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2019年7月27日土曜日

造影剤による味覚障害

他院で腹部造影CTを施行したあとから, 味がなくなり, 食事が砂を噛むような感覚になった患者さんがいた. 4-5日で症状は改善傾向にある.

造影剤による味覚障害.
確かに非イオン性造影剤の添付文章では苦味を感じるなどの記載はある.

実際の頻度はどの程度なのだろうか?

IodixanolまたはIopamidolを使用した腹部造影CT検査における副作用(自覚症状や不快感など)の頻度を比較したRCT.
(Acta Radiologica 2014, Vol. 55(6) 715–724)
・Iodixanol: ビジパーク®, イオジキサノール®
 Iopamidol: オイパミロン®, イオパミドール®
・不快感には熱感や冷感, 疼痛を含む. 0-10のスケールで評価し,0は無し, 1-3が軽度, 4-7が中等度, 8-10を重度と定義.
・299例で評価した


不快感の程度: 冷感, 熱感, 疼痛が含まれる
 ・Iopamidolでは中等度~重度の不快感が多い.

・熱感がIopamidolで多い.

他の副作用:
・多い副作用は悪心, 味覚障害(Dysgeusia), 頭痛. 4-5%程度で認められる.

Iopromideの血管内投与 132012例における副作用の解析
(Acta Radiologica 2014, Vol. 55(6) 707–714)
・Iopromide: プロスコープ®, イオプロミド®
・副作用は2.5%程度.
 重大な副作用は0.01%であった
・副作用の内容は投与部の熱感, 悪心嘔吐味覚障害(Dysgeusia), 皮疹, そう痒感が多い.
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造影検査後の味覚障害はそれなりに御目にかかる可能性がある副作用と言える
添付文章では苦味ではあるが, 味覚障害自体もありそう.

また, 実はこの患者さんでは黄色症(色覚障害で, 黄色味がかかって見える)も同時期に出現し, 同様の経過で改善した経過もあり, それも造影剤の関連を疑うが,
色覚障害と造影剤の関係を報告した論文は全く見つからなかった.

誰か経験したことがある人は教えていただければ幸いです.

2019年7月25日木曜日

オレンジの痰がでるんです

50歳台男性,
4日間の発熱, 倦怠感, 咳嗽を主訴に近医を受診.

近医での採血検査にてCRP 28mg/dL, 軽度肝酵素上昇あり.
XPにて右下肺の浸潤影が認められ, 市中肺炎として紹介となった.

ペット・動物暴露や旅行歴, 温泉, 24h風呂などのリスクとなる病歴は得られなかった.

診療にてオレンジ色の喀痰あるとの問診.
実際確認すると, 確かにオレンジ, 粘性の喀痰.

(写真論文より) 実際も同様の性状でした.
(Intern Med 53: 2029-2030, 2014)




さて, なんの肺炎でしょう?










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レジオネラ肺炎
患者は尿中レジオネラ抗原検査にて陽性であった.

レジオネラ肺炎ではオレンジ色の粘性喀痰となる
(Intern Med 53: 2029-2030, 2014)

・オレンジ色の成分はL. pneumophilaより分泌されるとされているがBCYEα培地(炭を用いないタイプ)での培養検査の結果均一にオレンジ色の色素が生じていることから菌体が産生するのではなく, 培地内の成分が変化している可能性がある
・チロシンが含まれる培地においてオレンジ色の色素が生じる報告もあり, またチロシンは上皮細胞を覆う体液にも含まれていることから, L. pneumophilaがチロシンを用いて色素を産生する可能性が示唆される.
(Intern Med. 2007;46(23):1931-4.)

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知っていると役に立つかもしれない知識.

2019年7月24日水曜日

FT3, FT4, TSH全て上昇している症例

50歳台男性, 発汗, 動悸を主訴に受診.
検査の結果, FT3とFT4の軽度上昇を認め, 甲状腺中毒症と判断.

バセドウかと思われたが, TSHは正常範囲であった.
甲状腺自己抗体は陰性.

フォローではFT3,4の上昇はそのまま, TSHも軽度上昇を認めた

この時に考えることはなんだろうか?

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FT3, FT4が上昇しているにも関わらず, TSHが抑制されていない病態を,
SITSH(syndrome of inappropriate TSH secretion: TSH不適切分泌症候群)と呼ぶ
SITSHの原因で明確になっているのは下垂体のTSH産生腫瘍または下垂体における甲状腺ホルモン不応症.
(ACTA CLINICA BELGICA https://doi.org/10.1080/17843286.2019.1577531 )
 1992年までに報告された140例のSITSH症例のうち75%TSH産生下垂体腫瘍, 25%が非腫瘍性(Am J Med 1992;92:15-24)
・家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症も同様の検査結果となるため鑑別疾患として重要.

SITSH様の検査所見となるもの(赤枠)
(ACTA CLINICA BELGICA https://doi.org/10.1080/17843286.2019.1577531 )

バセドウ病の再燃や破壊性甲状腺炎の初期:
 TSHの動きはFT4の変動より遅いため, 初期にはSITSH様となり得る
 時間を空けて再度検査(1ヶ月程度が甲状腺学会では推奨)
・抗サイログロブリン抗体陽性例では抗T4自己抗体の影響で, 検査方法によりFT4が高値に測定されることがある.
 >> 2 step assay法を用いると良い
・薬剤性
 高用量で使用することで, T4,T3の結合蛋白からの遊離を促進: ヘパリン, フロセミド(特に静注), アスピリン, NSAID, 抗てんかん薬(フェニトイン, カルバマゼピン
 アミオダロン
 甲状腺切除や放射線治療後のレボチロキシン
(http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/hormone01.pdf)(ACTA CLINICA BELGICA https://doi.org/10.1080/17843286.2019.1577531)


TSH産生腫瘍: 下垂体腫瘍のうち0.5-2%を占める
・MEN1FIPA(Familial isolated pituitary adenoma)で合併することもあり
・TSH産生腫瘍の7割がTSH単独他はGH, PRL, Gonadotropin産生の合併が3割程度
(Journal of Endocrinological Investigation https://doi.org/10.1007/s40618-019-01066-x)

日本国内からの, TSH産生下垂体腫瘍 90例の報告では, 
(J Neurosurg 121:1462–1473, 2014 )
この間に同施設で手術治療した下垂体腫瘍のうち, 2.7%のみ.
 ただし, 最近の5年間でみると4.0%とやや頻度は上昇
・患者の年齢中央値は42[11-74], 女性47, 男性43
Microadenoma18%, Macroadenoma82%
・Reviewでも, Microadenomaが1-2割を占めている報告が多い.

甲状腺ホルモン不応症
・RTH: resistance to thyroid hormoneは稀な常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性疾患.
・Thyroid hormone receptor αまたはβ遺伝子の変異(90%β)により甲状腺ホルモンの視床下部-下垂体の感受性が低下し, Negative feedbackが抑制, 結果的にFT4, FT3の上昇, TSHは正常軽度上昇する.
TSHによる持続的刺激により, 甲状腺組織のリンパ球が活性化し自己免疫性甲状腺疾患を合併しやすい(橋本病やバセドウ病)という報告もある.

RTHにバセドウ病を合併した症例の経過
(Intern Med 50: 1977-1980, 2011)
・初期はFT4高値, TSH抑制
MMI治療によりFT4が低下すると, 顕著にTSHが上昇FT4が正常範囲でもTSHは軽度上昇.
・FT4が軽度上昇する程度で, TSHも正常軽度上昇
・抗体陰性化後もFT4, TSHが軽度上昇する
・治療経過が非典型的な橋本病やバセドウ病ではRTHを背景にしたものの可能性も検討

家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症
・FDH (familial dysalbuminemic hyperthyroxinemia)
・常染色体優性遺伝で, 白人に多い病態.
・Affinity chromatographyにおいて, 異常アルブミンがFT4, TT4と同じ分画に抽出されてしまうため, FT4, TT4が異常高値となる
FT4だけでなく, TT3も軽度〜高度に上昇
日本から報告されているのはR218P. 高度にFT4, TT4が上昇する
(Endocrine Journal 2017;64(2):207-212)


甲状腺学会によるSITSH鑑別アルゴリズム
(http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/hormone01.pdf)


RTHTSH産生腫瘍の鑑別点.
(Journal of Endocrinological Investigation https://doi.org/10.1007/s40618-019-01066-x)
MRI画像検査: TSH産生腫瘍の8割程度がMacroadenoma.
 ただし, 2割はMicroadenomaである点に注意.
・他の下垂体ホルモン異常の有無
 ただし, 7割がTSH単独の産生腫瘍
・T3抑制試験(80-100µg/dT38-10日間投与し, TSH抑制をみる)
 TSH産生腫瘍では抑制なし.
 RTHでは抑制される
・TRH負荷試験(200µg iv)
 TSH産生腫瘍の85%TSHの反応なし
 RTHでは基本的にTSH反応は正常
・TRβ遺伝子の評価はRTHの診断に有用.

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FT3,4, TSH全て上昇している場合の鑑別として, 下垂体腫瘍はすぐに浮かびますが,
RTHや他の疾患はなかなか知らないと早期できないのではないでしょうか?

ということでまとめてみました次第

2019年7月20日土曜日

本の感想: 仮病の見抜き方


國松先生の「仮病の見抜き方」を読みました

僕は本は漫画本以外は滅多に買いません.
 m3やアンケートで溜まったポイントは全てKindleの漫画に消えます.
医学知識は論文から得ます. または医局の若手医師の本棚から得ることがほとんど.
若手の本棚には大抵の良書が揃っていますので.

ここ1年で買った活字系の本は狩猟関係だけです

でもこの本は買ってみました.
その理由は, 國松先生自身のSNSでしつこく, しつこく宣伝されていたことと,
(周囲の若手医師の本棚で見つからなかったため)
そして実は自分は國松先生に「同類臭」を感じているからでした.

國松先生とは「不定愁訴」の講演会で一緒に講演させていただいたことありますが, 話し込んだことはありません.
でもその講演会を聞いて, 「あ、この人同類だ」と思いました.
(医師キャリアとしては自分の方が全然下ですので、正直失礼な感想と思います)

そんなわけでシンパシーを感じていましたが, この本を読んで確信しました.

やっぱこの人 同類です.

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通常の診療では,
・患者の主訴, 背景, 経過からゲシュタルトを用いて端的に診断に持ってゆく
・主訴からアルゴリズム的に鑑別を検討し, 検査, 診断に持ってゆく
といった方法がとられることが多いと思います.

その精度は個人により大きく異なり, 臨床研修や専門研修でそのような能力を磨いてゆきます.
総合診療科というのは特に診断に特化している部分があると思います.

しかしながら, トレーニングをしても上記方法では全く解決できない患者さんがいます.

この本には, とても稀ではあるが ゲシュタルトがあればすぐに診断がつくエピソード, ゲシュタルト自体存在せず 患者さんの訴えや背景・振る舞いに「思いを馳せる」ことで解決に結びつくエピソードが織り混ざっていました.

後者も実は「そのような患者群」というゲシュタルトがあるのですが, それを言葉や図、写真で表現することは難しく、僕には表現できません. あるのは感覚だけです.
(それを文章で表現できてしまうのがまずすごいと思いました)

で, 自分が國松先生に同類臭を感じたのが, この後者の患者群の診療、「思いを馳せる」部分です.

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ぶっちゃけますと, ゲシュタルトが言葉や図で表現できる疾患は診断に苦慮しません.
専門疾患は専門医がしっかりと拾ってくれますし, その合間の疾患は我々総合診療医がきっちり拾います. これは少し勉強すればできることなので, 難しいとは思いません.
勉強大好き, カンファ大好きな研修医でもできてしまうことです.

問題は言葉や図で表現できないゲシュタルトの疾患, 病態, 症状です.
この部分の診療は非常に難しく、そして面白い(といったら失礼なのですが, あえて言いたい. 面白いと).

これは救急外来でその場限りの診療や, 専門外来で「自分の分野の疾患は否定的」で終わる診療をしていると一生身に付きません.
その後の患者が回ってくる総合内科外来, 心療内科外来, 精神科外来で根気よく, 興味を持ちつつ経験を積み重ねると身についてくるものと思っています.

で, 僕はそれはとても重要な感覚だと思うのですけども, これがどうも周りに理解されない. 研修医の救急症例のプレゼンに突っ込むとUZAがられる.
自分の上手くいった症例を自慢してもUZAがられる.

指導するにも上手く指導できない, というモヤモヤ.
理解されないフラストレーション.

そんなかで, そこにフォーカスしたこの本です.
ということで, 素直に嬉しいんです.
國松先生、ありがとうございます.

今度京都で飯食いましょう. または東京に行きます.

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最後に刺されるかもしれませんが, もう一度言います.

ゲシュタルトが言葉や図で表現できる疾患なんぞ診断できて当たり前.
その先を目指そうぜ!
(それでも診断が, 治療が難しいものもあることは重々存じております...)

2019年7月17日水曜日

前立腺癌とPMR

ここ3ヶ月程度で, 背景に前立腺癌がある患者で, PMR様症状を呈し, 診療した患者が2名ほどいた.
PMRと悪性腫瘍の関連はまだ議論があるところではあるが, こう立て続けに同じような症例を経験すると, 「PMRの背景としての前立腺癌の報告はどうなのか調べろ」という神の掲示と思い, 探してみた.

参考; 膠原病と悪性腫瘍

(Reumatismo, 2018; 70 (1): 23-34 )
傍腫瘍症候群としてPMRを呈した論文のReview.
・傍腫瘍症候群は以下の4項目のうち3項目以上満たすことで定義
 1. 悪性腫瘍があること
 2. 腫瘍や転移により直接的に障害されていないこと
 3. 他の腫瘍性病変を認めないこと
 4. 双方同時に進行している経過であること

導入した論文はCohort, RCT, Systematic reviewであり,
Case reports, series, case-controlは除外, また英語以外の言語も除外
合計9 論文を抽出した.


PMRと悪性腫瘍の関係は報告により様々
・5 論文は関連性はないとの結論, 2つはPMRは腫瘍のリスクを上昇させる結論
 PMR診断後, ~12M(特に6M)に発見される腫瘍リスクが上昇する報告もあり

腫瘍の種類
・データ不十分であるが, 血液腫瘍, 前立腺癌, リンパ腫は最も報告が多い
・他は腎泌尿器腫瘍で報告例が多い印象.

前立腺癌と自己免疫性疾患の報告で, 台湾におけるホルモン療法と自己免疫性疾患の関連を評価したCohortがあった.

Prostate Cancer Prostatic Dis. 2019 Jan 28. doi: 10.1038/s41391-019-0130-9. 
台湾のNational Health Insurance Research Databaseにおいて,1996-2013年に診断された前立腺癌症例17168例を評価.
・ホルモン療法施行群, 非施行群でPropensity score-matched analysisを行い自己免疫疾患合併リスクを比較.(各群 5590例を抽出し, 比較)
自己免疫疾患はバセドウ病, IBD, 乾癬, SLE, RA, AS, GBS, Sjogren症候群, MG, 悪性貧血, 溶血性貧血, PN, Celiac disease, ブドウ膜炎, PMR, DM/PM, 橋本病, 過敏性血管炎, Behcet, Alopecia areata, AAV, 類天疱瘡, MS, SSc, GBS抗体症候群, GCA, Thromboangitis obliterans, 川崎病

両群における自己免疫疾患の頻度(2)ADTによる自己免疫疾患リスク(3)
・自己免疫疾患は5例以上報告されたもののみを評価
 多い疾患はSjogren症候群, RA, IBD, 乾癬, ブドウ膜炎, バセドウ病, AS, そしてPMR
・全体ではホルモン療法群のほうが合併リスクは低い結果.
 有意差があるのは乾癬, ブドウ膜炎, バセドウ病

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前立腺癌からPMR(PMR様症状)の経過というのはそれなりにありそうな印象.
ただし, 前立腺癌自体がOccultでそれなりに多い腫瘍なので, PMR患者で腫瘍精査→発見という例も少なからずありそうな印象はある. 
悩ましい

2019年7月12日金曜日

症例: 糖尿病患者の皮膚びらん

70歳台男性, 糖尿病血糖コントロール目的で入院.
その際皮膚のそう痒感と皮膚びらんが認められた.
また, 慢性経過の血液中好酸球も1000-2000/µLと高値.

病歴を確認すると, 皮膚所見は2-3年前より認めており,
以前の血液検査から, Eo上昇も長期間の経過.

皮膚所見からは類天疱瘡っぽい.
皮膚生検やBP-180抗体を提出.

多分DPP-4阻害薬が関連しているのではないか, と予想.

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水疱やびらんを生じる自己免疫性疾患に天疱瘡や類天疱瘡がある

類天疱瘡は表皮と真皮の間になる基底膜の蛋白に対するIgGが原因
・BP180抗体やBP230抗体が関連
類天疱瘡の20-30%水疱を伴わずじん麻疹や湿疹などの非特異的な皮膚所見となる
(Front. Immunol. 10:1238. doi: 10.3389/fimmu.2019.01238 )

天疱瘡は皮膚, 口腔粘膜, 食道などの粘膜の表面にある, デスモグレインに対する自己抗体(IgG)が原因


この双方に薬剤性があり,

薬剤性天疱瘡では, 
 Thiol, Mercaptans: Sulfhydryl基を含む薬剤
 フェノール系薬剤
 活性型アミド基を含む薬剤
 その他(特にACE阻害薬やARB)
(Dermatologic Therapy. 2019;32:e12748. )
日本国内からの17例の報告では, 原因薬剤はブシラミン, D-ペニシラミン, カプトプリル,  チオプロニンが挙げられている(British Journal of Dermatology (2014) 171, pp544–553 )

薬剤性類天疱瘡では,
(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2014 Sep;28(9):1133-40.)
・抗菌薬, NSAID, 利尿薬, 抗TNF阻害薬, 抗不整脈薬・降圧薬, サリチル酸, 血糖降下薬(DPP-4阻害薬), ワクチンなどが挙げられる.

薬剤性類天疱瘡の特徴
(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2014 Sep;28(9):1133-40.)
・類天疱瘡は高齢者で多いが, 薬剤性ではやや若年, また好酸球増多を伴うことも多い
 とはいえ, 類天疱瘡自体も好酸球増多を伴うことが多い.

近年DPP-4阻害薬による類天疱瘡の報告が増えており, 
リスクを評価したStudyも多く発表されている.
・機序は明らかではないが, DPP-4T細胞をはじめとした様々な細胞に発現しておりDPP-4/CD26蛋白はT細胞リンパ腫や乾癬, 扁平苔癬, アトピー性皮膚炎など様々な皮膚疾患で上昇していることがわかっている.
 DPP-4阻害薬の使用によりこれらの機序を介して発症する可能性がある

DPP-4阻害薬による類天疱瘡のリスク
(Front. Immunol. 10:1238. doi: 10.3389/fimmu.2019.01238 )
・特にリスクが高いのはVildagliptin(エクア®)

報告例のまとめ
・薬剤開始〜発症までは1ヶ月程度〜数年と幅広い.
 長期間使用後に出現することもまれではない.

U.K. Clinical Practice Research Datalinkの解析
(Diabetes Care 2019 Jun; dc190409.)
2007-2018年に血糖降下薬が開始された患者群のうち類天疱瘡の発症とDPP-4阻害薬使用の関係を評価.
DPP-4阻害薬は有意に類天疱瘡の発症リスクを上昇させる

1-2年間の長期使用でリスクは上昇する.

韓国の保険データの解析.
(JAMA Dermatol. 2019 Feb 1;155(2):172-177.)
・2012-2016年に新規に類天疱瘡+糖尿病を診断された670例と糖尿病のみの670例を比較
・患者群とDPP-4阻害薬による類天疱瘡リスク
・このデータでもVildagliptinでリスクがやや高い.

DPP-4阻害薬による類天疱瘡では,  HLA-DQB1*03:01保有率が高い国内からの報告がある
(https://www.hokudai.ac.jp/news/171207_pr.pdf)(J Invest Dermatol. 2018 May;138(5):1201-1204. )
・DPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡は, 非炎症型となることが多く, その場合HLAが関連している可能性が示唆される.

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今や2型DMでは高頻度に, それこそメトフォルミン以上に使用されている印象のDPP-4阻害薬(個人的にはメトフォルミン1stです).
DM患者のよくわからない皮疹や好酸球増多では念頭に置いておきたい.