70歳台男性, 糖尿病血糖コントロール目的で入院.
その際皮膚のそう痒感と皮膚びらんが認められた.
また, 慢性経過の血液中好酸球も1000-2000/µLと高値.
病歴を確認すると, 皮膚所見は2-3年前より認めており,
以前の血液検査から, Eo上昇も長期間の経過.
皮膚所見からは類天疱瘡っぽい.
皮膚生検やBP-180抗体を提出.
多分DPP-4阻害薬が関連しているのではないか, と予想.
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水疱やびらんを生じる自己免疫性疾患に天疱瘡や類天疱瘡がある
類天疱瘡は表皮と真皮の間になる基底膜の蛋白に対するIgGが原因
・BP180抗体やBP230抗体が関連
・類天疱瘡の20-30%は水疱を伴わず, じん麻疹や湿疹などの非特異的な皮膚所見となる
(Front. Immunol. 10:1238. doi: 10.3389/fimmu.2019.01238 )
天疱瘡は皮膚, 口腔粘膜, 食道などの粘膜の表面にある, デスモグレインに対する自己抗体(IgG)が原因
この双方に薬剤性があり,
薬剤性天疱瘡では,
Thiol, Mercaptans: Sulfhydryl基を含む薬剤
フェノール系薬剤
活性型アミド基を含む薬剤
その他(特にACE阻害薬やARB)
(Dermatologic Therapy. 2019;32:e12748. )
・日本国内からの17例の報告では, 原因薬剤はブシラミン, D-ペニシラミン, カプトプリル, チオプロニンが挙げられている(British Journal of Dermatology (2014) 171, pp544–553 )
薬剤性類天疱瘡では,
(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2014 Sep;28(9):1133-40.)
・抗菌薬, NSAID, 利尿薬, 抗TNF阻害薬, 抗不整脈薬・降圧薬, サリチル酸, 血糖降下薬(DPP-4阻害薬), ワクチンなどが挙げられる.
薬剤性類天疱瘡の特徴
(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2014 Sep;28(9):1133-40.)
・類天疱瘡は高齢者で多いが, 薬剤性ではやや若年, また好酸球増多を伴うことも多い
とはいえ, 類天疱瘡自体も好酸球増多を伴うことが多い.
近年DPP-4阻害薬による類天疱瘡の報告が増えており,
リスクを評価したStudyも多く発表されている.
・機序は明らかではないが, DPP-4はT細胞をはじめとした様々な細胞に発現しており, DPP-4/CD26蛋白はT細胞リンパ腫や乾癬, 扁平苔癬, アトピー性皮膚炎など様々な皮膚疾患で上昇していることがわかっている.
DPP-4阻害薬の使用によりこれらの機序を介して発症する可能性がある
DPP-4阻害薬による類天疱瘡のリスク
(Front. Immunol. 10:1238. doi: 10.3389/fimmu.2019.01238 )
・特にリスクが高いのはVildagliptin(エクア®)
報告例のまとめ
・薬剤開始〜発症までは1ヶ月程度〜数年と幅広い.
長期間使用後に出現することもまれではない.
U.K. Clinical Practice Research Datalinkの解析
(Diabetes Care 2019 Jun; dc190409.)
・2007-2018年に血糖降下薬が開始された患者群のうち, 類天疱瘡の発症とDPP-4阻害薬使用の関係を評価.
・DPP-4阻害薬は有意に類天疱瘡の発症リスクを上昇させる
・1-2年間の長期使用でリスクは上昇する.
韓国の保険データの解析.
(JAMA Dermatol. 2019 Feb 1;155(2):172-177.)
・2012-2016年に新規に類天疱瘡+糖尿病を診断された670例と糖尿病のみの670例を比較
・患者群とDPP-4阻害薬による類天疱瘡リスク
・このデータでもVildagliptinでリスクがやや高い.
DPP-4阻害薬による類天疱瘡では, HLA-DQB1*03:01保有率が高い国内からの報告がある
(https://www.hokudai.ac.jp/news/171207_pr.pdf)(J Invest Dermatol. 2018 May;138(5):1201-1204. )
・DPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡は, 非炎症型となることが多く, その場合HLAが関連している可能性が示唆される.
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今や2型DMでは高頻度に, それこそメトフォルミン以上に使用されている印象のDPP-4阻害薬(個人的にはメトフォルミン1stです).
DM患者のよくわからない皮疹や好酸球増多では念頭に置いておきたい.