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2012年7月6日金曜日

甲状腺癌 53856例の解析


Cancer 1998;83:2638-48

1985年から1995年に米国で診断された53856例の甲状腺癌のデータベース

甲状腺癌の組織形の頻度は,


1985-1990
1991-1995
乳頭癌
77.9%
80.2%
濾胞癌
14.2%
11.4%
Hurthle cell
2.7%
3.1%
髄様癌
3.7%
3.5%
Undifferentiated/anaplastic
1.6%
1.7%


乳頭癌が8割を占め, 乳頭癌+濾胞癌で9割以上.
年齢別の頻度は,以下の通り

甲状腺癌の生存率は大体良好であり,
発症年齢と組織形別の5年/10年生存率を示すと, 以下の通り.

年齢
<45y
45-59y
60-69y
70-79y
≥80y
乳頭癌
98%/97%
96%/85%
92%/65%
86%/47%
82%
濾胞癌
98%/98%
92%/66%
85%/57%
83%/NA
62%
Hurthle cell
97%/NA
91%/90%
92%/0%
92%/70%
53%
髄様癌
86%/84%
81%/80%
72%/63%
70%/NA
68%
Undifferentiated/anaplastic
55%/NA
13%/NA
13%/NA
13%/NA
14%



甲状腺腫瘍の評価について

個人的な興味で、甲状腺腫瘍、結節についてまとめてみた.


甲状腺の触診について
通常、甲状腺に腫瘍、結節を触れる割合は5%程度.
男女差があり女性で5.3-6.4%, 男性で0.8%-1.5%.
高齢者程頻度も上昇し, 18-24歳の女性では4.7%, 75歳以上では9.1%触知する.
World J Surg (2008) 32:1253–1263


ただし, 甲状腺腫瘍に対する触診の感度は10-41%とかなり低い.
2cmを超える結節でも感度42%という報告もある.
Medical and Pediatric Oncology 36:583-591 (2001)

従って, 詳細に評価するならば甲状腺エコーが高感度、低侵襲で勧められるが、健常人でもかなりの割合で結節を認めること, また, それらをすべて異常として評価、治療することの意義が乏しいため, スクリーニングとしてのエコー検査は推奨されていない。
(高リスク群は除く)


甲状腺エコーによる評価
健常人のボランティアを対象として甲状腺エコーを施行すると,
甲状腺結節は27-67%で認められる.
解剖症例での評価では50%で甲状腺結節を認める.


 >> これらを全て異常と捉えると, 検診をした半分以上は二次検査へ進んでしまう
  二次検査は吸引細胞診、もしくは切除.
  甲状腺腫瘍を触れる患者においてエコーは適応すべきであり, 全例には必要ないというのが一般的な考え方となる.


エコーで結節を認めた場合は悪性の可能性を評価することが重要
そこで大事なのは、腫瘍径は悪性腫瘍のリスク評価には使えないという点.
92例の甲状腺腫瘍で手術治療を行った群の評価 (内31名が悪性腫瘍)
Size
良性
悪性
0.8-1.0cm
4
5
1.1-2.0cm
15
16
>2.0cm
42
10
全体
61
31

<1cmの群でも, >1cmの群でも悪性腫瘍(甲状腺癌)の割合は変わらない.
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism Vol. 22, No. 6, pp. 913–928, 2008

また, 1940-50年代に悪性腫瘍と関係なく、頭頸部へ放射線療法を施行された1056名のフォローでは, 
(27.2%で結節を認め, その内71%で手術を施行. 悪性腫瘍は33%(60/182)で認められた)
悪性腫瘍の21例は腫瘍径<0.5cm, 28例が0.6-1.5cm, 11例が>1.5cm.
New Engl J Med 1976. 294(19):1019-1025.

従って, 悪性かどうかはエコー所見で判断し,
怪しければFNA(吸引細胞診)で組織検査を行う必要がある.

悪性っぽいエコー所見とは?
エコー所見
感度(%)
特異度(%)
Microcalcifications
6.1-59.1%
85.8-95.0%
Hyperechogenicity
26.5-87.1%
43.3-94.3%
Irregular margins or Halo sign(-)
17.4-77.5%
38.9-85.0%
Solid
26.5-87.1%
43.3-94.3%
Intranodular vascularity
54.3-74.2%
78.6-80.8%
Taller than wide(高さ>)
32.7%
92.5%
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism Vol. 22, No. 6, pp. 913–928, 2008

見ての通り, 感度, 特異度ともにバラツキが大きく,
術者の経験や腫瘍の大きさで評価しやすさも異なる。

最近はUS Elastographyという, 組織の弾性を評価するエコーの手法があるらしい.
圧迫時と非圧迫時の形の変化から腫瘍全体, 腫瘍内部の組織の弾性を評価し,
色分けしてScoreする.
これによると, Score 4-5は感度97%, 特異度100%で悪性腫瘍を示唆するという結果もある
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism Vol. 22, No. 6, pp. 913–928, 2008

FNA(吸引細胞診)の適応について
ATAガイドラインでは, FNAの適応は腫瘍径>1cmの甲状腺腫瘍となっている.
が, 前述の通り腫瘍径により悪性かどうかの判別は不可能であり, エコー所見が悪性を示唆する場合や, 甲状腺癌リスクがある患者群では上記にこだわらずに行う方が良いであろう.

ATAガイドラインが>1cmでFNAを推奨する理由としては2つあり, 1つは<1cmの甲状腺腫瘍ならば例え悪性であっても臨床的に問題を来す可能性は低いという点と, FNAの失敗が増加するという点である.

FNAでは陽性、陰性以外に検体不良(悪性かどうか評価できない場合)のことがあり, 腫瘍径<1.5cmでは27%が検体不良, 1.3-3.0cmでは16%, >3.0cmでは13%は検体不良の可能性があるとされている. 
World J Surg (2008) 32:1253–1263

甲状腺結節の精査アルゴリズム 
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism 26 (2012) 8396
<1cmの結節では上記の通り, FNAの精度も落ちるため, 
<1cmでエコー上悪性っぽい所見がないのであれば, 1年毎にフォローすることを推奨するExpert opinionもある.

良性の甲状腺結節であった場合
良性の甲状腺結節から悪性腫瘍が出現するリスクは極めて低い.
FNAで良性と判断された93名の2年間フォローでは, 悪性腫瘍発症は1例もなし.
Postgrad Med J 1990;66(781):914-917.
FNAで良性と判断された537名の2-10年フォローでは, 悪性腫瘍出現は無し.
J Surg Oncol 1992;50(4):247-250
という報告がある.

基本的には6-18ヶ月毎の触診、エコーフォローを行い,結節が増大傾向にあるならば再度FNAを行う.
良性腫瘍でも大きさが増大することがあるため, 臨床的な増大とは最大径が50%以上, もしくは3-5mm以上の増大, もしくは容積>15%の増大を有意ととる.
World J Surg (2008) 32:1253–1263


2012年7月3日火曜日

朝レク 肺炎の診療

朝レクチャー 肺炎の診療. マネージメントを意識した診療について


2012年7月2日月曜日

J wave syndrome, 悪性早期再分極, ブルガダ症候群について

今まで良性所見として捉えられていた早期再分極だが,
近年, 特発性VT/VFの原因の1/3を占めるという報告があり, 注目されている.


206名の特発性VT/VF患者と, 年齢, 性別, 人種, 身体活動度をMatchさせた412名のControl群を比較. NEJM 2008;358:2016-23
 早期再分極(+)は有意にVT/VF群で多いという結論(31% vs 5%).
 また, 早期再分極(+)群ではVT/VFの再発, 発症率も有意に高かった. HR 2.1[1.2-3.5]


39名の特発性VT/VF患者のCase-control studyでは, (Am J Cardiol 2009;104:1402-6)
 VT/VF群ではV4-5誘導のJ point notchを認めるタイプの早期再分極が多いと報告
 (44% vs 5%, 44% vs 8%, p=0.001-0.006)


さらに, 平均年齢44±8.5歳の10864名の33±11年間フォローにおいて
ECG所見と心血管死亡率, 死亡率, 不整脈死亡率を評価したstudyでは,
(NEJM 2009;361:2529-37)
 全体で, 早期再分極(≥0.1mVの上昇)は5.8%に認められ, 
 下壁誘導にST上昇を認めるのが3.5%, 側壁に認められるのが2.4%.
 また, J-point上昇が>0.2mVとなっていたのは0.6%(側壁0.3%, 下壁0.3%)認められた.


 フォロー期間中に死亡したのは56.5%(心原性32.1%)であり, 
 心電図所見と心原性死亡HRを評価すると,

Variable
心原性死亡RR
QTc 延長
1.20[1.02-1.42]
LVH
1.16[1.05-1.27]
J-point 上昇>=0.1mV
1.28[1.04-1.59]
J-point 上昇>0.2mV
2.98[1.85-4.92]


 と, J-pointの上昇 = 早期再分極はQTc延長と同程度の心原性死亡リスクの上昇に関連.
 しかもJ-point >0.2mVの上昇ではさらに高リスクとなっている。

これら早期再分極における死亡リスク、不整脈リスクの上昇から,
いままで良性と思われていた早期再分極の中に、悪性のものがあると考えられ,
悪性早期再分極症候群と提唱された(Malignant Early Repolarization syndrome)

早期再分極症候群は主に3つのタイプに分類され
Type 1; 早期再分極が側壁誘導で認められる ⇒ 特にVFのリスクにはならない
Type 2; 早期再分極が下壁, 下壁+側壁で認められる ⇒ VFのリスクとなり得る
Type 3; 早期再分極が下壁全体, 側壁, 右誘導で認められる ⇒ 最も高リスクとなる
(Heart Rhythm 2010;7:549-558)

また、Type 1に似ていても、V2にJ-wave >0.2mVの上昇がある場合はブルガタ型心電図となり, VF/VTのリスクとなり得る.
(ブルガダは下記の表の通り、右室に異常があるとされている)

原因として, 心筋組織のイオンチャネル異常が指摘されており,
ブルガタ症候群も悪性早期再分極症候群もそのイオンチャネルの異常が関連している。

結構このへんの定義がグチャグチャしていて、
J wave syndromeと悪性早期再分極とブルガタ症候群の明確な線引きがされていない。
今後されると思われる(もしかしたらもうされている?)が、
以下の図が個人的に分かりやすかったので採用したい。

(Heart Rhythm 2010;7:549-558)


ブルガダも悪性早期再分極症候群も同じ "J wave syndrome"であり、
その原因はイオンチャネル異常によるもの。
そして異常があるチャネルの違い。
(Heart Rhythm 2010;7:549-558)


とても簡単に区別すると、
 側壁(V4-6)に≥0.1mVのJ波がある場合がType1で特にリスクにはならない。
 側壁(V1-3)に>0.2mVのJ波を認めるのをブルガダ、
 下壁(II, III, aVF)に≥0.1mV(>0.2mVの方がよりHigh RIsk)のJ波を認めるのがType2-3の早期再分極症候群で不整脈リスクになり得るという認識。。。でいいのかなぁ。


(H24年 7/25追加)
(Mayo Clin Proc 2012;87:614-619)
早期再分極における心血管死亡リスク因子には同誘導のQ波, T-wave inversion(TWI)所見も重要との報告.
米国のPalo Alto Veterans Affairs Health Care CenterのRetrospective cohort. 
 外来患者で, Af, AF, HR>100, QRS>120, PM, PVC, MIを除外した29281名のECG所見と予後を評価.
 87.2%が男性で, 平均年齢は55-56歳. フォロー期間は7.6±3.8年.
 早期再分極の分布;


前璧で
≥0.2mV
ST上昇
*
後壁で
≥0.1mV
ST上昇
*
側壁で
≥0.1mV
ST上昇
*
全体
326(1.1%)
10%
485(1.7%)
6.4%
1481(5.1%)
3.8%
Q wave, T-wave inversion(-)
301
8%
424
6.4%
1447
3.2%
TWI≥0.05mV (@ERの誘導)
5
20%
19
21%
30
23%
Q wave(+) (@ERの誘導)
21
43%
52
21%
8
25%
TWI + Q wave
1
100%
10
20%
4
25%

* そのうち, 心血管由来の死亡の割合(%)


心電図所見の心血管由来死亡 HR(年齢, 性別調整)

ECG所見
HR
前壁 ≥0.2mVER
2.0[1.4-2.8]
前壁 TWI
1.6[1.2-2.2]
前壁 Q wave
2.1[1.7-2.6]
側壁 ≥0.1mVER
0.9[0.3-0.6]
側壁 TWI
2.6[2.3-3.0]
側壁 Q wave
1.6[1.0-2.5]
下壁 ≥0.1mVER
1.6[1.1-2.2]
下壁 TWI
2.2[1.9-2.6]
下壁 Q wave
2.0[1.8-2.3]
ER + TWI or Q wave(同じ誘導)
3.4[2.4-5.0]

早期再分極のリスク評価には, Q waveやTWIの所見も重要となる