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2022年8月27日土曜日

セフトリアキソンと胆石, 腎結石のリスク

CTRXは投与量の40%が胆汁中に分泌される.


胆汁における濃度は血中濃度の20-150倍となり,
 さらにCTRXは胆汁中のCaイオンに結合して沈澱を誘発するため
胆石症や胆泥のリスクとなることが知られている.

また, CTRXは腎臓でもCaイオンと結合し, 腎結石を形成することも報告がある.


CTRXを使用し細菌感染症を治療する84例において,
 CTRX使用前と使用後で腹部エコーを行い,
胆石, 胆泥, 尿路結石を評価した.

(Drug Healthc Patient Saf. 2018 Dec 12;10:103-108.)

・治療期間は4.19±2.54日, CTRX投与回数は10.2±5.9回

・肝胆道系障害がある患者と腎障害がある患者は除外

アウトカム:

・CTRX治療後に胆石を認めた症例が6例(8.8%),
 尿路結石は1例(1.5%)で検出された.

・サイズは腎結石が4.41±1.69mm
胆石が11.74±13.35mm と大きい.

・結石(-)と比較してDoseや治療期間は有意差なし.

・結石形成例はより高齢者が多い; 73±18歳 vs 54±19歳

 
BMIは有意差なし


CTRX投与後の胆石症と診断された17例の特徴とフォロー

(Jpn J Radiol. 2019 Dec;37(12):826-831.)

・CTRX投与前2ヶ月以内にCT検査がされており, その際は胆石は陰性,

 
そして投与後に胆石所見を認めた症例で, さらに中止後に胆石所見が消失した症例を抽出

・女性が10例, 中央年齢は78歳[範囲31-88]

・CTRX投与〜結石診断までは10日間[範囲4-32]

・CT所見は胆泥パターンが11例(64.7%), 胆石が2例(11.8%)
, 胆泥+胆石が4例(23.5%)

・CTRX中止後〜胆石消失までは69日間.


腎結石のリスク

小児の腎盂腎炎において, CTRX 75mg/kgの投与を行った284例を評価

(Pediatr Nephrol. 2007 May;22(5):690-4.)

・初回腎エコーを2日目に行い, また投与終了後にも行った.


 所見を認めた患者では3ヶ月後もフォロー.

・284例において, 初回エコーは全例で正常.

 
CTRX治療終了後のエコーでは4例(1.4%[0.96-1.83])で腎結石(+)

・3ヶ月後のフォローアップでは全例で消失.

・特にリスク因子となるものは認められず

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CTRXはCaイオンと結合して腎結石や胆石のリスクとなる.

腎結石はおおよそ1-2%程度の頻度, 胆石は10回の投与, 5-10日間の使用により8.8%の頻度で, 胆石形成のリスクの方が高そう.

双方ともCTRX投与中止後, 2-3ヶ月の経過で消失することが多い.

胆石症では総胆管結石をおこして内視鏡治療や胆管炎治療が必要となる例もある.

2022年8月26日金曜日

腹水の細胞診. 適切な検体量は?

癌性腹膜炎を疑う患者や原因不明の腹水の精査で行う細胞診.

検体量はどの程度が適切か?


(Saudi J Gastroenterol. 2019 Sep-Oct;25(5):327-332.)

腹水貯留患者123例より腹水検体を採取

・検体量を10mL, 50mL, 以下50刻みで300mLに分けて,
 腹水中からの悪性細胞検出感度を比較.

・悪性腫瘍は93例


検体量別の感度, 特異度

・感度は200mL以上でプラトー. 150や100ml, 50, 10mlでは感度は低下する.

 
特異度は200ml以上では80%前後で一定.

 とりすぎると特異度が低下する傾向があるかもしれない.

・したがって, 腹水細胞診における検体量は200mLがベスト

2022年8月18日木曜日

脳出血後の急性期における抗てんかん薬の予防投与

脳出血後の症候性てんかんのリスクや予防投与については

脳出血後の予防的抗てんかん薬を参照

基本的には予防投与は推奨されていないが, エキスパート診療では投与されているところはよく目にする. 

出血の部位やタイプでもリスクは異なるため, 適応を考慮する必要がある.

この効果を評価したRCTは少ない〜なかった.


今回レベチラセタムによる予防投与を評価したRCTが発表

(Lancet Neurol. 2022 Sep;21(9):781-791.)

PEACH trial: 頭蓋内出血後の患者における
Levetiracetamの予防投与を評価したDB-RCT

・患者は18歳以上の発症24時間以内のテント上脳出血患者.

・NIHSS ≥25, 外傷, 血管奇形, 脳梗塞による出血, 腫瘍による出血は除外.
抗てんかん薬使用中, てんかん既往例, 授乳婦/妊婦, 重度のうつ病, 精神病の既往なども除外された.

・患者はSCUにて標準治療が行われ, さらに
Levetiracetamによる予防投与群 vs Placebo群に割り付け, 
症候性てんかん, ECGによるてんかん波をフォローされた.

・予防投与: 500mg q12hを48時間以上 経静脈投与.
 経口内服可能となれば切替え, 30日間継続. その後2wkかけて減量し, 終了(250mg q12hを7日, 250mg/dを7日)

・アウトカムは72h以内の症候性発作, 導入から48hの持続脳波モニタリングによるてんかん波の確認
また, 30日以内の症候性発作, 31日〜12ヶ月の発作を評価.


母集団


アウトカム

・72h以内の症候性発作, てんかん波は16% vs 43%, OR0.16[0.03-0.94]と
有意に予防投与群で少ない結果.


・脳波モニタリング中のてんかん波形数も有意に少ない.

・神経学的所見やmRSは両者で有意差なし.

・~72hでフォローされた血腫サイズは有意差はないものの,
 予防投与群で拡大は少ない傾向にある.

・発症〜30日, 〜1年間の症候性てんかん発作は両者で有意差なし.
 それぞれの群で1例ずつ.


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脳出血後の予防的抗てんかん薬の投与は有意にてんかん発作や脳波におけるてんかん波の予防に効果的である.

しかしながら長期的な症候性てんかんのリスクは有意差なし(母集団における発症が1例のみと少ないのでなんとも)

また, 神経機能予後も有意差なし.


長期的なてんかん発作のリスクや, 神経機能予後に影響するならば投与を推奨する根拠にはなりそう. それを評価するには小規模であり, 今後の追試を待ちたいところ.

薬剤性肝障害;西洋薬と漢方の違い

 (Medicine (Baltimore). 2022 Aug 12;101(32):e29909.)

北京大学第一病院において, 1995-2019年に診療された726例の薬剤性肝障害患者をReview

・肝障害出現前に疑わしい薬剤投与歴があり, CIOMSの基準を満たし, RUCAM score >3で定義.


・他の原因が考えられる症例(ウイルスや腫瘍, アルコール, AIHなど)は除外.

・このうち, 中国漢方薬によるものが353例(48.6%)
西洋薬によるものが225例(40.0%)

 残りは併用など.


西洋薬と漢方によるDILIの比較

・漢方によるものは,
 女性例が多く,
 

 開始〜発症までがやや長い
(およそ1週間程度遅い)

 肝細胞障害型が多く, 
 肝障害の程度も高度となる

 ANA陽性率も高い.


・内服開始〜発症までの期間. 

 西洋薬では開始後1wk~2wkでピークとなるが, 

 漢方では2-3wkでピークとなる.

 また, 2-3ヶ月経過してから発症するのは西洋薬も漢方も同じ.


漢方で原因が特定できたもので頻度が高いもの

漢方薬


漢方名


Polygonum multiflorum

ツルドクダミ

何首烏

38

Psoraleae

オランダビユ

破胡紙

35

Epimedium

イカリソウ

淫羊藿

26

Bupleurum

ミシマサイコ

柴胡

22

Rhubarb

ルバーブ

大黄

21

Cortex Dictamni

ハクセンピ

白鮮皮 

13

Rhizoma Corydalis

エンゴサク

延胡索 

13

Rhizoma Smilacis Glabrae

ドブクリョウ

土茯苓 

12


よく聞く名前は柴胡や大黄, 茯苓あたりか.

2022年8月5日金曜日

リウマチ性多発筋痛症(PMR)と胸鎖関節炎

最近胸鎖関節炎をよく診療する, というかよく気づく.

PMRという診断で治療されたが難治性であり, 紹介. → PMRらしさがなく, 胸鎖関節の炎症所見や症状が強く, 治療に難渋した結果, 最終的にADAで治療し改善した症例. 見込み的にはSpAに近い.

掌蹠膿疱症+手指の疼痛で, 胸鎖関節にも圧痛があり → これはPAO/SAPHO

PMRの経過で, 所見もPMR. 画像で胸鎖関節の軟部組織が腫脹. エコーで関節炎 +


こんな感じのプレゼンでおおいですが, 過去を思い起こすと, 化膿性関節炎, 淋菌, CRMOなど

色々な疾患が思い起こされる.


とくにここ数ヶ月, ちょっと胸鎖関節には注目している. 

それは, PMRで意識すると結構いるな, という感覚から.

症状はあまり訴えない. 圧痛も, 運動時も前胸部の痛みはないことが多いが,

エコーやCTをよく見ると胸鎖関節炎がある.


そこでちょっと論文を探ってみた.

臨床的には無症候なので、あまりデータはなさそう. というか無い.

なので, PMR症例でのPET/CTを評価した論文を漁ってみた.

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PMRに対するTCZ治療を前向きに評価したTENOR trialより

(Eur J Nucl Med Mol Imaging (2016) 43:773–779)

胸鎖関節の集積異常は72%と多い.


PMRでPET/CTが評価された15例;

(Radiol Oncol 2017; 51(1): 8-14.)

・関節は肩周囲が15/15, 股関節周囲が15/15, 胸鎖関節周囲が14/15と高頻度

・関節外は, 坐骨結節滑液包(Ischiogluteal bursa)が14例.


関節炎でPET/CTを評価された60例(内14例がPMR)の集積部位

(Annals of Nuclear Medicine (2018) 32:573–577)

PMRの88%で胸鎖関節への集積があり, 他疾患よりも有意に多い.


2017年のReviewにおけるPMRの集積部位: 

(Br J Radiol 2017; 90: 20170198. )

胸鎖関節への集積は43-93%


PMRに対するPET/CT所見を評価した2021年のMeta-analysis

・PMRの診断に関連する所見, 集積部位は
 

 股関節, 大転子, 棘突起間滑液包, 坐骨結節,
 

 肩, そして胸鎖関節(LR 2.3)


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実臨床の感覚も合わせると, PMRというのは, 

「胸鎖関節炎を認めることが多い疾患だが, 臨床症状として同部位の痛みを訴えることが少ない」

しばしば胸腹部CTでうつった胸鎖関節や, エコーで意識的に評価した場合, 胸鎖関節の軟部組織の肥厚やPD亢進が拾える.

棘突起間滑液包の炎症や, 肩周囲の滑液包炎とともに, 「PMRらしさ」を拾い上げる一つのヒントとして日常診療で意識している.