50歳台男性, 発汗, 動悸を主訴に受診.
検査の結果, FT3とFT4の軽度上昇を認め, 甲状腺中毒症と判断.
バセドウかと思われたが, TSHは正常範囲であった.
甲状腺自己抗体は陰性.
フォローではFT3,4の上昇はそのまま, TSHも軽度上昇を認めた
この時に考えることはなんだろうか?
---------------------------------
FT3, FT4が上昇しているにも関わらず, TSHが抑制されていない病態を,
SITSH(syndrome of inappropriate TSH secretion: TSH不適切分泌症候群)と呼ぶ
・SITSHの原因で明確になっているのは下垂体のTSH産生腫瘍, または下垂体における甲状腺ホルモン不応症.
(ACTA CLINICA BELGICA https://doi.org/10.1080/17843286.2019.1577531 )
1992年までに報告された140例のSITSH症例のうち, 75%がTSH産生下垂体腫瘍, 25%が非腫瘍性(Am J Med 1992;92:15-24)
・家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症も同様の検査結果となるため鑑別疾患として重要.
SITSH様の検査所見となるもの(赤枠)
(ACTA CLINICA BELGICA https://doi.org/10.1080/17843286.2019.1577531 )
・バセドウ病の再燃や破壊性甲状腺炎の初期:
TSHの動きはFT4の変動より遅いため, 初期にはSITSH様となり得る
時間を空けて再度検査(1ヶ月程度が甲状腺学会では推奨)
・抗サイログロブリン抗体陽性例では抗T4自己抗体の影響で, 検査方法によりFT4が高値に測定されることがある.
>> 2 step assay法を用いると良い
・薬剤性
高用量で使用することで, T4,T3の結合蛋白からの遊離を促進: ヘパリン, フロセミド(特に静注), アスピリン, NSAID, 抗てんかん薬(フェニトイン, カルバマゼピン
アミオダロン
甲状腺切除や放射線治療後のレボチロキシン
(http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/hormone01.pdf)(ACTA CLINICA BELGICA https://doi.org/10.1080/17843286.2019.1577531)
TSH産生腫瘍: 下垂体腫瘍のうち0.5-2%を占める
・MEN1やFIPA(Familial isolated pituitary adenoma)で合併することもあり
・TSH産生腫瘍の7割がTSH単独. 他はGH, PRL, Gonadotropin産生の合併が3割程度
(Journal of Endocrinological Investigation https://doi.org/10.1007/s40618-019-01066-x)
日本国内からの, TSH産生下垂体腫瘍 90例の報告では,
(J Neurosurg 121:1462–1473, 2014 )
・この間に同施設で手術治療した下垂体腫瘍のうち, 2.7%のみ.
ただし, 最近の5年間でみると4.0%とやや頻度は上昇
・患者の年齢中央値は42歳[11-74], 女性47例, 男性43例
・Microadenomaが18%, Macroadenomaが82%
・Reviewでも, Microadenomaが1-2割を占めている報告が多い.
甲状腺ホルモン不応症
・RTH: resistance to thyroid hormoneは稀な常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性疾患.
・Thyroid hormone receptor αまたはβ遺伝子の変異(90%がβ)により, 甲状腺ホルモンの視床下部-下垂体の感受性が低下し, Negative feedbackが抑制, 結果的にFT4, FT3の上昇, TSHは正常〜軽度上昇する.
・TSHによる持続的刺激により, 甲状腺組織のリンパ球が活性化し, 自己免疫性甲状腺疾患を合併しやすい(橋本病やバセドウ病)という報告もある.
RTHにバセドウ病を合併した症例の経過
(Intern Med 50: 1977-1980, 2011)
・初期はFT4高値, TSH抑制
・MMI治療によりFT4が低下すると, 顕著にTSHが上昇, FT4が正常範囲でもTSHは軽度上昇.
・FT4が軽度上昇する程度で, TSHも正常〜軽度上昇
・抗体陰性化後もFT4, TSHが軽度上昇する
・治療経過が非典型的な橋本病やバセドウ病ではRTHを背景にしたものの可能性も検討
家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症
・FDH (familial dysalbuminemic hyperthyroxinemia)
・常染色体優性遺伝で, 白人に多い病態.
・Affinity chromatographyにおいて, 異常アルブミンがFT4, TT4と同じ分画に抽出されてしまうため, FT4, TT4が異常高値となる
・FT4だけでなく, TT3も軽度〜高度に上昇
・日本から報告されているのはR218P. 高度にFT4, TT4が上昇する
(Endocrine Journal 2017;64(2):207-212)
甲状腺学会によるSITSH鑑別アルゴリズム
(http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/hormone01.pdf)
RTHとTSH産生腫瘍の鑑別点.
(Journal of Endocrinological Investigation https://doi.org/10.1007/s40618-019-01066-x)
・MRI画像検査: TSH産生腫瘍の8割程度がMacroadenoma.
ただし, 2割はMicroadenomaである点に注意.
・他の下垂体ホルモン異常の有無
ただし, 7割がTSH単独の産生腫瘍
・T3抑制試験(80-100µg/dのT3を8-10日間投与し, TSH抑制をみる)
TSH産生腫瘍では抑制なし.
RTHでは抑制される
・TRH負荷試験(200µg iv)
TSH産生腫瘍の85%でTSHの反応なし
RTHでは基本的にTSH反応は正常
・TRβ遺伝子の評価はRTHの診断に有用.
----------------------------
FT3,4, TSH全て上昇している場合の鑑別として, 下垂体腫瘍はすぐに浮かびますが,
RTHや他の疾患はなかなか知らないと早期できないのではないでしょうか?
ということでまとめてみました次第