トキソプラズマ症はToxoplasma gondiiによる人畜共通原虫症.
・ネコ科の動物を終宿主とする細胞内寄生原虫であり,
中間宿主としてヒトやブタ, ヤギなど哺乳類やニワトリ, カモなどの鳥類に感染する.
T. gondiiのライフサイクル
(Saudi J Biol Sci. 2021 Jan; 28(1): 962–969.)
・猫の糞とともに虫卵が排出され, 環境内で1-5日経過したものが感染性を有する
・他の動物が汚染された土や植物などを摂取し, 感染. 中間宿主となる.
体内でタキゾイドを放出し, 拡大. 神経や筋組織でシストを形成.
・猫がそのシストを含む肉を摂取すると感染.
・ヒトはシストや虫卵を摂取し 感染するが, 他に垂直感染もある
・74-77度や 中心温度66度以上, また-12度の冷凍で 感染リスクは低下.
ヒトへの感染
(Rio de Janeiro, Vol. 104(2): 221-233, March 2009)
・症状は無症候性〜免疫不全患者の重症感染症,
妊婦が感染することで胎児に垂直感染を呈し, 先天性トキソプラズマ症となることがある.
先天性トキソプラズマ症
・妊婦から胎盤を通過して胎児に垂直感染する
・不顕性感染〜死産, 水頭症, 脈絡膜炎, 脳内石灰化, 精神運動機能障害
リンパ節腫脹, 肝障害, 黄疸, 血球減少など
後天性感染症
・急性症状: 無症状が多いが, 発熱やリンパ節腫脹, IM-like syndromeなど
不明熱の原因にもなり得る.
・眼トキソプラズマ症: 先天性感染の再活性化が原因. 後部ブドウ膜炎, 視力障害, 眼痛など
・日和見感染症: HIV患者などでは潜伏感染していたトキソプラズマが再活性化し, 脳炎, 脈絡膜炎, 肺炎などの重篤な症状を呈する
Toxoplasmosisによる腸炎
・経口の急性感染後, 重度の腸炎や小腸壊死を呈する症例や, 播種性トキソプラズマ症の初期に重症腸炎を呈する例など報告がある(Case Rep Gastrointest Med. 2017;2017:3491087.)(South Med J. 1995 Aug;88(8):860-1.)
・動物研究では, 経口感染後, 小腸に強い炎症を生じる.
上皮細胞の軽度の落屑, 中等度〜重度の壊死を認める症例など.
病理学的変化は回腸遠位で最も顕著であり, 十二指腸や空腸は保たれる
・また肝障害を呈する頻度も高く, 肝臓血管周囲や実質内に炎症性細胞浸潤を認める.
・寄生原虫は回腸に多数検出される.
・ヒトでの報告が少ない理由の1つに摂取される虫体量が考えられる.
日本におけるToxoplasma gondiiの疫学
(Parasitology International 87 (2022) 102533)
ヒトにおけるT. gondii抗体の保有率
・一般人口における保有率は1割 北九州では高い.
・眼病変患者における保有率は 数%とむしろ低い.
猫や他の動物の抗体保有率
・猫は徳之島や西日本の野良猫で多く認められる.
・他の動物では羊, ヤギで多い
東北の羊でおよそ3割, 沖縄のヤギは75%に及ぶ.
・鶏は地域差がありそう. 宮崎では11%だが, 岐阜では0%
野生動物での保有率
・様々だが, 猪や蝦夷鹿は多く, またカモシカも多そう
Toxoplasmosisの治療(平成26年, 診療の手引きより)
・急性感染症で, 免疫正常, 軽症例では治療は不要.
・先天性トキソプラズマ症の治療は 3剤療法: ピリメタミン, スルファジアジン, ホリナート
・免疫不全者では, 上記3剤療法を4-8週間. その後は維持療法として免疫状態が改善するまで継続が推奨される.
・代替療法としてST合剤 また,
上記3剤療法のスルファジアジンの代替として, クリンダマイシン, アジスロマイシン, ダプソン, アドバコンのいずれかを使用することも可能.