・特異的な検査やLab変化はない

鑑別疾患として, 他の魚介類による神経障害やGBSが挙げられる

治療は対症療法, 全身管理
・徐脈に対してはβ刺激薬や一時的体外ペーシング
・低血圧には補液や昇圧薬などを使用

・一時期神経症状に対してマンニトールが使用されていたが,DB-RCTにて効果は否定された(Neurology. 2002 Mar 26; 58(6):873–80.)
・ガバペンチンやアミトリプチリンは痺れや疼痛に対して使用されることがある.

2017年12月2日土曜日

まれな感染症による腹膜, 腹膜腔内病変

腹膜, 腹膜腔の病変は多い.
非腫瘍性の疾患では, 全身性疾患に伴う病変, 腫瘍様病変, 非典型的な感染症, 腹膜脂肪組織の病変などが挙げられる.
(RadioGraphics 2005; 25:719 –730)

このうち非典型的な感染症に関連する腹膜, 腹膜腔内病変のCT所見を紹介

結核
・結核は腸管から直接腹膜に浸潤するような像となる.
・さらに腹水を伴うWet type, 
 腸管膜の腫瘤を形成するFibrotic type, 
 びまん性の腸管膜,腹膜の線維性肥厚を呈するDry typeがある.
低吸収域を伴うリンパ節腫大(壊死組織を反映)はどのタイプにも認められ, 鑑別に有用.

アクチノミセス
・Actinomycosisは活動性が高い軟部組織浸潤が目立つ.
 正常組織への浸潤が目立つ所見となる
・長期間のIUD(Intrauterine device)などはリスクとなる.

エキノコックス
・腹膜エキノコックス症はほぼ肝臓嚢胞病変に合併する
 嚢胞の破裂や手術により播種し, 腹腔内のどの部位でも生じる
 特徴は肝病変と同じ. 嚢胞壁の石灰化は特徴的な所見となる

Whipple病
・Whipple病では低吸収域のリンパ節腫大を認める.
 脂質を含むマクロファージの浸潤による.
CT(10-30HU)の腸管膜リンパ節腫大と小腸壁肥厚の組み合わせでは, Whipple病かMycobacteria感染症を疑う.
・さらに関節症状やCNS症状があればWhipple

・また, 十二指腸のヒダの肥厚が認められる
(Journal of Computer Assisted Tomography 1981;5(2):249-252)

Mesenteric adenitis
・Mesenteric adenitis(腸管膜リンパ節炎)は非特異的な診断でCTにて右側の腸管膜リンパ節腫大を認め(5mm以上), 明らかな原因が判明しないもの.
・短径が>10mmとなることはまれ

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先日の京都GIMで, 単純CTで脂肪と同じ濃度のリンパ節腫大があれば, それはWhipple病かセリアック病しかない! と放射線読影の名医 下野Dr.がおっしゃってましたが, まさにスーパーPearlだと思います.

一度でいいから引っ掛けたい. Whipple病