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2020年2月27日木曜日

LADAと2型糖尿病の微小血管アウトカムの差

LADA: latent autoimmune diabetes.
2型糖尿病として発症するが, 糖尿病関連自己抗体*が陽性であり, 進行性のβ細胞機能低下を認める病態.

*Glutamic acid decarboxylase(GAD)抗体, Islet-cell(ICA)抗体, Tyrosine phosphatase-like protein IA-2(IA-2A)抗体

LADAは全DM2-12%を占める.
・典型的なLADA患者はAge>35yrで非肥満体形
初期のDMは食事療法でコントロールできている.
発症後数か月~数年と短期間で増悪し, 内服, インスリン治療が必要となる
 体重減少, ケトン陽性, C-peptideの低下を認めやすい.


臨床特徴
Labの特徴
年齢>30歳で発症
肥満はあるが, Type 2 DM程の肥満ではない
軽度〜中等度のインスリン抵抗性がある
様々な人種で認められる
インスリン依存性までの期間は,
type 1程短期間ではなく, type 2ほど長くもない
β細胞刺激作用のある薬剤は避ける(SU剤等)
経口血糖降下薬から開始してもよいが,
コントロール不良ならば早期にインスリンを導入
GAD, ICA抗体は陽性
インスリン抗体も陽性が多い
成人発症Type 1 DMと抗体は似ている.

このLADAと2型DM患者の微小血管アウトカムを比較した報告
(Lancet Diabetes Endocrinol 2020; 8: 206–15)

UKPDS 8630年間フォローアップデータを解析
・2DM5028例のうち, 自己抗体陽性であった564例をLADAと定義し陰性例4464例とMicrovascular outcomeを比較.

アウトカム: 平均17.3年間[12.6-20.7]フォロー
Microvascular outcome初期9年間は2DM群の方が高いが晩期になるとLADA群で上昇.

他のパラメータ
LADA2DM群と比較してBMIは小さく, sBPも低いがHbA1cは高く, 血糖コントロールが難しい.
・その差は晩期ほど大きくなりそれがMicrovascular outcomeへの関連が考えられる.

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LADAは晩期になると血糖コントロールがしにくくなり, その影響もありMicrovascular outcomeも増加する可能性が高い.
そのような患者ではしっかりと血糖コントロールに注意しつつフォローすることが重要

2020年2月25日火曜日

制酸剤と多剤耐性菌コロナイゼーションのリスク

(JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2020.0009)
Case control study, Cohort, Cross sectional study 26 studiesMeta-analysis
PPIや制酸剤使用と腸内の多剤耐性菌常在リスクを評価.
・多剤耐性菌はESBL産生腸内細菌, Carbapenemase産生腸内細菌, Plasmid-mediated AmpC β-lactamase産生腸内細菌, VRE, MRSA, VRSA, 多剤耐性緑膿菌/アシネトバクター.

アウトカム
多剤耐性菌リスクは制酸剤投与群で有意に上昇: OR 1.74[1.40-2.16]

菌別の解析
菌種OR
MDR-E1.60[1.33-1.92]
VRE1.97[1.49-2.60]
CPE2.04[1.34-3.10]
ESBL-E1.43[1.20-1.70]

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制酸剤の投与は腸内の多剤耐性菌常在リスクを上昇させる可能性がある.
主にはCase-controlからの報告ではあるが, 漫然な長期投与はやはり避けたいところ.

2020年2月19日水曜日

痛風発作に対するコルヒチンはNSAIDと同等だが下痢が多い

(Ann Rheum Dis 2020;79:276–284.)

CONTACT: 成人の急性痛風発作患者を対象とし, ナプロキセン vs コルヒチンを比較したopen-label RCT
・英国の100箇所のgeneral practiceにおけるStudy.
除外項目: 不安定な状態(虚血性心疾患, 肝障害), Stage 4/5CKD, 最近の外科手術, 上部消化管出血, 胃潰瘍既往, 抗凝固薬使用, アスピリン/NSAIDアレルギー, 評価薬剤で不具合が生じたことがある患者群

ナプロキセンは750mgを投与した後, 250mg q8h7日間
コルヒチンは0.5mg13, 4日間投与する.


アウトカム: pain scoreの変化

・疼痛スコアの変化は両者で有意差なし

二次アウトカムも特に有意差のある項目はない

自覚した副作用

・1週間以内の下痢や頭痛は有意にColchicine群で多い.

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痛風発作急性期のコルヒチン0.5mg x3回/dはNSAIDと同等だが
副作用としては下痢が多い
便秘の人にはよいかもしれない.

大体 結晶誘発性関節炎の急性期でNSAID使いにくいなぁと思うのはCKDの患者.
この場合コルヒチンも使いにくい.
で、結局少量コルヒチンと少量短期NSAIDをやんわり混ぜてやることが個人的に多いので、0.5mg x3というのはしないのですが, 参考にします 

免疫チェックポイント阻害薬による関節炎の長期フォロー

(Ann Rheum Dis 2020;79:332–338. )

Johns Hopkins Arthritis Centerに免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)による炎症性関節炎(IA)で紹介となった患者を前向きにフォローした報告.
・患者はICI使用歴があり, それによる炎症性関節炎を専門医により診断されている群を対象.
・ICI投与前からリウマチ性疾患がある患者他のStudyに組み込まれ, まだ結果が発表されていない症例は除外.
・ICI投与終了後 24ヶ月間フォローした

母集団データ, 臨床データ
 


アウトカム

・3ヶ月の時点で70.6%が活動性の関節炎(+)
・6ヶ月の時点では48.8%(20)
 このうち14例はフォロー期間中活動性関節炎が持続
ICI投与期間が長い例や
・複数のICIを使用している例では炎症性関節炎の持続リスク高い

治療薬の選択とIA持続には関連性は見出せず

2020年2月12日水曜日

SLEと慢性じんま疹

症例: 若年女性. 慢性のじんま疹.

 4-5ヶ月前よりじんま疹が出現. 抗アレルギー薬を使用されているが改善なかなかコントロールがつかない. 他に粘膜症状や関節症状など無い.

 じんま疹は入浴後や布団に入って温まると, 全身にピリピリした感覚が生じ, その後発赤と掻痒感が出現する. 持続期間は数時間で改善する.
 → コリン性じんま疹

 近位での血液検査では炎症反応の増加はない. 血球減少もなし. 腎障害もなし. 尿検査も問題なし.
 抗核抗体 160倍, Homogeneous.
 特異抗体は抗DNA抗体のみ陽性.
 補体も低下(C3, C4双方とも)

という経過で, SLE(Lupus-like syndrome)に伴う慢性じんま疹と捉えるか,
または実はじんま疹性血管炎か, という症例.

症状は軽微でそこまで困っていないため, すぐに治療は不要であるが, いくつか疑問に浮かぶ事があったので調べてみる.

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疑問その1: SLEで慢性じんま疹の頻度は?

>>SLEと慢性じんま疹を評価したMetaでは,
・SLE患者において, 慢性じんま疹を認めるのは0-21.9%
 じんま疹様皮疹を認めるのは0.4-27.5%
 じんま疹性血管炎は0-20%
小児例では, 慢性じんま疹は0-1.2%
 じんま疹様皮疹を認めるのは4.5-12%
 じんま疹性血管炎は0-2.2%
慢性じんま疹症例のうち, SLEの頻度についてはデータが少なく不明
(Clinical & Experimental Allergy, 2015;46:275–287 )

報告により頻度は様々ではあるが, SLE患者において慢性じんま疹を伴うのは稀ではなさそう.

疑問その2: 慢性じんま疹におけるSLEのリスクは?

>>台湾におけるCohort: 2003-2013年に慢性じんま疹を診断された患者で, 2003年以前にはじんま疹がなく, じんま疹診断以前にSLEを診断されていない患者を抽出.
・上記を満たす13845例と年齢・性別を合わせたControl群において, 後のSLE発症リスクを評価

SLE発症リスク
・慢性じんま疹ではSLEリスクは2倍となる
・じんま疹発症後4年後から発症は徐々に増加する経過となる
(J Dermatol. 2019 Jan;46(1):26-32.)

この症例でも徐々にSLEが完成してくる経過になるのだろう.
そのうち治療が必要となる可能性も高そうだ.


疑問その3: HCQって慢性じんま疹にも効くのだろうか?

>>慢性じんま疹に対するHydroxychloroquineを評価したRCT
・高用量H1阻害薬でも反応不十分な慢性じんま疹症例 60例をHydroxychloroquine 400mg/d vs Placeboに割り付け, 12wk継続じんま疹をフォロー(Single blind).
・上記にて寛解達成していない患者群をさらにOpen-labelPlacebo群ではHCQを開始, HCQ群ではLTRAを開始し, 比較
LTRAはモンテルカスト10mg/d

母集団データ

アウトカム
HCQは有意にじんま疹症状を改善し得る.
 Placeboよりも有意に改善させるがLTRAとの比較ではUSSのみ有意差を認める
(Eur Ann Allergy Clin Immunol. 2017 Sep;49(5):220-224.)

また, N=18のさらに小規模なRCTでも, HCQの併用は他の薬剤の減量効果, 症状の改善効果が期待できる報告がある.(Internal Medicine Journal 2004; 34: 182–186)

じんま疹性血管炎でもHCQは治療として用いられる様子.
(参考: じんま疹性血管炎 の治療の部分)


RCTは非常に少ないものの, 慢性じんま疹自体へもHCQは効果が期待できそうではある.

2020年2月4日火曜日

Occultな上部消化管出血をきたす病態. GAVE.

数年来の鉄欠乏性貧血でフォローされていた患者.
鉄を補充すると改善するが, 中止ですぐに増悪. 輸血も複数回している.

これまで複数回 上下部内視鏡を施行, また小腸内視鏡も施行ずみだが, 明らかな出血性病変は認められず.
ただし便潜血は陽性. 黒色便や血便, 吐血エピソードは無し


内視鏡検査結果を取り寄せ確認すると以下のような所見
幽門前庭部のみに認めており, 他の粘膜所見は異常無し.
(https://www.mediastorehouse.com/science-photo-library/gastric-antral-vascular-ectasia-9221447.html)


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GAVE: gastric antra vascular ectasia. 
胃前庭部毛細血管拡張症
(Ann Transl Med. 2019 Feb;7(3):46.)(Endoscopy. 2004 Jan;36(1):68-72.)
・胃の前庭部に生じる毛細血管拡張で赤い筋状の病変を生じ, スイカの皮様と称されることもある(Watermelon Stomach)
・慢性経過の上部消化管出血の原因になる
・非食道静脈瘤性の出血のうち4%程度
・原因不明の慢性の鉄欠乏性貧血でGAVEからのオカルト出血であった報告多い
・急性の重度の消化管出血となることもある.

Watermelon Stomach患者における臨床症状
・最も多いのは鉄欠乏性貧血
・黒色便は15%, 便潜血陽性は42%のみ.
(Am J Gastroenterol. 1998 Jun;93(6):890-5.)

GAVEの病因は未だ不明瞭であるが報告からは慢性肝疾患, 慢性腎疾患, 自己免疫性疾患, 結合織疾患との関連が示唆されている.
・GAVEに合併する疾患/病態
 SScや無胃酸症, PBC, 甲状腺機能低下症, 自己免疫性肝疾患, 肝硬変, 門脈圧亢進, 慢性腎疾患, 心疾患
(Am J Gastroenterol. 1998 Jun;93(6):890-5.)

考えられるGAVEの機序
・ホルモンの影響, 血管新生, 機械刺激により生じる.
背景疾患は肝臓・腎臓・代謝性・CTDTKI使用など様々
(Current Gastroenterology Reports (2018) 20:36 )

GAVEの治療
(GE Port J Gastroenterol 2017;24:176–182)
・内視鏡治療が用いられることが多い.

Argon Plasma Coagulation: 治療後早期の成績は良好であるが長期的には35-78.9%で再出血する報告がある

Endoscopic Band Ligation(EBL): 吐血や下血, 黒色便を認めるGAVE, APCで難治性の症例などで考慮する

Radiofrequency Ablation: APC治療を受けたことがある患者においてRFA67-86%の治療成功率が報告されている

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明らかな潰瘍や食道静脈瘤がなくても, 毛細血管拡張のみで慢性の繰り返す消化管出血の原因となる.
難治性の出血源不明の鉄欠乏性貧血では考慮しておきたい.