(Lancet Neurol 2019; 18: 880–90)
Recent developments in drug-induced movement disorders: a mixed picture.
薬剤性運動障害のReviewがでていました.
よくまとまっていて, とても勉強になりましたので, 極さらっとですが, 要点を.
薬剤性の運動障害は主にDopamine受容体阻害薬で生じる.
抗精神病薬や制吐薬が原因となることが多い
・抗精神病薬は第一世代で多く, 第二世代以降(非定型薬)ではリスクは低い
Dopamine受容体阻害薬による運動障害のタイプ
・主に
遅発性症候群,
亜急性・慢性, 可逆性障害: 薬剤性パーキンソニズム, アカシジア
急性, 可逆性障害: 急性ジストニア, NMS に分類される.
薬剤性運動障害の薬剤別の頻度・リスク
・12薬剤をReviewし, 頻度を評価した報告
(The Canadian Journal of Psychiatry / La Revue Canadienne de Psychiatrie 2018, Vol. 63(11) 730-739 )
症状別
・ハロペリドール, スルピリド, クロルプロマジンは薬剤性運動障害リスクが高い.
ハロペリドールを常用する人はまずいないと思われるが,
スルピリドやクロルプロマジンは未だに常用している患者はいる.
注意すべき薬剤と認識.
Tardive Syndrome(遅発性症候群)
(Neurology 2013;81:463–469)(Lancet Neurol 2019; 18: 880–90)
抗精神病薬による不随意運動を呈する病態.
以下を満たす;
・総期間3ヶ月以上のNeurolepticの使用歴がある. (継続使用, 断続使用は問わない)
・中等度以上の不随意運動が体の1箇所以上もしくは軽度な不随意運動が体の2箇所以上で認められる.
・他に不随意運動を呈する疾患が除外される.
統合失調症で外来フォローされている患者の30%でTSあり.
・2000-2015年に抗精神病薬を処方された11493例のうち, 21-30%でTSが認められている.
第二世代のみで治療されている群では7%程度.
・年間発症率は第一世代群では6.5%[5.3-7.8], 第二世代群では2.6%[2.0-3.1]
発症のタイミングは薬剤投与中~中止後6ヶ月以内
・中止後も発症し得る.
中止によるWithdrawal dyskinesiaとの鑑別点はTSは長期間持続する点(1ヶ月以上)
・また, 様々な運動障害パターンを合併し得る(Panel 1参照)
Orofacial dyskinesiaとStereotypiesは最も多いパターン
Orobuccolingual movementはしばしば複雑で, 噛む様な運動, Jaw deviation, jaw opening, closing puckering, lip smacking, 異常な舌運動などを生じる. 嚥下や食事摂取の問題となる.
Tardive dystoniaはやや少ないが, より障害が強い. 若年(30歳程度)に多い(Tardive dyskinesiaは高齢女性に多い) 異常な姿勢が持続し, 全身や局所のスパスムを生じる. 頸部の後屈, 後弓反射様の姿勢, 上肢の進展, 肩の内旋, 手関節の屈曲など
TSの治療: Vesicular monoamine transporter 2 阻害薬
・VMAT2阻害薬は2017年にUSAで使用可能となった薬剤.
Velbenazine, Deutetrabenazineがある
・VMAT2はMonoamine, dopamine, NA, serotoninのリサイクルに関わる主要なタンパク
Tetrabenazine(コレアジン®)は古いVMAT2阻害薬であり, 使用可能な地域が多いが, TDSに対してはClass Cエビデンス
・VelbenazineはPhase 3 studyまであり(KINECT3), DeutetrabenazineはPhase 2 study(ARM-TD)があり, AIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale)の低下効果が示されている.
他の薬剤
・Acetazolamide; Class IIIのstudyでAcetazolamideとThiamineの併用にて症状が軽減したとの報告があり. Acetazolamideは>73yでは1.5g/d, 若年では2g/dの投与量. Thiamineは1.5g/dの投与量
・Amantadine; Class II studyでDyskinesiaの軽減効果が認められている. 300mg/dの投与をNeuroleptic開始時に7wk併用する方法が良い.(短期間の使用とすべき)
・抗精神病薬の追加でDyskinesiaを軽減し得るが, 原因薬剤であり, maskしているのみとの考えも強く, 基本的に推奨されない.
TDへの対応アルゴリズム
薬剤性Parkinsonism
薬剤性の行動障害では頻度も高く, ADLへの影響も大きい
主にDopamine受容体阻害薬により生じる
・頻度は8-12%, 2.5-3.3/10万-y. 女性·高齢者で多い.
・第二世代の抗精神病薬が出現してからは頻度は低下(1976年から2005年にかけて68%低下している)
・12種類の抗精神病薬におけるPakinsonismの評価を行なった報告では, 最も少ないものがAsenapineで2%, 最も多いものはSuliprideで29%
(The Canadian Journal of Psychiatry / La Revue Canadienne de Psychiatrie 2018, Vol. 63(11) 730-739)
・他の薬剤も原因となる
(J Clin Neurol 2012;8:15-21)
薬剤性Parkinsonismは数日~数カ月の亜急性経過となる.
・最も多いタイミングは薬剤開始, 増量時だが, 長期間使用している状況で発症することもある(加齢により薬剤の感受性が増大するためや, 背景にParkinson病があり, 増悪する可能性が示唆)
・原因薬剤中止後も数カ月~数年持続する
・薬剤開始後〜発症までの期間の分布(Mov Disord. 2011 Oct;26(12):2226-31.)
臨床的に薬剤性ParkinsonismとPDを鑑別するのは難しい
・DIPと特発性PDは非常に臨床症状が類似しており, またDIPは高齢者で多いため, 両者の鑑別は困難なことが多い. 初期にPDと診断された6.8%がDIPであった報告もある.(J Clin Neurol 2012;8:15-21)
・DaT-SPECTは両者の鑑別に有用かも
薬剤性とPDの鑑別にDaT-SPECTは感度86%[81-90], 特異度94%[70-100]で有用(Eur J Neurol. 2014 Nov;21(11):1369-e90.)
DIPの対応
(J Clin Neurol 2012;8:15-21)
DIPでは原因薬剤の中止が重要.
・原疾患(統合失調症やうつ病)で中断ができない場合は, 非定型抗精神病薬などのDIPの原因にはなるものの, 比較的リスクが低い薬剤に変更する
薬剤中止後数週~数カ月の経過でDIPは改善するが10-50%は中止後も症状は持続.
・経過により以下のタイプに分類される
1) 中止後, 完全に改善し, その後も症状の出現がない
2) 症状は持続するが, 増悪はない
3) 症状が持続し, 増悪傾向となる
4) 完全に改善するが, その後再発する
・1)のみが典型的なDIPであり, 他は背景にPDや類縁疾患があり, 薬剤によりマスクされていた症状が出現した可能性を考慮.
他の運動障害
Acute dystonic reactions
Dopamine受容体阻害薬, 特に第一世代で多い(ハロペリドールで17%, 第二世代では<2%)
また, 制吐薬での発症もある(メトクロプラミド)
・若年男性や小児例で多く, 薬剤使用後急性経過で発症する.
初回投与でも生じる.
・臨床症状はOculogyric-like crisis(注視性クリーゼ), 眼瞼痙攣, 頸部·体幹ジストニア, 口下顎ジストニア, 急性喉頭·咽頭ジストニア
重症例だと誤嚥や窒息, 呼吸不全のリスクとなる
・抗コリン薬の投与に迅速に反応(Diphenhydramine, Benztropine)
経静脈投与や筋肉内注射で数分で改善を認める
・効果が切れると再発するため, 再投与が必要な場合もある
Dystonic reactionを呈する薬剤
(BMJ 2007;334: 899-900)
Acute, Subacute akathisia
Akathisiaはしばしば不安感を伴うような, restlessness(落ち着きがない)な感覚で定義される.
・イライラ感や緊張感を伴い, 攻撃的な態度をとることもある.
Stereotyped movement(常同行動)を伴うこともある.
常同行動: 目的のない行動を繰り返す. 叩いたり, 足踏みしたり, 体を揺すったりするなど.
・薬剤開始後数時間~数日で生じることが多い.
50%は1ヶ月以内に生じている.
Acute akathisiaとTardive akathisiaを区別することが重要
・Tardive akathisiaは長期間投与にて生じるakathisia
薬剤中止後, Acute akathisiaは改善するが, Tardive akathisiaは増悪する.
--------------------------------
Reviewにいくつか今までのまとめから肉付けしてみましたが、
薬剤性の運動障害の理解にとてもよくまとまっているReviewでした。
復習や知識付けに良いと思います。