60歳台の男性.
7年前より血小板減少(10万前後), 3年前にM蛋白血症を指摘(IgGλ, 2g/dL程度. MGUSと判断) を認め, 定期フォローされていた.
半年前からの1日中持続する手指の強張り, 手指関節痛を自覚. 主治医に相談し精査したところ, RF陽性を認め, コンサルトとなった.
所見は両側手関節の軽度腫脹と圧痛を認めた. MP, PIP, DIP関節は腫脹や圧痛は認められず.
手関節と指の運動に強張りを自覚しており, エコーでは手関節伸側の腱鞘の腫脹とPD亢進, 手関節の軽度Fluid貯留が認められた.
皮膚や粘膜所見に有意なものは認めず.
血液検査ではCRP 0.8mg/dL程度の上昇を認めた. 甲状腺は正常. 抗CCP抗体や抗核抗体陰性.
気になる所見としてWBC 6000台, Mo 20%(絶対数600-700/µL, 3年前から増加傾向), PLT 11万.
また, 病歴より2年前より冬季になると手指先端のチアノーゼ, また潰瘍形成を伴うことがあるとの病歴が得られた.
さて, 診断は・・・? 問題点をまとめると,
#慢性の両側手関節炎, 手指の強張り
#3年前〜MGUS, 6年前〜PLT減少, 2年前〜Mo分画の上昇
#冬季の手指のチアノーゼ, 潰瘍
#RF陽性
なぜかこの時点でピンと神の啓示が降りて, 頭にHCV?と思い浮かんだ(最近ミミッカーのことばかり考えているから?)
精査するとビンゴであり, HCV抗体が陽性.
肝障害や肝硬変所見は認められず. 上記検査異常や関節症状はHCV関連の肝外症状と考えられた.
ちょっと勉強ついでにまとめてみる.
HCV感染症の肝外症状
(N Engl J Med 2021;384:1038-52.)
HCV感染症は肝臓以外にも多くの肝外症状を呈する.
単一施設におけるHCV慢性感染症 1614例の解析では,
1202例(74%)で肝外症状が認められた
(Arthritis Rheum. 1999 Oct;42(10):2204-12.)
・>10%を超えるものとしては, 関節痛(23%), 感覚異常(17%),
筋肉痛(15%), 掻痒感(15%), Sicca症候群(11%)
・>5%を超える検査所見としては, クリオグロブリン(40%),
抗核抗体(10%), チロキシン低下(10%), Sm抗体(7%)
・クリオグロブリン陽性/陰性例別の症状頻度
陽性例では関節痛, 高血圧, 掻痒感, 血管炎などの頻度が高い.
しかしながら陰性例でも23%で関節痛は認められる.
102 studiesのMetaにて, HCVの肝外症状の頻度を評価
(Gastroenterology 2016;150:1599–1608)
・クリオグロブリン血症の頻度は最も高い.
次いで糖尿病やSjogren症候群.
RAのリスクも上昇する.
PCT: Porphyria cutanea tarda
HCV関連関節炎
(J Musculoskel Med. 2010;27:351-354)
・HCV慢性感染症の肝外症状として関節痛, 関節炎は多くを占める.
関節症状は軽度の関節痛から, QOLを障害する関節炎まで様々.
・多くの患者はRA-like関節炎またはクリオグロブリン血症に関連する関節炎を呈する.
・RA-likeな関節炎は小関節の左右対象性の関節炎となり, 変形をきたすことは少ない. ACRのRA基準を満たすことも多い
またRFも陽性となる.
RAとは対照的に, HCV関連関節炎では朝の強張りが少なく, リウマチ結節やXPにてびらんを呈することが少ない. ACPAもほぼ陰性.
両者で初期症状は類似しているため, RAを疑う患者ではACPAとHCV抗体の評価はルーチンで行う
・クリオグロブリン関連関節炎は, 中, 大関節を侵す単関節炎, または少数関節炎で, 間欠的な経過となる.
HCV関連関節炎のCohort (BioDrugs 2001; 15 (9): 573-584 )
HCV関連関節炎とRAの比較 (Autoimmunity Reviews 8 (2008) 48–51)
HCV関連関節炎の治療
(Expert Opin. Pharmacother. (2014) 15(14):2039-2045)(J Musculoskelet Med. 2010 September ; 27(9): 351–354. )
・軽度の場合はNSAIDを用いた保存的治療となる
肝硬変が進行した患者の場合, 腎障害や食道静脈瘤からの出血リスクとなるため, NSAIDは避ける必要がある.
・NSAIDで反応しない患者では, 短期間の少量PSL(2-8mg)が使用される.
・DMARDはHCV慢性感染症の患者では,
MTXはChild-Pugh A,B,C全ての患者で禁忌
SSZはB, Cで禁忌
HCQはCで禁忌とされている.
・経験的にはHCQ+少量PSLが好まれて使用されている.
・シクロスポリンは抗ウイルス作用があり, 代替薬となる.
CsAのようなシクロフィリン阻害薬はHCV感染を阻害する. HCV関連関節炎に対して, 有効な治療となる可能性があるが,
十分な検討はされていない.
CsAを使用中のHCV患者で, CsAを中断する場合は, 緩徐に中断することが推奨される(急な中止は肝炎の増悪につながる可能性がある)
・TNF阻害薬は有効と考えられるが, HCV関連関節炎は軽度のことが多く, 過剰治療となる可能性が常にある
・RTXも効果が期待できるが, 関節炎のみでは使用しにくい.
後述の重症クリオグロブリン血症がある場合は選択肢となる
・抗ウイルス治療はHCVに関連した全ての肝臓・肝外症状に対して有用と考えられる.
DAA治療, IFNフリー治療が可能であり, HCV治療は考慮される.
IFNによる治療では, 治療後に関節症状が増悪する報告がある.
(IFNによる免疫賦活に起因する)
HCVによる関節炎, 血管炎を認め, Sofosbuvirベースの治療が行われた24例を解析(関節15, 血管炎9).
(Z Rheumatol 2018 · 77:621–628)
・倦怠感(FAS), TJC, SJC, VAS全て治療群で有意に低下.
治療後から速やかに低下し, 24wk後にはかなり改善を認めている.
Gr Aが治療群.
Gr Bは過去にIFNで治療された患者の対象群
HCVクリオグロブリン血症の治療
(J Musculoskelet Med. 2010 September ; 27(9): 351–354.)
・軽症〜中等症の場合, 抗ウイルス薬による治療が推奨される.
・重症の場合(消耗性疾患や糸球体腎炎, 神経障害)では免疫抑制と抗ウイルス薬の併用が望ましい
・免疫抑制療法ではRTXの併用が望ましい.
HCVがポリクローナルB細胞を直接活性化し, クローナルな増生を促す知見に基づいている.
B細胞を抑制することでクリオグロブリンの合成を阻害する.
RTX 375mg/m2を毎週4週間投与し, その後抗ウイルス薬を使用.
HCVに関連する重度のCV患者(皮膚潰瘍, 糸球体腎炎, 難治性末梢神経障害) 59例を対象.
(Arthritis Rheum. 2012 Mar;64(3):843-53.)
・HCVは抗ウイルス治療を失敗しているか, 適応とされなかった症例.
・RTXによる治療群(1g/2wk, 2回. 再燃時再投与)と, 非RTX治療群(GC, アザチオプリン, シクロホスファミド, 血漿交換など)に割り付け, 比較.
・非RTX群で治療反応を認めなかった群は後にRTXを使用した
・治療前〜治療後2ヶ月での反応性は, RTX群で皮膚潰瘍, 蛋白尿, 尿沈渣, 疼痛や痺れ症状は有意に改善.
HCVによるクリオグロブリン血症で, 抗ウイルス治療が失敗した24例を対象としたopen-label RCT.
(Arthritis Rheum. 2012 Mar;64(3):835-42.)
・RTX 375mg/m2/wkを4回投与群 vs 通常の治療(免疫抑制)群に割り付け,
6ヶ月後のCV寛解率を比較した.
・アウトカム: 6ヶ月後の寛解率はRTX群で83%, 対象群で8%のみ.
HCVの肝外症状では関節炎を伴う頻度は高く, 関節炎にはRA-likeな関節炎と, クリオグロブリン血症に伴う関節炎がある.
前者は手指の小関節炎で, NSAIDやDMARDが効果的. IFNフリーHCV治療も有用である.
後者は重症例ではRTXが有効. またHCV治療も効果的であり, 双方で治療を検討する.
補足: HCV患者における末梢血の特徴
312例の献血検体(HCV陽性例が144例含む)におけるViral loadと血球の関係を評価した報告.
(Biomed Res Int. 2015;2015:429290. )
・血液中のHCVウイルス量と関連するパラメータ;
・PLT低値は有意にHCVウイルス量との相関性が認められる.
・他にRBC, MONO, TPO(トロンボポエチン)高値はウイルス量と相関
・この因子をスコア化すると,
全体のスコア(0-7点)では, 4点で感度75.6%, 特異度 78.5%
TPOを除くスコア(0-5点)では, 3点で感度76.8%, 特異度 75.7%で
HCV感染を示唆する.
5281件の症例データ(コントロール群122例でHCV感染)の評価
(BMC Public Health (2021) 21:1388)
・慢性HCV感染症における単球/PLT比を評価.
・Mo/PLTx103/µL で計算する.
これが高いほど, HCV患者の可能性が上昇する結果.
HCV感染では, 肝障害に関係なく血液中PLTは低下し, Moは上昇する傾向が認められる.
この傾向は血液中Viral loadに相関が認められる.