https://www.yomiuri.co.jp/national/20191221-OYT1T50110/?fbclid=IwAR2td9Vx8dBSzOn9wNZF7F3mIWTc48tu7U3EU7KPWNqn6f8APBbEagz2GGs
4年前に獲って冷凍保存していたヒグマ肉から旋毛虫感染をきたしたニュース.
寄生虫はおおよそ2日間程度冷凍すれば大丈夫! と大した根拠もなく思っていた猟師 兼 医者としてはまあまあなショックだったので, これは調べてみないと, ということで医学的にやってみる(医学ブログなので)
旋毛虫症
旋毛虫症はTrichinella spp.により生じる感染症
・Trichinella app.には9種類あるが, 日本国内にはTrichinella T9とTrichinella nativaの2種類がいる. (Trichinella T9は主に日本, T. nativaは世界の寒冷地域)
・感染獣肉の摂取により感染し, 発熱, 皮疹, 筋肉痛, 眼瞼浮腫, 好酸球増多を呈する. 好酸球性髄膜炎の原因にもなる
・国内では, クマ, アライグマ, タヌキ, キツネから検出されており, シカや猪からは検出されていないが, 世界的にはイノシシが主な感染源であり, 注意が必要
・北海道の2000-2006年の調査では, キツネ(44/319, 13.8%), アライグマ(6/77, 7.8%), ヒグマ(4/126, 3.2%)で繊毛虫の感染が認められた(Jpn. J. Vet. Res. 54(4):175‐182, 2007)
日本国内から, 2016年のTrichinella T9のアウトブレイクの報告
(Emerg Infect Dis. 2018 Aug;24(8):1532-1535.)
・水戸のレストランでクマ肉料理を摂取した32名で発熱や皮疹, 筋肉痛などを認め, 旋毛虫抗体が陽性. クマ肉よりTrichinella T9が検出.
・クマ肉は北海道で捕れたヒグマ. 加熱が不十分であった
症状や検査所見:
・摂取〜発症までは19日(6-34), おおよそ1週間〜1ヶ月程度
・症状は発熱, 皮疹, 筋肉痛, 顔面や末梢の浮腫
・皮疹:
この時のクマ肉は, 2016年11月に北海道で捕られ冷蔵保存
2016年11月下旬に調理された
・店では冷蔵保存され, 2日間提供後は冷凍保存.
・保存時の温度は不明.
旋毛虫は筋肉内でCollagen capsuleに覆われており, 比較的低温に強い
(Veterinary Parasitology 194 (2013) 175–178 )
・長期間感染しているほど, 被膜も厚くなり, 低温にも強くなる
・ヨーロッパで多いT. spiralis, T. britoviは, 冷凍後半日~数日は感染性を持つ
・症例報告では, 12ヶ月感染していたT. spiralisは4週間生き残る報告や, 20週感染していたものが8週間生き残るなどある.
ではこの4年間の冷凍後の感染は一体?
>> おそらくはT. nativaの可能性
T. nativaは特に低温に強く, 冷凍でも数年感染性を保つ報告がある
キツネにT. nativaを20週感染させ, 筋肉内の感染部を冷凍保存し,
-5度で7週間保存したものと, その間21度で7回解凍を繰り返したものの2通りで保存し, 週1回感染性を評価した
(Parasitol Res (2008) 103:1005–1010)
・感染性の評価はマウスに摂取させ, 4wk後の感染の有無, 虫体量で評価
・上記のあとさらに23週間-18度で冷凍保存し, 感染性をフォロー
7週間の感染性の評価
・7週間の冷凍保存もほぼ感染性は保たれている
保存方法による感染性
・持続的な冷凍保存では長期間感染性は維持される
間欠的に解凍すると感染性は弱くなるが, それでも長期間保つ
------------------------------
ということで, 旋毛虫は冷凍や冷蔵に強い寄生虫.
冷凍保存しても物によっては数ヶ月〜数年感染性をもつため, 要注意.
長く感染している虫体ほど強くなるため, 熊など寿命が長い動物では特に注意が必要と考えられる.
いまのところ日本国内ではイノシシや鹿には少ない〜いないらしいけども, 今後注意.
特に専門は絞っていない内科医のブログ *医学情報のブログです. 個別の相談には応じられません. 現在コメントの返事がうまくかけませんのでコメントを閉じています. コメントがあればFBページでお願いします
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2019年12月20日金曜日
コルヒチンとヒドロキシクロロキンによる自己貪食空胞性ミオパチー
自己貪食空胞性ミオパチー:
Autophagic Vacuolar Myopathy(AVM): 骨格筋の筋線維内に自己貪食空胞が出現する筋症
・進行する筋症で予後不良.
先天性疾患としてDanon病, 過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー(XMEA)が知られている. 他にも原因遺伝子が不明な病態もあり.
・先天性疾患では, 緩徐進行性の四肢筋力低下, 筋萎縮, 筋痛l, 心筋症, 不整脈, 精神発達遅滞が認められる
(Semin Pediatr Neurol 13:90-95, 2006)
Danon病の病理
薬剤もAutophagic Vacuolar Myopathyの原因となる
・薬剤性の筋障害でVacuolar myopathyとなることがある.
報告されている薬剤はコルヒチン, クロロキン, ヒドロキシクロロキン
また, 薬剤ではないが糖原病II型(酸マルターゼ欠損)でも同様の筋症を生じる.
コルヒチンによるAVMの報告: 86歳男性が痛風に対してコルヒチンが開始され2wk後から進行性の脱力を自覚.
(Neurology® 2019;93:e2306-e2307.)
・近位筋の筋力低下とCPK 3172U/mLの上昇, 筋電図検査にて筋症様所見が得られ, 筋生検を行なった.
・筋生検では空胞を伴う壊死性筋症の所見.
・コルヒチン中止後徐々に改善を認めた
・機序はコルヒチン → 細胞微小管の崩壊 → リソソームの働きを障害 → 自己貪食性空胞の形成 と考えられている
HCQによるAVM 4例の報告
(Neuropathology. 2018 Dec;38(6):646-652.)
・背景疾患にPMがあり, 当初PM増悪として免疫抑制の強化やIVIGを施行されるも改善乏しく, 組織よりAVMであった症例や, SLE治療中に筋症が出現した症例といったパターンがある.
・HCQ開始~数年で発症している
・HCQは半減期 20-60日と長く, あらゆる組織・臓器に蓄積する
リソソーム内に蓄積することでリソソーム内pHを上昇させ, Cathepsin B, Mucopolysaccharidases, Acid maltase, Acid phosphodiesterase, 他大半のAcidic lysosomal hydrolaseの活性を低下させる機序などが推測されている
・薬剤中止により改善が見込める
----------------------------–
比較的身近で使用する可能性が高い薬剤 コルヒチンやHCQで自己貪食空胞性筋症を生じ得るという症例報告.
特にSLEの治療中の難治性の筋症ではHCQの可能性を考慮することは重要だと感じました.
Autophagic Vacuolar Myopathy(AVM): 骨格筋の筋線維内に自己貪食空胞が出現する筋症
・進行する筋症で予後不良.
先天性疾患としてDanon病, 過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー(XMEA)が知られている. 他にも原因遺伝子が不明な病態もあり.
・先天性疾患では, 緩徐進行性の四肢筋力低下, 筋萎縮, 筋痛l, 心筋症, 不整脈, 精神発達遅滞が認められる
(Semin Pediatr Neurol 13:90-95, 2006)
Danon病の病理
薬剤もAutophagic Vacuolar Myopathyの原因となる
・薬剤性の筋障害でVacuolar myopathyとなることがある.
報告されている薬剤はコルヒチン, クロロキン, ヒドロキシクロロキン
また, 薬剤ではないが糖原病II型(酸マルターゼ欠損)でも同様の筋症を生じる.
コルヒチンによるAVMの報告: 86歳男性が痛風に対してコルヒチンが開始され2wk後から進行性の脱力を自覚.
(Neurology® 2019;93:e2306-e2307.)
・近位筋の筋力低下とCPK 3172U/mLの上昇, 筋電図検査にて筋症様所見が得られ, 筋生検を行なった.
・筋生検では空胞を伴う壊死性筋症の所見.
・コルヒチン中止後徐々に改善を認めた
・機序はコルヒチン → 細胞微小管の崩壊 → リソソームの働きを障害 → 自己貪食性空胞の形成 と考えられている
HCQによるAVM 4例の報告
(Neuropathology. 2018 Dec;38(6):646-652.)
・背景疾患にPMがあり, 当初PM増悪として免疫抑制の強化やIVIGを施行されるも改善乏しく, 組織よりAVMであった症例や, SLE治療中に筋症が出現した症例といったパターンがある.
・HCQ開始~数年で発症している
・HCQは半減期 20-60日と長く, あらゆる組織・臓器に蓄積する
リソソーム内に蓄積することでリソソーム内pHを上昇させ, Cathepsin B, Mucopolysaccharidases, Acid maltase, Acid phosphodiesterase, 他大半のAcidic lysosomal hydrolaseの活性を低下させる機序などが推測されている
・薬剤中止により改善が見込める
----------------------------–
比較的身近で使用する可能性が高い薬剤 コルヒチンやHCQで自己貪食空胞性筋症を生じ得るという症例報告.
特にSLEの治療中の難治性の筋症ではHCQの可能性を考慮することは重要だと感じました.
2019年12月18日水曜日
JAMA Rational Clinical Examination: 股関節OAを示唆する所見は?
JAMA Rational Clincial Examinationより
(JAMA. 2019;322(23):2323-2333. doi:10.1001/jama.2019.19413)
変形性股関節症(OA)
症候性のOAは60歳以上の高齢者の6.2%で認められ女性は男性よりも2倍多い
股関節OAで最も多い症状は疼痛
疼痛の部位
股関節OAの画像所見
股関節OAの鑑別疾患としては
・大転子疼痛症候群(greater trochanteric pain syndrome)
梨状筋症候群
ストレス骨折
炎症性関節炎(関節リウマチなど)
腰椎神経根症状
骨盤骨腫瘍
骨壊死
骨盤脆弱性骨折
Meralgia parasthetica(知覚異常性大腿痛)
非筋骨格系疼痛: 鼠径ヘルニア, 骨盤内疾患, AAA切迫破裂など
鼠径部痛患者における, 膝関節OAの可能性を上げる/下げる病歴や所見を評価したMeta
病歴より, 評価に有用な情報: LR ≤0.5, ≥2.0となるもの
・他部位のOAや朝のこわばり(<60分)
大腿中央部でもっとひどい疼痛を認める
昇る際の疼痛はOAを考慮する
股関節OAの評価に有用な身体所見
・外転筋力の低下,
鼠径靭帯, 大腿筋膜張筋の圧痛
スクワットによる後部の疼痛
外転, 内転時の鼠径部痛は股関節OAを強く示唆
・運動テストでは,
3方向への運動制限
股関節内転の低下, 股関節内旋の低下は膝関節OAを強く示唆する
参考:
正常の関節可動域
(JAMA. 2019;322(23):2323-2333. doi:10.1001/jama.2019.19413)
変形性股関節症(OA)
症候性のOAは60歳以上の高齢者の6.2%で認められ女性は男性よりも2倍多い
股関節OAで最も多い症状は疼痛
疼痛の部位
股関節OAの画像所見
股関節OAの鑑別疾患としては
・大転子疼痛症候群(greater trochanteric pain syndrome)
梨状筋症候群
ストレス骨折
炎症性関節炎(関節リウマチなど)
腰椎神経根症状
骨盤骨腫瘍
骨壊死
骨盤脆弱性骨折
Meralgia parasthetica(知覚異常性大腿痛)
非筋骨格系疼痛: 鼠径ヘルニア, 骨盤内疾患, AAA切迫破裂など
鼠径部痛患者における, 膝関節OAの可能性を上げる/下げる病歴や所見を評価したMeta
病歴より, 評価に有用な情報: LR ≤0.5, ≥2.0となるもの
・他部位のOAや朝のこわばり(<60分)
大腿中央部でもっとひどい疼痛を認める
昇る際の疼痛はOAを考慮する
股関節OAの評価に有用な身体所見
・外転筋力の低下,
鼠径靭帯, 大腿筋膜張筋の圧痛
スクワットによる後部の疼痛
外転, 内転時の鼠径部痛は股関節OAを強く示唆
・運動テストでは,
3方向への運動制限
股関節内転の低下, 股関節内旋の低下は膝関節OAを強く示唆する
参考:
正常の関節可動域
組み合わせでの評価
この結果から, 鼠径部痛患者におけるOA診断アルゴリズム
2019年12月15日日曜日
本の感想: 身体所見のメカニズム
献本御礼
https://www.amazon.co.jp/身体所見のメカニズム-Zハンドブック-原書2版-―電子書籍-日本語・英語版/dp/4621304143/ref=sr_1_4?qid=1576414454&refinements=p_27%3AMark+Dennis&s=books&sr=1-4&text=Mark+Dennis
700頁以上のボリュームで, 数えるのを諦めるくらい膨大な身体所見を解説している本です.
1つの所見に対して1-3頁程度で身体所見の概要, 機序, 病態, 有用性がまとめられているため,
「あれ? この所見ってどういう意味だっけ?」とド忘れしたとき,
オーベンに所見の意味を聞かれた時, すぐにチェックできます.
特に神経所見ですぐ機序, 局在を忘れてしまう自分にとっては, よいカンペを手に入れました.
身体所見は各臓器別に, 所見名でAからZの順で並んでいます. その点が通読には向かないと思いました.
できれば疾患や病態毎でまとめて欲しかったなぁ、、、、と思っていたところ, 実は索引の後半部分に病態毎で身体所見がまとまっていました.
じゃあもう小言はないっす
https://www.amazon.co.jp/身体所見のメカニズム-Zハンドブック-原書2版-―電子書籍-日本語・英語版/dp/4621304143/ref=sr_1_4?qid=1576414454&refinements=p_27%3AMark+Dennis&s=books&sr=1-4&text=Mark+Dennis
700頁以上のボリュームで, 数えるのを諦めるくらい膨大な身体所見を解説している本です.
1つの所見に対して1-3頁程度で身体所見の概要, 機序, 病態, 有用性がまとめられているため,
「あれ? この所見ってどういう意味だっけ?」とド忘れしたとき,
オーベンに所見の意味を聞かれた時, すぐにチェックできます.
特に神経所見ですぐ機序, 局在を忘れてしまう自分にとっては, よいカンペを手に入れました.
身体所見は各臓器別に, 所見名でAからZの順で並んでいます. その点が通読には向かないと思いました.
できれば疾患や病態毎でまとめて欲しかったなぁ、、、、と思っていたところ, 実は索引の後半部分に病態毎で身体所見がまとまっていました.
じゃあもう小言はないっす
2019年12月12日木曜日
肺胞蛋白症
肺胞蛋白症 Pulmonary alveolar proteinosis(PAP)
Mφの異常によりSurfactantが肺胞内に貯留する病態
・頻度は0.37/100 000と稀.
・平均診断年齢は39歳.
・初発症状は呼吸苦, 倦怠感だが, 30%が無症候.
・Surfactantを吸収するMφの機能異常, Surfactantの産生の産生増加が原因となる.
原発性PAPと二次性PAPがあり,
・原発性: GM-CSFの機能異常. 抗GM-CSF抗体よる自己免疫性や先天性(CSF2RA, CSF2RB)が含まれる.
・二次性: その他. 薬剤や抗原暴露, 感染症, 全身疾患など. Surfactant産生が増加する先天性も含まれる.
(Nat Rev Dis Primers. 2019 Mar 7;5(1):16.)
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65 )
・原発性のほとんどが抗GM-CSF抗体による自己免疫性
・二次性で頻度が高いものは血液疾患であるMDSと感染症である結核(BMC Pulmonary Medicine (2018) 18:15 ) ただしこれは地域性もある
発症年齢はPAPの原因予測に有用な情報となる
・成人発症例では自己免疫性が多い.
・高齢者では抗原暴露や免疫不全, 血液疾患に伴うもの
感染症や薬剤は全年齢で考慮
日本国内における1999-2016年の登録症例の解析では
・PAPは952例.
このうち877(92%)が原発性PAP, 71(7.5%)が二次性
分類不能が4例のみ.
・原発性PAPのうち872例が自己免疫性で, 5例が先天性
(Nat Rev Dis Primers. 2019 Mar 7;5(1):16.)
・診断年齢は40-50歳台で, 発症年齢はそれよりも10歳ほど低い.
・症状は無症候性が3割強程度
症状としては呼吸苦, 咳嗽が多く, バチ指は2-3割程度で認められる.
・KL-6は非常に高値となり, 数千〜万に上昇することが多い. 重症度に相関する
(Am J Respir Crit Care Med Vol 177. pp 752–762, 2008)
PAPの画像所見
PAPではGGO + 小葉間隔壁・小葉内隔壁肥厚を伴う, 通称 ”crazy-paving“ patternとなる所見が有名
・25例におけるCT所見
・分布はびまん性が多く, 胸膜直下や肺底部はスペアされることも(2-3割)
(J Thorac Dis 2018;10(10):5774-5783 )
他の肺胞内が物質で満たされる病態
・これらの疾患は同様の症状や画像所見となり得る
(Pediatrics. 2017;140(2):e20170610 )
BALの所見
PAPを疑った際にまず行うのは気管支鏡検査.
・BALにおいて特徴的な混濁した洗浄液を認める
・鏡検でMay-Giemsa染色で好塩基性に染まる卵円状の構造物を認める
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65 )
PAP疑い症例の診療
・臨床的にPAPが疑わしければまず気管支鏡を行い, BAL所見を評価する
(個人的な経験からは, 肺画像が派手の割には低酸素が軽度, そしてKL-6が異常高値となるような印象がある)
>> 典型的でなければ組織検査を検討する
・PAPと判断されれば抗GM-CSF抗体を評価し, 原発性PAPを判断
陰性ならば二次性の検討を行う.
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65)
PAPの重症度と相関する因子
・LDHや抗GM-CSF抗体価, KL-6, SP-A,B,Dなどは重症度との相関性がある.(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65)
・また, 画像所見(CT)において, 左右肺を上、中、下の6領域にわけ, それぞれで軽度GGO(1pt), GGO(2pt), Consolidation(3pt)で評価した画像スコアも同様に重症度との相関性が証明されている(Ann Am Thorac Soc Vol 14, No 9, pp 1403–1411, Sep 2017 )
PAPの治療
・無症候性, 肺機能が保たれている症例ではリスク因子を排除し, 経過をフォローする.
・それ以外の症例では, 感染症や肺線維症を除外. 慎重に経過観察しつつ, 全肺洗浄や抗GM-CSF抗体陽性例ではGM-CSFの皮下注や吸入療法も試される.
・難治性の場合は肺移植やRTXを検討
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65)
GM-CSF療法の反応率
・皮下注射では半数程度
吸入ではさらに高頻度で反応が期待できる
国内からGM-CSF吸入療法を評価したPhase 2 trial
抗GM-CSF抗体陽性の自己免疫性PAP 63例を対象とし, GM-CSF吸入療法の効果を評価したDB-RCT.
(N Engl J Med 2019;381:923-32.)
・患者は抗GM-CSF抗体陽性のPAPで, PaO2 <70mmHg(5分間の安静後, 室内気で評価), または呼吸器症状がある場合は<75mmHgを満たす群
・6ヶ月以内に肺洗浄施行歴がある症例やGM-CSF治療歴がある患者, 妊婦, PaO2<50mmHgは除外.
上記患者群を, rhGM-CSF吸入(125µg 1日2回, 7日間継続し, その後7日間は休薬. このサイクルを12サイクル) vs Placebo群に割り付け, A-aDO2を比較.
母集団
アウトカム
・A-aDO2や画像所見は有意に吸入群で改善あり
・自覚症状やKL-6値も有意に改善
Mφの異常によりSurfactantが肺胞内に貯留する病態
・頻度は0.37/100 000と稀.
・平均診断年齢は39歳.
・初発症状は呼吸苦, 倦怠感だが, 30%が無症候.
・Surfactantを吸収するMφの機能異常, Surfactantの産生の産生増加が原因となる.
原発性PAPと二次性PAPがあり,
・原発性: GM-CSFの機能異常. 抗GM-CSF抗体よる自己免疫性や先天性(CSF2RA, CSF2RB)が含まれる.
・二次性: その他. 薬剤や抗原暴露, 感染症, 全身疾患など. Surfactant産生が増加する先天性も含まれる.
(Nat Rev Dis Primers. 2019 Mar 7;5(1):16.)
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65 )
・原発性のほとんどが抗GM-CSF抗体による自己免疫性
・二次性で頻度が高いものは血液疾患であるMDSと感染症である結核(BMC Pulmonary Medicine (2018) 18:15 ) ただしこれは地域性もある
発症年齢はPAPの原因予測に有用な情報となる
・成人発症例では自己免疫性が多い.
・高齢者では抗原暴露や免疫不全, 血液疾患に伴うもの
感染症や薬剤は全年齢で考慮
日本国内における1999-2016年の登録症例の解析では
・PAPは952例.
このうち877(92%)が原発性PAP, 71(7.5%)が二次性
分類不能が4例のみ.
・原発性PAPのうち872例が自己免疫性で, 5例が先天性
(Nat Rev Dis Primers. 2019 Mar 7;5(1):16.)
・診断年齢は40-50歳台で, 発症年齢はそれよりも10歳ほど低い.
・症状は無症候性が3割強程度
症状としては呼吸苦, 咳嗽が多く, バチ指は2-3割程度で認められる.
・KL-6は非常に高値となり, 数千〜万に上昇することが多い. 重症度に相関する
(Am J Respir Crit Care Med Vol 177. pp 752–762, 2008)
PAPの画像所見
PAPではGGO + 小葉間隔壁・小葉内隔壁肥厚を伴う, 通称 ”crazy-paving“ patternとなる所見が有名
・25例におけるCT所見
・分布はびまん性が多く, 胸膜直下や肺底部はスペアされることも(2-3割)
(J Thorac Dis 2018;10(10):5774-5783 )
他の肺胞内が物質で満たされる病態
・これらの疾患は同様の症状や画像所見となり得る
(Pediatrics. 2017;140(2):e20170610 )
BALの所見
PAPを疑った際にまず行うのは気管支鏡検査.
・BALにおいて特徴的な混濁した洗浄液を認める
・鏡検でMay-Giemsa染色で好塩基性に染まる卵円状の構造物を認める
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65 )
PAP疑い症例の診療
・臨床的にPAPが疑わしければまず気管支鏡を行い, BAL所見を評価する
(個人的な経験からは, 肺画像が派手の割には低酸素が軽度, そしてKL-6が異常高値となるような印象がある)
>> 典型的でなければ組織検査を検討する
・PAPと判断されれば抗GM-CSF抗体を評価し, 原発性PAPを判断
陰性ならば二次性の検討を行う.
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65)
PAPの重症度と相関する因子
・LDHや抗GM-CSF抗体価, KL-6, SP-A,B,Dなどは重症度との相関性がある.(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65)
・また, 画像所見(CT)において, 左右肺を上、中、下の6領域にわけ, それぞれで軽度GGO(1pt), GGO(2pt), Consolidation(3pt)で評価した画像スコアも同様に重症度との相関性が証明されている(Ann Am Thorac Soc Vol 14, No 9, pp 1403–1411, Sep 2017 )
PAPの治療
・無症候性, 肺機能が保たれている症例ではリスク因子を排除し, 経過をフォローする.
・それ以外の症例では, 感染症や肺線維症を除外. 慎重に経過観察しつつ, 全肺洗浄や抗GM-CSF抗体陽性例ではGM-CSFの皮下注や吸入療法も試される.
・難治性の場合は肺移植やRTXを検討
(Lancet Respir Med 2018; 6: 554–65)
GM-CSF療法の反応率
・皮下注射では半数程度
吸入ではさらに高頻度で反応が期待できる
国内からGM-CSF吸入療法を評価したPhase 2 trial
抗GM-CSF抗体陽性の自己免疫性PAP 63例を対象とし, GM-CSF吸入療法の効果を評価したDB-RCT.
(N Engl J Med 2019;381:923-32.)
・患者は抗GM-CSF抗体陽性のPAPで, PaO2 <70mmHg(5分間の安静後, 室内気で評価), または呼吸器症状がある場合は<75mmHgを満たす群
・6ヶ月以内に肺洗浄施行歴がある症例やGM-CSF治療歴がある患者, 妊婦, PaO2<50mmHgは除外.
上記患者群を, rhGM-CSF吸入(125µg 1日2回, 7日間継続し, その後7日間は休薬. このサイクルを12サイクル) vs Placebo群に割り付け, A-aDO2を比較.
母集団
アウトカム
・A-aDO2や画像所見は有意に吸入群で改善あり
・自覚症状やKL-6値も有意に改善