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2021年4月8日木曜日

自己免疫疾患におけるCMV再活性化のリスク

CMVは一般人口の60-90%に感染しており通常20歳台までに感染することが多い.

初感染後は潜在化し, 通常そのまま経過するが免疫不全がある患者では再活性化し, 問題となる.

・特にHIV患者と臓器移植, 骨髄幹細胞移植後の患者ではリスクが高い.

・臓器移植後の患者では~80%CMV infectionが認められるため移植後はルーチンにCMVの検査, フォローを行いCMV infectionの時点で治療を行う(preemptive therapy)が推奨されている.

・自己免疫疾患患者, 免疫抑制療法を行っている患者群での再活性化リスクや治療については未だ一定した見解がない状況.


ちなみに用語の定義として, ここでは以下の様に扱う.

・CMV infectionは体内にCMVがいる状態 = PCR陽性, アンチゲネミア陽性.

・CMV diseaseCMVによる臓器障害が出現している状態で定義される.(腸炎, 骨髄障害, 肺炎が多い)

(J Clin Rheumatol. 2020 Jun;26(4):157-159.)


自己免疫疾患におけるCMV再活性化のリスクをいろいろ調べてみた


以下CMV-antigenemia(CMV-Ag)で評価した報告

国内の主要大学病院におけるSurvey. (Rheumatology 2008;47:1373–1378)

・リウマチ膠原病疾患で入院となった患者群において, CMV感染症を評価した患者を解析.

・7377例のうち, 151例でCMV感染症と診断.

 このうち149例がアンチゲネミア陽性で診断

  さらにこのうち2例がGI感染症, 2例が肺炎が証明

 アンチゲネミア陰性の2例は腸管組織より証明

CMV感染診断時の症状は

 34例が無症候 = CMV infection

 92例が発熱 16例が呼吸器症状 15例がGI症状 視力障害が1

(CMV infection + diseaseが混在. 正確な頻度不明)

背景疾患はSLE50%, DM10%, MPA8.8%と多い.

CMV感染症の診断がされた1年以内の治療内容

・150例でPSLを使用: PSL 60mg(5-100)

・81例でmPSLパルス療法を施行(500mg or 1000mg)

・48例でIVCYC, 16例でOral-CYC

・36例でCYC以外の免疫抑制療法を施行

・最大量の治療~CMV infectionまでは36[10-152]

CMV-Agの比較

・症候性患者群では10.1[0-2998]/105PMNs

 無症候性では4.0[1.3-1144.4]/105PMNsと有意に症候性で高い

・他の感染症合併例を除外しても9.1[0-1582.6] vs 4.0[1.3-221.7]と有意に高い.


入院となったリウマチ膠原病疾患患者443例を後ろ向きに解析(Advances in Rheumatology (2019) 59:18)

・CMV antigenemia(CMV-Ag)を評価したのが70.

 このうち, 24(34.3%)CMV-Agが陽性であった.

全体でみると4.97%[3.1-7.4]

・24例の疾患は, SLE13, RA 2, MPA 2, GPA 2

 , SSc, Overlap syn, 抗セントロメア抗体Syn, BD, 皮膚Lupus1

CMV-Ag陽性例の解析:

・入院理由は疾患活動性+感染が50%, 

 感染のみが36.5%, 疾患活動性のみが13.6%

治療内容: 入院中のMax PSL dose 87.7±52.5mg/d

 1mg/kg/dを超える量は86.4%で投与

 mPSLパルスは50%

 免疫抑制療法が50%で使用

CMV臓器障害は肺が45.5%, 血球減少が40.9%, GI 27.3% (ほぼCMV diseaseと言える?)

死亡例と生存例の比較

・有意差はないが, Ly数とPSL投与量は死亡リスク因子となる可能性.


単一施設の後向き解析自己免疫性疾患患者でCMV-Ag陽性となった43例をReview (Int J Rheum Dis. 2020;23:1534–1540.)

・背景疾患はPM/DM25.6%, AAV23.3%, RA14.0%, SLE7.0%


自己免疫性疾患患者で, CMV-Ag陽性の148例をReview (Mod Rheumatol (2013) 23:345–350)

・このうちCMV治療が行われなかった患者群でCMV-Agがフォローされた106例を解析.

・CMV-Ag増加を, >10/105PMNsの上昇と定義しCMV-Agの増加とCMV disease発症の関連を評価した.

フォローにおいてCMV-Agが増加したのは35.

・CMV diseaseを発症したのはそのうち5例でありCMV-Agが上昇しなかった71例からは発症例は無し. (CMV infection 106例中, CMV diseaseとなったのは5例.)

CMV-Ag上昇に関連する因子

・リンパ球減少, SLE, PM/DMは有意なリスク因子となる

CYC pulseではリスク上昇は認めない.


以下DNAで評価した報告

自己免疫疾患でCMV-DNAを評価し, 陽性であった73例において, 死亡リスク因子を評価(韓国, 単一施設).

・陽性例の背景疾患は38.4%SLE, 24.6%RA, 16.4%が血管炎, 12.3%が炎症性筋炎

 BD, AOSD4.1%ずつ

CMVによる臓器障害:(CMV infectionとdiseaseが混在)

 死亡例(26)73.1%が症候性, 26.9%が無症候性

 生存例(47)44.8%が症候性, 55.3%が無症候性

・特にCMV肺炎は有意な死亡リスク因子となる

・またCMV-DNA量は有意な死亡リスク因子となる死亡例では95500 vs 6700 copies/mL

他の感染症の合併は強い死亡リスク因子


リウマチ性疾患で入院となった患者群で明らかなフォーカスがない発熱, 抗菌薬に反応しない肺炎, 咳嗽, 血球減少(特にLy, PLT)を認める患者でCMV-DNAを含めた評価を行う施設においてCMV-DNA陽性となった62例を解析.(Int J Rheum Dis. 2019 Apr;22(4):583-591.)

背景はSLE, SS, 血管炎, PM/DMが主

CMV-DNAemia88.7%(55)で認められ49例は抗ウイルス治療が施行.

・CMV肺炎は14. 全例で治療を施行

 それ以外の症例は, 他に明らかな臓器障害は認められず.

 大半が発熱を契機に検査されている.

・DNAemia55例のうち, 42例がそのままPSLを継続 

 10例でmPSLパルスを施行. 3例はPSLを減量

5wk後のCMV-DNA検査において, DNAの消失は予後良好因子.

・DNAemiaが持続している症例では100%が死亡.

mPSLパルスは5wk後のDNAemia改善については影響しないものの, DNAemia陰性化までの期間は伸びる

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自己免疫性疾患におけるCMV再活性化の報告では, 

主にSLE, AAV, DM/PM患者 ± RAで報告頻度が高い.

SLE患者では, EBVやCMVに対する特異的T細胞反応が健常人と比較して有意に低下しているとの報告があり(J Immunol Res. 2019 Feb 17;2019:4236503.), SLE患者ではCMVの再活性が生じやすい可能性がある.


SLE患者におけるCMV diseaseリスクを評価したSystematic reviewより, (Advances in Rheumatology (2019) 59:12

・CMV diseaseのリスク因子をまとめる

リスク因子

詳細

リンパ球減少

CMV肺炎患者の比較では, 600[100-400]/µL vs 1200[100-5700]と有意に低い. CD4+ T cell <390/µLは感度77.5%, 特異度 87.5%*.
一方で, CMV diseaseにおいて有意差なしとする報告もあり

CMV viral loads

Viral loadが多いほど, 発症リスクとなり得る.
>1.75x104 copies/mLは感度85.9%, 特異度98.6%でCMV disease(肺炎)を示唆*

PSL

PSL使用量はCMV diseaseのリスク(32[4-100]mg/d vs 20[1-50]), (25.9±17.1mg/d vs 9.0±4.1)
また, 最近3ヶ月の総投与量もリスク(2.8[0.1-9.0]g vs 1.8[0.1-4.6])

免疫抑制療法

1ヶ月以内のAZA使用,
CsAやMMFの使用がリスクとなり得る

SLEの病型

SLEの罹患期間が長い(8[0.03-360]ヶ月 vs 3[0.25-156])



AAVにおけるCMV再活性化の報告

AAV患者における日和見感染症を国内の健康保険データベースを用いて評価
(Int J Rheum Dis. 2019 Nov;22(11):1978-1984.)
・AAVが診断され, 緩解導入療法が行われた患者でさらに日和見感染症で入院となった症例を抽出
2299例を抽出(MPA 44.1%, GPA 10.2%, EGPA 16.7%). 
 このうち日和見感染症は460(20%)で認めた.
最も多いものはCMV感染症で122(6.5%)
 CMVCMV disease, CMV infectionかは不明

AAVにおける日和見感染症のリスク因子
・高齢者, ステロイド投与量, パルス療法はリスク因子

岡山大学において, 2006-2016年にAAVの寛解導入療法を行われた患者群を後ろ向きにフォローし3ヶ月以内のCMV infectionのリスクを評価した(PLoS ONE 14(7): e0218705.(2019))
・この施設では, GC+CYC(CYCLOPS protocol)で寛解導入を行い
 2週間に1回のCMV antigenemiaを評価.
 >0, <5/50000 WBCsでは1週間毎フォローし,
 ≥5/50000 WBCsで治療を開始.
患者はMPA 57.7%, GPA 19.8%, EGPA 10.8%, MPO-ANCA陽性が81.1%
 mPSLパルスは35(31.5%), CYC使用は79例で行われた
・111例中, 13(11.7%)CMV antigenemiaが陽性(CMV infection)

CMV antigenemia陽性のリスク因子
・GPA, 重症例のAAVはリスク因子となる(より積極的な免疫抑制を行うから?)

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大雑把にまとめると,

リスク: 
・SLE, AAV, DM/PMではCMV再活性化リスクが高い.
・寛解導入療法後や免疫抑制療法の強度を高めた後, ~3ヶ月程度の期間.
・リンパ球減少がある患者

評価するタイミングとしては:
・発熱や症状, 臓器障害がある場合にCMV-antigenemiaやDNAが評価されるパターンや, 
・寛解導入療法後にルーチンで評価する施設など様々である.

CMV活動生はAntigenemiaやDNA量に比例し, フォローにて増加してくる場合はCMV-infectionから, CMV-diseaseへの移行や死亡リスク因子となり得る
・他のリスク因子としては、リンパ球減少があるかもしれない.
より致命的な臓器障害は肺炎

>> これより考えると,
・SLEやAAV, DM/PMで免疫抑制療法が強い場合は注意が必要: CYCやMMF, mPSLパルスなど. 
・ルーチンか, 有症状時チェックかはさらに患者毎で検討すべし.

治療は
・CMV-antigenemiaやDNA陽性の場合, 治療するかも要検討.
 予後の悪い肺炎の可能性がある場合は必ずカバーはした方が良い
・フォローでAntigenemiaやDNA量が増加傾向も注意. カバーが無難かもしれない
 初期評価時に高値ならばそれも考慮すべき.

・治療後, DNA量が低下するのは予後良好因子.