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2020年8月6日木曜日

イソジンうがいの効果は?

これは2018年、レジデントノートで書いたものの一部です.
OTC薬剤による中毒症、という題名で、イソジンうがいを慢性的に行うことでヨード過剰摂取となり, 甲状腺機能低下症を呈した症例でした.
ご参考まで.

今回のコロナについては比較対象されておりませんので, 効果は不明としか言えません.
せめてもう一群を, 「うがいをしない」ではなくて「水、ぬるま湯でうがい」というようにしたらよかったのに、、、と思いますが, なぜそうなってしまったのでしょうか?


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症例3: 70歳台女性倦怠感食欲低下体重減少

 2ヶ月前より倦怠感食欲低下を自覚体重も2ヶ月間で5kg減少し外来を受診した精査にてTSH 83µg/mL(正常値0.38-4.30), FT3 2.1pg/mL(2.4-4.0), FT4 0.4ng/dL(0.94-1.60)と甲状腺機能低下症が認められた甲状腺に対する自己抗体は陰性であった.

 生活習慣を聴取すると, 10年以上イソジンうがい薬を使用していることが判明しヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症を疑ったうがいを水で行うように指導しチラーヂン®も開始し経過をフォローしたところ, 10ヶ月後には投薬なしで甲状腺機能は正常化を認めた.

 

イソジンうがいで甲状腺機能低下症

 

イソジンうがいの効果とは?

 イソジンうがい薬にはポビドンヨードが含まれ口腔内の細菌ウイルスを減少させることが可能です. 7%イソジンを30倍希釈したもの(0.23%, 製品の推奨使用方法)の抗菌作用を評価した報告では, 15-30秒間の暴露で有意に肺炎球菌肺炎桿菌黄色ブドウ球菌(MRSA, MSSA), 緑膿菌, SARSウイルス, MERSウイルスインフルエンザウイルスロタウイルスを減少させることが可能でした(8)(9). しかしながらうがい後30分後には細菌は再度増殖し元の量に戻ってしまいます.

 イソジンうがいによる上気道炎の予防効果を評価したランダム化比較試験があります(10). 18-65歳の健常人ボランティア387例を対象とし水によるうがい群とイソジンによるうがい群何もしないコントロール群に割付け, 60日間継続しましたうがいは13, 1回のうがいは15秒間行うように指導しました毎日鼻症状咽頭症状気道症状全身症状を評価し, 60日以内の上気道炎(インフルエンザ様症状を除く)のリスクを比較したところ最もリスクが低かったのは水によるうがい群でした(vsコントロール HR 0.60[0.38-0.93]). イソジンによるうがい群とコントロール群は有意差を認めず(HR 0.88[0.58-1.34]), 最も上気道炎を予防するのに有効なのは水によるうがいという結論でしたちなみにインフルエンザ症状を認めたのは水うがい群で9.8%, イソジンうがい群で8.3%, コントロール群で10.6%とほぼ同等でした

 イソジンうがいは細菌やウイルス量を減らすのには有効ですが粘膜障害のリスクもあり上気道炎を予防する意義は乏しいと考えられます慢性呼吸器疾患があり細菌気道感染症を繰り返す患者ではイソジンうがいによる気道感染症リスク軽減効果が見込める報告(11)もありますがランダム化比較試験は未だありません(個人的には口腔ケアの方が重要と考えます).

 

イソジンうがいによるヨード過剰摂取

 

 健常人を対象としイソジンうがいと尿中ヨード排泄量の関係を評価した報告(12)ではうがい開始後有意に排泄量は増加しましたうがいとはいえヨードは体内に取り込まれヨード過剰となるリスクは大いにあります

 ヨード過剰摂取では甲状腺機能低下症となりますこれは背景に甲状腺疾患がある患者ではさらにリスクが高くなります

 昆布やわかめのりなどにもヨードは含まれており甲状腺機能低下症や潜在性甲状腺機能低下症の患者では食生活やイソジンうがい習慣の問診を行いましょう.


(8) Eggers M, et al: In Vitro Bactericidal and Virucidal Efficacy of Povidone-Iodine Gargle/Mouthwash Against Respiratory and Oral Tract Pathogens. Infect Dis Ther 7(2):249-259, 2018.

(9) Shiraish T, et al: Evaluation of the bactericidal activity of povidone-iodine and commercially available gargle preparations. Dermatology 204: 37-41, 2002.

(10) Satomura K, et al: Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med 29(4):302-307, 2005.

(11) Nagatake T, et al: Prevention of respiratory infections by povidone-iodine gargle. Dermatology 204:32-6, 2002.

(12) Sato K, et al: Povidone iodine-induced overt hypothyroidism in a patient with prolonged habitual gargling: urinary excretion of iodine after gargling in normal subjects. Intern Med 46(7):391-395, 2007.