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2021年5月31日月曜日

アルコールによる骨髄障害

アルコール依存は, 汎血球減少や大球性貧血の原因となることは知られているが,

どのような骨髄像となるのか?


慢性アルコール依存で, 骨髄穿刺をおこなった患者118例の
骨髄所見を評価した報告.

(Acta Haematol 1995:94:74-77)

・骨髄穿刺の大半は治療反応性が不良の大球性貧血の精査として施行

・骨髄所見と頻度

所見

頻度

所見

頻度

形質細胞増加

94%

鉄貯蔵の増加

65%

左方移動を伴う赤芽球過形成

78%

泡沫状のMファージ

48%

赤芽球の鉄顆粒

73%

顆粒球系過形成

29%

巨核球数正常

71%

リンパ球増多

19%

赤血球のβグルクロニダーゼ陽性封入体

68%

形質細胞の鉄顆粒

18%

巨赤芽球

67%

環状鉄芽球

14%


診断がついていない, 末梢血の異常により骨髄検査を施行された144例を評価した報告.
(Alcohol Clin Exp Res. 2004 Apr;28(4):619-24.)
・この内57例で問題飲酒ありと判断(平均Et-OH ≥60g/日の摂取), 
 また, 14例ではDSM-IVのアルコール依存を満たした.

問題飲酒+群と(-)群の骨髄所見の頻度:
 

・前正赤芽球の空包変性 24% vs 2%
 
・環状赤芽球は4%で認められる.
 
・円状(not 楕円)の大型RBC, 口唇状RBC(41% vs 12%), Knizocyte(中心で区画がああるようなRBC, 33% vs 4%)が問題飲酒群で多いRBC形態異常
 
・巨核球辺縁の空包変性は20%で認められ, いずれも最近まで飲酒量が多かった患者群であった.


・アルコール摂取により赤芽球や骨髄球, 巨核球に空包変性が生じる報告もおおく, これら空包はアルコール摂取中止後3-7日程度で消失する報告がある(Semin Hematol. 1980 Apr;17(2):100-2.)

・鉄芽球も7-10日程度で消失する報告あり(Am J Med. 1971 Feb;50(2):218-32.)


アルコール依存で離脱プログラムを行う23例において, 
断酒前後の骨髄所見, さらにDisulfiram使用者と非使用者における骨髄所見の変化を評価.
(Blut. 1989 Sep;59(3):231-6.)
・断酒後 3-4wkで骨髄穿刺を施行した.

骨髄検査
・赤芽球はBaselineでは増加しており
断酒後は低下する
 
 Baselineでは42-136(平均86) : 100
 (正常値は18-33 : 100)
 
 断酒後はDisulfiram+ 40-81(平均61), 
 
 Disulfiram- 43-96(平均60)と低下

・鉄芽球も低下する.

 Baseline 16-136(平均75) : 100

 断酒後はそれぞれ46, 17

・環状鉄芽球
 
 Baselineでは57:100,
 
 断酒後はそれぞれ26:100, 1:100


・空包赤芽球は
 
 Baselineでは空包(-)が4.3%のみが,
 
 断酒後は空包の割合は著名に低下.
 
 特にDisulfiram-群では
空包赤芽球はほぼ消失する
 
 アルデヒドが関連?

・多核赤芽球
 
 Baselineでは56.5%で多核赤芽球を認めるが,
 
 断酒後は15.4%まで減少する.

・血小板産生
 
 Baselineでは巨核球数正常は13%のみ(0-3/100顆粒球)
  
  残りの半数が軽度上昇(4-6/100顆粒球)
  
  さらに半数は高度上昇(7~/100顆粒球)
 
 断酒後は正常化したのが
  
  Disulfiram+ 群で53.8%
  
  Disulfiram- 群では9/10が正常化.

・形質細胞の鉄沈着
 
 Baselineでは全患者で形質細胞に鉄沈着が認められる.
 
 断酒後は鉄沈着は減少する.
 
 特にDisulfiram-群ではその傾向が強い


アルコールによる骨髄障害の特徴のまとめ
 鉄芽球, 環状鉄芽球を伴う赤血球系の無効造血

 前赤芽球の空包変性

 多核の赤芽球

 巨核球の過形成と血小板産生の低下

 形質細胞の鉄沈着

 断酒後3-4wkで上記所見は改善. 
 また, Disulfiramがない方が改善が良好

2021年5月30日日曜日

COVID-19後の間質性肺疾患

 (Ann Am Thorac Soc Vol 18, No 5, pp 799–806, May 2021)

単一施設における前向きCohort.

Guy’s and St. Thomas NHS Foundation Trust (@ London)において, 2020年2月〜5月にCOVID-19と診断された患者を4週間後に電話にて症状の経過をチェック.
 (事故・救急での受診, 入院症例)

・症状が残存している患者を再評価し, 呼吸機能, 6MWT, 画像所見, MDTにてILDを評価.

 
ILDを合併した症例では, その後1-2wk単位で症状や6MWTや呼吸器機能検査の改善が得られない場合にステロイド治療を提案する

・症状が完全に消失している患者では, 12wk後に胸部XPをチェック.
 異常があればILDの精査を行う


アウトカム

・患者は1272例. 死亡例は245例(19.1%)
この内837例(88%)で4wk後の評価が可能であり, さらに325例が症状の改善が残存.


・77例でCTの異常所見, 身体機能の低下(6MWTや呼吸機能)があり, 
最終的に35例でpost-COVID-19 ILDを診断(4.2%)

・男性が7割と多く, 非喫煙者が65%.

画像所見で最も多いのは, 

・COP pattern
(両側性, 中〜下肺の胸膜下のGGO)


・また, 胸膜下, 気管支に沿った線状陰影


・牽引性気管支拡張を認める症例もあり(Fibrotic COP)


ステロイド治療を受けたのは30例

・開始量の平均は26.6mg, 最大0.5mg/kgであり,

 
3wk程度で減量する方法がとられることが多かった.


・30例全例で呼吸機能や症状の改善あり


Post-COVID-19 ILD患者における入院時のデータ

・O2治療は82.9%, 人工呼吸器は45.7%で使用.

・
ICU管理は54.5%


・ステロイド治療は17.1%

炎症マーカー

・ピークはCRP 23±16 mg/dLとCOVID-19としては高値


 その後クリニック受診時は0.6±0.98 mg/dL

・リンパ球は700±200/µl


2021年5月28日金曜日

血清MMP-3はRA診断にどの程度寄与するか?

 MMP-3(matrix metalloproteinase-3): 炎症性サイトカインの刺激を受けて, 関節滑膜細胞や軟骨細胞から産生される蛋白分解酵素.

 RAで上昇するが, 他にも脊椎関節炎, SSc, SLEなど色々な疾患で上昇する. 


99例の分類不能関節炎患者において, マーカーや抗体によるRA診断能を評価した報告

(Rheumatol Int (2013) 33:2309–2314)

・1年間のフォローにて最終的にRAと診断されたのは44例

・ACPA陽性の34例中, 33例がRA,

 ACPA陰性の65例中, RAは11例.

各マーカーのRA診断における感度/特異度

・上: 全患者, 下: ACPA陰性例における評価

・分類不能関節炎における, MMP-3のRA診断におけるLRは, 

 全体: LR(+)は2.16, LR(-) 0.71

 ACPA陰性例: LR(+) 3.4, LR(-) 0.45


RA患者と他のリウマチ性疾患患者におけるマーカーを比較

(J Rheumatol 2006;33:2390–7)

・RA患者は262例, 他の膠原病は116例. SLE, MCTD, SSc, pSS, DM/PM, 血管炎を含む


・MMP-3は感度69.5%, 特異度46.6%, LR(+) 1.3, LR(-) 0.65

・ROC曲線を見るとMMP-3はほぼ直線 = 診断への寄与は乏しい


基本的にMMP-3はRA診断に使用しない.


するならば診断後の病勢把握やフォローで使用. 

特にIL-6阻害を使用して, CRPがアテにならなくなった代わりのマーカーとして用いることが個人的には多いか.(でもあまり使っていない.)

2021年5月27日木曜日

人工関節感染症における抗菌薬投与期間の比較

 (N Engl J Med 2021;384:1991-2001)

DATIPO: 成人例の股関節または膝関節の人工関節感染症症例を対象とした, open-label, 非劣性RCT(フランス).

・人工関節感染症は, 

 臨床症状(疼痛, 発熱, 瘻孔, 創部からの浸出液, 発赤や腫脹)を認め, 

 微生物学的に感染が証明された症例(感染部位から同一菌が2回陽性, 皮膚常在菌の場合は3回)で定義.

・除外項目: スクリーニングから21日以上前より効果がある抗菌薬を使用, すでに外科的処置が施行されている患者, Mycobacterium, Actinomyces, Fungal pathogen, Brucellaによる感染症, 余命が2年未満

・上記を満たす患者群で, さらに適切に外科的治療が施行された群 (1-stage, 2-stage implant exchangeや, implant留置したままでのデブリ)において, 抗菌薬投与期間 6wk vs 12wk群に割り付け, 予後を比較.

・抗菌薬投与のDay 1は, 効果がある抗菌薬を開始した初日で定義

 Empirical治療も, 効果があればDay 1としてカウント


・アウトカムは2年以内の持続的な感染症

 持続的な感染: 感染の持続, または同一細菌(種類, 感受性が同一)による2年以内の再感染症で定義


参考: フランスのガイドラインより, 推奨抗菌薬と外科的処置の推奨



母集団

原因菌

アウトカム

・持続的な感染症(2年以内の同一細菌による感染)は
有意に12wk投与群で少ない結果

・サブ解析では, 特にデブリのみを行なった患者群では差が大きい


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2021年5月24日月曜日

(特に若年の)慢性腰痛の鑑別の一つ: Bertolotti症候群

Lumbosacral Transitional Vertebrae: 腰仙椎部移行椎 は
脊椎分節異常の1つ.

(Spinal Surgery 34(1)32‒38, 2020)

・L5横突起の肥大(19mm以上), 


 横突起と仙骨翼の完全な癒合, 


 偽関節形成などがある

・XP画像の感度は7-8割で, 20-30度のタウン撮影が推奨される.


・LSTVの保有率は腰背部痛や下肢痛で
画像検査をした群では10.6%


 中国健常人ボランティア5860例では15.8%

・LSTV自体は平均12.3%, 4.0-35.9%と認める頻度は高いが,


 その大半がIA型(片側の横突起肥厚)とII型である


OA cohortの4636例の評価では, LSTVは841例(18.1%)

(Radiology 2012; 265:497–503)

・Type I, IIがLSTVの其々40%以上を占め, 
IIIやIVは其々11.5%, 5.25%程度


LSTVでは, 偽関節部の炎症や滑膜肥厚によるインピンジメントが生じ, 腰背部, 臀部痛, 神経根症状(L5)を呈することがある(Bertolotti症候群)

(Spinal Surgery 34(1)32‒38 2020)(Int J Spine Surg. 2015 Jul 29;9:42.)

・L5横突起から仙骨翼前面にかけて腸腰靭帯が付着

 L5横突起, 
仙骨翼, L5/S1椎間板, L5椎体, 
腸腰靭帯で囲まれた空間を
Lumbosacral tunnelと呼び,
同部位でL5神経根の圧迫を生じる


・頭側より横突起(1)

 背後より仙骨翼(2)


 腹側より椎体の骨棘(3)

 さらに内部で
背側から上関節突起(4)と腸腰靭帯(5),


 外側から横突起と仙骨翼関節部の骨棘(6)


・若年の慢性腰痛の鑑別として重要.


 腰痛を主訴として病院を受診する患者の4.6-35.6%がBertolotti症候群.


 バラ付きはあるが, 頻度は高い

・LSTVの所見があること自体は腰痛の強いリスク因子とはならないという報告も多い.


 ただし, LSTVの所見がある腰痛患者では, 所見を認めない群よりもより重度の腰痛となるとする報告もある.


OA cohortの4636例におけるLSTVのタイプと疼痛への関連

(Radiology 2012; 265:497–503)


・Type II, IVが腰背部痛, 殿部痛に関連する.


 偽関節の炎症の関連があるか?


腰背部痛にて腰仙椎のXPを評価された500例の解析.

(Tzu Chi Medical Journal 2019; 31(2): 90–95)

・平均年齢は39±16歳.

・このうち, LSTVは26.8%(134例)で認められた.

 Type IA (7.6%), Type IB (6.0%)


 Type IIA (1.8%), Type IIB (2.0%)


 Type IIIA (1.6%), Type IIIB (3.8%)

 
Type IV (0.8%)


・LSTV(-)と比較して, LSTV(+)の腰痛患者ではVASが高い


Bertolotti症候群の診断

(Int J Spine Surg. 2015 Jul 29;9:42.)

・LSTV所見自体は腰痛のリスクに確実になるわけではなく,

 
LSTV所見の頻度も高いことから,
 

 診断は所見以外に矛盾しない経過と他疾患の除外が重要.

・偽関節部へのブロックによる反応評価も重要である.


Bertolotti症候群の治療

(Spinal Surgery 34(1)32‒38 2020)

・対症療法(NSAIDや神経性疼痛への対応)が無効ならば,

 腰殿部痛が主な場合, 偽関節に対してブロックや高周波熱凝固療法, パルス高周波法を考慮

・神経根症状を呈する場合もブロックやパルス高周波法が選択肢となる

・難治性症例では手術による横突起切除も報告されている.


2021年5月22日土曜日

シェーグレン症候群による腎障害. 特にRTAについて

 pSSの5%で腎障害を生じる.

・pSSに伴う腎病変の頻度は4-7%程度とされるが, 
中国人のCohortでは34%, インドでは50%と人種差や診断基準による差がある

・腎病変に関連する因子として, ANA, 抗SS-B抗体陽性, RFが関連.

 高IgGはdRTAへの関連があり,


 低C3, クリオグロブリン血症は糸球体腎炎への関連がある


腎尿細管へのリンパ球浸潤や免疫複合体の沈着により,
 尿細管間質性腎炎(TIN)を認める頻度が高い.

・他に低K血症を伴うRTA(遠位, I型)やFanconi症候群, 腎性尿崩症がある.

・これら腎障害はSicca症状に先行して生じることもあるし,
 徐々に進行し顕在化する場合もある

・糸球体病変の頻度は上記に比べると低く, 免疫複合体沈着が機序となる

・pSSによる腎障害への治療は定まったものはなく,
 電解質異常を伴うTINでは免疫抑制が効果的である可能性が示唆される


 また, 腎病理に応じて免疫抑制を考慮することもある

(Rheumatol Ther (2021) 8:63–80)


pSSで腎病変を認めた35例の解析では, 
 (Rheumatology International (2018) 38:2251–2262)

・顕性dRTAは25例,
 潜在性dRTAが4例


 腎結石は5例
, 低K性四肢麻痺が22例


このうち腎生検を行なった17例の病理では
・TINが9例, 糸球体変化が6例で認められた

pSSにおける腎症のスクリーニング
・pSS患者では, 腎障害の徴候に注意する(浮腫やネフローゼ, 腎炎に関連する症状, 骨痛, 筋力低下, 多尿, 多飲)
・尿検査ではpH, 蛋白, 尿糖, 血尿に注目し, 異常があれば尿中電解質の評価も検討
・血液検査では一般検査に加えてリンやHCO3の評価も行う
・Nephrocalcinosisや尿路閉塞, 腎結石の評価にエコーを行う
・糸球体腎炎が疑われた場合は, クリオグロブリン, 免疫グロブリン, M蛋白, 補体の評価を推奨
・腎機能低下や重度の電解質異常がある場合は腎臓内科へのコンサルトを行う
(Rheumatol Ther (2021) 8:63–80)


pSSに伴う腎病変のスペクトラム

尿細管障害(主にRTA)
・遠位RTA, Fanconi症候群, Bartter症候群, Gitelman症候群, 腎性尿崩症
・低Kの頻度が高く, 腎障害を合併したpSSの30-47%で認められる.

 通常無症候だが, 四肢麻痺や呼吸筋麻痺を認める例も報告あり
・dRTAの頻度は報告によりばらつきが多く, 5-70%.

 pSSで低K血症を認める患者で腎生検を行うと, 
ほぼ全例でTINが認められる報告がある

pSSで認めるRTAは遠位尿細管性RTA(1型RTA)であり,
 遠位尿細管で十分なH+イオンを分泌できない状態
・完全なdRTAでは, AG正常代謝性アシドーシスとなり, 尿pH>5.5
, 低K血症を伴う.
・不完全型のdRTAではアシドーシスは認められないが,
 酸の負荷を行なっても尿の酸性化が生じない反応(塩化アンモニウム負荷)や,
 ラシックスを使用しても尿の酸性化が認めないことで判断する
(一般的な診療では行われない)
・pSSによるdRTAの機序は未だ不明ではあるが,
 H-ATPase pumpが消失しており, Carbonic anhydrase IIに対する抗体が認められる報告がある

・稀(~3%)だが, 近位尿細管が障害されることがあり,

 その場合Fanconi症候群(近位尿細管性アシドーシス)を生じる
・近位尿細管は糸球体で濾過された物質の再吸収を行うメインな部位であるため, 同部位の障害でFanconi症候群となる
・電解質のみならず, Glucoseやアミノ酸, 尿素, リンなどの再吸収が障害
・Fanconi症候群では, 尿中リンの上昇, 尿糖, アミノ酸尿を伴うAG正常代謝性アシドーシスを生じる. 血中リン濃度は低下する.

・他に稀であるが, GitelmanやBartter症候群も合併することがある

・これらの病態は其々サイアザイドやループ利尿薬の慢性使用に類似する

 双方ともpSSへの合併は症例報告レベルの頻度.
・Gitelman症候群はSalt-wasting tubulopathyで, アルカローシス, 低K血症, 低Mg血症, 高Ca尿症を認め, 二次性の高アルドステロン症を認める

 遠位尿細管のThiazide-like sodium-chloride cotransporter(NCCT)に対する自己抗体の関連が示唆されている.
・Bartter症候群はヘンレの上行脚におけるNa-Cl再吸収の低下が関連.

 アルカローシス, 低K血症, 二次性高アルドステロン症を認める

 低Mg血症の頻度は低く, さらに尿中Ca排泄は正常〜亢進する

南インドにおいて, 腎臓内科をRTAを疑う症状で受診した患者群を前向きに評価.
(Am J Nephrol 2014;40:123–130)
・RTAを疑う症状: 上下肢の近位筋筋力低下, 多尿, 腎結石, 骨変形, 成長障害
・この期間にRTAと診断された症例が149例, うちpSSが52例(34.8%)
・症状と検査

・RTA+pSS患者における血液電解質, 尿電解質


集合管の障害: 腎性尿崩症
・ADHへの反応が低下することにより, 尿の濃縮障害を認める.
・イタリアのコホートでは, pSSの1/4で濃縮障害を認め,
 中国のコホートでは38%で認められた. 腎性尿崩症は3例のみ.

腎結石, 尿路結石
・pSSの14-25%で尿路結石を合併する.
・dRTAによる尿中Caの上昇と尿中Citrateの低下が関連している.

 アシドーシスの状況下では骨からのCalcium phosphateの放出が増加し,
 尿pHの上昇により尿中への析出がしやすくなる.
 さらにCitrateの低下でより析出が増加する.
・高Ca尿症は24h尿中Ca >300mg(男性), >250mg(女性)

 低Citrate尿症は24h尿中Citrate <350mg
・RTAにより骨軟化症を合併する例もある.
・pSSにおける腎疝痛や, 急性腎障害を見た時は, 腎後性の評価は重要

補足: Ca nepholithiasisの
原因となる病態  (J Nephrol (2016) 29:715–734)

補足: Expert opinionが主であるが, (イタリアの尿路結石におけるConsensus)
(J Nephrol (2016) 29:715–734)

・繰り返すCa結石では不完全型dRTAの評価は推奨される.
・評価には塩化アンモニウム負荷
による尿pHの変化を用いる
・国内では
塩化アンモニウム補正液
5mEq/L, 20mLがあり.

 1Aあたり100mEq, 5.35g含有.
 体重50kgあたり1A使用くらい
(希釈して使用)


尿細管間質性腎炎(TIN)
・pSSで最も多い腎病変が慢性/急性のTINであり,
 pSSで腎生検を行なったうちの75%が病理でTINを認める.
・尿細管にはCD4+ Tリンパ球の浸潤を主に認め,
 唾液腺の病理に類似している.
 
CD8+ Tリンパ球や形質細胞浸潤も認められる

 10%でB細胞が主となる.
 肉芽腫を認める場合はSarcoidosisを示唆する所見として捉えるべき
・TINの臨床症状や経過は様々であり,
 尿細管障害やAKI, 慢性経過の腎障害など様々である
・Sicca症候群を生じる前にTINが認められている報告もあり, 
低K血症やTINではpSSも考慮すべき鑑別疾患となる

糸球体障害
・pSSでは糸球体の障害はTINに比べると少ないが, 
AKIやRPGN, CKD, ネフローゼ症候群などは起こり得る
・腎炎は糸球体内皮の障害で生じるため, 血尿や蛋白尿(通常<3g/d)を伴うAKIや乏尿, 高血圧が生じる.

 一方でネフローゼ症候群では, Podocyteや糸球体基底膜の障害で生じる
・pSSの糸球体障害で最も報告が多いのがMPGN. 
 他にはMCD, IgA腎症, FSGS, MGN, Fibrillary GN, 血管炎などもあり.
 
pSSにおけるMPGNは免疫複合体の沈着やクリオグロブリンの関連が示唆されている.
・ANCA関連血管炎の合併も6-7%であり.

pSSにおいて腎生検を考慮すべきタイミング
・腎排泄機能が保たれており, 低K血症などの尿細管異常があるpSS患者では, 腎病理はTINと推定され, 通常腎生検は不要.
・腎生検はAKI and/or 尿の異常がある場合に考慮する

pSSによる腎症の治療
・pSSにおける腎症の治療は定まっておらず, 病態に応じて様々である.
・CKDは心血管疾患のリスクであり, 
BP管理, 蛋白尿を最小限で維持すること, 他のCVリスク因子への介入が重要となる.

dRTAへの対応
・dRTAでは主にアシドーシスと低K血症への補正が中心となる
 
BicarbonateやKの補充を考慮.

繰り返す尿路結石(Ca系)への対応
・一般的に繰り返す尿路結石の場合は, 水分摂取量を増やし,
 尿量を2-2.5L/dを目標とする.
 
砂糖が少ない飲み物を用いた方が良い.

 砂糖を加えていないオレンジジュースは, Ca腎症の予防効果があるかもしれない.
・CaOx, リン酸Caによる結石で,
  
(1)尿中Citrateが低い,
  (2)完全/不完全dRTA, 慢性下痢による結石, 薬剤や食事による尿中Citrateの低下, 
 (3)骨軟化症/骨粗鬆症がある場合は, 
 クエン酸Kの投与を考慮する.
ただし, クエン酸Naは尿中Ca排泄を促進するため, 避けた方が良い.
 国内で処方できるのはウラリット-U®だが, クエン酸K, クエン酸Naが含まれてしまう. サプリメントではクエン酸Kのみのものがある.
・サイアザイドも尿中Caが高値のCaOx, リン酸Ca結石で, 食事や飲水により予防困難な場合は良い適応かもしれない.

TINの治療
・pSS-TINでどの患者群にステロイドが有効かどうかは不明確
・PSL 40mg[30-60] ±免疫抑制薬の使用により, 60%が20%以上の腎機能改善が得られた報告もあるが, 他の報告では25%でしか効果が認められないとする結果もあり.

 免疫抑制役はカルシニューリン系やMMFが選択されることが多い
・RTXも試されている

糸球体障害の治療
・ACEiやARBによる蛋白尿への対応と, 
他の糸球体腎炎と同様に免疫抑制療法が行われることが多い

2021年5月20日木曜日

SLEの "診断予測" スコア: SLE Risk Probability Index

 (Ann Rheum Dis 2021;80:758–766. doi:10.1136/annrheumdis-2020-219069)

Heraklion, Attikon Univ. Hosp.において

2005-2019年に診療したSLE患者とSLEが鑑別となるリウマチ性患者より, 

それぞれ401例ずつランダムに抽出し, Machine learningを使用して SLEを示唆する情報を抽出.

・すでに分類基準で使用されている項目以外に
使用されていない項目も合わせて評価した.

・SLE 512例, Control群143例でValidationを施行

SLE診断に関連する情報

Immunologic disorder: 抗DNA抗体, 抗Sm抗体, 抗リン脂質抗体のいずれか一つ以上が陽性

所見の組み合わせによるSLEの可能性


・どのタイプでも良好

 早期SLEは発症24M以内で定義

 Lupus nephritisは病理にて診断

 Neuropsychiatric lupusはMDAにて判断され, 
 Italian Study Group attribution modelで確認

単純化したスコアリング: SLERPI
Cutoff >7ptで,
 感度 94.2%, 特異度 94.4%

-----------------------------
・他の膠原病と比較した時のSLEらしさを評価する項目の評価であり,
 これらデータからは自己免疫性疾患+血球障害, 蛋白尿, 頬部紅斑がSLEに特異性が高い印象
・ANA陰性例では, 滑膜炎, 白斑, 皮膚ループス, 補体低下に注目する点も勉強になる

2021年5月17日月曜日

DIHSの重症度評価と治療方針

 DIHS: Drug Induced Hypersensitivity Syndromeについては以下も参照

DIHS(Drug-induced Hypersensitivity Syndrome), DRESS(Drug Reaction with Eosinophilia and Systemic Symptoms)


治療は基本的には対症療法、また、ステロイド投与が試されるが, 
どのような症例でどの程度使用するかは定まっていない.
症例も少ないため, RCTを組むのも難しいと予測される.

国内より, DIHSの重症度を評価する指標を作成し, 重症度別の予後, 推奨する治療方針を提言した報告:

(J Am Acad Dermatol 2019;80:670-8.)
(Allergology International 68 (2019) 301-308; 2019年のDIHSのUpDateレビュー)

国内のDIHS 55例を後ろ向きに解析
・平均年齢は54.5±20.0歳,

 原因薬剤開始〜発症まで44.0±6.9日.

 発症〜薬剤中止まで6.8±1.4日
・これら患者において, 重症度スコアを評価し,
 
 予後への関連と, CMV再活性化リスクへの関連を評価.

 (スコア自体は今までの報告例, 論文報告データを解析し作成.)
・スコアは発症早期(0-3日)と晩期(2-4wk)で2回以上評価
・全患者でCMV-IgGは陽性であり,
 
 再活性化の定義はCMV-C10/11 antigenemia ≥20/好中球106で定義

重症度スコア:
・年齢, アロプリノールによるものかどうか, ステロイドパルスの有無, 皮疹, 発熱期間, 食欲低下, 腎障害, 肝障害, CRPで評価される.
・1点以上が中等症, 4点以上が重症.

55例中, 経過中にCMV再活性化を生じた例が11例

・早期スコア, 晩期スコアともにCMV+例の方が高い
・陽性までの期間は初診から27.2日
(範囲16-45日)
・陽性例の予後も悪い.

重症度とCMV再活性化の頻度.

・中等症では1/23, 重症では10/27
でCMV再活性化あり
・重症例では, 5例でCMVによる臓器障害あり(消化管出血や腎障害, 心筋炎, 敗血症)

重症度と治療方針の案
DIHSの治療: 重症度におうじてステロイド投与/量を考慮する
・軽症では対症療法のみ, 
・中等症ではPSL 0.5-0.75mg程度

・重症例では0.75-1.0mg/kgを目処にステロイド投与を考慮.
・治療反応不良例ではCMVの評価を行い, 再活性化があればCMVの治療を考慮する

2021年5月14日金曜日

巨細胞性動脈炎と腕神経叢の障害

 巨細胞性動脈炎(GCA)は頭痛や顎跛行, 黒内障, 頸部痛, 四肢末梢の虚血・間欠跛行, 不明熱などとして認められることが多い.

(Rheumatology 2018;57:ii32-ii42)


このGCAにおいて, かなり稀ではあるが, C5-6領域の腕神経叢の障害が出現する例がある.

GCAと腕神経叢の障害を呈した症例のLiterature reviewより,

(J Rheumatol 2002;29:2653–7) 



・このLiterature reviewからは11例の報告であるが,  フランスからの論文(La revue de médecine interne 26 (2005) 578–582)からは24例が報告されている.
・多くの症例はC5-6領域の障害であり, 一部でC7も含む.
・症状は支配領域の感覚障害, 腱反射の消失, 肩〜上腕にかけての筋力低下, 麻痺症状が主.

80例のGCAの解析では, 3例で腕神経叢の障害あり.
 
・支配部位の運動, 感覚障害を呈する
・3例中1例のみ, MRIで腕神経叢の
T2高信号が認められた.
(J Neurol (2007) 254:751–755)


GCAによりC5-6の障害が報告される理由として, それよりも上位頸髄では症状がわかりにくい点と,
 血流の分水嶺がC5-6レベルとなる可能性があるためと説明される.
(Joint Bone Spine 2002 ; 69 : 316-8)
参考: 頸髄の血管支配
 椎骨動脈(5)と上行頸動脈(6), 深部頸動脈(7)から頸髄は栄養されるが,
 これらの分水嶺がC5-6付近にある.
 GCAにより大動脈弓から分岐する血管の血流が低下することで, 虚血が生じやすい可能性がある.