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2019年3月27日水曜日

末梢循環不全の評価: MottlingとCRT

http://hospitalist-gim.blogspot.com/2019/02/vs.html

上記のエントリーで, 当科ではバイタルサインと同じくらい重要な所見として常にCRTやMottlingを評価, フォローしつつ加療するようにしています.

新たな論文も出てきており, 今回はその所見についてザッとまとめ.

末梢循環の評価は低侵襲で簡便に評価可能であり重症患者のマネージメントにおいて有用な可能性がある.
・末梢毛細血管循環は手指や膝におけるCapillary refill time(CRT),  皮膚の蒼白所見, Mottling所見を評価する.
皮膚(や腸管, 筋肉)は最も早期に犠牲にされる臓器.
 ショック患者ではまず皮膚に異常が生じ, 最後に改善する部位と言える
CRT Mottlingの有無, 経過に伴う所見の変化は重症患者における病態の把握に有用
(Curr Opin Crit Care 2015, 21:226 – 231)

敗血症性ショック患者 30例においてCRT, mottling score, 末梢皮膚温と臓器血流の関連を評価
(Journal of Critical Care 35 (2016) 105–109)
・臓器血流は各臓器における
 [収縮期の最大血流速度 - 拡張期の最小血流速度]/平均血流速度 で計算.
末梢皮膚温は相関性がないが, CRT, mottlingは臓器血流との相関性あり
 Mottlingスコアについては後述

CRT: Capillary Refill Time 毛細血管再充満時間
・小児の脱水やVol評価ではよく使用されるが成人では個体差も様々であり, 正常値もはっきりしない
・年齢, 性別, 評価時の外気温でも左右される.
正常値の上限は3.5-4.5秒であり, 2秒をカットオフとすると特異性は低い.
(American Journal of Emergency Medicine (2008) 26, 62–65 )

1000例のControl群での評価ではCRT中央値は1.9. 95% percentile 3.5.

・10歳加齢毎に3.3%延長し男性は女性と比較して7%短縮し外気温が1度上昇すると5%低下する.
(American Journal of Emergency Medicine (2008) 26, 62–65 )

Mottlingスコア
・Mottlingは皮膚の毛様皮疹で, 膝〜大腿に認められる. 
 皮膚の循環不全を反映する.
・スコアはMottlingの範囲で判断.
(Annals of Intensive Care 2013, 3:31)

Mottlingと皮膚血流の関係

Mottlingスコアと各指標の関連
(Intensive Care Med (2011) 37:801–807)
・Mottlingスコアと尿量, 動脈血乳酸値, SOFAスコアには相関性がある.
 Cardiac Indexとは関係なし


CRTやMottlingの予後への関係

敗血症性ショック患者 59例において,  初期治療(カテコラミン)開始後6時間でのCRT(示指膝で評価)14日死亡リスクの関係を評価したProspective study.
・14日死亡率は36%
死亡例と生存例の比較では,
 6時間後のSOFA, SAPS, 尿量, Lacは有意に生存例で良好.
 CRTも同様に生存例では<5秒となる.
 CRT<2.5sを死亡 OR 1とすると
  示指CRT 2.5-5sOR 5.4[1.3-22.3], >5sOR 18.0[3.6-89.6]
  膝CRT 2.5-5sOR 5.1[0.5-51.3], >5sOR 61.2[6.5-578.9]
(Intensive Care Med (2014) 40:958–964)

敗血症性ショック患者 65例中, 49%Mottling(+)
ICU患者 791例では29%(230)Mottling(+)
・Mottlingの有無, 持続時間は予後に関連性がある

 6時間以上持続するMottlingは予後不良因子

(Intensive Care Med (2015) 41:452–459)

Septic shockにてICU管理となった63例の後向き解析
・PrehospitalにおけるMottlingスコアとCRTの死亡リスクへの関連を評価.
 疾患は肺炎が最多で67%

・Mottlingスコアは3±2
 CRT5±1s
 死亡率は36%であった.
・生存者, 死亡例の初期のMottlingスコア, CRT

 Mottlingスコア, CRTが高いほど死亡リスクも高い.
 Propensity score matched analysisによる28日死亡RRMottlingスコア>2RR6.58, CRT>4sRR2.03
(American Journal of Emergency Medicine 37 (2019) 664–671)

CRTやMottlingの経時的変化

重症敗血症, 敗血症性ショック 41例において蘇生の経過とCRT, SCVO2などパラメータの経過を比較.
・CRTの変化は蘇生開始後2hで有意差がでる一方, 他の指標は>6時間経過して有意差が出現する.
 CRTの変化は最も早い指標となりえる
(Journal of Critical Care (2012) 27, 283–288)

先に紹介した敗血症性ショック59例の解析では, CRT<5秒でさらに6h後の示指CRTが改善傾向にあれば死亡例は無し.
(Intensive Care Med (2014) 40:958–964)

さらに先で紹介したSeptic shockにてICU管理となった63例の後向き解析では, これら指標の変化は死亡リスクに関連する結果
Mottlingスコア, CRTの変化
・変化は [初期値-最終値] / Prehospital settingの時間(h)で評価
 この母集団におけるPrehospital settingの時間は85±33
(American Journal of Emergency Medicine 37 (2019) 664–671)
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バイタルサインには皮膚所見を入れるべしと常日頃より指導しています.
この文化がもっと広がることを祈って.

2019年3月25日月曜日

セフェピム脳症のReview

セフェピム(マキシピーム®)は中枢神経障害を呈する抗菌薬として,  総合診療科の中ではある程度有名.
同じくメトロニダゾールも (個人の感想です)

参考として数年前に書いたエントリーも参照

抗生剤による痙攣/てんかん発作


症例:
慢性腎不全(Cr 3-4), 難治性肺炎にてマキシピームを3日前に開始されていた高齢患者.
朝の回診にて意識障害, 舌根沈下を認めているのを発見し, 対応.

意識障害の原因ははっきりせず. いわゆるAIUEO TIPSにも引っかからず,
3日前より開始されていたセフェピムの影響を考慮した.

2017年に症例Reviewが発表されていたため, その論文にて復習.

(Open Forum Infect Dis. 2017 Oct 10;4(4):ofx170. )
Cefepimeの神経毒性を198例の成人例をReview

・平均年齢は67.
・87%が腎障害合併患者, ESRD29%
投与量は4g/24h
 腎機能に応じた推奨量を超えて投与していたCase50
 半数は腎障害に応じた投与量
・投与開始~発症までは5±4日間

症状は意識障害が80%

・ミオクローヌスは40%, NCSE31%, 痙攣11%

もう一つ, 同時期発表のReviewより, セフェピム脳症の臨床像のまとめ
(Critical Care (2017) 21:276 )
・これによると投薬開始後4日程度で発症.
 薬剤中止後2日程度で改善を認める経過となる.

2019年3月22日金曜日

血小板減少+AF 抗凝固はどうする?

70歳台男性, 血液検査にて血小板 3万/µLと低値, 大球性貧血も認められた.
ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏は認められず.
骨髄検査ににてMDSに矛盾しない像が得られ, MDSと診断.

また同時に心電図検査にて慢性心房細動が認められた.
CHA2DS2-VAScスコアは3点であり, 抗凝固療法の適応となるものの, 血小板減少もあり.
どうすべきなのか?

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血小板減少は抗凝固療法における出血リスク因子となり, 主要な抗凝固療法のStudyでは血小板減少患者(5~7.5万/µL未満の症例)は除外されていることが多い.

53953例のAf患者+抗凝固, 129684pt-yのフォロー中頭蓋内出血は1196例で発症(非外傷性53.5%)
(Circ J 2019; 83: 540–547)
・年間発症率は0.92%[0.87-0.98]
・頭蓋内出血のリスク因子:
・血小板減少<10万は >15万と比較すると有意に頭蓋内出血リスクは上昇する.


血小板減少では出血リスクは上昇するものの, どの程度の血小板減少ならば抗凝固療法を行うべきで, どの程度ならば避けるべきか明確な指標はないのが現状.

62例のAf+PLT 5-10/µL患者(53-85), DOACを使用(Rivaroxaban 33.9%, Dabigatran 54.8%, Apisaban 11.3%)している症例と, 年齢・性別・CHA2DS2-VAScスコアを合わせたPLT正常患者群を比較した報告
(J Cardiovasc Pharmacol! 2018;72:153–160)
・血小板減少群における血小板数は7.8万[7.3-8.8]であり, ほぼ>5万と判断できる.
・55ヶ月(23-64)のフォローにおいて血小板減少群と正常群の出血リスクは同等
 Major bleeding 1.8% vs 2.7%/y
 Nonmajor bleeding 1.5% vs 1.1%/y
 脳梗塞とTIAリスクも同等: 1.8% vs 1.5%/y

Af+血小板減少患者におけるDOAC vs Warfarinの比較
(J Thromb Thrombolysis. 2018 Dec 18. doi: 10.1007/s11239-018-1792-1. [Epub ahead of print]
Effectiveness and safety of non-vitamin-K antagonist oral anticoagulants versus warfarin in atrial fibrillation patients with thrombocytopenia)
・台湾において2010-2017年に抗凝固療法を施行されたAf患者8239例の解析.
上記のうち血小板数正常の7872例と血小板減少367(<10)において, DOACWarfarinの出血リスク, 血栓症予防効果を比較.
血小板減少群における血小板数は7.6±2.2
・血小板正常群ではMajor bleedingDOACの方が少ない
・血小板減少群ではDOACとワーファリンで出血リスクは有意差ないが少なくなる傾向はある

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報告からは中等度の血小板減少(>5万/µL)があっても抗凝固療法は比較的安全に使用可能であり, さらにDOACの方が良い可能性がある.

<5万/µLとなるような重度血小板減少症例の報告は少数の症例報告程度であり, まとまったデータはない. 一般的に投与されていないのだろうか.

参考として, 担癌患者の血小板減少でVTE発症時の抗凝固の推奨のまとめ
・一般的に2万を切る場合は抗凝固を行わない
2-5万では輸血にて4-5万を維持しつつ治療を行う
5万以上では通常通り.

これはVTE症例の治療としての投与推奨であり,
AFにおける予防としては
・>5万/µLならば通常通り行う
・<5万/µLでは注意が必要. 
 リスクが高ければ減量して投与も考慮するが, 流石に<2万/µLとなる症例では避けるべきであろう.

という感じに押さえておくべきか.
また使用する場合, 可能ならばDOACの方が良いのかもしれない.

2019年3月20日水曜日

症例: 30歳台男性, 心停止

30歳台男性の心停止症例.
 小児期からのてんかん既往があり, 抗てんかん薬3剤を使用しているが, コントロールは不十分の背景あり。
 朝方物音がし、確認しにゆくと呼吸停止で発見。救急隊到着時Asystoleであり、CPR開始され搬送された。最終生存確認は20分前。

 ER搬送後ECMO CPRに移行し, その際肺塞栓、ACSは除外。全身CTでもSAHや脳卒中, 動脈解離, 出血は認めず, 電解質や薬剤でも原因となるものは認められず.

 心停止の原因はなんだろうか?
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てんかん患者では一般人口と比較して突然死のリスクが高く,
明らかな原因を認めないてんかん患者の突然死をSUDEPと呼ぶ.

明らかな誘因は不明であり, そのような病態・症候群として現在リスク因子や病態の解明が行われている感じ

以下(Lancet Neurol 2016; 15: 1075–88): SUDEPのReviewのまとめ:

SUDEP: sudden unexpected death in epilepsy. てんかん発作による予測不能な突然死
・20-45歳のGeneralized tonic-clonic seizureで多く脳幹機能の障害による無呼吸や徐脈が原因と推測されている.
頻度は母集団により異なり,
 てんかん手術を予定している患者, 術後患者では6.3-9.3/1000pt-y
 てんかんクリニックの患者では1.1-5.9/1000pt-y, 主に難治性痙攣患者.
 一般人口では0.35-2.3/1000pt-y
てんかん患者全体では1.2/1000pt-yとの報告がある.

SUDEPの定義(主にStudyで使用される)


SUDEPの機序
・痙攣後の副交感神経が有意となることで心血管系や脳幹機能が抑制され, 突然死に至る

SUDEP 2例における心拍数と呼吸数の変動.

遺伝子の関与も示されている



SUDEPの頻度と年齢分布


SUDEPのリスク因子

・どの年齢でも生じるが多いのは20-40歳代.
・もっとも強いリスク因子はコントロール不良なGeneralized, tonic-clonic seizure(GTCS)である.
他は男性例(OR 1.42),  16歳未満での発症(OR 1.72), 罹患期間が15年以上(OR 1.95), GTCSの発作頻度: 1-2/yOR 5.073/y以上でOR 15.46
・てんかん発作後の無呼吸もSUDEPのリスクとなる報告もある(Neurology® 2019;92:e1-e12.)

最近のReviewにおけるリスク因子のまとめ
(Curr Treat Options Neurol (2019) 21:7 )


SUDEPは夜間, 睡眠時に多い.
・4時~8時に生じるのが58.5%をしめる.
 夜間の痙攣発作はSUDEPリスクを2.6倍に上昇させる
・非睡眠時に生じるのは31%, 8-12, 16-20時に多い
 10.5%は発症時間が不明.

SUDEPと同様に突然死を呈するSIDS, SUDCとの比較
SIDS: sudden infant death syndrome,
SUDC: sudden unexplained death in childhood