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2021年10月29日金曜日

Hand heldなECGデバイスによるAfスクリーニング

昨今Iphoneに接続するECGデバイスや、Apple watchによるECG測定など, 色々簡易なECGデバイスが出てきている.

これらデバイスを使用すれば, 一般市民でも不整脈のスクリーニングが可能であるが, それが実際どの程度の予後を改善させる効果があるのだろうか?


STROKESTOP: スウェーデンのHallandとStockholmにおけるRCT.

(Lancet 2021; 398: 1498–506)

・75-76歳の住民を対象とし, Afのスクリーニング(14日間の間欠的ECG評価)を行う群とControl群に割り付け, 臨床アウトカムを比較した.

・除外基準は無し

・スクリーニング群において, 実際スクリーニングに参加し, 
Afが認められれば抗凝固療法を開始.

・スクリーニングは初回ECGを評価し, Afが認められない群では14日間, 1日2回のECG評価を行う(Single lead ECG).

・最低5年間以上フォローし, 両群におけるStrokeリスク, 出血リスクを比較した.


スクリーニング群は13979例
このうち7165例(51.3%)が
実際にスクリーニングに応じた.

・スクリーニング群に割り付けられたが, 応じなかった “Non-paticipants”は, より併存症や内服, 好ましくない社会因子が多い.


アウトカム

・最初の1年間でAfと診断された患者は


 スクリーニング群で12.1%→15.1%(+3%)


 Control群では12.8%→14.1%(+1.3%)

・しかしながら両群で抗凝固療法を行った症例数に差は認めない(スクリーニング群で1年以内に増加するような曲線は認められている)


・スクリーニングを行う群ではStroke, 血栓症, 出血入院, 死亡の複合アウトカムの改善が認められたが, その差は少ない

・個々のアウトカムでは有意差なし.


・実際スクリーニングに参加した人と不参加(non-paticipants), Control群を比較すると,
その差は大きくなる



これは, 住民全体を対象とし, 臨床アウトカムを評価した重要な論文である

他にもAf検出率を評価したスクリーニングの文献はいくつかある;


他のAfスクリーニングのStudy


STROKESTOP II: ストックホルム在住の75-76歳の住民をスクリーニング群とControl群に割り付け.

(Europace (2020) 22, 24–32)

・スクリーニング群ではNT-proBNPを評価し, <125ng/Lを低リスク群, ≥125ng/Lを高リスク群とした

 低リスク群では1回のSingle-lead ECGを評価


 高リスク群では1日4回のSingle-lead ECG評価を14日間継続
 

 Single-lead ECGはHand-held deviceで1回30秒評価

・Afが認められれば循環器内科紹介.
 また以下があれば紹介する;
 

 NT-proBNP ≥900ng/Lで心不全の既往がない患者
 

 Afがすでに知られており, 抗凝固療法がされていない患者

アウトカム

・新規Afは全体で2.6%[2.2-3.0]で検出.

 高リスク群では4.4%[3.7-5.1]

・初回ECGにおけるAfの検出をアウトカムとした時の
NT-proBNP値の感度/特異度

NT-proBNPとAf

・2週間のフォローでAfを検出した症例では,
 NT-proBNPの中央値は305[199-522].

・NT-proBNPが高いほど, Afが診断される可能性も高い


・NT-proBNP値とCHA2DS2-VAScによるAf検出率

 NT-proBNPが>353ng/Lの例では検出率がかなり上昇する


mSToPS: 米国の大手健康保険の加入者を対象としたRCT

(JAMA. 2018;320(2):146-155. doi:10.1001/jama.2018.8102)

・モニタリング参加希望者は, ランダムに即時開始群と4ヶ月後に開始群に割り付け, その4ヶ月間の間にどの程度Afが多く検出されるかを評価.

・対象患者は75歳以上の高齢者, または男性は55歳以上, 女性は65歳以上で1つ以上の併存疾患を有する患者.


 すでにAfの診断がされている患者は除外

・Afスクリーニングは装着型のECGモニタリングを2週間着用し, 
3ヶ月あけて再度チェックする.

アウトカム

・早期スクリーニング群で最初の4ヶ月に検出されたAfは3.9%


 晩期群では0.9%であり, 3.0%[1.8-4.1]がスクリーニングで多く検出された


REHEARSE-AF: AliveCor Kardiaを用いたモニタリング

(Circulation. 2017;136:1784–1794.)

・Ipad, Iphoneに接続して使用するECGデバイス.

・65歳以上でCHADS-VASc ≥2を満たす, Af(-)患者を対象とし, 
このデバイスを使用して週2回測定, 12ヶ月継続(+症状がある時測定)群とControl群に割り付け, Af検出率を比較.

・スクリーニング群での計測頻度


アウトカム

・12ヶ月において, Afが検出されたのは


 スクリーニング群で19例(3.8%) vs Controlで5例(1.0%) 
HR 3.9[1.4-10.4]


・Afが検出された群とされなかった群で, モニタリングのアドヒアランスに差は認めず

・Af診断のリスク因子

 高齢者, 動脈疾患, CHADS-VAScスコアがリスクとなる.

・12ヶ月における血栓症やStrokeリスクは有意差なし


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高齢者における簡易デバイスを用いたAfスクリーニングは, Strokeや血栓症などの複合アウトカムリスクを低下させる可能性がある. 

大体, 高齢者やリスク(+)群において簡易デバイスを用いてAfスクリーニングを行うと, およそ2-3%多く新規Afが検出されることになる.


2021年10月27日水曜日

棘突起間滑液包炎はPMRに特異的な所見なのか?

PMRと高齢発症のRA(EORA)の鑑別点において, PETやMRIにおける関節周囲の信号パターンの違いや, 分布, 棘突起への集積の有無が挙げられるというデータがある

高齢発症の関節リウマチとリウマチ性多発筋痛症

PMRにおけるPET/CTの集積パターンは図のような感じ

(Biomed Pap Med Fac Univ Palacky Olomouc Czech Repub. 2015 Dec; 159(4):629-636.)

・関節外の集積として, 下位頸椎, 腰椎の棘突起への集積は特徴的で, 頻度も高い.


この棘突起の集積だが, 棘突起間滑液包炎を生じているため生じる.

棘突起間滑液包は解剖図で示すとこのような位置づけになる

(Ann Rheum Dis 2008;67:758–761. doi:10.1136/ard.2007.084723)

ちなみにエコーでも検出されることがあるとのこと. 

(Joint Bone Spine 80 (2013) 341–347)


棘突起間滑液包炎はPMRに特異的な所見といえるか?

・Pubmedで ”Interspinous bursitis”で調べると, 論文は29編

 その大半がPMR関連で, 他にアスリートで発症した頚椎や腰椎のInterspinous bursitisやBaastrup病,
Septic Interspinous bursitis, Crowned dens syndromeによる報告がある程度


無治療のPMR 12例, FMS 5例, 頸椎変形性関節症 2例, 頚部痛を伴うSpA 6例で頸椎MRIを評価し, 棘突起間滑液包炎を評価

・棘突起間滑液包炎はPMRでは全例陽性.
 

 FMSでは3/5, SpAでは2/6(乾癬性関節炎), 頸椎骨関節炎では1/2で陽性

・MRI grade ≥2はよりPMR症例で多い(83.3% vs 30.7%)
 

 (0-3で評価. 0は集積なし, 1は軽度. 滑液法が確認できる程度)

(Ann Rheum Dis 2008;67:758–761. doi:10.1136/ard.2007.084723)


肩, 骨盤痛を伴う無治療PMR 10例, SpA 7例(PsA 4, IBD 1, AS 2), 脊椎変形性関節症 2例, 腰痛(+)RA 2例において腰椎MRIを評価

・PMRの9/10, Control群の5/11で棘突起間滑液包炎(+)
 

 Control群ではPsA 2, IBD 1, 脊椎変形性関節症 2例

・Grade ≥2の所見は, PMRで60%, Control群で9%のみとPMRで特に多い

(Clinical and Experimental Rheumatology 2013; 31: 526-531.)


EORA vs PMRのエントリーで載せた論文では, RAでも同部位の集積はあるが,

集積の程度はPMRと比較すると弱い.

(Mod Rheumatol, 2015; 25(4): 546–551)


補足: Baastrup Disease

・腰椎の棘突起間滑液包炎をBaastrup Diseaseと呼ぶ

・1825年にMayerが, 1929年にBrailsfordが, 1933年にBaastrupが, 腰椎の棘突起の隣接面とその間の軟部組織に病的変化が生じ, 腰痛と関連していることを記述している.

・画像上は隣接する腰椎棘突起の接触(Kissing spine)と, その付着面の硬化, 肥大, 平坦化が認められる.

・腰椎の過度な前湾による機械的な圧迫が関連していると考えられている.

・棘突起間滑液包が前方に進展し, 脊髄内嚢胞が生じると脊柱管狭窄や神経因性跛行を引き起こすことがある. L4-5が最も多い

・腰椎MRIを評価した539例の所見を後ろ向きに評価すると,
腰椎棘突起間滑液包炎の所見は8.2%で認められた.
加齢や椎間板変性, 脊柱管狭窄との関連が強い.


(Spine 2008;33:E211–E215)(Cureus 9(7): e1449. DOI 10.7759/cureus.1449)


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棘突起間滑液包炎の報告はあまり多くはない.

報告からはPMRが大部分を占めている.

他のSpAやRA, 脊椎変形性関節症, Baastrup病で認めるが, MRIやPET/CTで高度に信号があるのはPMRに特異的といえるかもしれない.

2021年10月23日土曜日

成人Still病とIL-18

 成人Still病の診断はしばしば難しい. 特に悪性リンパ腫(とりわけ血管内リンパ腫やT cell系リンパ腫)との鑑別が難しいことがある.

成人Still病において, IL-18が異常に高値となる報告が多く, これがそれらとの鑑別につかえるのだろうか, 調べてみた.

・ちなみにIL-18はSRLで自費検査だが測定可能. 

 以前調べた時は結果出るまで3週間くらい待った...


AOSDとIL-18

IL-18: AOSDではIL-18が異常高値となる

・IL-18はMφより産生され, IL-12と同様にIFN-γ産生を誘導する


活動性のAOSD 16, RA 21, SS 21, SLE 20, 健常人21例においてIL-18を評価

(International Journal of Inflammation Volume 2012, Article ID 156890)


・AOSDでは数千と異常に上昇し, 活動性に相関する.


・他の自己免疫性疾患でも上昇するが, AOSDでは上昇が著しい.

・他の疾患ではRAでは高値となりやすい


AOSD, RA, SLE患者のIL-18

(Rheumatology 2011;50:776-780)

・同様にAOSDでは数千に上昇. 2桁のこともあるが, 病勢に影響されているか

・RAやSLEでも一部で1000を超えるが, 平均は300程度. 健常人は100台(<200程度)


AOSDとの鑑別で問題になりやすい, リンパ腫ではどうか?

DLBCL症例におけるIL-18

(FutureSci.OA(2019)5(9),FSO414)

・単位は同じpg/mLであるが, 測定方法により差はあるかもしれない.

 IL-18は2桁程度, 高くても200程度と上昇は目立たない.


CTCL患者(cutaneous T cell lymphoma)では,

(Br J Dermatol. 2001 Oct;145(4):674-6. doi: 10.1046/j.1365-2133.2001.04420.x.)

・IL-18値は721±490pg/mL, 範囲 316-1462

・健常人Controlでは173±79pg/mL, 範囲 87-271


ENKTL患者114例におけるIL-18
 (extranodal natural killer/T-cell lymphoma)

(Leuk Lymphoma. 2019 Feb;60(2):317-325)

・病期が進行しているほど高くなり, HLH合併例では特に高値となる

・HLH合併(-)では
高くても<500程度

・IL-18高値は予後不良因子になる


NK/T cell系のリンパ腫ではB cell系リンパ腫よりも高値となりがちであり,

これは腫瘍細胞自体がIL-18の産生に関連している.

(Leuk Lymphoma. 2019 Feb;60(2):317-325.)


NHL症例をIL-18値別に3群に分けて比較

(Acta Haematol 2000;104:220–222)

・G1は>2000pg/mL
, G2は1000-1999pg/mL
, G3は<1000pg/mL

・G1の予後は著しく悪い(3.5M), G2は10.5M


血球貪食症候群 HLHにおけるIL-18

・IL-18はHLHでも異常高値となる


真菌感染症(1), 細菌感染症(4), ウイルス感染症(8)
NHL(3), 転移性腫瘍(1), 原因不明(3)によるHLH患者のIL-18

(Blood. 2005;106:3483-3489)


HLH 9例のIL-18

(British Journal of Haematology, 1999, 106, 182±189)

・家族性が2例, EBVが5例, 不明が3例,
 Anaplastic large cell lymphomaが1例

・IM; 伝染性単核症


HLH, IM(Infectious mononucleosis), 健常人のIL-18

(Leuk Lymphoma. 2001 Jun;42(1-2):21-8. doi: 10.3109/10428190109097673.)


・HLHでもIL-18は数千と異常高値となる. 病勢にも比例する.

・AOSDの動態に類似している

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・AOSDではIL-18は活動期には>1000pg/mLの異常高値となる. 

・鑑別で問題となるリンパ腫ではそこまで上昇する例は少ない. NK/T cell系リンパ腫では上昇する可能性はあるが, それでも1000pg/mLを超えない.

・HLHではAOSD同様, >1000pg/mLの異常高値となる. HLHではその背景疾患や原因は問わない.

 リンパ腫でもHLHを合併すれば異常高値となる.


・これらから,

 HPHを合併してからIL-18を測定してもAOSDの鑑別には使えない

 診断に迷う, 不安な場合は, 初診時に評価しておくことで,

 もしその後, 増悪し, HLHを併発した際にその情報がKeyとなることはありえるかもしれない.

・重症化してから, 焦って評価しても, あまり有用な情報にはならないかも

 (結果でるまで時間かかるし)

2021年10月21日木曜日

どのような心不全患者にβ遮断薬が有用か?

 (Lancet 2021; 398: 1427–35)

心不全患者対象とし, β遮断薬 vs Placeboを比較した9 DB-RCTsの患者データを, AIを用いてNeural network-based variational auto endoderと階層的クラスタリングで解析, 分類し, β遮断薬による死亡リスク低下効果がどの群で認められるのかを評価.

・患者数は15659例, LVEF<50%を満たす.


 年齢中央値は65歳[56-72], LVEF 27%[21-33]

・同調律が12822例, Afが2837例


アウトカム


同調律群では, 全体的にβ遮断薬による死亡率改善効果がある

・全体ではOR 0.74[0.67-0.81]

・特に患者数が多いClusterがSR4, SR5, SR6. 


 SR5は若く, 虚血性心疾患が少ない群,


 SR6はLVEFが最も低く, 年間死亡リスクが高い群で,
 それら群でも予後改善効果が期待できる

・SR4はHRが低く, 症状も少ない患者群で, この群では有意差はない


Af患者群では, 死亡リスクを低下させる群は1つのみ.

・AF2は最も死亡率が低く, 最も若年で, MI既往が少ないく, BMIが高い

 
LVEFは他と同等に低い.
 

 このようなAf患者群ではβ遮断薬が有用かもしれない



2021年10月20日水曜日

生物学的製剤によるHBV再活性化リスク: RTXだけではなく, ABAにも要注意

 (Ann Rheum Dis 2021;80:1393–1399.)

2003-2019年に診療したRA患者で, HBVの評価が行われた1937例を評価.

・このうち489例がresolved hepatitis B(RHB; HBs-Ag陰性, HBc-Ab陽性)で, bDMARDが使用された.

・67828 pt-monthのフォローにおいて, 上記のうち27例(5.5%)でHBs-Agが陽性化(reverse seroconversion: RS)


 Incidence 0.04/100pt-Month

・このうち18例はRTX, 6例がABA, 2例がADA, 1例がETN

・免疫抑制療法開始〜RSまでは131[20-196]ヶ月

 
bDMARD開始〜RSまでは90[10-174]ヶ月

・10年間で2.4%, 16年間で11.3%でRSを生じる


HBs RSのリスク因子は,


・RTX, ABAの使用
 
RTX使用 RSのHR 87.8[11.5-669.7]

 ABA使用 HR 60.6[7.0-525.2]
・HBs抗体陰性 HR 5.2[2.2-12.0]
・HBs抗体価が低値

・複数のbDMARDを使用している患者もリスク因子となる(HR 4.57), ただし, 多変量解析では有意差なし


TNF-α阻害薬との比較.

・ABAとRTXはTNF-α阻害薬と比較して, 有意にHBVのRSリスクを増加させる

 TCZはTNF-α阻害薬と同等


使用bDMARDとHBs抗体価によるHBV RSのリスク分類

・ABAでもHBs抗体が低ければ, RTXと同等のHBV再活性化のリスクあると考えるべき.



GCA治療後のエコー所見の経過

GCA診断, 特に側頭動脈炎の診断において動脈エコーは有用であるが,

その治療経過でどのように変化するかはあまり分かっていない.

・動脈エコーのHaloが, GC開始後2-4wkで消失するとされるが,
そのまま残存する報告もある.

 表在の側頭動脈よりも, 腋窩動脈のHaloのほうが消失しやすいとの報告も

 残存しているからといって, 治療経過が不良という判断にはならない.

(Rheumatology 2021;60:2528–2536)

 といった記載もある.


動脈エコーにおけるHalo signの経過を評価したCohort;

USにより診断されたGCA症例49例を前向きにフォロー

(Ann Rheum Dis 2021;80:1475–1482.)

・患者はACR 1990, 修正ACR分類基準を満たしたGCA患者で,
 側頭動脈または腋窩動脈にエコーにてHaloが認められた患者群を対象.


 さらに過去15日以上の高用量GC治療(PSL≥30mg/dL)を受けていない患者

・治療開始後に側頭動脈(TA)と腋窩動脈(AX)のエコー所見を経時的にフォロー

 
Haloを認める区域と最大Haloの厚(内膜〜中膜の厚み)を記録


 エコーはwk 1, 3, 6, 12, 以降は3M毎にフォローされた.


・エコーは8箇所の区域で評価: 

 両側の総側頭動脈, 頭頂枝, 前頭枝, 腋窩動脈


 壁肥厚は長軸像で評価し, 最大部位を計測


母集団

・患者の多く(77%)がTAに所見があり, Clanial GCAが95.9%を占める


アウトカム: Haloを認める部位やHalo厚は治療開始後1wkで有意に減少.

しかしながら, 側頭動脈でのみ速やかに反応があり,
 

 腋窩動脈では有意差を認めるのは治療開始後6wkで, 最大のHalo厚の減少が認められる程度.



・TAにおけるHaloの部位や厚の変化はGCAの病勢と相関するが
 腋窩動脈所見は反映しにくい

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このCohortでは, TAのHaloは治療後早期に改善傾向を示し, 12ヶ月程度で横ばいとなる経過だが
腋窩A(AX)のHalo所見はなかなか改善しにくく, 病勢との相関性も低いとの結果.

TAに所見があるならばフォローするのもよいが, AXはあまり頻繁にフォローする必要性は低そうではある.

2021年10月18日月曜日

HFpEFに対するEmpagliflozin: EMPEROR-Preserved

EFが保たれた心不全であるHFpEF(LVEF>40%)の薬物治療については, 現在のところ予後を改善させるデータは得られていない.

そんな中, 予後を改善させる結果がSGLT-2iであるEmpagliflozin(ジャディアンス®)で得られた


(N Engl J Med 2021;385:1451-61.)

EMPEROR-Preserved: Empagliflozin(ジャディアンス®)

・NYHA II-IV, EF>40%を満たす心不全患者で, さらにNT-proBNP>300pg/mL, Af患者では>900pg/mLを満たす患者を対象としたDB-RCT.

・Empagliflozin 10mg/d vs Placebo群に割り付け, 
 心血管死亡, 心不全入院リスク等を比較した.


患者群データ: 

・年齢は7-80代が主.
 

・NYHA IIが8割, IIIが2割弱
 

・BMIは30弱と肥満患者が多い.

アウトカム


・HF入院+心血管死亡 複合アウトカムは有意に
Empagliflozinで低下.

・単独で見ると, HF入院リスクが有意に低下する

 心血管死亡リスクは有意差なし

・eGFRの低下速度も緩徐になる

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感想

・海外のSGLT-2iのStudyの母集団は肥満多すぎ

・アジア人, 日本人高齢者でのデータ欲しい

2021年10月12日火曜日

糖尿病性下肢骨髄炎の抗菌薬治療期間: 3wk vs 6wk

 (Clin Infect Dis. 2021 Oct 5;73(7):e1539-e1545. doi: 10.1093/cid/ciaa1758.)

糖尿病性下肢骨髄炎(DFO)の, ガイドラインで推奨された抗菌薬の投与期間は4-6wk


しかしながら, 現実では6wk以上使用していることも多い


糖尿病性下肢骨髄炎(DFO)で外科的デブリを行なう患者群を対象とし, 3wkの抗菌薬投与と6wkの投与群で治癒率を比較した非劣性RCT.

・DFOは臨床所見, 画像, 組織培養により判断

・患者は18歳以上のDM患者で, 下肢骨髄炎があり, 外科的に全ての壊死組織を除去した群を対象

・除外項目: インプラントによるDFO, 96h以内に効果的な抗菌薬を使用されている患者, 感染組織が全て切断で除去されている, 骨皮質を超えて, 骨が完全に破壊されている例, 21日以上の抗菌薬投与が必要な播種性の感染症の合併(IEや人工関節感染症など) 

・治療医は必要とされるデブリや画像検査,
 Neg-pressure vacuum治療や高圧酸素投与は施行可能

 部分的な壊死骨の切断も許可.

・部分的な切断の定義は意図的に緩くし,  一部の足指のDFOを切断しても,
 他の足指のDFOが残っている場合や, 部分的な踵骨の切除などが含まれる.


・治療成功は, 抗菌薬投与2ヶ月後の画像, 臨床所見における
感染の所見の消失で定義

・失敗は同じ部位での再発, 持続, 新規感染, 増悪, 二次切断で定義


母集団データとアウトカム


・起因菌はブ菌が約半数

・部分的な切除はおよそ1/3で施行されている

・高圧酸素両方は1割強


アウトカム

・CRは両者で7-8割達成. 有意差なし

・薬剤による副作用は有意差は認めず


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DM性の骨髄炎で, 壊死組織がしっかりとデブリができれば抗菌薬は3週間と6週間で治癒率が変わらないという結果.

双方とも2-3割で治療失敗があり, どれだけ長く投与しても治りにくいものは治りにくい, という感じか.




2021年10月10日日曜日

SLEにおける肺高血圧症合併リスクとリスク因子, Nomogram

 (Arthritis & Rheumatology Vol. 73, No. 10, October 2021, pp 1847–1855)

中国におけるProspective Cohort (CSTAR cohort)

・2003-2020年に診断されたSLE患者3624例のうち,


 フォロー中央期間 4.84[2.42-8.84]年で,


 肺高血圧(右心カテにて診断)を認めたの例が92例(2.54%)

・PH合併のリスク因子は
急性/亜急性皮膚ループス,  関節炎,
  PLT低下, 軽症ILD, 抗RNP抗体陽性


10年間のPH発症を予測するnomogram


・予測nomogramと実際の観察された肺高血圧症のリスク


発症リスクは, 

・発症リスク<1.70%を低リスク, 1.70-4.62%を中リスク. それ以上を高リスク群とし

・高リスク >4.62%となる群では, 
年1回のスクリーニングを推奨

感染を合併した壊死性膵炎のドレナージのタイミング

壊死性膵炎では, 膵壊死のみではドレナージの適応にはならない

・感染の合併がないならば症候性でもドレナージは行わない

・感染かどうかの判断には画像検査、FNAを使用する

・画像でガス所見があれば感染症


・Fine needle aspirationは感染の有無を評価するために行う.


・FNAで採取した検体は直接鏡検と培養に提出

・FNAは感染が疑われた場合に行うべき処置

(Curr Opin Crit Care 2014, 20:189 – 195)


ドレナージは感染性壊死組織がWalled-offとなる4wk以降に行うと合併症が少なくやりやすい.

・内科的治療で改善傾向があるならばそのまま押して,
Walled−offを待ってドレナージを考慮する方法もある.

・増悪傾向がある場合は待たないほうが無難.

(Pancreas. 2012 Nov;41(8):1176-94)


壊死性膵炎では上記のような対応となるが, 

ドレナージのタイミングとアウトカムへの影響を比較したRCTが発表されたので紹介


(N Engl J Med 2021;385:1372-81.)

POINTER: 早期ドレナージ群 vs 晩期群を比較したRCT.

・壊死性膵炎患者で, 膵周囲, 膵組織の感染が確認, または疑われた患者を対象.


・感染の定義は, 

 発症14日以内では, 穿刺吸引によるグラム染色 or 培養が陽性, 造影CTで膵臓, 膵周囲の壊死組織内にガスが認められること.
 

 14日以後ではICU患者では臓器不全が持続していること, 通常病棟では2項目の炎症指標(発熱≥38.5, CRP上昇, WBCの上昇)が3日連続して持続していることとした.

・急性膵炎発症から35日以上経過した症例や, 壊死性膵炎の既往がある患者は除外された.

上記患者群を,


早期ドレナージ群(感染が確認されて24h以内)
 

 vs 晩期群(Walled-off necrosisが形成された後に施行)

・WONはFluidの大部分, 全体に隔壁が形成された状態.

・双方で抗菌薬, 全身管理は継続する

・全身状態が増悪傾向にある患者では, 全体の隔壁形成を待たずに処置を行う.

・割り付け時点で隔壁形成が完成していた患者で, 晩期群に割り付けされた場合, 抗菌薬で治療を行い, 状態が増悪した場合や改善がない場合にドレナージを行った

・ドレナージは画像ガイド下, 内視鏡的ドレナージが1st line
72h以内に改善しない場合, 大径に置き換える.
ドレナージが臨床的に失敗した場合, 侵襲が少ない壊死組織除去術(Videoscopic-assited retroperitoneal debridement, endoscopic trasluminal necrosectomyなど)から行う.

母集団

アウトカム

・包括的な合併症Index
(重症度に重みづけしたスコア)
は, 両群で有意差なし

・死亡リスクや新規臓器障害も有意差なし

・外分泌機能, 内分泌機能も同等

・ドレナージ施行率や,
 壊死組織除去術施行率は有意に晩期群のほうが少ない.


・晩期群では4割処置なしで改善する

・
Interventionの数も有意に低下


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感染性の壊死性膵炎では, WONを待ってからドレナージを行うことで,

ドレナージ自体の必要性もおよそ4割低下し, 処置の必要性も減少する.

死亡リスクや膵機能予後は双方で有意差なし.